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第二章 傾国の宴 腹黒王女編
九十一日目~百三十日目のサイドストーリー
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【クルート村の村長兼職人視点:九十一日目】
わし等は非常に困っていた。
と言うのも、このクルート村ができた頃からの付き合いがあったオーク達が、ここ最近、わし等に乱暴を働くようになったからだ。
わし等の村は大森林の精霊に祝福された木を材料に、楽器などを製造する職人が住民の大半を占めている。クルート村がそもそも職人が集まって作った村なのだから当然なのだが、その為、木材の確保は重要事項である。
だが、大森林から祝福された木を伐採するにはやや奥に向かう必要があり、その道程にはモンスターといった危険が存在する。
わし等でもゴブリン程度なら何とかなる。多少知恵が回る個体が居れば厄介だが、人数と武器を揃えれば退治する事は十分可能だ。
しかし戦闘に関連する【職業】を持たぬわし等にはそれ以上に危険なモンスターが跋扈する大森林で安全に伐採する事は、非常に難しい。出来ない事も無いだろうが、運が悪ければ凶悪なモンスターに遭遇して全滅してしまう可能性は高い。
この問題が解決しなかったらそもそも村が成り立たなかったのだが、幸いと言うべきか、木材を求めた職人の集まりでしかなかった十年前のある日、知恵の回るオークと交流する事が出来た。
オークという種族は本来、性欲と食欲を優先する愚鈍なモンスターだ。
でっぷりと太った腹、豚の頭、強靭すぎる精力、道具を扱う程度の知能がギリギリあるだけの、亜人種の中でもかなり獣に近い生物であり、本来なら即座に討伐するべき対象でもある。
だが交流した群れにはリーダーやメイジ、といった普通よりも知恵のある個体がちらほらと居た事によって統率されていた。
そして群れのトップであり人間と遜色無い知能を誇るオークリーダーが、女の奴隷や道具を要求する代わりにわし等は襲わないし、むしろ伐採時の護衛をする、と言い出した時には驚いたものだ。
最初は専属の護衛を雇い続ける費用が無かった為に仕方なく雇ったのだが、オーク達は思いの外扱い易く、気がつけば今になるまで関係は続いていた。
オーク種の大半はモンスターだが、わし等は次第にオーク達を【大勢に害なすモノ】ではなく、どこか親しき隣人のように思えていた。
なのに、今になって村はそのオーク達に襲われた。
襲撃は顧客貴族の好意によって設置されていた人造魔法生物【守人】と職人の有志によって何とか撃退できたが、しかし被害は甚大だ。程度の差はあれど怪我人は多く、村を覆う柵の一部は壊され、最低限もしもの時に喰えればと思って続けていた畑は荒らされた。
そして最悪な事に、女の弟子が数名攫われている。女弟子達がどうなるかなど、変わってしまった――否、本来の姿に戻ってしまったオーク達を思えば、簡単に想像できてしまう。
本能のままに、欲望を満たすのだろう。
それを考えればそれだけで怒りは燃え上がり、師匠として弟子を守ってやれなかった悔しさで身が捩れそうだ。
だが、助けるにはわし等の力は余りにも足りなさ過ぎた。村の外に出ては、遠からず全滅してしまうだろう。だからあいつ等を切り捨てて、村の未来を考えなくてはならなかった。
村の脅威を排除する為にギルドへオーク退治の依頼を出す、そう村で意見が決まりかけていた頃だろうか。
“アレ”がやって来たのだ。
歪な馬車のような何かに乗った、肌に面妖な刺青を施した大鬼。
ただ対峙するだけで沸き立つ怖気。見られただけで鳥肌が立ち、冷や汗が溢れ出る。
脳筋で凶暴なオーガに似つかわしくない、知性ある瞳。
人間の女や男女の鬼人を引き連れた姿、銀色の左腕という特異性。
戦闘経験の無いわしですら、ただ本能だけで刺青オーガの危険性を感じ取れた。
こんな時に、なぜこんな化物が、と思わなかったといえば嘘ではない。
しかもオーク達のように、報酬を支払うのならわし等を守ってやると言ってきた。
当然、疑心を抱いた。そしてより強く恐れた。
