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第5話 青白い光の橋の先に
しおりを挟む守護者が消えた後、レイ、イリス、カイエルの三人は足元に広がる光の橋を進み始めた。橋は青白い輝きを放ちながら、宙に浮かぶ岩々の間をぬうように続いている。どこか目的地を指し示すようにも見えるが、その終点は視界のどこにも見当たらなかった。
「この光の道、本当に進んで大丈夫なのか?」レイが慎重な口調で問いかける。
「少なくとも、守護者が示した道だもの。信じるしかないわ。」イリスが杖を握りしめながら答えた。「でも、この先に何が待っているかまでは分からない。」
「それが問題だ。」カイエルが冷ややかに言いながら、短剣を片手に警戒を続けている。「守護者が消えたからといって、危険が去ったわけじゃない。むしろこれからが本番だろうな。」
三人は言葉を交わしながらも、慎重に橋を進んでいった。光の道は見た目よりも堅牢で、足元は安定していたが、それでもその下に広がる深淵が不安感を煽る。風は静かだが、遠くから囁き声のような音が響き続けている。
どれほど進んだのか分からない。やがて三人の前方に霧が立ち込め始め、視界がぼやけていった。霧はただの水蒸気ではなく、光を微妙に反射して虹色のように輝いている。その中に何かが浮かび上がって見えた。
「……建物?」イリスが目を凝らした。
霧の向こうに見えたのは、宙に浮かぶ街だった。異界特有の浮遊島に築かれた街だが、その建築様式はこれまで彼らが見たどの街とも違っていた。高くそびえる塔、連なる円形の建物、空中に張り巡らされた橋――それらすべてが青白い結晶のような材質で作られている。街全体が微かに輝いており、霧に溶け込むように浮かんでいる。
「これは……『記憶の扉』の街かもしれない。」イリスが思い出すように呟いた。
「記憶の扉?」レイが振り返る。
「ええ。伝承の中にある場所よ。記憶を映し出し、その本質を問いかける扉が存在する街だと聞いているわ。でも、実際に行ったことのある者はほとんどいない。」
「記憶ね……」レイは険しい表情を浮かべた。つい先ほど断片が映し出した自分の過去――裂け目に呑まれた家族の記憶が脳裏をよぎる。
光の橋が霧を貫くように続いており、三人はそれを渡りきって街の入口に到達した。そこには巨大な門が立ちはだかっていた。門は結晶と青白い光で構成されており、その中央には記憶を象徴するかのような複雑な紋様が浮かび上がっていた。
「この門……どうやって開ける?」カイエルが観察しながら言った。
イリスが門の紋様に近づき、断片を取り出してそっと触れさせた。すると紋様が反応し、柔らかな光を放ち始めた。門全体が震えるように動き、ゆっくりと開いていく。
門の向こうには、街の内部が広がっていた。結晶の建物が並ぶ中、街の中心にある巨大な塔が目を引く。塔の最上部は霧に隠れており、全貌を確認することはできない。
「ここに記憶の扉があるのか?」レイが疑念を口にした。
「おそらく塔の中よ。」イリスが言った。「でも、この街そのものが記憶を映し出す装置みたいなものだわ。どこに何が待っているか分からない。」
「用心しながら進むしかないな。」カイエルが短剣を握り直した。
三人が街の中を進むと、建物の壁面や足元の道が微かに光り始めた。それらは動きのある映像を映し出しており、断片的な記憶のようだった。
「これは……」レイが壁に映る映像に目を奪われた。
そこには、レイが幼い頃の記憶が映し出されていた。家族とともに裂け目の村で過ごした穏やかな日々の情景だ。しかし、次第にその映像は歪み始め、裂け目の崩壊と家族の消失へと移り変わっていく。
「またこれか……」レイは拳を握りしめた。
「落ち着いて、レイ。」イリスが肩に手を置いた。「この街は記憶を映し出して問いかける場所よ。それをどう受け止めるかが鍵になる。」
一方、カイエルもまた、壁に映る別の映像に目を奪われていた。それは彼がかつて所属していた組織――吸引型扉の護り手たちの集団での記憶だった。彼の仲間たちが次々と犠牲になっていく情景が映し出され、カイエルの眉が険しくなる。
「この街、全員の記憶を暴き出すつもりか……?」カイエルが低く呟いた。
記憶の断片に揺さぶられながらも、三人は街の中心にそびえる塔に向かって進んだ。塔の入口には、またしても結晶の門が立ちはだかっていた。門の中央には、三つの断片を嵌め込むためのくぼみがあった。
「これを使えと言っているのね。」イリスが断片を取り出し、他の二人に視線を向けた。
レイとカイエルも自分の断片を取り出し、三人で同時にくぼみに嵌め込んだ。その瞬間、門全体が光を放ち、低い振動音とともに開き始めた。
「行くぞ。」レイが剣を握りしめ、先頭に立って塔の中に足を踏み入れた。
塔の内部は想像以上に広大で、螺旋状の階段が無限に続いているように見えた。壁には再び記憶の映像が映し出されており、それらが三人に新たな問いを投げかけてくる。
「この塔は……」イリスが壁に触れながら言った。「ただ記憶を映すだけじゃないわ。記憶を形にして私たちに選択を迫っている。」
「選択?」レイが立ち止まる。
「そうよ。何を背負い、何を捨てるのか。私たちはここで、その覚悟を試されるんだと思う。」イリスの声には確信があった。
「覚悟か……」レイは壁に映る自分の家族の姿を見つめながら呟いた。
その先には、さらに強力な試練と扉が待ち受けているのだろう。三人はそれぞれの記憶と向き合いながら、運命の階段を登り続けるのだった。
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