レプリカのキスじゃ、呪いは解けない。

イヌノカニ

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レプリカのキスじゃ、呪いは解けない。

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この日から俺は、キスをねだらないように美森の「居酒屋へ行きましょう」という誘いを断り続けている。
代わりに行くのは、ファミレスや、ファーストフード店。高校の放課後を思い出すような、酒がない店を選んでいた。

本当は二人で出掛けることも、止めようかと思っていたんだけれど……。
どんなに避けても同じ大学だからか毎日必ず遭遇するし、先輩として慕ってくれるアイツを、無下にすることなんて出来なかった。

あと何故か、俺のスケジュールを俺より把握しているから断れない。
超能力者か?

今日も授業終わりに友人と歩いていたら、向こうから美森がやって来た。

「俺、先輩と話したいんですけど、良いですよね。」

声をかけられた友人は「で、でた、美森貴宗……」と小声で呟いた後、どこかへ走って行ってしまう。

やっぱり前髪が長いせいで怖がられているんだろうな。なんてことを友人が去って行った方を眺めながら、ぼんやり考えていると「先輩。」と美森に声を掛けられた。

「俺、行きたい店あるんですけれど、今日一緒に行ってくれませんか。」

スマホで見せられたのは俺好みの居酒屋。しかも俺の大好きなハンバーグ、コーン、エビフライまであるじゃん。
すげぇ行きたい。でも……。

「そ、そこは、無理。」

「……なんで、ですか。」

「きょ、今日は……、そうだ、寿司!寿司屋がいい!俺、イカ十皿食う。」

「はぁ?……最近なんだか変ですよね。何か居酒屋に行きたくない理由でもあるんですか。」

「い、いいいい、いや!?み、美森こそ、酒飲まないくせに、どうして居酒屋ばっか行きたがるんだよ。」

「……チッ。」

今、コイツ舌打ちした!?嘘だろ。
まぁ確かに、自分の行きたい所を断られるなんて良い気しないよな。
ごめん……!でも、酒を呑むわけにはいかないんだ。

焦りながら、とりあえず両手で美森の右腕を掴んで引っ張ってみる。

「と、とにかく、今日は寿司食おうぜ。」

グイグイ引っ張っているのに、なぜか急に雰囲気が柔らかくなった気がした。
チラリと見てみると、美森は俺が掴んでいない方の手を頭に置いて「……はぁ。」とため息を吐く。

「どうした。」

「いえ、なにも。ただ自分の単純さに腹が立っただけです。このまま寿司屋まで行きましょう。このまま。」

訳が分からないが、とりあえずオッケーがもらえたことに安心して「よしっ、こっちだ。」と美森の右腕を掴んだまま、寿司屋へ向かった。



平日だというのに、店内は子供連れや学生で賑わっていた。
案内されたテーブル席に、さっそく注文した寿司が届く。

美森は何か言いたそうに、お茶を渡しながら睨みつけてくるが、俺は気づかないフリをした。

「いただきまーす。念願のハンバーグ寿司~、うまぁ。」

「それ、俺が行きたい店でも食おうと思えば食えましたよ。イカ食えよ。」

次に届いた注文の品を、美森は睨みつけながら渡してくる。

「念願のコーン軍艦~、うんまぁ。」

「イカ食えよ。」

そのまた次に届いた注文の品を、美森は舌打ちをしながら渡す。

「念願のエビフライ、うまい!」

「せめて寿司食え。」

美森のイカ食えハラスメントがすごかったが、せっかく来たんだし、好きなものを食べたい。マグロ、ウナギに、サバ。他にも色々な美味しい寿司を堪能し、なんならサイドメニューのラーメンまで食べて腹を満たした。
もちろんイカも一皿だけ食べた。

「じゃ、そろそろ出ようぜ。」

「なに言ってんですか。」

美森はニコリと笑って、注文パネルを操作する。
しばらくするとイカの寿司が届いた。

「まだ十皿食べてないでしょ。残り九皿、ちゃんと食べましょうね。」

「えっ、俺もう腹いっぱい……。」

威圧感がすさまじい笑顔に負けて、俺は大人しく食べる事にした。
わんこそばの形式で、俺が一皿食うたびに、もう一皿を渡される。
美森は超能力者なんかじゃない。

悪魔だ。

「先輩、箸止まってますよ。念願のイカ、ちゃんと食べましょうね。」



寿司屋からの帰り道。人通りがない静かな住宅街を二人で歩く。
食べ過ぎで気持ち悪い俺とは反対に、爽やかな笑顔で美森は「美味しかったですね。明日は、俺の選んだ店に行きましょうね。」とニコニコと言ってくる。

「あ、あしたも、その店は、行かない。」

断るたびに胸を痛めるが、どうしても行くわけにはいかないんだ。

「どうしてですか。」

「な、なんでも!そ、そんなに行きたいなら、俺以外の奴と行けば良いだろ!」

チッという舌打ちと共に、体をつかまれて壁に思いきりぶつけられる。
逃げ道をなくすように、足の間には美森の右足が、顔の真横には腕があった。
鼻と鼻がぶつかりそうなくらいに近い位置に顔があって、仄暗い目で見つめられる。

「最近、本当におかしいですよね。居酒屋には行きたがらないし、大学でも俺が会いにいかなきゃ会わないし……俺のこと遠ざけようとしてませんか。」

ギクッとして、思わず目を逸らす。
言い訳をするように、それは、えっと、その、と言葉を探していると、首に痛みが走った。

「いっ」

噛んだ……?
あまりの事に驚いていると、今度は噛まれた位置よりも少しズレた場所を吸われて、チクリとした痛みが走った。

「先輩。俺から離れられると思わないで下さい。俺が先輩以外と、とかありえないです。だから先輩も、俺以外のところにいかないでくださいね。」

後ろから照らす街灯の光を遮り、暗く冷たい表情で言われる。
それから美森は俺から離れると、スタスタと先を歩いて行ってしまった。

……すげぇ、怒ってた。
噛まれた首をさする。跡に残ったらどうしよう。

そういえばアイツ、彼女は別として、俺以外と喋っているところ見たことないな。
……友達がいない、とか?

唯一出来た、大学の親しい人だから、こんなに遊んでくれるとか?

ごめん、美森。

純粋な気持ちで慕ってくれているのに、ただの先輩でいられなくて、ごめん。

あと少し待って。フィギュアさえ完成すれば、多分、ただの先輩になれるから。

美森の後ろ姿を見ながら、心の中でそう言った。
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