猫被り王子が出会う、本気の恋!

花垣 雷

文字の大きさ
12 / 31

…知恵熱?

しおりを挟む
「……っ、……う……」

朝……

頭が割れるように重い。喉は焼けるように熱く、体中に鉛を詰め込まれたような倦怠感が襲っている。

「……ルカ様? 朝食の時間ですが……おや」

入室してきたセバスが、ベッドで顔を真っ赤にして荒い息をついているルカを見て、すぐに事態を察した。

「……熱いな。全属性対応の魔力を持っていても、慣れない『心の魔法』と徹夜には勝てませんでしたか。……見事な風邪ですね、おめでとうございます。」

「……せ、セバス……。リネットの、店に……行かなきゃ……」

「行けるわけがないでしょう。大人しく寝ていてください」

あんなに無敵を誇っていた王子が、たった一晩の「恋の修行」のせいで、情けなくも熱に浮かされている。

一方その頃、街の花屋では――。

「……あいつ、また開店前から並んでるかと思ったのに。……来ないなら来ないで、せいせいするわ」

リネットはそう毒づきながらも、何度も何度も、誰も来ない店のドアの方を気にしていた。

「まったく……。天下の王子様が、花一輪のために寝込むなんて。セバスチャンの名に誓って、語り草にさせていただきます」

セバスは呆れたように溜息をつきながらも、その手つきは驚くほど迅速で迷いがありませんでした。主人の体調を案じる執事の顔と、冷静な実務家の顔を使い分け、ルカをベッドに押し込めます。

「温かい朝食と、熱冷ましのスープをすぐに運びます。毒味も僕が素早く済ませてきますから、いいですか、このまま寝て待っていてくださいよ」

「…………」

熱に浮かされたルカは、力なく枕に顔を埋めることしかできません。いつもなら軽口の一つも叩き返すところですが、今は意識が朦朧として、枕元の純白の花の香りを追いかけるのが精一杯でした。

セバスは、主人のそんな弱り切った姿を一度だけ振り返ると、翻る燕尾服の裾をなびかせて駆け足で部屋を後にしました。

「くっ……。一人で着替えなんて、何年ぶりだか。必ずそばにはあいつが居たのにな。はは……」

熱のせいで震える指先で、ルカは必死にボタンを掛け違えながら服を整えた。鏡に映る自分は、顔色が悪いというより、もはや執念に燃える亡霊のようだ。

セバスが朝食の手配に駆け回っている今がチャンスだ。あいつが戻ってくれば、間違いなく魔法ででも拘束されて寝台に縫い付けられる。

「馬車……の手配は無理か。セバスを通さなきゃ、門番に怪しまれる」

ルカはよろりと壁を伝いながら、秘密の通用門へと続く隠し通路へ向かった。
厩舎に辿り着いた時には、すでに額から大粒の汗が流れていた。愛馬の首筋を撫で、掠れた声でささやく。

「……悪いな。少しだけ、付き合ってくれ……。あそこへ行かなきゃ、僕の『心』が枯れてしまいそうなんだ」

パカラッ、パカラッ――。

石畳を叩く蹄の音が、静かな朝の城内に響く。
意識が遠のきそうになるのを、ルカは奥歯を噛み締めて繋ぎ止めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば
恋愛
悪路に閉ざされた貧しい辺境ルースライン領。 兄を支えたい子爵令嬢リゼは、視察に来た調査官のずさんな仕事に思わず異議を唱える。 異議を唱えた相手は、侯爵家の子息で冷静沈着な官吏ギルベルト。 最悪の出会いだった二人だが、領の問題に向き合う中で互いの誠実さを知り、次第に理解し合っていく。 やがてリゼが王都で働き始めたことを機に距離を縮める二人。しかし立ちはだかるのは身分差と政略結婚という現実。自分では彼の未来を縛れないと、リゼは想いを押し込めようとする。 そんな中、故郷の川で拾われる“名もなき石”が思わぬ縁を呼び、リゼの選択と領の未来を動かしていく――。 想いと責務の狭間で揺れる青年と、自分を後回しにしがちな少女。 すれ違いと葛藤の先で、二人は互いを選び取れるのか。 辺境令嬢の小さな勇気が恋と運命を変えていく。 ※作中の仕事や災害、病、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。 ※8万字前後になる予定です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...