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1章 入学式編
入学式に行った結果
しおりを挟む「ナータ、明日からお前の家はここじゃなくなった。今すぐ荷造りするんだ。」
そう父から告げられたのは5歳の誕生日前日のことだった。
「お前に魔力がほとんどないことはお前自身も十分承知のことだろう。魔力がないお前にこのマナエル社会は生きられない。明日からは魔力がないボンジーとして生きるんだ。」
当時幼かった俺だったが、泣きわめくことも、悲嘆にくれることもなく、決意と覚悟に満ちた瞳で父の大きな顔を見返していた。
分かっていた。俺がこの社会で通用しないということを。
だから、この時を覚悟していたし、そのための対策も考えていた。
「分かりました。」
それがすべての始まりだった。
俺は父から勘当された後、魔法の使えない人種ボンジーの家庭の養子として生きることになった。
あれから10年の月日が流れ、俺は15歳になった。
無事に魔法学校の試験を合格し、晴れて魔法学生となったわけだが、俺はここで3年間ただ魔法を学びにきたわけではない。
ボンジー出身として、ボンジーが劣るような社会を変えるためにここに来たのだ。
ボンジーとして生活して分かったのだが、マナエルからの扱いがとてもひどかった。
身体強化も物体浮遊もできなボンジーはマナエルがやらないような単純肉体労働で生きていくしかできないし、魔法という暴力を振るわれたらボンジーになす術はない。
こんな社会を変えるためにはボンジーでも魔法が使える技術が必要だ。
ー俺はこの3年でその技術を生み出してみせる!絶対に!
「ねえ、ちょっといい?」
己の志に胸を熱くしていた最中、背後から聞こえた女の子のするどい声が俺の思考を現実へと引き戻した。
「はい、なんでしょう?」
振り返ると、黒髪ロングで顔立ちの整った、つり目の少女が俺を見上げていた。
「あんた新入生だよね?入ったばかりで知らないかもしれないけど、セレモニーの時は安全確保のためにこの闘技場エリアで魔法を使っちゃいけないんだよ?見たところあんたは今なにか魔法を発動してるよね?あまりにも微弱な魔法だったからこの私でも見逃してしまいそうだったけど!」
いかにも「私は見抜いてたぞ!残念だったな!」と言わんばかりに勝ち誇った表情をする先輩(仮)。
確かに俺は現在魔法を使っている。しかし、このレベルまで抑え込んだ魔法に気づいたのには驚きだ。
ーさすが有名魔法学校だ。この先輩(仮)のように優秀な魔法学生がゴロゴロいるんだろうな。
「はい。俺、実は魔力温存魔法を常に行使しないと魔力が保持できないんです。ですから、特別許可証を学校から渡されているんです。」
と、俺は懐にしまってある許可証を取り出そうとしたが、
「魔力温存魔法?そんな魔法この私でも聞いたことないわ。教えなさいよ!」
「魔力温存魔法とは魔力を抽出・圧縮・保持する3工程の魔法です。俺は生成魔力が極端に少ないのでこの魔法を使っていないと魔法が使えなくなるんですよ。まあ、魔力が豊富にある人達にとっては無縁の魔法だと思いますが。」
「えっ、それってつまり、魔力を貯め込んでおけるってこと?!」
「簡単に言えば、そうですね。」
「うそでしょ?!そんなことできるの?!ただでさえ魔力自体を認識するのは超高難度な技術なのに?!」
魔法とはイメージの具現化である。自分のイメージがより具体的であればあるほど、扱える魔力量の範囲で現実に実現する。
例えば、物が燃えるイメージをしたときに同じイメージでも魔力が多い人は少ない人に比べて激しく燃やすことができる。
逆に、少ない魔力でも小さな火種を作りつつ、その火種に向けて風を起こすといった繊細なイメージで魔法を行使すれば、魔力が多い人と同等の激しさで具現化することも可能だ。
このように魔力はイメージを具現化するときの材料にすぎず、材料である魔力自体を対象とすることはあまり一般的ではないのだ。
「まあ、そうですね。逆に普通の魔法がおろそかになってる面も否めませんが。」
ハハハと苦笑いしておどけてみせたが、この先輩(仮)の鋭さを増した眼光には何も通じない様子だ。
「あんた、名前は?明日からその魔法を教えてもらうわ!代わりにフ・ツ・ウの魔法ってやつをみっちり教えてあげる。」
どうやら俺の魔法が一般的でないという意味で「普通の魔法」と言ってしまったのが気に障ったらしい。
とういか、今何て言った?!俺が教える?!冗談じゃない!!
「急にそんなこと言われても困ります!俺にもやることが…」
「この私が直々に教えてって言ってるんだから素直に教えなさいよ!あと、あなたが馬鹿にしたフツウの魔法がどれくらい恐ろしいか身体で教えてあげるんだから!」
ー馬鹿にしたつもりは一切ないんだがな。困ったわがままお嬢様だ。よし、逃げよう。
埒が明かないと察した俺はクルっと踵を返し、全速力でその場から駆け出した。もちろん、魔法を一切使わずに。
「おい、こら!逃げるな!って、早っ!!」
俺がこの10年鍛えたのは魔力温存魔法だけではない。ボンジーとして生きるために行ったきつめの肉体労働のおかげで常人よりも優れた生身の身体能力を獲得したのだ。
ー魔法が使えないというこのエリアなら追いつけ…
「こら、待てっーー!!」
後ろから声がしたと思えば、わがままお嬢様が猛スピードで背後に迫っていた。その身体からは魔法行使時に特有の可視光が漏れていた。
ーこの人、自分で注意しておいて魔法使ってる、、、!
「この私から逃げられると思うなよおおおおお!!」
ー仕方ない。『魔力抽出』!
次の瞬間、背後数センチまで迫っていた先輩(仮)の身体がガクンと動きを鈍らせ、勢いあまって地面に向かって倒れこんでしまった。
その身体からは魔法発動を意味する可視光が消え去っていた。
「痛っった!!えっ、、、、どうして?!」
「それでは、お大事にー!」
自分の魔法が突然消えたことに戸惑いを隠せない先輩(仮)を置いて、俺は急いでその場を後にした。
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