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「待て」の出来ぬ犬
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隣の窓から漏れるオレンジ色の明かり。
ルカはそれを見た瞬間、まるで獲物を見つけた狩人のような……いや、散歩を待つ忠犬のような素早さでペンを置いた。
「よし、起きたな!」
まだ公務の書類は数枚残っていたが、そんなものは後回しだ。ルカは音を立てないように素早く身支度を整えると、裏口からこっそりと外へ出た。
早朝の空気はピリッと冷たく、肺の奥まで清めてくれるようだ。ルカはリネットの店の正面、彼女がいつも朝一番に開ける扉のすぐ脇にある、大きな鉢植えの影に身を潜めた。
(ふふ……驚くぞ。あいつ、「まだ寝てると思ったのに!」って言うに決まってる)
全属性対応の魔力を無駄に使い、自身の気配を極限まで薄める隠密魔法を発動。神の加護を受けた耳が、店の中からリネットの軽い足音と、エプロンを締める衣擦れの音を拾う。
ガチャリ
鍵が開く音がして、扉がゆっくりと開かれた。
「ふあぁ……。今日はいい天気。……さて、お花の様子は……」
寝ぼけ眼をこすりながら、リネットが一歩外へ踏み出す、その瞬間!
「おはよう、リネット! 朝の光より早く会いに来たぞ!」
ルカが影からバッと飛び出した。
「きゃあああっ!? ……って、もう! ルカ!!」
リネットは心臓を押さえて飛び上がった。驚きで完全に目が覚めた彼女は、目の前で誇らしげに胸を張るルカを、呆れたような、でもどこか嬉しそうな瞳で見上げた。
「……バカじゃないの!? 心臓止まるかと思ったわよ。っていうか、いつからそこにいたの? あんた、げっそりしてたんだから寝てなさいって言ったでしょ」
「一眠りしたら完全復活だ! それに、隣に住んでるんだから、朝の挨拶くらい一番にしたいだろ?」
「……もう、調子いいんだから。そんなことに魔力を使わないでよ、このお調子者王子」
リネットは頬を赤らめながら、少し乱れたルカの寝癖を「しょうがないわね」と笑いながら手で直してあげた。
その様子を、二階の窓から「やはり、待てができない犬でしたか」と冷めた目で見守るセバスの存在に、二人はまだ気づいていない。
「おどかせてしまったお詫びに、今日は僕が君を朝食に招待する!」
ルカは自信満々に胸を張り、リネットの手を引いて隣の自宅(兼、執務所)へと招き入れた。
「ええっ? ルカが料理? 大丈夫なの、キッチンが爆発したりしてない?」
「失礼だな! ちゃんとセバスと、城の料理長から特訓を受けてきたんだ。驚くぞ」
リネットが半信半疑で足を踏み入れると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
香ばしく焼けたパンの匂い、食欲をそそるハーブの香り、そしてテーブルに並べられた彩り豊かな料理の数々。
「これ、本当にルカが作ったの……?」
「ああ。火加減が難しくて最初は苦労したけど、魔力調整を応用したら、これ以上ないほど均一に火を通せることに気づいたんだ」
ルカは事も無げに言うが、それは全属性の魔力を極限まで繊細にコントロールできる彼だからこそ成せる業だった。スープは冷めないように保温の魔力で最適な温度を保ち、オムレツは「神の加護」による直感か、完璧なタイミングでふわふわの状態に仕上げられている。
「さあ、冷めないうちに。リネットのために作ったんだ」
ルカに椅子を引かれ、リネットはそっとスプーンを口に運んだ。
その瞬間、リネットの瞳がぱあっと輝く。
「……おいしい! 城の料理かと思うくらい。ルカ、あんた……もしかして料理の才能まであったの?」
「へへ、リネットにそう言ってもらえるのが一番の報酬だよ。……実はさ、お花を育てる君を見ていて思ったんだ。手間をかけて、愛情を注いで何かを作るのって、魔法を使うよりずっと素敵なことだって」
リネットは、少しげっそりしながらも誇らしげなルカを見て、胸の奥が温かくなるのを感じた。王子様なのに、自分のために必死に料理を覚えて、朝から待ち伏せして……。
「……ありがとう、ルカ。本当に、最高のお隣さんね」
二人が朝日の中で幸せそうに食卓を囲む中、壁の向こう側からセバスの呟きが聞こえてきた。
「……やれやれ。魔力調整を調理に使うなど、魔導師団が聞けば卒倒するでしょうが……まあ、合格点といったところですかね。私の教育の成果でしょう」
セバスは一人、自分の淹れたコーヒーを飲みながら、主人の予想以上の「才能開花」に満足げに目を細めていた。
ルカはそれを見た瞬間、まるで獲物を見つけた狩人のような……いや、散歩を待つ忠犬のような素早さでペンを置いた。
「よし、起きたな!」
まだ公務の書類は数枚残っていたが、そんなものは後回しだ。ルカは音を立てないように素早く身支度を整えると、裏口からこっそりと外へ出た。
早朝の空気はピリッと冷たく、肺の奥まで清めてくれるようだ。ルカはリネットの店の正面、彼女がいつも朝一番に開ける扉のすぐ脇にある、大きな鉢植えの影に身を潜めた。
(ふふ……驚くぞ。あいつ、「まだ寝てると思ったのに!」って言うに決まってる)
全属性対応の魔力を無駄に使い、自身の気配を極限まで薄める隠密魔法を発動。神の加護を受けた耳が、店の中からリネットの軽い足音と、エプロンを締める衣擦れの音を拾う。
ガチャリ
鍵が開く音がして、扉がゆっくりと開かれた。
「ふあぁ……。今日はいい天気。……さて、お花の様子は……」
寝ぼけ眼をこすりながら、リネットが一歩外へ踏み出す、その瞬間!
