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第二部 医学の知識と若木の令嬢 第七章 フルートリオンへの帰り道
80. フルートリオンへの道程 一週目
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私とシシ、アーテルさんにアストリート様たちに加え、冒険者四人も加えた一行はオケストリアムを出てフルートリオンへと出発した。
今回の道中は急ぐ旅ではなく、旅慣れていないアストリート様もいるということで、宿場町の多い大きめの街道をなるべく通っての旅となる。
大きめの街道とは言っても、フルートリオンへとつながる道、そんなに大きくはないんだけどね。
フルートリオンって公爵様の領地の中でも周りを山に囲まれているせいで、交易の終端になるそうなんだ。
でも、これといった特産品もなく、売れる商品がないから商隊だって大きなものは年に一度しかこない。
普通の商人は来ることがあるけど、規模の大きな商隊は訪れないらしいね。
フルートリオンと近くの街の間には鉱山もあり鉱石類も採れるため、あまり輸出入の必要がないんだって。
食料も豊富に生産できるから、贅沢な暮らしを望まないのであればいい街らしいよ。
アーテルさんとアストリート様が言ってた。
「なるほど。フルートリオンという街は特別目立ったものはないんですね」
「こら、ベレちゃん! 失礼だよ!」
「でも、いままでの話をまとめるとそうなるじゃない。なにか面白いところってないんですか?」
「うーん、ないかなぁ」
「残念。これからしばらく暮らすことになる土地なのになあ」
私と話をしているのは、一緒に来てくれた冒険者さんたちのうち若いふたり組でベレニスさんとマリオンさん。
ふたりとも七級冒険者、つまり新人を卒業したばかりの冒険者さんってことだね。
いままでは街中での雑用と採取依頼をメインに引き受けていてたまに少数のウルフ退治をほかの冒険者さんたちと一緒にやっていただけ。
今回依頼を引き受けたのは、オケストリアムだと依頼の争奪戦が激しくてついていけなくなり、別の街へと渡りたかったところを知り合いの先輩冒険者で今回一緒に来てくれているもうふたりの冒険者、ネリーさんとカルメンさんに声をかけられたらしい。
なので、彼女たちふたりにはほとんど旅費しか払われておらず、馬車での旅自体が修行のようなものらしいよ。
「はあ。やっぱり、どこの街でも依頼の受注競争は激しいのか。フルートリオンに渡っても常設依頼の薬草買い取りで食いつなぐしかないのかな」
「そうだね、ベレちゃん。お金を貯めていい装備を手に入れるまでは我慢かも」
「あれ? フルートリオンの冒険者ギルドってまだ薬草買い取りってやってるのかな?」
「「へ?」」
ふたりがマヌケな声をあげてこちらを見てくるけど、私のお薬を売るようになってから『冒険者の薬草』の需要はほとんどなくなって買い取りもしていないような。
ちょっとアーテルさんに聞いてみよう。
「アーテルさん、すみません。フルートリオンの冒険者ギルドって『冒険者の薬草』を買い取っているんですか?」
私はちょっと大声で馬車の馭者席に座っていたアーテルさんに話しかけた。
するとアーテルさんはこっちを振り向きながら答えてくれる。
「ああ。一応買い取ってはいるぞ。ただ、ひと晩の宿代を稼ぐのにも三十枚くらいの薬草の葉が必要だし、安宿ひと晩と一日分の食事代になる分以上の買い取りはしていない。冒険者のイロハを覚えて薬草以外の採取を出来るようになったり、ウルフやゴブリンなんかの弱い魔物を倒せるようになったりするまでの経過措置だな」
「ちょ、ちょっと待ってください!? 薬草の買い取りをしてないだなんてどうしているんですか!?」
「そうですよ! 冒険者の集めている薬草だって街の人たちが使うはずなのに」
ベレニスさんとマリオンさんは混乱しているけど仕方がないよね。
フルートリオンの街が特殊なだけだもん。
「フルートリオンでは別の薬が売られているんだよ。普段はそれを使っているから、『冒険者の薬草』なんて誰も使わないんだ」
「でも、冒険者の薬草も止血や化膿止めには有効ですよ? そこはどうしているんですか、アーテルさん」
「ん? 冒険者は『普通の傷薬』のほかに『冒険者の薬草』を持ち歩いているのさ。多少の傷は『冒険者の薬草』をすりつぶしたもので我慢しておき、深手を負ったら『普通の傷薬』で治療をするんだ。そうすることで節約してやっていっているのさ」
そうだったんだ。
その割には私の傷薬がよく売れていたような?
「まあ、みんな傷薬の消費は関係なくある程度買いだめしてあるからな。ここしばらく傷薬を販売していなかったが、品不足になっている事はないだろ。冒険者ギルドでもストックはしてあったはずだしな」
あ、やっぱり買いだめしていたんだ。
一日に売る本数は制限していたけど、別の日に来たらまた売っていたからね。
ひとつひとつは高くなくても数があると高くなるのに大丈夫なのかな?
