レプリカのキスじゃ、呪いは解けない。

イヌノカニ

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レプリカのキスじゃ、呪いは解けない。

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俺がやって来たのは、フィギュア研究会がある予備サークル棟だった。

簡単に言ってしまうと、サークルとして認められていない「研究会」と呼ばれるサークルが、勝手に使用している廃校舎を「予備サークル棟」という。
ちなみに教授は「学校側は黙認しているらしいぞ。」と言っていた。

歩くたびにギィギィと音が鳴る木造の廊下を進み、ボロボロの紙に汚い文字で「フィギュア研究会」と貼られている部室をノックする。

「創人ー?いる?」

「……美森さんがいないなら入っても良いですよ。」

一応、左右を確認してみる。まぁ、いるわけないよな。

ドアノブを回して扉を開けると、そこから部室に真っ直ぐ光が差し込んだ。
光が完成されたフィギュアを照らしていく。
あまりの美しさに見惚れていると、その横に立っている創人が「すごいでしょう。」とドヤ顔で言った。

「すげぇ!」

「そうでしょう。そうでしょう。ボクの自信作です。」

「マジですげぇよ!それにしても人間にしか見えないな。これなら……。」

――今、頭に悪い考えが浮かんだ。
しかし自分でその考えを打ち消す暇もなく、創人のマシンガントークが始まった。

「そうなんです!そうなんです、そうなんですよ!リアリティを出す事にこだわって作っているんです。と・く・に!目にはこだわったんですけど、分かりますか。まぁ、分からないでしょうけど。ここはリアリティというよりかは人間よりも水晶玉のように美しい瞳に仕上げたいと思いまして、なんていうか、そう、リアルよりもリアルってことですね。そうなると素材も費用には糸目を付けずにこだわりたいと思いましてね、幸い僕の作品は毎回何千万の価格で売れるものですしボクがつくるということだけでも価値のある物ですから作る前からある程度の予算なら確保できましたし特にこの緑色の瞳は一番こだわりたいと思った部分で理想の色を探し出すのが難しかったのですが以前ボクの作品を購入してくれたコレクターが出資してくれた上に理想の色をした鉱石を取り扱っている店まで調べてくれたんですよ。コレクターの国では有名な昔話で何百年もかけて育った鉱石に魂が宿ってその鉱石で作った目を持ったドールがドール職人に恋をしたがあっけなく子供に譲られてしまい離れたくなくてどんな手を使っても彼の元に戻って来るとか来ないとかでそんな一途に自分に恋してくれるドールが欲しいとか言い始めて現実とフィクションを区別できないオタクって気持ち悪いなとか思ったんですけど例えコレクター側が変な人でもまぁボクはフィギュアを作ることに意味を感じているので最高の素材を使えるならなんでもいいんですけどね。てか、何百年もかけて育った鉱石が命を宿しているんだとか言われてましてねハハッ。でも素材自体はまさに僕の作るリアリティのある作品に相応しいと思いましたよ。いや~満足のできるものを作る事が出来て良かったです。」

「すげぇ、確かによく分かんねぇけど、すごいのだけは分かる!今まで積み重ねで出来た最高傑作ってことだな!」

「ふふん。ボクは常に最高傑作を作る男です。さて、次は何を作るか……。」

「……き、金髪で、垂れ目で、唇がぷっくりしている、可愛いらしい子とか、どう、かな。」

――頭の中で止めろと自分に言い聞かせているのに、ついポロッと言ってしまった。

「全身じゃなくても、例えば、そう、あ、頭!頭だけもいいんだ。その、俺、欲しくて。」

俺はさっき、あのフィギュアを見た瞬間に悪い考えが浮かんだ。
美森と真逆の容姿をしたフィギュアを、美森の代わりにしよう。
そんな悪い考えが。

あと一年。大学にいる間だけで良いんだ。
俺は美森が好きだけど、アイツには恋人がいる。
ただの先輩として隣にいたくても、この気持ちを消す事は出来ない。どうしたって、俺は美森が好きだ。

昔、失恋した友人に「他の恋をすれば、簡単に忘れられるよ。」と言っていた人がいた。
俺がアイツを忘れるには、他の恋を探すべきなんだろう。
でも身勝手な気持ちに誰かを巻き込む訳にはいかないから、フィギュアなら……。

美森の代わりにキスする相手がいて、それが全く違う相手なら、この気持ちも忘れられるんじゃないか。

なんて馬鹿な考えなんだろう。創人にも悪いし。
やめよう。

「やっぱな「いいですね!男の娘!」
「え、」
「インスピレーションが湧いてきました!紙、紙は……、あぁもう、邪魔なので帰ってください!」

そう言われ、勢いよくフィギュア研究会の部屋から追い出されてしまった。

なんだか、取り返しのつかない事をしてしまった気がする。

――あぁ、どうしよう……!



「先輩。」
「ぬわぁっ、」

予備サークル棟を出てすぐに、どこからか出てきた美森に声を掛けられた。

「び、びっくりした。なんだ美森か。」

「予備サークル棟にいたんですね。
先輩を誑かすのはどれかな、レトロゲーム研究会?それとも黒魔術研究会かな、先輩、誰とでも簡単に仲良くなるから、すぐに絞れませんね。
あぁでも、やっぱりさっき一緒にいたフィギュア「あっ、あー!」

誤魔化すように大きな声を上げて遮る。
バレたくない。

「俺お腹すいた。このあと暇なら、メシ行かね?」
あからさま過ぎたかと美森の顔色を伺うように見たけれど、普段と変わらない表情で「いいですね。」と答えた。

「今日は、どこの居酒屋にしますか。」

「あぁ、いや、居酒屋はやめとく。久々に駅前のファミレス行きたい。」

「あそこ、お酒ないですけど。」

だからだよ!
説得力がないかもしれないけど、恋人がいる奴にキスをねだるような、俺は悪い人間ではない。
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