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第七話 婚姻命令
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――デアンジェリス子爵家令嬢フェデリカは不義の子である。
そんな噂が流れ始めたのは、1年半ほど前のことらしい。らしいというのはフェデリカが大学にいて、事態の把握に遅れたためだ。ペネロペからの報せを受けた時には随分その噂は浸透していて、情報源を探った先に元王太子の元婚約者であるカヴァリエリ令嬢が出てきた。
ちょうどジュリアマリアと元王太子が親しくし始めた頃で、ジュリアマリアを潰すため、取り巻きによるジュリアマリアへの嫌がらせやデアンジェリス領への輸入規制などが行われていた。王都を不在にしていたフェデリカも例外ではなく、デアンジェリス家の一員として風評被害を被った。
それが前述の噂である。
普通ならば一笑に付されるべき噂が浸透したのには、一応理由がある。
フェデリカの瞳の色だ。
子爵は茶色、亡き夫人は緑色。その掛け合わせからは、どうやったって紫なんて生まれない。領地が近いとはいえ辺境伯家令嬢が子爵を選んだことも不思議という訳で、不義の子を身ごもった辺境伯家令嬢が、権力に物を言わせて子爵家に嫁いだという噂がまことしやかに流布していた。
母が早くに亡くなったから、母を侮辱されたという義憤に駆られることもない。不義の子、それだけに留まっていればフェデリカが冷笑するだけで終わっていたはずだった。
しかし噂には背びれ尾びれが付いていく。
曰く、大学に進学させたのは男遊びが激しい娘を持て余したせい。
曰く、ほんとうは辺境伯家の血も入っていない捨て子である。
曰く、大学の教授を誘惑して論文を己の物にした。
フェデリカはそれらの噂を聞き、激怒した。それはもう、大学の同期が引く程に怒り狂った。男遊びも捨て子もどうでもよかった。己の成果を知りもしない者たちに嘲笑われるのは我慢ならなかった。
それからのフェデリカの行動は迅速だった。情報屋を雇ってカヴァリエリ令嬢の弱味を握ると、すぐさま母の生家であるアンヌンツィアータ家に養子の申し入れをし、手続きの為子爵邸に立ち寄った折にジュリアマリアに色々と策謀を吹き込んだ。同時に噂の鎮静化を図るため、カヴァリエリ令嬢の熱愛や王太子の間抜けエピソードをペネロペ経由で広めてもらった。
すべてはふざけた噂を流した張本人の息の根を止めるため。
フェデリカの研究を馬鹿にした阿呆共を社会的に抹殺するためである。
――だというのに、また。
紫の瞳というのは、そもそも数が少ない。北国ではごく稀に見られるそうだが、南に位置する我が国では皆無と言っていい。噂を鎮静化して半年程度なのに、再び紫の瞳の男が現れたらどうなるか。
フェデリカはワイングラスを握りしめた。力を入れすぎて爪の先が白くなっていることにも気づかなかった。
「――こんばんは、アンヌンツィアータ令嬢」
「.......っ、王弟殿下。ご機嫌麗しく」
タキシードに身を包んだ王弟はにこやかな笑みを浮かべている。既に何人かと踊ったのか、陶酔した様子の令嬢を視界の端に捉えた。
――今は、来ないでほしかった。余裕がないから。
「一曲、どうかな」
「......喜んで」
けれど、拒絶の選択肢がないことも理解していた。
ゆったりしたテンポの曲だ。フェデリカは王弟の肩を眺めていた。決して顔は見なかった。
「あまり、手を握り込まない方がいいだろう」
「......え?」
「痕になる」
フェデリカは束の間声を失った。母を亡くし、父とはどこか距離があり、友人は研究馬鹿ばかりという環境では、気遣われることが稀だった。
「......お気遣いいただきありがとうございます。ですが、問題ありません」
「青い顔をして、よく言うものだ」
「ご不快にさせたのであれば、謝罪いたし――」
「いや。君が愉快そうな顔をしていないと、心地よく応酬が出来ない」
「は――」
思わず顔を上げると、思いのほか真剣な瞳に出会った。
「私と語らえるご令嬢はなかなかいないからね。君には是非健康でいてもらいたい」
「......物理学のことでしたら、幾らでもお話いたしますが」
「ははっ」
王弟は笑った。爽やかな笑みに、肩の力が抜けた。ついでに気も抜けてステップを間違え、王弟の足を踏んだ。しかし王弟は顔色ひとつ変えない。
