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…知恵熱?
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「……っ、……う……」
朝……
頭が割れるように重い。喉は焼けるように熱く、体中に鉛を詰め込まれたような倦怠感が襲っている。
「……ルカ様? 朝食の時間ですが……おや」
入室してきたセバスが、ベッドで顔を真っ赤にして荒い息をついているルカを見て、すぐに事態を察した。
「……熱いな。全属性対応の魔力を持っていても、慣れない『心の魔法』と徹夜には勝てませんでしたか。……見事な風邪ですね、おめでとうございます。」
「……せ、セバス……。リネットの、店に……行かなきゃ……」
「行けるわけがないでしょう。大人しく寝ていてください」
あんなに無敵を誇っていた王子が、たった一晩の「恋の修行」のせいで、情けなくも熱に浮かされている。
一方その頃、街の花屋では――。
「……あいつ、また開店前から並んでるかと思ったのに。……来ないなら来ないで、せいせいするわ」
リネットはそう毒づきながらも、何度も何度も、誰も来ない店のドアの方を気にしていた。
「まったく……。天下の王子様が、花一輪のために寝込むなんて。セバスチャンの名に誓って、語り草にさせていただきます」
セバスは呆れたように溜息をつきながらも、その手つきは驚くほど迅速で迷いがありませんでした。主人の体調を案じる執事の顔と、冷静な実務家の顔を使い分け、ルカをベッドに押し込めます。
「温かい朝食と、熱冷ましのスープをすぐに運びます。毒味も僕が素早く済ませてきますから、いいですか、このまま寝て待っていてくださいよ」
「…………」
熱に浮かされたルカは、力なく枕に顔を埋めることしかできません。いつもなら軽口の一つも叩き返すところですが、今は意識が朦朧として、枕元の純白の花の香りを追いかけるのが精一杯でした。
セバスは、主人のそんな弱り切った姿を一度だけ振り返ると、翻る燕尾服の裾をなびかせて駆け足で部屋を後にしました。
「くっ……。一人で着替えなんて、何年ぶりだか。必ずそばにはあいつが居たのにな。はは……」
熱のせいで震える指先で、ルカは必死にボタンを掛け違えながら服を整えた。鏡に映る自分は、顔色が悪いというより、もはや執念に燃える亡霊のようだ。
セバスが朝食の手配に駆け回っている今がチャンスだ。あいつが戻ってくれば、間違いなく魔法ででも拘束されて寝台に縫い付けられる。
「馬車……の手配は無理か。セバスを通さなきゃ、門番に怪しまれる」
ルカはよろりと壁を伝いながら、秘密の通用門へと続く隠し通路へ向かった。
厩舎に辿り着いた時には、すでに額から大粒の汗が流れていた。愛馬の首筋を撫で、掠れた声でささやく。
「……悪いな。少しだけ、付き合ってくれ……。あそこへ行かなきゃ、僕の『心』が枯れてしまいそうなんだ」
パカラッ、パカラッ――。
石畳を叩く蹄の音が、静かな朝の城内に響く。
意識が遠のきそうになるのを、ルカは奥歯を噛み締めて繋ぎ止めた。
朝……
頭が割れるように重い。喉は焼けるように熱く、体中に鉛を詰め込まれたような倦怠感が襲っている。
「……ルカ様? 朝食の時間ですが……おや」
入室してきたセバスが、ベッドで顔を真っ赤にして荒い息をついているルカを見て、すぐに事態を察した。
「……熱いな。全属性対応の魔力を持っていても、慣れない『心の魔法』と徹夜には勝てませんでしたか。……見事な風邪ですね、おめでとうございます。」
「……せ、セバス……。リネットの、店に……行かなきゃ……」
「行けるわけがないでしょう。大人しく寝ていてください」
あんなに無敵を誇っていた王子が、たった一晩の「恋の修行」のせいで、情けなくも熱に浮かされている。
一方その頃、街の花屋では――。
「……あいつ、また開店前から並んでるかと思ったのに。……来ないなら来ないで、せいせいするわ」
リネットはそう毒づきながらも、何度も何度も、誰も来ない店のドアの方を気にしていた。
「まったく……。天下の王子様が、花一輪のために寝込むなんて。セバスチャンの名に誓って、語り草にさせていただきます」
セバスは呆れたように溜息をつきながらも、その手つきは驚くほど迅速で迷いがありませんでした。主人の体調を案じる執事の顔と、冷静な実務家の顔を使い分け、ルカをベッドに押し込めます。
「温かい朝食と、熱冷ましのスープをすぐに運びます。毒味も僕が素早く済ませてきますから、いいですか、このまま寝て待っていてくださいよ」
「…………」
熱に浮かされたルカは、力なく枕に顔を埋めることしかできません。いつもなら軽口の一つも叩き返すところですが、今は意識が朦朧として、枕元の純白の花の香りを追いかけるのが精一杯でした。
セバスは、主人のそんな弱り切った姿を一度だけ振り返ると、翻る燕尾服の裾をなびかせて駆け足で部屋を後にしました。
「くっ……。一人で着替えなんて、何年ぶりだか。必ずそばにはあいつが居たのにな。はは……」
熱のせいで震える指先で、ルカは必死にボタンを掛け違えながら服を整えた。鏡に映る自分は、顔色が悪いというより、もはや執念に燃える亡霊のようだ。
セバスが朝食の手配に駆け回っている今がチャンスだ。あいつが戻ってくれば、間違いなく魔法ででも拘束されて寝台に縫い付けられる。
「馬車……の手配は無理か。セバスを通さなきゃ、門番に怪しまれる」
ルカはよろりと壁を伝いながら、秘密の通用門へと続く隠し通路へ向かった。
厩舎に辿り着いた時には、すでに額から大粒の汗が流れていた。愛馬の首筋を撫で、掠れた声でささやく。
「……悪いな。少しだけ、付き合ってくれ……。あそこへ行かなきゃ、僕の『心』が枯れてしまいそうなんだ」
パカラッ、パカラッ――。
石畳を叩く蹄の音が、静かな朝の城内に響く。
意識が遠のきそうになるのを、ルカは奥歯を噛み締めて繋ぎ止めた。
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