「おはよう、リネット! 朝の光より早く会いに来たぞ!」
ルカが影からバッと飛び出した。
「きゃあああっ!? ……って、もう! ルカ!!」
リネットは心臓を押さえて飛び上がった。驚きで完全に目が覚めた彼女は、目の前で誇らしげに胸を張るルカを、呆れたような、でもどこか嬉しそうな瞳で見上げた。
「……バカじゃないの!? 心臓止まるかと思ったわよ。っていうか、いつからそこにいたの? あんた、げっそりしてたんだから寝てなさいって言ったでしょ」
「一眠りしたら完全復活だ! それに、隣に住んでるんだから、朝の挨拶くらい一番にしたいだろ?」
「……もう、調子いいんだから。そんなことに魔力を使わないでよ、このお調子者王子」
リネットは頬を赤らめながら、少し乱れたルカの寝癖を「しょうがないわね」と笑いながら手で直してあげた。
その様子を、二階の窓から「やはり、待てができない犬でしたか」と冷めた目で見守るセバスの存在に、二人はまだ気づいていない。
「おどかせてしまったお詫びに、今日は僕が君を朝食に招待する!」
ルカは自信満々に胸を張り、リネットの手を引いて隣の自宅(兼、執務所)へと招き入れた。
「ええっ? ルカが料理? 大丈夫なの、キッチンが爆発したりしてない?」
「失礼だな! ちゃんとセバスと、城の料理長から特訓を受けてきたんだ。驚くぞ」
リネットが半信半疑で足を踏み入れると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
香ばしく焼けたパンの匂い、食欲をそそるハーブの香り、そしてテーブルに並べられた彩り豊かな料理の数々。
「これ、本当にルカが作ったの……?」
「ああ。火加減が難しくて最初は苦労したけど、魔力調整を応用したら、これ以上ないほど均一に火を通せることに気づいたんだ」
ルカは事も無げに言うが、それは全属性の魔力を極限まで繊細にコントロールできる彼だからこそ成せる業だった。スープは冷めないように保温の魔力で最適な温度を保ち、オムレツは「神の加護」による直感か、完璧なタイミングでふわふわの状態に仕上げられている。
「さあ、冷めないうちに。リネットのために作ったんだ」
ルカに椅子を引かれ、リネットはそっとスプーンを口に運んだ。
その瞬間、リネットの瞳がぱあっと輝く。
「……おいしい! 城の料理かと思うくらい。ルカ、あんた……もしかして料理の才能まであったの?」
「へへ、リネットにそう言ってもらえるのが一番の報酬だよ。……実はさ、お花を育てる君を見ていて思ったんだ。手間をかけて、愛情を注いで何かを作るのって、魔法を使うよりずっと素敵なことだって」
リネットは、少しげっそりしながらも誇らしげなルカを見て、胸の奥が温かくなるのを感じた。王子様なのに、自分のために必死に料理を覚えて、朝から待ち伏せして……。
「……ありがとう、ルカ。本当に、最高のお隣さんね」
二人が朝日の中で幸せそうに食卓を囲む中、壁の向こう側からセバスの呟きが聞こえてきた。
「……やれやれ。魔力調整を調理に使うなど、魔導師団が聞けば卒倒するでしょうが……まあ、合格点といったところですかね。私の教育の成果でしょう」
セバスは一人、自分の淹れたコーヒーを飲みながら、主人の予想以上の「才能開花」に満足げに目を細めていた。
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