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SIDE 麒麟会組員
しおりを挟む皆さん初めまして
麒麟会の組員で虎吉と申します
あだ名やコードネームではありません
残念な事に本名なんです…
子供の頃はこの名前でよく虐められました
社会人になっても、名前を馬鹿にされる事などありました
見た目も強面な上ガタイもデカイので、勝手に怖がられる始末です
長年そうやって生きてきた私は、そりゃもうグレまくり社会人になってもそれは直りませんでした
会長との出会いはそんなグレまくって職場の上司を取引先の方の前で殴った日でした
はい、その取引先の方が会長本人でした
接待中で、酒の席だからと言うわけではありませんが、私の名前を馬鹿にし根拠もない事をペラペラと会長に話していた上司は、大層酔っ払っていたのでしょう
私をコンパニオン扱いするまでは許せました、ですが今度は身体を弄ってきたのです
いくら酒の席とは言え、取引先の前で何をする気だと思っていると会長がお猪口を上司めがけ投げつけました
上司の額に当たったお猪口は割れ、上司の額も切れたのか血が流れました
「貴方が低脳なのは良くわかりました。上司としても人間としてもゴミだという事もね。
そんな貴方を部長として雇っている会社も底が知れています。取引は今後一切お断りします。」
上司は激怒し会長に殴りかかろうとしたので、会長のお付きの方が動く前に思いっ切り殴りつけてやりました
上司に馬乗りになり、拳が腫れようがお構いなしに上司を殴り続けました
上司がグッタリしてきた頃、会長のお付きの方に止められました
ハッとして会長に振り返ると、会長はニヤニヤ笑っていました
「良いね。その瞬発力に力の強さ。どう?光一。」
会長は私を止めたお付きの方へ尋ねます
「あぁ。今はまだ荒っぽいが訓練すればなかなかのモノになるぞ。」
「そっか。ねぇ、君。どうする?」
何の事か分からない私は首を傾げました
「上司をあんだけボコボコにしたんだ。もう今の会社じゃ働けないでしょ?だから再就職、うちでしてみない?ただ…龍洞財閥の方じゃなく麒麟会の方だけど。」
ニッコリ微笑む会長の言葉に固まります
麒麟会とは誰もが知っているヤクザです
龍洞財閥=麒麟会と言うのは暗黙の了解で、一般人は口に出してはいけない組織なのです
そんな組織へお誘いを受けてしまいました
「と言っても、入るにはテストがある。それに合格できればの話だがな。」
光一と呼ばれた人が教えてくれました
「テスト…ですか?」
「あぁ。命を張って会長を守る事ができるかどうか。軍隊に入るより厳しいぞ。会長に忠誠を誓う者だけが入れる『特別』なポジションへの誘いだからな。」
「特別?」
「麒麟会には組員が多数居るが、その中でも会長が信用した者だけが会長を守る事ができる。他の者は麒麟会の組員であっても、会長に会う事すらなかなかできない。」
「………なぜ私なんかを?」
「さぁ?会長は少しの間相手と接するだけでそいつの本性を見破ってしまう人でな。お前ならできると判断したんだろう」
光一さんにそう言われ会長を見ると、会長はニヤッと笑いました
その笑みは私の内側まで見えているのではと錯覚してしまう様な笑みで心臓が鷲掴みにされてしまったのです
これが私と会長の出会いです
結局、あの笑みにノックダウンされた私はテストを受けました
光一さんが言われた様に、命をかけたテストでした
このテストで大怪我をする者、片手を失う者もいると聞かされて挑みましたが、無傷で合格できる者などいないだろうと思える内容でした
私も怪我をし入院する事となったのですが、会長直々にお見舞いに来てくださりこう尋ねられました
「今回のはテストだから命を落とす事は無かったが、これからは違う。いつ命を落とすか分からない。それでも俺に付いて来れるか?少しでも迷いがあるなら辞めておけ。
仕事は紹介してやるから、平和な生活を送ったらいい。
お前はどうしたい?」
私はジッと会長の目を見つめました
この方は常に命の危険があると分かっていて会長をなさっているのだ
辞めたいと思っても辞めることなどできない会長というものを
敵だらけのこの世界だからこそ、本当の味方をこうして探されているのか
とても心の強い方だ
そんな方をお守りできる力があるなら守ってあげたい
こんな事を思ったのは人生で初めての事でした
私に言葉をかけてくる者は虐める為か、喧嘩を吹っ掛けて来る為のどちらかでした
なので大切にしたい、護りたいなど思う人間に出会った事がないのです
「会長、私の命もらっていただけますか?」
何故だかはわかりません
今日でニ度会っただけの人です
でも自分の命を預けてもいいと思える何かがこの方にはありました
「後悔しても、辞めることはできないよ?それでもいい?」
「はい。後悔はしませんから。」
「そう…わかった。それなら俺も誓うよ。」
その言葉に首を傾げました
「虎吉が鼓動を刻み続ける限り、俺の持てる全ての力を使ってお前を生かしてやる。怪我をさせないとは言えない。けど生きて俺の所へ帰ってきたらどんな怪我をしてても必ず助ける。だからお前も誓え、どんな事があろうと必ず生きて俺の元へ帰ってくると。」
会長のその真剣な顔と言葉に私はすぐさま頷きました
「私が死ぬ時は貴方の盾となり、貴方の隣に居る時だけです。必ずお守りいたします。」
「ああ。約束だ。」
この約束は、私が会長の盾になりその場で死んでしまう以外は、会長が治療し必ず生かすとの誓いでした
後に聞いた話ですが、会長は医師免許を持ちその世界では神の手と称される方でもあったのです
こうして私は会長専属の麒麟会の組員となり、光一さんの部下として日々鍛練を欠かさず行っているのです
会長は常に忙しく昼夜問わず仕事をなさっていて、いつ倒れてしまわれるかとても心配しておりました
ですが今回、橘組で出会った青年と心を通わせられ、あまり見ることの無い心からの笑顔を惜しげもなく披露しておられます
セイさんが会長の隣に居る以上、これからは会長も今までの様な無茶はせず自身を労ってくださることでしょう
セイさんが安心して会長の側に居れるよう、私達会長専属の組員はセイさんも会長同様お守りしなければいけないと共通認識を持ったのでした
応援ありがとうございます!
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