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5. 新生活、新たなスタート
しおりを挟む4月2日。いよいよ、人生初の一人暮らしがスタートした。
受験合格者が発表されてから物件を探し始めたので、若松やもりの里・鈴見といった大学に近く学生に人気の住宅地はほぼ全て埋まっていた。その為、少し離れてはいるけれどバス通学圏内の桜町にあるアパートに決めた。
結果的に、この選択は正しかった。
浅野川に沿った細い道を下っていき、天神橋を渡ってすぐの細い路地を進んでいくと、なんとひがし茶屋街のある東山に着く事が出来るのだ。徒歩でも大体15分、自転車だと10分くらいで行ける距離。金沢市内を循環する小型のバス“ふらっとバス”を梅の橋の停留所で降りれば、そのまま梅の橋を渡ってちょっと歩けばひがし茶屋街だ。
今日は天気が良いので、自転車に乗ってひがし茶屋街へ。観音町まで自転車で進み、そこから先は観光客も多いので自転車を押して進む。
平日ながら、ひがし茶屋街には観光客の姿があった。晴継は歩行者に自転車が当たらないよう気を配りながら、路地を歩いて行く。
そして、到着した先は――“Trattoria・Gatto・Bianca”。晴継は今日からこの店で働くのだ。
先日、智美さんがスタッフが辞めてランチ営業が出来ないと言っていたのを聞いて、自分がバイト出来ないかという考えがふと浮かんだ。
実家から仕送りはあるものの、金沢で暮らしていくにはバイトをする必要がある。働き先も探さなくてはと思っていた矢先に、智美さんの口から出たスタッフを募集しているという話。……これは渡りに船だ、と直感的に思った。
仕事内容は、ホールの仕事全般。開店前の掃除、接客、配膳、片付け、お会計等々。提示された時給は東京よりちょっと低いけれど、金沢の接客業の平均よりやや高め。交通費支給、制服貸与、賄いあり、土曜日はお休み、休憩は二階の空いている部屋を好きに使ってくれて構わない、とのこと。……これなら出来るかな、と晴継は感じた。
働きたい旨を智美さんに打ち明けると、「ウチでいいの?」と驚いた様子だったけど、「短い時間ではあるけれど、話していて人柄も信用出来そうだし」とその場で採用が決まった。シフトの方は、とりあえず入学式までは昼と夜の両方、学校が始まってからは平日は授業のコマ次第・日曜日は昼と夜の勤務、という方向性で固まった。
「おはようございます」
引き戸を開けてお店に入ると、カウンターキッチンで仕込みをしていた智美さんと目が合った。
「おはよう。今日からよろしくね」
にこやかな笑みを返してくれる智美さん。こちらも、けじめとしてしっかり挨拶をしなければ。
「こちらこそ、本日よりお世話になります。よろしくお願い致します」
晴継が改めて挨拶をすると、うんうんと頷く智美さん。
「ユニフォームは控え室に置いてあるから、それに着替えてきてね。それから、お仕事について説明するから」
「分かりました」
返事をして、奥に進む晴継。いよいよ、新しい土地での生活が本格的に始まるんだな、と気持ちが引き締まった。
金沢・ひがし茶屋街。
目抜き通りから一本入った路地にある、古いお茶屋さんを改築した飲食店“トラットリア・ガット・ビアンカ”。
お腹も、心も、満たされる。晴れの日も、何もない日も、温かく迎え入れてくれる場所。そんなお店が、ここにあります――。
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