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まさか

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私達2人は上手く行っていると思っていた。
残酷な事実を知るまではーー。

※※※

その日はシャーリー・レインズ子爵令嬢の18歳の誕生日会が開かれる日だった。
慌ただしく誕生日の飾りや料理が準備される屋敷。
シャーリーはその様子を見ながら今夜発表されるジェイク・カールソン子爵令息との婚約に胸躍らせていた。

今日はとうとう私が主役の日!

そう胸に言い聞かせながら。

そんな時、シャーリーの父親であるロイ子爵の声が聞こえてきた。

「ラウラが吐いたって?!早く医者に見せよう」

同時に母親であるジェーン子爵夫人の声も聞こえてきた。

「最近は元気だったのにまた再発したのかしら。
一刻も早く医者に見せましょう」

またか……といった風にシャーリーが後ろを振り返る。

こんな時ラウラは「私、死んじゃう!」と言って騒ぐのだ。
大抵は自分が主役じゃない時だ。
今日はシャーリーの誕生日会。
ラウラが騒ぐのは半ば予見していた。

しかし、そんなラウラが今日は違っていた。

「お父様、お母様、私は大丈夫です」

いつもとは違い、本当に顔色の悪いラウラが言う。

ラウラどうしたのかしら……本当に具合が悪そう。

シャーリーも不安になってきた。

すると心から心配そうな顔をしたロイ子爵は言う。

「ラウラ。顔が真っ青じゃないか。良いから医者に行こう」

しかしラウラは頑なだった。

「大丈夫です。今日のパーティーで理由が分かります。
どうかお父様、お母様、心配なさらないで下さい」

そんなラウラのフラフラな身体を抱き止めた人物が居た。

ハッとシャーリーが息を飲む。

そして、呟いた。

「……ジェイク」

自分の婚約者がラウラの事を抱き寄せていた。
フラフラしているラウラが可哀想であるが自分の婚約者が妹を抱いているのには些か抵抗があった。

「ラウラ、大丈夫かい?」

ジェイクはまるで恋人をわずらうかの眼差しでラウラに言う。

「ええ。ありがとうございます。ジェイク様が居てくれて助かったです」

そして、見つめ合う2人。

銀髪に紅い目をしたジェイクと金髪に青い目をしたラウラは傍目から見てもお似合いな美男美女の組み合わせであった。

そんな2人に嫌な違和感を抱きつつ、シャーリーが声をかける。

「ラウラ大丈夫?せめて部屋で休んでいたら?」

するとぐったりとしていたラウラの表情が少しだけ変わった。
妙に勝ち誇った顔をしたのだ。

シャーリーは直ぐ様、頭がハテナとなる。

「……?」

そんなシャーリーを置いといてラウラは言う。

「ええ。そうしますわ。今日のパーティーには必ず間に合わせないといけないですからね」

すると思ってもみなかった一言が飛ぶ。

「僕も一緒に着いているよ」

ジェイクだ。

「え……」

シャーリーは目を丸くする。
するとロイ子爵とジェーン子爵夫人も矢継ぎ早に言う。

「そうだな。誰か付き添ってあげないとな」

「そうね。貴方が居てくれたら安心だわ」

「じゃあ、ラウラ。僕と一緒に行こう」

「ありがとうございます」

そして、2人は肩を寄せ合いながらラウラの居室へと向かって行った。

その2人の後ろ姿に言い様のない不安を感じるシャーリーだった。

※※※

時は経ち、いよいよ、シャーリーの誕生日会が始まろうとしていた。

会場には沢山の人が来ていた。

今日、ここでジェイクとの婚約発表をするのだ。

シャーリーは期待に胸を膨らませていた。

だがーー

ジェイクは来ない。
一向に来る気配がない。

開始と同時に婚約を発表する予定だったのにも関わらずだ。

いよいよ開始1分前となった。

その時だった。

ジェイクが会場に現れたのだ。

ーーラウラと共に。

するとロイ子爵とジェーン子爵夫人も2人の後ろから着いてきた。

そして、シャーリーを差し置いて4人は壇上に出た。

何が始まるって言うの?

シャーリーの不安は増していく。

するとロイ子爵が大変言いづらそうに口を開いた。

「えー今回皆様に集まって貰ったのは、シャーリーの誕生日会

会場から「えっ」という声がしたかと思えば場が静まり返った。

「今回は、あのー……そのー……」

ロイ子爵は言いよどんでいた。
すると痺れを切らしたジェイクが前に出る。

「今回、皆様に集まって頂いたのは僕とーー」

その時、シャーリーはバチッとラウラと目が合った。

その瞬間ラウラが笑ったようにシャーリーには見えた。

え……何ーー?

「ラウラ・レインズ子爵令嬢との婚約会見にお越し下さり誠にありがとうございます」

嘘……

ジェイクの言葉を聞いたシャーリーは茫然とその場に立ち尽くした。

会場は途端にざわつき始める。
そして、シャーリーの耳には聞きたくもない言葉が沢山聞こえてきた。

「ラウラの方を選んだ」
「見た感じ、ラウラとの方がお似合いだったものね」
「ラウラとジェイク」
「シャーリーは捨てられた」
「シャーリーは捨てられた」
「シャーリーは捨てられた」

耳にわんわんと木霊こだまする言葉。

シャーリーはクラクラしてきた。

そして、決定打がジェイクの口から言われる。

「現在、ラウラは妊娠3ヶ月です」

「………ッ!」

シャーリーはその場に倒れてしまった。
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