猫被り王子が出会う、本気の恋!

花垣 雷

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褒められたい犬

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ルカは、リネットがやっていたことをなぞるように、店内の花々ひとつひとつに丁寧に語りかけた。

「君たちのリネットは、本当に素敵だね。……あ、そうだ。君は朝になったら太陽の当たるところに連れて行ってあげるんだったね。ごめん、遅くなった」

病み上がりの体には堪えるはずの作業だったが、花を持ち上げる手つきは驚くほど優しかった。リネットがいつも注いでいる愛情の欠片を、自分も少しでも埋め合わせたい――その一心で、彼は慣れない手つきで鉢植えを窓際へと運んでいく。

そこへ、カランコロン、と控えめな音が響いた。

「……はぁ。」

店に入ってきたセバスは、開口一番、深いため息をついた。
そこには、リネットのベッドで安らかに眠るリネットと、床を這いつくばるようにして必死に花の世話をしている主人の姿。完全に入れ替わったその光景は、あまりにも滑稽で、かつてないほど「ルカらしい」不器用さに満ちていた。

「なんだよ、そのため息は」

ルカが鉢植えを抱えたまま、少し不機嫌そうに振り返る。顔にはまだ微かに熱が残り、額には汗が浮いているが、その瞳はどこか晴れやかだった。

セバスは、主人がリネットの隣に潜り込もうとした形跡(葛藤の跡)と、結局一線を越えずに花を相手に奮闘している現状を瞬時に読み取った。

「……いえ。我儘を言って飛び出してきた割には、ずいぶんと殊勝なことをなさっていると思いまして」

セバスは歩み寄り、ルカの手から重い鉢植えをひょいと取り上げた。

「紳士として耐え抜いたことだけは、褒めて差し上げますよ。王子様」

「……うるさい。下心なんて、あるわけないだろ。僕はただ、彼女が大切にしているものを、守りたかっただけだ」

「はいはい、左様でございますか。……ですがルカ、あんたの顔、真っ赤ですよ? 熱のせいか、それとも別の理由か……俺には丸わかりですけどね」

セバスは幼馴染としての顔を覗かせ、ニヤリと意地悪く笑った。ルカは「セバス!」と声を荒らげようとしたが、ベッドで眠るリネットを起こさないよう、慌てて口を閉ざした。

そんな二人を祝福するように、窓際へ運ばれた花たちが、朝の光を浴びてキラキラと輝き始めていた。

セバスが手伝おうと手を伸ばすと、ルカはそれを力強く、しかし静かに払いのけた。

「俺がすんの! セバスは座ってろ! リネットには俺がやったって言うんだから!」

「褒められたい犬ですか、あんたは」

セバスは肩をすくめ、言われた通り椅子に腰を下ろした。カタカタ、と不器用ながらも一生懸命に鉢を動かし、太陽の光が一番よく当たる場所を探るルカ。その背中を見つめながら、セバスの眼差しがふと和らいだ。

「それにしても、あのルカがね。お城ではいつも、死んだ魚のような目で『つまらない』って言ってたのに。今は……」

「……」

ルカの手が止まる。その耳の裏まで真っ赤になっているのを見て、セバスはニヤリと笑った。

「あら? またお熱ですかー? 顔が火事みたいですよ」

「うるせーよ。しょうがないだろ……。好きなんだよ」

ルカは鉢植えを抱えたまま、消え入りそうな声で、けれど確かな意志を込めて白状した。
全属性の魔法も、王子の地位も、今の彼にとってはリネットの笑顔ひとつに敵わない。

「……っ!?」

セバスは予想していた答えに、言葉を失って一瞬黙り込む。

「……おい、無視ですかー? 言わせといて無視……って、うわあああああ!!?」

ルカが悲鳴を上げたのは、自分の失言に気づいたからではない。
店の奥の扉が、ゆっくりと、そして絶妙なタイミングで開いたからだ。

「…………え?」

そこには、完全に固まっているリネットが立っていた。
彼女の頭の中では、先ほどルカが放った「好きなんだよ」という言葉が、まるで爆鳴魔法のように何度もリフレインしていた。

「……すき、って……何を? お花のこと? それとも……」

リネットの顔が、みるみるうちにルカのそれ以上に真っ赤に染まっていく。
ルカは抱えていた鉢植えを落としそうになりながら、あわあわと両手を振り回した。

「リ、リネット! いつからそこに!? 今のはその、植物に対する深い慈愛の表現であって、決して他意は……!」

「あ、あたふたしないでよ! 私だって別に、変な意味で聞いたわけじゃないし! ……っていうか、病人なんだから大人しく寝てなさいよバカ王子!!」

「バカって言うな! あと王子って呼ぶな、ルカでいいって言っただろ!」

朝の光が差し込む店内で、顔を真っ赤にした二人が大声を出し合う。

セバスだけが「やれやれ」と額を押さえながら、最高に愉快そうに独り言を漏らした。

「……これは、城に戻るのは当分先になりそうですね。……はいはい、邪魔者は帰りますよ~。ルカ様が無理して乗ってきた愛馬、拝借いたします。あんたは後で、私が引き連れてきた馬車に揺られて、大人しく城へ帰ってくださいな」

セバスは二人の動揺などどこ吹く風で、ひらひらと手を振りながら店を後にした。その足取りは驚くほど軽快で、主人の「失言」という最高の置き土産に満足しきっているようだった。

「おい、待て待てセバス! 一人にすんな、戻れ!」

「ちょっ、待ってくださいセバスさん! 私をこのバカ王子と二人きりにしないでー!」

二人の必死な叫び声が重なったが、外からはパカラッ、パカラッという軽やかな蹄の音だけが虚しく遠ざかっていく。
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