レプリカのキスじゃ、呪いは解けない。

イヌノカニ

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レプリカのキスじゃ、呪いは解けない。

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昼休みが終わり、俺は約束通りフィギュア研究会に来た。

部室のドアをノックしても返事がない。
「創人ー?」
いないのか?もう一度ノックをして名前を呼んでみたけれど、やっぱり返事はなかった。

開けてみるか。

「創人ー、開けるからなー?」

ゆっくりとドアを開けてみると、扉のすぐ横に創人が立っていた。
ビックリして「うわあっ」とまるで幽霊でも見たような声を出してしまったが、創人は構わず無言で、俺を俵田抱きにする。

「えぇ!?ちょっ、なに!?」

急に持ち上げられたと思ったら、すぐ数歩先にあったパイプ椅子へ乱暴に下ろされた。

び、びっくりした。
どこかに連れ去られるかと思った。とは言わないでおこう。

創人はパイプ椅子の前にある、白い布が被さった物体の隣に立つと、わざとらしく咳払いをして喉の調子を整える。

「お待ちしておりました。」

その声はどこから出してんの。とツッコミたくなるほど、良い声だった。

「ついに完成した……ボクの最高傑作をとくとご覧あれ!」

白い布が引かれ、風を切る音と共に美しい少年が現れた。

軽くウェーブした金色の髪。
ぷっくりとした唇。
そして、その瞳は緑色に輝いていて、この一瞬でも吸い込まれそうだった。

胸までしかない体がなければ、実在する美少年だと勘違いしてしまうだろう。

布を引いた時に舞ったホコリが、窓から入った光に反射して、キラキラと少年……いや、フィギュアの周りを舞っている。

全てが美しいと思った。

「すげぇ……。」

「そうでしょう!そうでしょう!どこをどう見ても完璧な美しさです!」

俺はパイプ椅子から立ち上がり、フィギュアの周りをクルクルと周って、じっくりと観察する。

「目も、髪の毛も、全部本当の人間みたいだ。」

「そうでしょう!そうでしょう!人間以上に人間らしさが出るように頑張ったのです。」

「本当すげぇ。俺、何千万どころか、そんなにお金出せないけど、本当に良いの?」

「ボクは作るのが楽しいので、構いません。貴方なら特別にタダで良いですよ。さて、いつ貴方の家まで運びましょうか。」

「あーそれなんだけど、美森には内緒にしたいんだ。でも最近、アイツの監視がすごくてバレそうなんだよ。今は授業中だから平気だけど、なにか対策を練らないと無理そうでさ。」

「あぁ……。ボクもここ最近、何度も怖い目に……。では、こうしましょう!授業中だと言うのなら、今のうちに貴方の部屋まで運んでしまえば良いのです!ボクの車をまわしてきますよ。」

「いいのか!?ありがとう!」



車まで一緒に運ぶと言ったけれど「自分で運ぶから助けは要りません。」と断られたので、大人しく待ち合わせ場所に指定された公園にやって来た。

そこは大学の近くにある小さな公園で、子供も遊んでいない上に、あるのは錆びて不気味な笑みを浮かべる動物の遊具だけだった。
えっ、俺こういうの無理なんだけど。

入るのは絶対に嫌だったから、入り口に立って創人を待つ。

流れる雲を見ながら、もうすぐ雨が降りそうだな。とか考えていると、突然、横から誰かに腕を強く引っ張られた。

「先輩、何してるんですか。」

「……え。なんで、授業は……。」

息を切らし、静かに怒っている美森だった。

「朝おかしいと思ったんですよ。休んで正解でした。……人の授業がある隙を狙いやがって。で、今日は誰ですか?こんな人の寄り付かなそうな所で、いったい何をするつもりですか。」

今から、あなたの代わりにキスしようと思っているフィギュアを、創人に家まで運んでもらいます。
とか正直に言えるわけもなく、目を逸らして、えっと、その、とか言いながら言葉を探す。

その時、後ろからビィィィィィと凄まじい音が聞こえた。

美森と二人で目を丸くして固まっていると、車が俺たちの目の前に止まる。
どうやらさっきの音は車のクラクションだったらしい。

助手席側の扉を開き、創人が「早くっ!」と叫んだのを聞いて、ハッと我に帰った。
力が緩んでいた美森の手を振り払い、そのまま勢いよく車へ飛び込む。

手を振り払った瞬間、美森が悲しそうな顔をしているのが見えた――でも、ごめん!
もう、こうするしかないんだ。


 
美森の事を考えて落ち込んでいる俺に対して、創人は「ボクの命だけは、何がなんでも守ってくださいよ。」「貴方がもし学校に来なくなったら、警察に連絡してあげます。」とか、ブツブツと訳の分からない事を言っていた。

俺のアパートに着くころには落ち着いたらしく、フィギュアを抱えて俺の部屋まで運ぶと、部屋の真ん中に置いてあるテーブルに、レースの布を敷き大切そうに置いた。

「お茶でも飲んで「嫌です。」「雨降りそうだし、せめて傘「要りません。この子、大切にしてください。」

と俺の言葉を最後まで言わせてくれず、すぐに帰って行った。

創人が帰ってしばらく経った後に、ポツポツと雨が降り始めたのが見えて、カーテンをそっと閉める。

「雨が降る前に来られて良かったな。」

なんてフィギュアに声を掛けた事に気付いて、少し恥ずかしくなって顔を人差し指で掻いた。

「しかし、本当にすごいよな。」

特に、この瞳。
宝石のように美しい瞳を見つめると、吸い込まれそうな感覚になる。

綺麗な瞳に、ぷっくりとした唇。

――俺はこの子とキス、出来るのかな。

綺麗すぎて、なんだろう、しちゃいけない気がするというか。
キス出来るかどうか分からない。

それに、やっぱりキスするなら……、
思い浮かんだ真逆の顔を消すように、ブンブンと頭を横に振る。

何を考えてんだ俺は!アイツを忘れるために作ってもらったんだろ!?
とりあえず、キスしてみれば意外と平気かもしれない。

姿勢を正して、フィギュアを真っ直ぐと見つめた。

雨が地面を打つ音が響く、薄暗い部屋。
独特のどんよりとした冷たい空気が漂う中、少し震えている手を、フィギュアの頭に回した。

ぷっくりとした唇に、自分の唇を近寄らせる。
あと少しで重なりそうな瞬間、

――「先輩、何してるんですか?」

その声に驚いて後ろを振り向くと、美森が後ろに立っていた。
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