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「律?どうしたの?」


「何となく来ただけ。」


「そっか。」


律は部活の服を着ていた。


(筋肉凄いな。特に腕。ふくらはぎも凄いな。)


俺は筋肉が付きにくいからあまりついてないから正直羨ましい。


俺が何着ていこうか悩んでいると、


「零。部活は10時から2時まで。」


「ん。分かった。」


凄いな。4時間も。


(さすがだな。俺はついて行けない。)


「ん?てことは昼持ち?」


「うん。」


(でも、晴子さん作っている様子無かったけど·······)


「お昼ご飯はどうするの?」


「コンビニで買うよ。土日の練習は学校側からお金持っていって良しになってるから。」


「そう、なんだ。」


(コンビニ·····コンビニか~。)


正直コンビニのご飯は美味しいし安くて良いと思う。


でも、運動する人にとってタンパク質や炭水化物を効率よく摂るにはきちんとしたお昼ご飯が必要だ。


その上律は、野菜が苦手だ。


"バランス良く"なんて律は考えないだろう。


今日の朝だってサラダを残して無理やり晴子さんに食べさせられてたし。


「お昼休憩って、何時から?」


「12時から40分間。」


「おっけー。」


律は不思議そうな顔をしてるけど俺は気にしない。


すると、再度ドアを叩く音が聞こえた。


ドアを開けると、制服に着替えた皇の姿があった。


「零にぃ、りぃにぃ行ってくるね。」


「うん。行ってらっしゃい!気をつけてね!」


「うん!」


皇の存在に気づいたのか律も寄ってきた。


「じゃーな。」


(じゃーなって。)


「行ってくるね~!」


「行ってらっしゃい。」


皇は階段をトントンと降りて幼稚園へ行った。


続いて涼太さんも仕事へ出掛けた。


*****


「じゃあ、俺も行くわ。」


「うん。気をつけてね。」


「おう。」


「行ってきます。」


「行ってらっしゃい。」


(行ってらっしゃい、か。)


両親が死んでから誰とも交わしていなかったから少し嬉しかった。


俺は律を見送るとリビングへ行って晴子さんに話し掛けた。


「晴子さん。」


「はぁい?」


「律がさ、お昼コンビニで買うんだって。それでさ俺、作って持ってちゃダメかな?」


俺の質問を聞くと晴子さんは笑顔になった。


「良いわね!あの子絶対野菜食べないし。冷蔵庫にある物適当に使っていいからね。じゃあ、零君頼んでもいいかしら?」


「はい。」


「ありがとう。助かるわ。じゃあ、私も仕事行ってくるわね。」


「お気をつけて。行ってらっしゃい。」


「行ってきまーす!」


少しバタバタしながら晴子さんも仕事へ出掛けた。


(ほんと、朝から元気だな。)


今の時刻は10時前で、そろそろスーパーも美容院も開く時間帯だ。


(とりあえず、美容院行こ。)


俺は靴を履いて玄関を出て、鍵を閉めた。


この鍵は俺がここに住み始めた記念に晴子さんが"家族の印"と言って俺にくれたものだ。


俺にとっては変わりのない宝物だ。


散歩がてら商店街に入り、行きつけのお店もないから適当に美容院を探した。


("black"まぁ、ここでいっか。)


目に入った所を選んでお店に入った。


カランカラン


「いらっしゃいませー!」


と元気な声で1人の女性が話をかけてきた。


「あの、予約してないんですけど良いですか?」 


「はい!では此方へどうぞ。」


俺は言われるがまま案内されたイスへ座った。


朝早くというのに店内は人が沢山いた。


「では、今日担当させて頂きます。宮村と申します。本日はどのような髪型に致しますか?」


「えっと·····全体的に短くで、お願いします。」


「かしこまりました。」


それからは、雑誌を見て適当に選び、髪を洗い切って乾かした。


40分位で終わった。


「このようになりましたがよろしいでしょうか?」


「はい。」


(うん。全体的にサッパリしてて楽だ。)


俺が鏡を見て凄いな~と思っていると宮村さんに話しかけられた。


「あの、物凄く美人さんですよね?」


「·······え?俺、ですか?」


「はい!」


(え?ごめんなさい。ちょっとよくわからないです。)


内心そう思ってても口には出来ないので、


「お世辞でも、有難いです。」


と言っておいた。


宮村さんは納得のいかない顔をしていたがこれまたスルー。


お会計をしようとレジへ向かう途中、色んな人に見られた。


(えっ?何?) 


不思議に思いながらもレジへ向かった。


すると、宮村さんは、「人気者ですね~」と言って煽ってきた。


俺は軽くあしらうように回答した。


ブツブツと何かを言っている様子だがこれもスルー。


「あっ!?学生証などお持ちですか?」


「はい。」


「新規のお客様ですね、新規の場合初回はタダになります。」


「そうなんですか。」


(ラッキー。)


「じゃあ、ありがとうございました。」


「はい!またのお越しをお待ちしております!!」


俺はペコっと一礼して逃げるように帰った。
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