「もっ、申し訳ありません」
「構わないよ——ところで、王立研究所はどうだった?」
「素晴らしいところでした。立ち入りを許可してくださいましたこと、改めてお礼申し上げます」
「それはよかった」
フェデリカは言葉を探して視線を彷徨わせた。誰にも打ち明けていない婚約破棄騒動の顛末を語るべきか迷っていると、楽の音が止まる。動きを止めた矢先に、高らかな声が響いた。
「国王陛下のおなり!」
貴族たちはその場で深く礼をする。荘厳な音色と共に衣擦れの音が聞こえた。しかし衣擦れの音が、段々と近づいているような――
「――レナート」
低い声に、フェデリカは身を強張らせた。視界の端に映る豪奢な靴、王弟の名前を呼び捨てに出来る身分。
国王である。
「陛下。どうされたのですか」
国王は答えず、あろうことかフェデリカに話の矛先を向けた。
「そこの娘、顔を上げよ――そなただ。今、レナートと踊っていたのであろう」
「――国王陛下に拝謁いたします」
顔を上げよとは言われたが、尊顔を見ることは許されていない。肩の装飾を見つめる。
何が起きているのだという緊張が辺りを支配していた。
「名は」
「アンヌンツィアータ辺境伯家養女、フェデリカ・ヴェルディアナ・ディ・アンヌンツィアータと申します」
「あぁ......あの娘の姉か」
国王は小さく笑った。
「では、不足ないな」
「陛下?」
「アンヌンツィアータ辺境伯家の娘よ。そなたにレナートとの婚姻を命ずる」
「――陛下!」
一瞬、何を言われたか理解することが出来なかった。王弟の鋭い叫びでようやく脳が動き出す。
――婚姻? 誰と誰が?
「しかる後に、余はレナートに位を明け渡す。異論ないな」
「陛下、突然の宣言に皆驚いております。どうかご再考し、然るべき場所で今一度王嗣をお選びください」
「もう決めた」
「陛下!」
「余は下がる。好きに楽しむといい」
足音が遠ざかっていくのをフェデリカは呆然と聞いていた。呻くような声が左から漏れて視線を向けると、王弟は顔を歪めていた。
「......殿下」
「......すまない。なんとしてでも陛下には、先程のご発言を撤回していただく」
「はぁ......」
フェデリカは気の抜けた返事をしていた。
――いつになったら大学に帰れるのだろう。
積み上げられた資料と、揃えておいた実験器具が脳裏に浮かんで消えた。
そんな噂が流れ始めたのは、1年半ほど前のことらしい。らしいというのはフェデリカが大学にいて、事態の把握に遅れたためだ。ペネロペからの報せを受けた時には随分その噂は浸透していて、情報源を探った先に元王太子の元婚約者であるカヴァリエリ令嬢が出てきた。
ちょうどジュリアマリアと元王太子が親しくし始めた頃で、ジュリアマリアを潰すため、取り巻きによるジュリアマリアへの嫌がらせやデアンジェリス領への輸入規制などが行われていた。王都を不在にしていたフェデリカも例外ではなく、デアンジェリス家の一員として風評被害を被った。
それが前述の噂である。
普通ならば一笑に付されるべき噂が浸透したのには、一応理由がある。
フェデリカの瞳の色だ。
子爵は茶色、亡き夫人は緑色。その掛け合わせからは、どうやったって紫なんて生まれない。領地が近いとはいえ辺境伯家令嬢が子爵を選んだことも不思議という訳で、不義の子を身ごもった辺境伯家令嬢が、権力に物を言わせて子爵家に嫁いだという噂がまことしやかに流布していた。
母が早くに亡くなったから、母を侮辱されたという義憤に駆られることもない。不義の子、それだけに留まっていればフェデリカが冷笑するだけで終わっていたはずだった。
しかし噂には背びれ尾びれが付いていく。
曰く、大学に進学させたのは男遊びが激しい娘を持て余したせい。
曰く、ほんとうは辺境伯家の血も入っていない捨て子である。
曰く、大学の教授を誘惑して論文を己の物にした。
フェデリカはそれらの噂を聞き、激怒した。それはもう、大学の同期が引く程に怒り狂った。男遊びも捨て子もどうでもよかった。己の成果を知りもしない者たちに嘲笑われるのは我慢ならなかった。
それからのフェデリカの行動は迅速だった。情報屋を雇ってカヴァリエリ令嬢の弱味を握ると、すぐさま母の生家であるアンヌンツィアータ家に養子の申し入れをし、手続きの為子爵邸に立ち寄った折にジュリアマリアに色々と策謀を吹き込んだ。同時に噂の鎮静化を図るため、カヴァリエリ令嬢の熱愛や王太子の間抜けエピソードをペネロペ経由で広めてもらった。
