【完結】貴方の愛は信じても良いのでしょうか?【大正恋愛奇譚】

白井ライス

文字の大きさ
10 / 37

無視

しおりを挟む
次の日の朝

「おはようございます」

「……」

キヌさんに挨拶をしましたが無視をされました。
やはり昨日のことを根に持っているようです。
先生に抱かれてすらいないのにキヌさんからの嫉妬を買ってしまいました。
何故女性というのは腹が立つと無視をするのでしょうか。
相手を困らせて優位に立ちたいからなのでしょうか。
同性でもそこが理解しがたい所です。
こんな時に先生がキヌさんを抱いてくれれば機嫌が治るじゃないかと思いました。
いっそのこと先生に直談判してみようかとも考えましたが、昨晩から吉田さんが泊まり込みで先生の執筆を監視しているのでそういう訳にもいきません。
女性というのは非常に面倒臭いです。
こんな時、男性だったらどうするのでしょうか。
やはり頭の悪い私には分かりませんでした。

ーーー

井戸の横で洗濯をしているとフラフラと現れた梅さんに会いました。
思えば梅さんは先生の自室に居ることが多いので久しぶりに見ます。
今は吉田さんが張り付いているので先生の御相手をすることが出来なくなったのでしょう。
私はやってきた梅さんに挨拶することにしました。

「梅さんおはようございます」

「……おはよう」

何やら暗い雰囲気です。
どうしたんだろうと思いましたが聞くのもはばかられたのでそれについては聞かないことにしました。
すると梅さんが洗濯を手伝ってきてくれたので何か話すことにしました。

「梅さん、私」

「どうしたの?」

「キヌさんに嫌われちゃいました。今、無視されています」

「へぇ~何で」

何でと聞かれて馬鹿正直に先生がキヌさんを抱いてないからと言えば今度は梅さんの機嫌を損ないかねません。
私はそれとなく誤魔化しました。

「分からないですけど、余計な一言を言ってしまったみたいです」
    
「そうなの」

梅さんは何処か心あらずといった様子で私の話を聞いているようでした。
そこで会話が途切れたかと思うと急に梅さんが私の目を見つめて言いました。

「ねぇ、あんたさきって名前よね?」

「ええまぁ……正確にはさきこですが……」

「じゃあ違うか……なら良いわ。大丈夫よ。気にしないで」

そう言うと梅さんは洗濯をガシガシとやり始めました。
何のことか気になりましたが、藪をつついて蛇を出すということわざがあるように下手に聞いて梅さんにまで無視されるようになってしまっては仕事が出来なくなるので聞きませんでした。

その後は洗濯が終わるまで特に会話はなく、淡々と仕事をこなしました。

ーーー

次の日の朝、ようやく先生が原稿を書き終えたらしく、吉田さんが帰ることになりました。
帰り際、吉田さんが「では明後日の11時、駅前の広場でお会いしましょう」と言って去っていきました。
私は「はい」とだけ言い、見送りました。

そして、私が玄関掃除をしていると珍しく先生が自室から出てきました。
そして、掃除をしている私のことをただ見つめてきました。
私は何だろうと思い、先生に聞きました。

「どうかされました?」

「いや、さきちゃん。君は酷い女だね」

「え?」

先生の言葉に驚いて私は手を止めました。
そして、聞き返しました。

「どうしたんです?」

「良いよ。心当たりがないって言うのであれば」

先生は不機嫌そうです。
私はもしかして、と思い聞きました。

「吉田さんと活動写真を見に行くことでしょうか?」

「そうだね。それもあるけど、他にもあるんじゃない?」

「えっと……」

それ以上は思い付かなかったので言葉が続きませんでした。
すると先生はそれを見透かしたようで溜め息を吐きました。

「はぁ~さきちゃん。君は此処に勤めて一週間は経つよね。もうそろそろ思い出しても良いんじゃない?」

「思い出す?」

私が何のことか分からず首を傾げていると先生はとうとう呆れたようで去っていきました。

「さきちゃんにとって僕はそれだけの存在って訳だったんだ」

そう言い残して。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜

あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。

真面目な王子様と私の話

谷絵 ちぐり
恋愛
 婚約者として王子と顔合わせをした時に自分が小説の世界に転生したと気づいたエレーナ。  小説の中での自分の役どころは、婚約解消されてしまう台詞がたった一言の令嬢だった。  真面目で堅物と評される王子に小説通り婚約解消されることを信じて可もなく不可もなくな関係をエレーナは築こうとするが…。 ※Rシーンはあっさりです。 ※別サイトにも掲載しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

離縁希望の側室と王の寵愛

イセヤ レキ
恋愛
辺境伯の娘であるサマリナは、一度も会った事のない国王から求婚され、側室に召し上げられた。 国民は、正室のいない国王は側室を愛しているのだとシンデレラストーリーを噂するが、実際の扱われ方は酷いものである。 いつか離縁してくれるに違いない、と願いながらサマリナは暇な後宮生活を、唯一相手になってくれる守護騎士の幼なじみと過ごすのだが──? ※ストーリー構成上、ヒーロー以外との絡みあります。 シリアス/ ほのぼの /幼なじみ /ヒロインが男前/ 一途/ 騎士/ 王/ ハッピーエンド/ ヒーロー以外との絡み

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...