断片の輪廻

Fragment Weaver

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第6話 記憶の扉の塔

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塔の内部はひときわ冷たく、外部とは異なる時間の流れを持つかのように静寂に包まれていた。螺旋状の階段が無限に続くこの空間には、壁面から淡い青白い光が漏れ出し、記憶の断片が絶え間なく映し出されている。

「ここが……記憶の扉へ続く道なのか?」レイが剣を握り直しながら呟いた。

イリスが壁面に手を触れ、映し出される記憶の断片をじっと見つめた。「ただの道じゃないわ。この塔そのものが、私たちの記憶を試すための場なのよ。」

カイエルが短剣を構えたまま、険しい表情で周囲を見回した。「そうだとしても、ここで立ち止まるわけにはいかない。進むたびに、塔が何を見せようと覚悟を決めるしかないな。」

三人はそれぞれの思いを胸に、階段を一歩一歩登り始めた。



最初に訪れた記憶は、レイの過去だった。壁面に映し出されるのは、裂け目の村での穏やかな日々――幼いレイが家族と共に過ごした幸福な時間だった。母の微笑み、父の力強い声、そして幼い妹の笑顔。全てが、彼の心の奥深くに封じ込められた大切な記憶だった。

「こんなものを……見せるな……」レイの声は震えていた。

しかし、その記憶は次第に変化し始める。平穏だった村が突如として裂け目の崩壊に呑まれ、家族が深淵へと消え去る光景が浮かび上がった。レイの幼い声が必死に家族を呼び続けるが、その声は虚空に吸い込まれていくだけだった。

「やめろ!」レイが叫び、剣を振りかざして壁を叩いた。しかし、映像は消えない。むしろ、その記憶はさらに鮮明になり、彼を追い詰めていく。

「レイ!」イリスが彼の肩に手を置き、強く声をかけた。「これは塔が見せている記憶よ。過去に縛られたら負けるわ。」

「俺が縛られてるだと?」レイはイリスを睨み返したが、その瞳の奥には葛藤が見えていた。「俺は家族を守れなかった。それが事実だ。これが俺の運命だと言うのか?」

「運命じゃないわ。」イリスは毅然とした声で続けた。「でも、それをどう乗り越えるかは、あなた次第よ。」

レイはしばらく視線を彷徨わせたが、やがて剣を握り直し、前を向いた。「……行こう。俺が答えを見つけるのは、この先だ。」



次に映し出されたのは、イリス自身の記憶だった。そこには彼女の故郷――静謐な森に囲まれた美しい村の風景が広がっていた。村の中心には「暁の苑」と呼ばれる花畑があり、その中に放出型の扉が立っていた。

イリスはその扉を前に幼い頃の自分と向き合っていた。彼女はまだ無邪気だったが、村人たちは彼女に「選ばれた者」としての期待を寄せていた。その重圧に耐えきれず、彼女は村を飛び出したのだ。

「私は……逃げた。」イリスが壁に映る自分の姿を見つめながら言った。「村が裂け目に呑まれる前に。守るべきだったのに、私は――」

その時、映像が急に変わり、裂け目に呑まれた村が現れた。村人たちの叫び声、崩壊する大地、そして扉が力を失い、消えていく様子が映し出された。

「違う……!」イリスが小さく叫び、映像から目を逸らした。

「逃げたからこそ生き延びたんだろう?」カイエルが冷たい声で言った。「それが正しかったのかどうかなんて、今さら考えることじゃない。」

「でも……私は……」イリスは視線を落とし、拳を握りしめた。

レイがその横に立ち、静かに言った。「俺だって似たようなもんだ。過去に何があったって、今さら変えられない。それでも前に進むしかないんだ。」

イリスは彼の言葉を聞き、少しだけ力を取り戻したように頷いた。「そうね……。ありがとう、レイ。」



三人がさらに進むと、今度はカイエルの記憶が映し出された。それはかつて彼が護り手として仕えていた「静止の街」の風景だった。街は冷たく美しかったが、その中で彼の仲間たちは一人、また一人と犠牲になっていった。

「ここは……」カイエルが低く呟いた。

壁に映る映像には、カイエルが護り手としての使命を果たすために多くの犠牲を強いられた場面が次々と浮かび上がった。仲間たちの顔、彼らが残した言葉、そして彼自身が下した非情な決断の数々。それらが彼の心を抉るように迫った。

「これが俺の背負うものか。」カイエルは冷ややかに呟きながらも、瞳の奥には隠しきれない痛みが滲んでいた。

「あなたの選択もまた、正解だったとは限らない。」イリスが慎重に言葉を選びながら声をかけた。「でも、それを否定することが未来を切り開くわけでもないわ。」

カイエルは短剣を握りしめ、壁に向き直った。「俺は答えなんて求めてない。ただ、この塔を突破して次に進む。それだけだ。」



やがて三人は螺旋階段の最上部にたどり着いた。そこには、荘厳な扉が待ち受けていた。その扉は巨大で、複雑な紋様が輝き、三人を迎え入れるように脈動している。

「これが……記憶の扉?」レイが息を飲む。

イリスが扉に近づき、断片を取り出した。「私たちの記憶が、ここで試されるわ。でも、突破すればきっと次の答えが見つかるはず。」

「さっさと終わらせよう。」カイエルが短剣を収めた。「これ以上、過去に付き合うのはごめんだ。」

三人がそれぞれ断片を扉にかざした瞬間、扉が眩い光を放ち始めた。次の瞬間、全員の視界が真っ白になり、記憶と未来が交錯する未知の空間に引き込まれていった。

この先に待つ試練と真実は、彼らの選択に委ねられる。扉の向こうに広がる世界が、どのような運命を示すのか――それはまだ誰にも分からない。
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