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15 うなずく令嬢
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「ジルさん。ちょうど良いところに。
お願いがあって。」
B級冒険者のジルはH級の冒険者が気安く話しかけられる存在ではないのだが、そこは若い女性が貴重なギルドでは大目に見られている。
「おう、ルチア。俺もお前に話したい事があったんだ。」
周りのいかつい冒険者達がニタニタと遠巻きに見てくるので、ジルが「ちよっとこい。」とルチアをギルドから連れ出す。
「もうしろねずみは嫌ですよ。」
「そんなんじゃねーよ。」
違うと言いつつ連れてこられたのはあのしろねずみを駆除した食堂だった。
店主の名をとってオグロ食堂というらしい。
ニタニタと出迎える店主に片手で挨拶したジルと席につく。
どうして誰も彼もジルといるとニヤニヤ見てくるんだろうね。
ジルのこれまでの女運の無さを知らないルチアは首を傾げる。
「ルチア、これ他のやつにも渡したか?」
ジルがブレスレットを見せながら聞いてくる。
ルチアの作ったブレスレットだ。
いずれマーラの店に置いてもらおうと思いつつそのまま亜空間ポケットにしまってある。
「いえ、ジルさんにあげたのと私がつけてるのだけです。」
可愛く出来たので私もつけてる。
「これ他のやつにやるなよ。」
ジルが小声で顔を近づけてくる。
ジルの顔はかなり男っぽくてタイプなのでこうも近いとドキドキしてしまう。
これは他の人とお揃いしたくないっていう独占欲的な?
「な、なぜですか?」
「これはやべーだろ。」
やべー?マーラに石鹸見せた時みたいな事言われてる。
「可愛すぎました?」
がっくりと項垂れたジル。
「じゃなくて。これルチアのスキル付与してあんだろ。」
「え?色がついただけじゃなくて?」
「俺のスキルは「火 水 風」だ。だが、これをしてたら「土」が使えた。」
ジルはスキル3つ持ちのようだ。
さすがB級冒険者。
「ルチアはレベルいくつになった?」
「8です。」
Hランクになるにはレベル7が必要で、私はつい先日8に上がったばかりだ。
レベル10くらいまでは上がりやすい。
冒険者じゃなくてもレベル10くらいの大人はいる。
「魔石に付与するのはレベル20は必要だ。だから出来るやつは少ない。そして高価なものをより高く売るためにこんな小さなクズ魔石にわざわざ付与するやつはいない。」
「…20。」
知らなかった。
レベル20は冒険者ならE級だ。
冒険者はI級から始まってレベル5。Hがレベル7でGがレベル10。
Fで15、Eで20、Dで25、Cで30、Bはぐんと上がってレベル40。
Aはさらに上がってレベル60。
Sはさらにさらにでレベル80と言われてる。
ジルはレベル40以上ということだ。
レベル20は少ない上に付与なんかしなくても稼げる。
「このブレスレットは5色だな。「火 水 風 土」とあとこれは何だ?」
ジルが赤、青、緑、黄色の魔石に順番に触れ、最後に白の魔石を指で摘んだ。
「……りです。」
私は蛇に睨まれた蛙だよ。
「聞こえない。」
「ひ、かりです。」
「だよな。」
「光」はレアスキルだ。
灯りと表面的な治療しか出来ないらしいがそれでも「光」のスキル持ちは聖女と呼ばれて教会に保護され大切にされる。
教会に保護ってこの世界の人は名誉な事と思ってるみたいだけど、私からしたら軟禁だよね。
ジルは私の事を教会に連れて行くのかな。
悲しくなって俯くと大きな手で頭をわしゃわしゃと撫で回された。
「そんな顔すんなって。教会に行きたくないんだろ?」
顔を上げた私にジルがニィッと笑った。
あ。かっこいい。
我ながら単純だと思うけど、落とされて上げられたらその笑顔にきゅんとなってしまった。
けれど目がハートになった私にもジルは容赦なかった。
「誰にも言わないって。
だからルチアも気をつけろよ?」
「って事で、これ。」と手のひら大の魔石を渡された。
「空間」スキルを魔石に付与した亜空間収納バッグを作る事を約束させられてしまったのだ。
ブレスレットに「空間」の魔石は入れてなかったのになぜバレてる。
それに今日はやっとテントを買ったから色々いじってみたくて、ジルの庭を貸して欲しいとお願いするつもりだったのに。
げせん。
**
「いやー、ジルにもついに。」
ルチアが帰ったオグロ食堂にて、店主オグロとその他いく人かの冒険者達に囲まれたジル。
ルチアとのやり取りを離れて見ていた(会話は聞いてない)オグロが吟遊詩人ばりの再現で場を盛り上げる。
「ルチア。ジルさん。つって2人で手を握りながら見つめ合っちゃってよー。」
大喜びの冒険者達には悪いが、それはそんなに甘い雰囲気ではなかった。
(内緒にしてやるから分かってんだろーな。)
(かしこまりました。亜空間収納バッグでございますね。喜んで作らせていただきます。)
目だけで会話されたやり取りに必死に頷くルチアを思い出してジルはひっそりと笑みを浮かべながら酒を飲んだのだった。
かわいいウサギちゃん、早く大人になれよ。
お願いがあって。」
B級冒険者のジルはH級の冒険者が気安く話しかけられる存在ではないのだが、そこは若い女性が貴重なギルドでは大目に見られている。
「おう、ルチア。俺もお前に話したい事があったんだ。」
周りのいかつい冒険者達がニタニタと遠巻きに見てくるので、ジルが「ちよっとこい。」とルチアをギルドから連れ出す。
「もうしろねずみは嫌ですよ。」
「そんなんじゃねーよ。」
違うと言いつつ連れてこられたのはあのしろねずみを駆除した食堂だった。
店主の名をとってオグロ食堂というらしい。
ニタニタと出迎える店主に片手で挨拶したジルと席につく。
どうして誰も彼もジルといるとニヤニヤ見てくるんだろうね。
ジルのこれまでの女運の無さを知らないルチアは首を傾げる。
「ルチア、これ他のやつにも渡したか?」
ジルがブレスレットを見せながら聞いてくる。
ルチアの作ったブレスレットだ。
いずれマーラの店に置いてもらおうと思いつつそのまま亜空間ポケットにしまってある。
「いえ、ジルさんにあげたのと私がつけてるのだけです。」
可愛く出来たので私もつけてる。
「これ他のやつにやるなよ。」
ジルが小声で顔を近づけてくる。
ジルの顔はかなり男っぽくてタイプなのでこうも近いとドキドキしてしまう。
これは他の人とお揃いしたくないっていう独占欲的な?