すべてはふざけた噂を流した張本人の息の根を止めるため。
フェデリカの研究を馬鹿にした阿呆共を社会的に抹殺するためである。
――だというのに、また。
紫の瞳というのは、そもそも数が少ない。北国ではごく稀に見られるそうだが、南に位置する我が国では皆無と言っていい。噂を鎮静化して半年程度なのに、再び紫の瞳の男が現れたらどうなるか。
フェデリカはワイングラスを握りしめた。力を入れすぎて爪の先が白くなっていることにも気づかなかった。
「――こんばんは、アンヌンツィアータ令嬢」
「.......っ、王弟殿下。ご機嫌麗しく」
タキシードに身を包んだ王弟はにこやかな笑みを浮かべている。既に何人かと踊ったのか、陶酔した様子の令嬢を視界の端に捉えた。
――今は、来ないでほしかった。余裕がないから。
「一曲、どうかな」
「......喜んで」
けれど、拒絶の選択肢がないことも理解していた。
ゆったりしたテンポの曲だ。フェデリカは王弟の肩を眺めていた。決して顔は見なかった。
「あまり、手を握り込まない方がいいだろう」
「......え?」
「痕になる」
フェデリカは束の間声を失った。母を亡くし、父とはどこか距離があり、友人は研究馬鹿ばかりという環境では、気遣われることが稀だった。
「......お気遣いいただきありがとうございます。ですが、問題ありません」
「青い顔をして、よく言うものだ」
「ご不快にさせたのであれば、謝罪いたし――」
「いや。君が愉快そうな顔をしていないと、心地よく応酬が出来ない」
「は――」
思わず顔を上げると、思いのほか真剣な瞳に出会った。
「私と語らえるご令嬢はなかなかいないからね。君には是非健康でいてもらいたい」
「......物理学のことでしたら、幾らでもお話いたしますが」
「ははっ」
王弟は笑った。爽やかな笑みに、肩の力が抜けた。ついでに気も抜けてステップを間違え、王弟の足を踏んだ。しかし王弟は顔色ひとつ変えない。
「もっ、申し訳ありません」
「構わないよ——ところで、王立研究所はどうだった?」
「素晴らしいところでした。立ち入りを許可してくださいましたこと、改めてお礼申し上げます」
「それはよかった」
フェデリカは言葉を探して視線を彷徨わせた。誰にも打ち明けていない婚約破棄騒動の顛末を語るべきか迷っていると、楽の音が止まる。動きを止めた矢先に、高らかな声が響いた。
「国王陛下のおなり!」
貴族たちはその場で深く礼をする。荘厳な音色と共に衣擦れの音が聞こえた。しかし衣擦れの音が、段々と近づいているような――
「――レナート」
低い声に、フェデリカは身を強張らせた。視界の端に映る豪奢な靴、王弟の名前を呼び捨てに出来る身分。
国王である。
「陛下。どうされたのですか」
国王は答えず、あろうことかフェデリカに話の矛先を向けた。
「そこの娘、顔を上げよ――そなただ。今、レナートと踊っていたのであろう」
「――国王陛下に拝謁いたします」
顔を上げよとは言われたが、尊顔を見ることは許されていない。肩の装飾を見つめる。
何が起きているのだという緊張が辺りを支配していた。
「名は」
「アンヌンツィアータ辺境伯家養女、フェデリカ・ヴェルディアナ・ディ・アンヌンツィアータと申します」
「あぁ......あの娘の姉か」
国王は小さく笑った。
「では、不足ないな」
「陛下?」
「アンヌンツィアータ辺境伯家の娘よ。そなたにレナートとの婚姻を命ずる」
「――陛下!」
一瞬、何を言われたか理解することが出来なかった。王弟の鋭い叫びでようやく脳が動き出す。
――婚姻? 誰と誰が?
「しかる後に、余はレナートに位を明け渡す。異論ないな」
「陛下、突然の宣言に皆驚いております。どうかご再考し、然るべき場所で今一度王嗣をお選びください」
「もう決めた」
「陛下!」
「余は下がる。好きに楽しむといい」
足音が遠ざかっていくのをフェデリカは呆然と聞いていた。呻くような声が左から漏れて視線を向けると、王弟は顔を歪めていた。
「......殿下」
「......すまない。なんとしてでも陛下には、先程のご発言を撤回していただく」
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