断片の輪廻

Fragment Weaver

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第7話 記憶の扉との邂逅

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真っ白な光に包まれた後、レイ、イリス、カイエルの三人はそれぞれ異なる空間に立っていた。先ほど通り抜けた「記憶の扉」は、異界内に留まる扉とは異なり、その先に広がるのは新たな異界ではなかった。この扉は、存在そのものの本質に触れる「イデア的な高次元」へと通じる道標だった。

記憶の扉が問いかけるのは「自己の本質」と「選択の覚悟」である。そして、その先に待つ真実に触れるということは、生物としての「死」、あるいは「人間」としての形を失うことを意味する。扉を越えた者は、この次元の概念を超えた存在となる――だが、それを恐れない者だけが扉を開く資格を得る。

護り手たちは、この重大な通過を制御する役割を担っていた。ただの門番ではない。彼らは扉の向こうに続く高次の理を守り、進むべき者の覚悟を測る存在だった。



レイが目を開けると、そこにはかつての裂け目の村が広がっていた。村人たちは穏やかな表情で忙しなく働き、村全体が夕焼けの光に包まれている。だが、それは彼が知る最後の光景だった。村が崩壊する瞬間、彼は家族を守ることができなかった。

「ここは……俺の村?」レイが呟くと、遠くに見覚えのある小さな背中があった。妹のマリアが、崩れかけた裂け目の淵に立っている。

「お兄ちゃん……助けて……」

レイはその声に駆け出そうとしたが、足元が急に崩れ、身体が前に進まない。まるで地面そのものが彼を裂け目の淵から遠ざけているかのようだった。

「マリア!」彼は叫び、剣を引き抜いた。その剣は彼が守れなかった者たちへの誓いの象徴でもあった。

すると、裂け目の向こう側に青白い光の扉が浮かび上がり、その前には全身を漆黒の甲冑で覆った護り手が立っていた。漆黒の中から冷たい声が響く。

「選べ。妹を救うか、扉の先へ進むか。」

「ふざけるな!どちらも選ばせないつもりか!」レイは怒りを込めて叫んだ。

護り手は冷静に答えた。「この記憶はお前自身の過去だ。そして扉を越えるということは、この村、この妹、そしてお前自身の存在を捨てることを意味する。それを恐れるならば、ここで立ち止まるがいい。」

その言葉にレイの足が止まる。扉を越えれば、自分はもう人間としての形を持たなくなる。彼が剣を握る意味や、妹を守りたいという願いも、この次元では消え去るのだ。

だが、レイは剣を見つめ、強い決意を込めた。「過去を切り捨てることはできない。だが、この痛みも含めて俺は進むべきだ。」

その瞬間、扉が強く輝き、妹の姿が静かに消え去った。裂け目も消え、ただ一筋の道が光の向こうに続いていた。



イリスが目を覚ますと、そこにはかつての故郷「暁の苑」が広がっていた。赤い花々が咲き誇り、クリスタルの塔が光を集めている。すべてが美しい。しかし、イリスは知っていた。この風景は、破壊された村の記憶に過ぎないことを。

「イリス、戻ってきてくれたのね。」母親に似た女性が微笑みながら声をかける。「これで村は救われるわ。」

「……本当に救えるの?」イリスの声は震えていた。

遠くから、地面が崩れる音が聞こえる。クリスタルの塔が音を立てて倒れ、花畑が赤い光に包まれる。村は再び滅びの淵に立っていた。

その時、護り手が現れた。彼は流れるような白い布を纏い、手には小さな光の球を掲げていた。

「過去の再生は可能だ。だが、それを選ぶということは、この扉を越える資格を失うことを意味する。」

イリスは涙を拭きながら、目の前の扉を見つめた。その扉は彼女に問いかけていた――「過去に囚われるのか、それとも未来を選ぶのか」。

「私の村は失われた。それでも、私は再生の意志を胸に、未来を選ぶ。」

その言葉と共に、彼女が扉に手を伸ばすと、クリスタルの塔は光となって消え、村は再び静寂に包まれた。



カイエルが立っていたのは、「静止の街」の中心だった。吸引型の扉が放つ冷たい輝きが街を包み、住民たちは静止した彫像のように佇んでいる。

「またここか……」カイエルは短剣を手に呟いた。

彼の前にはかつての仲間たちの姿が現れた。彼らは動かない目でカイエルを見つめ、囁くように語りかけてくる。

「お前が選んだ犠牲が、俺たちを縛り続けている……」
「その選択に未来はあるのか?」

「犠牲を選び、未来を掴むか、それともここに留まるか。」護り手が問いかけた。彼の姿は黒と白の光が交差し、形を定めない。

「犠牲を否定することはできない。」カイエルは短剣を握りしめ、扉を見据えた。「だが、その意味を未来で見出す。それが俺の選択だ。」

カイエルが扉を越えると、街の住民たちの姿は溶けるように消えていった。



三人がそれぞれの試練を乗り越え、扉を通り抜けると、異界の法則とは異なる新たな空間が広がっていた。それは、物理法則や時間が存在しない「イデア的な高次元」の入り口だった。

その中心には、異界の法則そのものを象徴する荘厳な扉が立ち、扉を守護する護り手が立ちはだかっていた。

「よくここまで来た。だが、この扉を越えるということは、お前たちが人としての形を捨て、この次元を超えた存在となることを意味する。それでも進む覚悟があるか?」

護り手の言葉に、レイ、イリス、カイエルはそれぞれ剣を握りしめた。そして、彼らの選択によって新たな道が開かれようとしていた。
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