レプリカのキスじゃ、呪いは解けない。

イヌノカニ

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レプリカのキスじゃ、呪いは解けない。

02

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あれから数日後、俺はいま衝撃的なシーンを目撃していた。
な、なんと、あの美森が、校内で誰かと、それも女の子と二人で話している。

しかも……

「見て、美森くん。すごく楽しそう。」

その声にドキッとして、思わず肩が跳ね上がった。慌てて口を手で塞いでみる。

ヤバい。思ったこと、口に出したかも……!

とか思ったけれど、あたりを見渡すと少し離れた所で女子三人組が、同じように美森たちを見ていた。
どうやら彼女たちの一人が言ったらしい。

「相変わらずラブラブだよね。」

……えっ、

「えっ、あの2人付き合ってんの?」

また考えている事が重なったように、三人組のうちの一人が言った。

「高校の時から付き合っているらしいよ。」

嘘だ。
だって、そんな話、一度も聞いたことない。

「あぁ、納得かも。」
「あんなに楽しそうな美森くん、見たことないもんね。」

……っ、
手を力いっぱい握りしめて、二人のいる方を見る。

美森の隣で笑っている女の子が、アイツの腕に触れた。
二人で笑いながら何かを話している。
女の子は持っていたカバンを美森に渡すと、美森はそれを受け取って、二人で肩がくっつきそうなくらい近い距離で歩いて行く。

それはもう、恋人同士にしか見えなかった。

何で言ってくれなかったんだろう。
いや思い返してみれば、彼女がいるとも、いないとも、否定も肯定も、美森はしなかった。

頭がどんどん真っ白になっていく。
なんで勝手に恋人がいないと思い込んでいたんだろう。

まぁ、そうだよな。
あんなに優しくて、カッコ良くて、良い奴なんだし、
……恋人くらい、いるよな。

さっきの女子たちの会話が、頭の中に流れる。
「あんなに楽しそうな美森くん、見たことないもんね。」

そらした目をもう一度、二人に向けた。

すげぇ、楽しそう。
俺には……あんな顔……。

これ以上、この場所にいたくなくて、俺は逃げるように走り出した。



ハッ、ハッと息を荒くして、周りの景色が見えないくらい早く、目的もなくガムシャラに校内を走り続ける。

「うわぁー!そこの人、止まってください!あぶないっ、あぶないです!」

声がした方を向くと、何か大きな塊を乗せた台車が、俺の方に向かって来るのが見えた。
正確に言うと、その台車の進行方向に俺が飛び出してきた形なんだけれど。

「うえぇ!?」

もちろん急に止まることなんて出来なくて、情けない叫び声を上げながら、ぶつかってしまった。

「いたたた……」
強く打った尻を撫でながら、あたりを確認していく。

四方に散らばった、人間の手足、のようなパーツ。
そして目の前にあった台車には、ギョロッと大きな目をした人形の頭部があった。
ゾクッとして体が強張った後、ようやく状況が呑み込めて顔が真っ青になっていく。

「あぁー!せっかく作った渾身のパーツが!」
「ごめん、創人。周りを、よく、見て、なかった、ケガとか、それ、壊れて、ないか?」

まだ荒い息のせいで、言葉がつい途切れ途切れになってしまう。

「ボクのフィギュアは羽のように軽く丈夫なのですよ!?これくらいで壊れる訳ないでしょ!」

この汚い白衣を着た全身ムキムキの男は、フィギュア研究会の野呂井創人のろいそうと
長髪を一つに結び、伸びっぱなしの無精髭、そしてボロボロのサンダルを季節関係なく、何故かずっと履いている。

こんな見た目をしているが、彼の創り出すフィギュアは美しい。
地面に散らばった、陶器のように綺麗なパーツがその証明だ。

なんでもコレクターに何千万円で売れると、得意気に話していたのを覚えている。

そう!
つまり、俺はいま、大ピンチってこと!
そんな価値のあるフィギュアのパーツに、ぶつかってしまったのだ!

慌てて近くに落ちていたフィギュアの足を拾う。
やっべ、太ももの辺りに落ち葉が付いてるじゃん。
傷が付かないように、なるべく優しくはらって……と、こんな感じか?

「ちょっと、ハァハァと息を荒くして、なんなんですか!
いやらしい手つきで、ボクのフィギュアに触らないでください!」

「まって、誤解、だって、息が荒いのは、走ってたから!いやらしく触ってないって、マジで!汚れを、落としてた、だけ!だけだから。冤罪だって。」

俺を睨みつけてキィーと声を上げながら言う創人に、無罪を証明するように言うが、逆に怪しくなっていないか。

「はい、なるべく綺麗にしたけど汚れてたらごめん。それにしても、本当に創人の作るフィギュアはすごいな。まるで本物みたいだ。」

「当たり前ですよ、こだわって作ったんですから!うん。部品の故障もありませんね。あとは組み立てるだけです。」

「これから組み立てるの?なあ完成品みたい!俺も何か手伝えることある?これから一緒に……」

そう言いかけたところで、後ろから誰かに手を引っ張られて、ギュッと抱きしめられた。

誰か確認する前に、耳元で「先輩。」と囁かれたから、すぐに誰か分かってしまった。

「美森……。」

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