「な、なぜですか?」
「これはやべーだろ。」
やべー?マーラに石鹸見せた時みたいな事言われてる。
「可愛すぎました?」
がっくりと項垂れたジル。
「じゃなくて。これルチアのスキル付与してあんだろ。」
「え?色がついただけじゃなくて?」
「俺のスキルは「火 水 風」だ。だが、これをしてたら「土」が使えた。」
ジルはスキル3つ持ちのようだ。
さすがB級冒険者。
「ルチアはレベルいくつになった?」
「8です。」
Hランクになるにはレベル7が必要で、私はつい先日8に上がったばかりだ。
レベル10くらいまでは上がりやすい。
冒険者じゃなくてもレベル10くらいの大人はいる。
「魔石に付与するのはレベル20は必要だ。だから出来るやつは少ない。そして高価なものをより高く売るためにこんな小さなクズ魔石にわざわざ付与するやつはいない。」
「…20。」
知らなかった。
レベル20は冒険者ならE級だ。
冒険者はI級から始まってレベル5。Hがレベル7でGがレベル10。
Fで15、Eで20、Dで25、Cで30、Bはぐんと上がってレベル40。
Aはさらに上がってレベル60。
Sはさらにさらにでレベル80と言われてる。
ジルはレベル40以上ということだ。
レベル20は少ない上に付与なんかしなくても稼げる。
「このブレスレットは5色だな。「火 水 風 土」とあとこれは何だ?」
ジルが赤、青、緑、黄色の魔石に順番に触れ、最後に白の魔石を指で摘んだ。
「……りです。」
私は蛇に睨まれた蛙だよ。
「聞こえない。」
「ひ、かりです。」
「だよな。」
「光」はレアスキルだ。
灯りと表面的な治療しか出来ないらしいがそれでも「光」のスキル持ちは聖女と呼ばれて教会に保護され大切にされる。
教会に保護ってこの世界の人は名誉な事と思ってるみたいだけど、私からしたら軟禁だよね。
ジルは私の事を教会に連れて行くのかな。
悲しくなって俯くと大きな手で頭をわしゃわしゃと撫で回された。
「そんな顔すんなって。教会に行きたくないんだろ?」
顔を上げた私にジルがニィッと笑った。
あ。かっこいい。
我ながら単純だと思うけど、落とされて上げられたらその笑顔にきゅんとなってしまった。
けれど目がハートになった私にもジルは容赦なかった。
「誰にも言わないって。
だからルチアも気をつけろよ?」
「って事で、これ。」と手のひら大の魔石を渡された。
「空間」スキルを魔石に付与した亜空間収納バッグを作る事を約束させられてしまったのだ。
ブレスレットに「空間」の魔石は入れてなかったのになぜバレてる。
それに今日はやっとテントを買ったから色々いじってみたくて、ジルの庭を貸して欲しいとお願いするつもりだったのに。
げせん。
**
「いやー、ジルにもついに。」
ルチアが帰ったオグロ食堂にて、店主オグロとその他いく人かの冒険者達に囲まれたジル。
ルチアとのやり取りを離れて見ていた(会話は聞いてない)オグロが吟遊詩人ばりの再現で場を盛り上げる。
「ルチア。ジルさん。つって2人で手を握りながら見つめ合っちゃってよー。」
大喜びの冒険者達には悪いが、それはそんなに甘い雰囲気ではなかった。
(内緒にしてやるから分かってんだろーな。)
(かしこまりました。亜空間収納バッグでございますね。喜んで作らせていただきます。)
目だけで会話されたやり取りに必死に頷くルチアを思い出してジルはひっそりと笑みを浮かべながら酒を飲んだのだった。
かわいいウサギちゃん、早く大人になれよ。
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