猫被り王子が出会う、本気の恋!

花垣 雷

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もっと強くならなくては

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「……殺す。跡形もなく、消し去ってやる」

ルカの右手に凝縮された魔力は、もはや光の塊と化していた。火、水、風、土、そして雷。全属性が混ざり合い、膨大なエネルギーが臨界点を迎える。その一撃が放たれれば、男どころか馬車ごと消滅するのは明白だった。

「うあああああ! 助けてくれ、頼む、助けてくれええ!」

男はあまりの恐怖に腰を抜かし、その場で無様に失禁して震え上がる。死を確信した男の悲鳴が街道に響き渡った。
だが、ルカがその断罪の光を解き放とうとした、その瞬間。

「ルカ! やめて、死んじゃう!」

背後から、温かな感触がルカの背中にしがみついた。
縛られていた縄を自力で振りほどいたのか、リネットが必死な形相でルカの腰に抱きついたのだ。

「……リネット……?」

「もういいの、私は無事だから! お願い、そんな悲しい魔法を使わないで!」

リネットの体から、ルカがいつも癒やされていた「あの」ふんわりと穏やかな魔力が流れ込んできた。それは怒りに狂っていたルカの脳を、優しく、しかし力強く冷やしていく。
パチパチと弾けていた金色の魔力が、霧散するように消えていく。ルカは、振り上げていた拳をゆっくりと下ろした。

「……あ、あ……あぁぁあああ!!」

その隙を突いて、腰を抜かしていた男が、なりふり構わず這いずりながら立ち上がった。彼はルカの気が変わらぬうちにと、泣き叫びながら脇目も振らずに森の奥へと逃げ走っていく。 

「おい、待て……!」

ルカが追おうとしたが、背中にしがみつくリネットの震えが、彼の足を止めた。

「……ルカ、いいの。あんな奴より、私を……私を見て……」

リネットの声は震えていた。強がってはいても、スカートを捲られ、拐われた恐怖は消えていない。
ルカは深く息を吐き出し、ゆっくりと振り返った。

「……ごめん。怖かったよな」

ルカはリネットを壊れ物を扱うように、優しく、強く抱きしめ返した。男への殺意よりも、目の前の少女の震えを止めることの方が、今の彼には何万倍も重要だった。

「……帰ろう。僕たちの店に」

「うん……うん……!」

二人がそうして抱き合っているところへ、ようやく馬を走らせてきたセバスが到着した。

「おや、街道がクレーターだらけですよ」

セバスは呆れたように肩をすくめたが、その瞳は、怒りに支配されずリネットを優先した主人の成長を、どこか眩しそうに見つめていた。
リネットを抱きしめるルカの背中越しに、セバスは逃げ去った男が消えた森の奥を鋭く一瞥する。

「ご安心を。逃げた男は、すでに私の部下に追わせました。……それにしてもルカ様。今回は私の不徳の致すところですが、今後はリネット様に影の護衛を付けなくてはなりませんね」

セバスの言葉に、ルカはリネットを抱く腕にさらなる力を込めた。

「……ああ。二度と、あんな奴に指一本触れさせない。……セバス、一番腕のいいやつを頼む。いや、僕自身がもっと強くならなきゃいけないんだ」

リネットはルカの胸の中で、彼の力強い鼓動を聞きながら、ようやく安堵の息を漏らした。

「……もう、大げさなんだから……。でも、ありがとう、ルカ。……セバスさんも」

「ふふ、お礼ならルカ様に。この方は、馬車よりも早く空を飛ぶようにして貴女の元へ駆けつけたのですから」

セバスのからかうような、けれど温かい言葉に、ルカは「うるさい」と短く返した。

壊れた馬車の残骸と、抉れた街道。凄まじい修羅場の跡地で、三人の間にはいつもの——けれど以前よりもずっと固い絆で結ばれた——空気が流れていた。

「さあ、帰りましょう。リネット殿、温かい紅茶でも淹れさせていただきますよ。ルカ様には……そうですね、使い切った魔力を補うための苦い薬草茶を」

「おい、なんで僕だけ苦いんだよ!」

「主人の無茶をたしなめるのは執事の役目ですので」

セバスが手配した馬車がゆっくりと近づいてくる。ルカはリネットを抱き上げたまま、離そうとはしなかった……。

例の男に対する「事情聴取」は、もはや尋問というよりは一方的な宣告だった。
ルカの放つ、神の加護を帯びた威圧まみれの魔力に晒された男は、まともに言葉を発することもできず、最後にはルカの複合魔法によって「遠くの魔物が多い森の中」へと物理的にぶっ飛ばされた。

もちろん、二度と人里へは戻ってこれないような場所へ、だ。
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