平和国に勇者はいらない!と言われ勇者を失ってしまった国に突如勇者として召喚された俺は、平和国の隠蔽勇者になる。

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交渉

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「どうゆうことだ?」

「前にも言ったが、この国に勇者がいるということが他の国からの反感を買う原因になる。もし今勇者のことが見つかると、また勇者のコインを求めた醜い争いが起こるだろう。だからお前を国の外に出すことは出来ない」

 確かに王様の言うことは、理解できるし辻褄も合っている。だがここで諦めてしまっては、何も変わらない。そう、今考えてみればこの状況で勇者と名乗れること自体が奇跡であり、いっさい戦闘がなく戦闘能力がない勇者など勇者ではない。たとえこの国が認めたとしても俺には認められない。
 だから今のこの状況をどうにかして、変えなければいけない。自分のために……

 まずは、win-winの関係を維持したまま俺に利益のあるアイデアを相手に考案する。まさかこんなところで仕事の社会常識が役立つとは。社畜だった頃の俺には想像すらできなかっただろう。

「わかった。じゃあ提案だ。俺が国の外に出る許可を出す代わりに、勇者であることを必ず隠し通すと約束する」

 若干無理がある提案かもしれないがこれで通ればラッキーだ。通らなければまた違う提案を出せばいい。
 予想していた通り、王様は少し曇った表情になった。

「勇者である事を隠し通せると言う根拠はどこにある」

「勇者である証拠の勇者のコインをここに置いていく」

 俺には元々勇者であることが国民に知られていたわけではないので、国の外に出ても正直、勇者という立場が証明できなくても問題ないだろうと思っていた。

「はっはっは!これは面白い提案だな」

 王様は急に大きな声で笑い始めた。

「わかった。国の外に出ることを許そう。その代わり勇者のコインは持っていきなさい。たとえ身を隠すとはいえ、あなたがこの国の勇者なのに変わりはない」

 想定外の答えに驚いたが、王様の提案はそれだけではなかった。

「あと、一つ頼みたいことがある」

「わかった。できる限りのことは聞くつもりでいる」

「勇者のコインについての情報を探ってきてほしい。ウィルロード国は先ほども言った通り勇者とは無縁の国と言われている。その分勇者の情報も一切入ってこない。だから、お前が勇者のコインの情報でもなんでも些細なことでも構わない。何か情報を持って帰ってきてほしい」

 確かにこれは俺にしかできないことだろうな。身分がはっきりしているのに対して、召喚されたばかりの俺の情報は、まだこの世界に出回ってはないだろう。違う国の勇者と名乗り勇者のコインを見せれば、国を騙して簡単に入国できる。

「わかった。引き受けよう。だがもし情報収集でこの国の勇者だと言うことがバレてしまった場合はどうする」

「それをバレないようにするのが、お前の仕事だろう」

 試しに聞いてみたがダメだったか。まあ、これは一応取引だもんな。国を出るためにはこのくらいのリスクを背負わないとダメだってことだな。
 すると必死に考え始めた俺をみて王様が言った。

「まあ、そんなに慌てるな。もしもの時の策は練ってある。だが、この策は使わない前提で国を出てくれ」

 別に慌てていたわけでわないが、ナイス王様!これで最悪の場合のリスクを減らすことができる。

「わかった。約束する」

「おう。じゃあ我が国の勇者よ。国のためにその身を尽くしたまえ」





 ん?なんかきてる。
 腕のステータスから、何やら通知のようなものが来ていた。

『在籍国の国外に出た場合、国からの援助金や情報はこちらの伝達機能でお送りします』

 メッセージみたいなものか。意外とハイテクなんだな。と電波みたいなものが飛んでるのかと思ったら、全て魔法で管理されていた。やはり、この世界での魔法はとても重要だ。必ず習得する。

 さらに魔法の重要さを感じた俺は、明日国を出ると予定を立て準備を始めた。

 まず国に戻ってこないという事を想定して、魔法書を何冊か買っておきたい。さらに、食料もしばらくは調達しなくても大丈夫な量用意し、スキルの自動再生だけでは心配なので回復薬なども用意しよう。