でも、それを聞くと「命より高いものはないからな」とアーテルさんに笑いながら返されてしまった。
冒険者さんって命がけのお仕事だものね。
命をつなぐ傷薬にお金は惜しまないのか。
私もいざというときのために、もっと強力な傷薬を量産できるように頑張らないと。
ああ、でも、そのためには薬草の種類を増やさないといけないのか。
公爵様のお屋敷でもらってきた薬草もあるけれど、薬草の種類ってなかなか増えないものね。
商隊の人たちに毎年いろいろな草花の種を買ってきてもらって少しずつは増やしているけど一気には増えない。
薬もいきなりは増えないか。
残念。
今回の道中は急ぐ旅ではなく、旅慣れていないアストリート様もいるということで、宿場町の多い大きめの街道をなるべく通っての旅となる。
大きめの街道とは言っても、フルートリオンへとつながる道、そんなに大きくはないんだけどね。
フルートリオンって公爵様の領地の中でも周りを山に囲まれているせいで、交易の終端になるそうなんだ。
でも、これといった特産品もなく、売れる商品がないから商隊だって大きなものは年に一度しかこない。
普通の商人は来ることがあるけど、規模の大きな商隊は訪れないらしいね。
フルートリオンと近くの街の間には鉱山もあり鉱石類も採れるため、あまり輸出入の必要がないんだって。
食料も豊富に生産できるから、贅沢な暮らしを望まないのであればいい街らしいよ。
アーテルさんとアストリート様が言ってた。
「なるほど。フルートリオンという街は特別目立ったものはないんですね」
「こら、ベレちゃん! 失礼だよ!」
「でも、いままでの話をまとめるとそうなるじゃない。なにか面白いところってないんですか?」
「うーん、ないかなぁ」
「残念。これからしばらく暮らすことになる土地なのになあ」
私と話をしているのは、一緒に来てくれた冒険者さんたちのうち若いふたり組でベレニスさんとマリオンさん。
ふたりとも七級冒険者、つまり新人を卒業したばかりの冒険者さんってことだね。
いままでは街中での雑用と採取依頼をメインに引き受けていてたまに少数のウルフ退治をほかの冒険者さんたちと一緒にやっていただけ。
今回依頼を引き受けたのは、オケストリアムだと依頼の争奪戦が激しくてついていけなくなり、別の街へと渡りたかったところを知り合いの先輩冒険者で今回一緒に来てくれているもうふたりの冒険者、ネリーさんとカルメンさんに声をかけられたらしい。
なので、彼女たちふたりにはほとんど旅費しか払われておらず、馬車での旅自体が修行のようなものらしいよ。
「はあ。やっぱり、どこの街でも依頼の受注競争は激しいのか。フルートリオンに渡っても常設依頼の薬草買い取りで食いつなぐしかないのかな」
「そうだね、ベレちゃん。お金を貯めていい装備を手に入れるまでは我慢かも」
「あれ? フルートリオンの冒険者ギルドってまだ薬草買い取りってやってるのかな?」
「「へ?」」
ふたりがマヌケな声をあげてこちらを見てくるけど、私のお薬を売るようになってから『冒険者の薬草』の需要はほとんどなくなって買い取りもしていないような。
ちょっとアーテルさんに聞いてみよう。
「アーテルさん、すみません。フルートリオンの冒険者ギルドって『冒険者の薬草』を買い取っているんですか?」
私はちょっと大声で馬車の馭者席に座っていたアーテルさんに話しかけた。
するとアーテルさんはこっちを振り向きながら答えてくれる。
「ああ。一応買い取ってはいるぞ。ただ、ひと晩の宿代を稼ぐのにも三十枚くらいの薬草の葉が必要だし、安宿ひと晩と一日分の食事代になる分以上の買い取りはしていない。冒険者のイロハを覚えて薬草以外の採取を出来るようになったり、ウルフやゴブリンなんかの弱い魔物を倒せるようになったりするまでの経過措置だな」
「ちょ、ちょっと待ってください!? 薬草の買い取りをしてないだなんてどうしているんですか!?」
「そうですよ! 冒険者の集めている薬草だって街の人たちが使うはずなのに」
ベレニスさんとマリオンさんは混乱しているけど仕方がないよね。
フルートリオンの街が特殊なだけだもん。
「フルートリオンでは別の薬が売られているんだよ。普段はそれを使っているから、『冒険者の薬草』なんて誰も使わないんだ」
「でも、冒険者の薬草も止血や化膿止めには有効ですよ? そこはどうしているんですか、アーテルさん」
「ん? 冒険者は『普通の傷薬』のほかに『冒険者の薬草』を持ち歩いているのさ。多少の傷は『冒険者の薬草』をすりつぶしたもので我慢しておき、深手を負ったら『普通の傷薬』で治療をするんだ。そうすることで節約してやっていっているのさ」
そうだったんだ。
その割には私の傷薬がよく売れていたような?
「まあ、みんな傷薬の消費は関係なくある程度買いだめしてあるからな。ここしばらく傷薬を販売していなかったが、品不足になっている事はないだろ。冒険者ギルドでもストックはしてあったはずだしな」
あ、やっぱり買いだめしていたんだ。
一日に売る本数は制限していたけど、別の日に来たらまた売っていたからね。
ひとつひとつは高くなくても数があると高くなるのに大丈夫なのかな?
でも、それを聞くと「命より高いものはないからな」とアーテルさんに笑いながら返されてしまった。
冒険者さんって命がけのお仕事だものね。
命をつなぐ傷薬にお金は惜しまないのか。
私もいざというときのために、もっと強力な傷薬を量産できるように頑張らないと。
ああ、でも、そのためには薬草の種類を増やさないといけないのか。
公爵様のお屋敷でもらってきた薬草もあるけれど、薬草の種類ってなかなか増えないものね。
商隊の人たちに毎年いろいろな草花の種を買ってきてもらって少しずつは増やしているけど一気には増えない。
薬もいきなりは増えないか。
残念。
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