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幸せの影
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残されたのは、朝の柔らかな光が満ちる店内と、顔を真っ赤にしたまま視線を彷徨わせる二人だけ。
「…………」
「…………」
沈黙が痛い。
リネットは寝起きのボサボサな髪を必死に手で整え、ルカは落としそうになった鉢植えを慌てて棚に戻したが、どちらも相手の目を見ることができない。
「……あの、リネット」
「な、なに。病人なんだから、突っ立ってないで座れば?」
ルカはおずおずと口を開いたが、リネットにぶっきらぼうに遮られ、大人しく昨日と同じ椅子に腰を下ろした。
「その……さっきのは、なんていうか」
「聞かなかったことにしてあげるわよ! どうせ熱のせいなんだから。……そうでしょ?」
リネットは背中を向けたまま、棚の花びらを確認するふりをした。けれど、その指先がわずかに震えているのを、魔法で感覚が鋭敏になっているルカは見逃さなかった。
「……熱のせい、じゃないよ」
ルカの声が、いつもより低く、真っ直ぐに店内に響いた。
「セバスの前だったから、あんな言い方になったけど。……僕は、君が育てる花も、君が花に向き合う時の顔も、全部。……本当に、好きなんだ」
「…………っ」
リネットの肩が大きく跳ねた。
彼女はゆっくりと振り返り、まだ熱っぽさが残るものの、真剣な瞳をしたルカを見つめ返した。
「……あんた、本当に……。王子様のくせに、ストレートすぎるのよ」
リネットは顔を覆っていた手を下ろし、観念したようにため息をついた。その頬には、まだ隠しきれない朱色が残っている。
「……分かったわよ。そこまで言うなら、今日の開店準備、全部手伝ってもらうからね。……ルカ」
「えっ……! あ、ああ。もちろんだよ、先生!」
名前を呼ばれた喜びで、ルカは風邪の倦怠感などどこかへ吹き飛ばし、弾かれたように立ち上がった。
あれから一ヶ月。
ルカは公務の合間を縫っては店に通い詰め、今ではすっかり「見習い店員」としての居場所を確立していた。リネットに怒鳴られ、セバスにからかわれながらも、彼の表情からはかつての虚無感が消え、瑞々しい生気が宿っていた。
しかし、そんな穏やかな日々を切り裂くように、その男は現れた。
カランコロン
まだルカが到着する前の、静かな朝の店内。
入ってきたのは、身なりの整った中年の紳士だった。高級な外套に身を包んでいるが、その眼光にはどこか粘りつくような執着が混じっている。
「いらっしゃいませ。本日はお寒い中、足を運んでいただき感謝します」
リネットはいつものように、花のようなふんわりとした笑顔で迎えた。だが、男の第一声に、その笑顔は凍りつく。
「……最近は、王子も来るのかい?」
「え……?」
なぜ、彼がここに通っていることをこの男が知っているのか。
「…………」
「…………」
沈黙が痛い。
リネットは寝起きのボサボサな髪を必死に手で整え、ルカは落としそうになった鉢植えを慌てて棚に戻したが、どちらも相手の目を見ることができない。
「……あの、リネット」
「な、なに。病人なんだから、突っ立ってないで座れば?」
ルカはおずおずと口を開いたが、リネットにぶっきらぼうに遮られ、大人しく昨日と同じ椅子に腰を下ろした。
「その……さっきのは、なんていうか」
「聞かなかったことにしてあげるわよ! どうせ熱のせいなんだから。……そうでしょ?」
リネットは背中を向けたまま、棚の花びらを確認するふりをした。けれど、その指先がわずかに震えているのを、魔法で感覚が鋭敏になっているルカは見逃さなかった。
「……熱のせい、じゃないよ」
ルカの声が、いつもより低く、真っ直ぐに店内に響いた。
「セバスの前だったから、あんな言い方になったけど。……僕は、君が育てる花も、君が花に向き合う時の顔も、全部。……本当に、好きなんだ」
「…………っ」
リネットの肩が大きく跳ねた。
彼女はゆっくりと振り返り、まだ熱っぽさが残るものの、真剣な瞳をしたルカを見つめ返した。
「……あんた、本当に……。王子様のくせに、ストレートすぎるのよ」
リネットは顔を覆っていた手を下ろし、観念したようにため息をついた。その頬には、まだ隠しきれない朱色が残っている。
「……分かったわよ。そこまで言うなら、今日の開店準備、全部手伝ってもらうからね。……ルカ」
「えっ……! あ、ああ。もちろんだよ、先生!」
名前を呼ばれた喜びで、ルカは風邪の倦怠感などどこかへ吹き飛ばし、弾かれたように立ち上がった。
あれから一ヶ月。
ルカは公務の合間を縫っては店に通い詰め、今ではすっかり「見習い店員」としての居場所を確立していた。リネットに怒鳴られ、セバスにからかわれながらも、彼の表情からはかつての虚無感が消え、瑞々しい生気が宿っていた。
しかし、そんな穏やかな日々を切り裂くように、その男は現れた。
カランコロン
まだルカが到着する前の、静かな朝の店内。
入ってきたのは、身なりの整った中年の紳士だった。高級な外套に身を包んでいるが、その眼光にはどこか粘りつくような執着が混じっている。
「いらっしゃいませ。本日はお寒い中、足を運んでいただき感謝します」
リネットはいつものように、花のようなふんわりとした笑顔で迎えた。だが、男の第一声に、その笑顔は凍りつく。
「……最近は、王子も来るのかい?」
「え……?」
なぜ、彼がここに通っていることをこの男が知っているのか。
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