「ごめんください!回復薬が欲しいのですが」

 奥の部屋から出てきた優しそうなお婆さんが、丁寧に説明してくれた。

「回復薬は、これだよ。一つ銅貨3枚だけどいくつ買うんだい?」

「じゃあ、10個ください」

 俺はお婆さんに、銀貨3枚を渡し食料を買いに行った。

「すいません。長持ちしやすい食料が欲しいのですが」

「おう!それだったら缶詰とかおすすめだぞ!」

 俺が、必死に食料を買っていると何やら後ろから聞き覚えのあるでかい声が近づいてきた。

「おぉ!あの時の勇者もどきじゃねぇか!元気してたか!」

 声の主は、朝食ランチの店主だった。また出会うことになるとは。こいつも店の食材を買いに来たらしい。相変わらず食料屋の店主との会話がデカくて鬱陶しい。

 俺は、ささっと買い物を済ませ食材を受け取ろうとすると食料屋の店主が話しかけてきた。

「にいちゃん。卵は悪くなりやすいがいいのか?」

「はい大丈夫です」

 声がデカくて頭が痛くなるから、早くこの場を離れたいのだがまだ何か話があるようだ。

「あとよ、にいちゃん。勇者を名乗るのはいいけど、他国から狙われない程度にしとけよ」

 余計なお世話である。そもそも俺は本物の勇者であるがそれは置いといて。何よりも店主がキメ顔で行ってきたのが一番ムカついた。

 俺はその場を離れ、夕焼けを浴びながら荷造りをした。

 分かってはいたが、やはり荷物が多い。旅に出る初日だから仕方ないのもあるが、噂によると物を異空間にしまっておける魔法があるとか。まあ、レベル3の俺にはまだ早い話だがすぐにレベルを10にして魔法が使えるようになったことも考えて少しくらい多めの荷物でも心配はいらないだろう。

 寝る前に何度も荷物の最終確認をした。今までかなり落ち着いて行動していたが、内心かなりワクワクしていた。こんなワクワク感に浸るのは小学生の頃の遠足ぶりだろうか。何度も最終確認をしたのにも関わらず、お菓子を持っていくのを忘れて友達と一回も交換できなかった。今はもう良い思い出になっている。

 こんな事を考えていると、いつの間にか眠りについていた。






「ドンッ!ドンッ!ドンッ!」

 部屋に響き渡る扉を叩く音と共に目を覚ました。焦らすような扉の叩き方に何事なんだと扉を開けると、イーナが立っていた。

「あんた、今日旅に出るんでしょ!」

 寝起きで頭が回っていなく、適当にうなづくとイーナが四角い小さなケースを差し出してきた。ケースを開けると、綺麗に光っている小さな鉱石がついた指輪が入っていた。

「なんだ?婚約の申し出か?」

 少し意地悪な質問をなんとなくしてみると、顔を赤らめながらイーナが必死に言ってきた。

「違うわよ!昔からの文化でこの国では勇者が旅に出る時、国王の長女が指輪を渡すっていうのがあるの!」

「でもこうゆうのって、国王の前でやるものじゃないのか?」

「ほんとはそうなんだけど、あんたの予定が急すぎるのよ。昨日急に旅に出たいとか言い出して何も準備できる訳ないでしょ!」

「あぁ。それはすまなかった」

「まぁ、いいわ。とりあえず!き、気おつけなさいよ……」

 そしてすぐに、イーナは行ってしまった。何か照れているのかもしれないが、好意を持たれるのはごめんだ。国王家の長女と結婚なんて流れになってしまっては、自由がなくなってしまう。この世界に来てまで何かに縛られないといけないなんて望んでいるものならまだしも、望んでない縛りなんて受けてられない。なんのためにこの世界に来たんだという話だ。

 イーナからもらった指輪を身につけ、宿を出た。昨日最終確認を何度もした荷物をもち国の門へ向かう。
 国民が今日勇者の旅立ちだということは、もちろん誰も知らない。想像していたみんなに見送られながら旅に出ると言ったことはなかった。
 

俺は誰からも視線を浴びることなく、コソッと国を出た。
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