猫被り王子が出会う、本気の恋!

花垣 雷

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上機嫌な鼻歌王子

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「……落ち着いて。モヤモヤしたままじゃ、この子の『声』が聞こえないわよ」

リネットが重ねた手から、ひんやりと心地よい魔力が流れ込んでくる。その冷涼な感覚が、ルカの胸の内にあった燻るような独占欲を、穏やかに鎮めていった。

「……そうだね。ごめん」

ルカは短く謝ると、ゆっくりと目を閉じた。
セバスへの嫉妬も、王子としての自尊心も、今はすべて思考の隅へ追いやる。全属性の魔力を持ちながら、そのすべてを「癒やし」と「共鳴」の一点だけに凝縮させていく。

(……聞こえる。この子が、苦しがっている音が)

リネットの教えが、知識ではなく感覚としてルカの脳内に広がる。
葉の裏側で滞っていた水流。光を求めて震える細胞の産声。ルカはそれらを無理に動かすのではなく、ただ背中をそっと押してあげるように、極限まで磨き上げた魔力を流し込んだ。
その時だった。

「え……?」

リネットが息を呑む音が聞こえた。
ルカが目を開けると、鉢植えの周りに柔らかな、真珠のような光の粒子が舞っていた。

それは、ルカが持つ「神の加護」と「全属性」が、リネットの「慈愛」と共鳴して起きた奇跡だった。
弱々しく垂れていた葉が、目に見える速さで瑞々しい緑を取り戻し、ピンと上を向く。それどころか、まだ固かったはずの蕾が、まるで朝日の訪れを祝福するように、ゆっくりと、音もなく花開いていった。
開いたのは、透き通るような純白の小花。
その花びらからは、王宮の温室で育ったどの高級な花よりも、清らかで心安らぐ香りが立ち上っている。

「咲いた……。それも、こんなに綺麗に」

リネットは呆然と、その光り輝く花を見つめていた。
彼女が何年もかけて磨いてきた技術。それを、この「空っぽ」だったはずの王子は、たった数日で、それも自分への信頼という「心」を乗せて再現してしまったのだ。

「……リネット。見て、笑ったよ」

ルカが少年のように顔を輝かせ、リネットを振り返った。
その瞳には、もうセバスへの嫉妬も、取り繕った余裕もない。ただ、一つの命を救えたことへの、純粋な喜びだけが満ち溢れていた。

「……本当ね。あんた、本当に……馬鹿みたいに天才なんだから」

リネットは負けを認めるように苦笑し、ようやく、ルカがずっと待ち望んでいた「あの笑顔」を彼に向けた。セバスに向けたものよりも、ずっと親密で、少しだけ照れくさそうな、彼女自身の心の奥底を見せるような笑みを。

「やったわね、ルカ」

「……っあ。……うん。……やったよ、リネット」

自分の名前を呼ばれ、向けられた最高の笑顔。
ルカは胸がいっぱいになり、柄にもなく顔を赤らめた。

「……はい、これ。よく頑張ったわね」

リネットは、ルカが奇跡的に咲かせた純白の小花と、特等席で瑞々しさを取り戻したあの薔薇を丁寧に束ね、ルカの手へと託した。

「え、僕がもらってもいいの?」

「当たり前でしょ。あんたが一生懸命向き合った子たちなんだから。……ちゃんと、お城に帰ってもお世話するのよ? ルカ」

「……! 約束するよ」

自分の名前を呼んでくれたリネットの声と、手渡された花の温もり。ルカはそれらを宝物のように胸に抱え、店を後にした。

帰り道、隣を歩くセバスは、主人のあまりの変貌ぶりに内心驚きを隠せなかった。

「ルカ様、そんなに鼻歌を歌いながら歩いては、変装が台無しですよ」

「いいじゃないかセバス! 見たかい、今の僕の魔法を? リネットが笑ってくれたんだ。僕の名前を呼んでくれたんだよ!」

「はいはい、お見事でしたよ。明日も通うおつもりなら、少しは落ち着いてください」

セバスの小言にさえ、ルカは「あはは、そうだね!」と上機嫌で受け答えをする。昨日の落ち込みが嘘のような、まさに「ルンルン」という擬音がぴったりの足取りだった。

しかし、王城の自室に辿り着いた瞬間、張り詰めていた緊張と高揚感が、ぷつりと切れた。

「……さすがに、少し疲れたな……」

全属性の魔力を極限まで繊細に操り、さらには一晩中の徹夜。いくら神の加護があるとはいえ、ルカの肉体は限界を迎えていた。彼は着替えもそこそこに、戦利品の花を枕元に飾ると、そのまま泥のように深い眠りへと落ちていった。

翌朝。

カーテンの隙間から差し込む光に、ルカは重い瞼を持ち上げようとした。

「……っ、……う……」
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