オークならばまだ【守人】によって撃退は出来る。外から冒険者を雇う事で殲滅する事も可能だろう。だが、刺青オーガに襲われれば、とてもではないがわし等は殺される。冒険者を何十人何百人雇ったとしても、わし等は生き残れるはずがない。そして、そんなオーガに逆らえるはずもなかった。
もし報酬がわし等を奴隷とする事、だという理不尽極まりないモノでも呑むしかないではないか。
決まり切った選択肢の提示に、憤りを覚えないはずがない。
と最初はそう思っていた訳だが、報酬は拍子抜けするほど些細なモノであった事と、オーガと共にやって来た赤い短髪の女達に説得されたので契約を結んだ。
そうする事が正しいとは思っていたが、不安はあった。
しかし昼頃、ホブゴブリン・メイジとゴブリンの集団が攫われてしまった女弟子達を保護して村にやってきた。
弟子達は既に暴行された後だったが、それでも短期間だったのは不幸中の幸いだと言える。
オークに攫われてしまえばその殆どは行為に耐えきれずに身体と精神を壊し、子を産むだけの母体として生きて死ぬのだから。
こうして助けられた事だけでも、今回の判断は正解だったのだろう。
まあ、それでも色々と不安はあるが、この契約で何とかこれからも木材の確保ができそうなのでホッと安心しておこう。
ああ、しかし、今後どうなるか不安で腹痛がしそうだ。
今は短期契約でお試し中だが、さてどうなる事だろうか。
≪後日≫
……あ、どうもホブ鉄さん。今日もいい天気ですね。
……ああ、いえいえ、最近ちょっと胃が痛いんですよ。
……え? 薬、も扱っていると? ああ、なら丁度いい。良く効く胃薬はありませんかな?
……おお、かなり安いですね。しかも良く効く。いやぁ、流石はパラベラムですな。頼りになりますよ。
・傭兵団製良く効く胃薬の値段=銅貨五枚(五百円)
・傭兵団の信用度=プライスレス
【熱鬼くん視点:九十三日目】
今日俺達が進んでいる崖沿いの山道には、“四翼大鷲”っていう周辺で最も強いモンスターが生息しているって話だ。
コイツとは俺が血気盛んだった頃、戦場で出会ったクソッたれ野郎――帝国の【覇狼英雄】って奴だったか。とにかく狼を模した装備と配下を率いていやがった――に倒されて、捕まっちまって、戦闘奴隷になる少し前、場所は違うが力試しで戦った事がある。
だから知ってるんだが、俺が戦った事のある飛行タイプのモンスターの中でもちょいと厄介な部類になるモンスターだ。
俺すら超えるほどデッカイ身体だってのに、名称通りに四つある翼を使った普通ではできないような挙動で自由自在に空を飛ぶ。それだけで面倒だってのに、獲物の死角から音も無く高速で迫り、強い麻痺毒を分泌する鉤爪で獲物をゆっくり弱らす狩り方がまた嫌らしい野郎なんだよなぁ。
まあ、戦い方が鬱陶しいだけで、慣れちまえば殺すのは特に問題無かったんだけどな。今よりもかなり弱かったあの時でも、全治三日程度の怪我を負うだけで殺せたし。
今ならもっと楽に殺せる相手だろうな。
それで此処には、そんなファレーズエーグルを統べるボス級モンスターがいるらしい。
しかもただのボス級じゃねぇ。数は少ないがその分強力な【加護持ち】ってな話だ。
【加護】、俺でも持ってねーモンを持つファレーズエーグルか。
きっと今の俺でも正面から戦えば大怪我を覚悟しねぇといけねぇ、ってなぐらいには強いだろう。
それに知恵が回るから、あいつ等が攻撃してくる際にカウンターとかでこつこつダメージを積み重ねていっても、ヤバいと思ったらあっという間に空に逃げちまって、仕留められねぇ可能性もあるな。
こいつ等の一番厄介な特徴は、知恵が回るところだろうな、うん。
やっぱ飛べるってのは、色々とずりぃーよなぁ。地上に居るしか無い身分としちゃ、羨ましいぜ。
そうだな、こいつ等なら流石に俺等を叩き伏せたオガ朗でも、早々簡単には……アレぇ?
えー、と。コイツ指先から、糸? を出して、完全に死角だった場所から最高速度で迫ったファレーズエーグルを捕まえちまったんだが。ええ、なんで糸? を出せるんだ? てかなんで察知できてんだよ。岩陰で完全に死角だったし、こいつ等気配隠すの上手いんだぞ、おい。
なんて俺等が思ってるのに、さくさくと十八羽捕まえ、喰っちまった。
えー、としか。もうえー、としか言えんわな。
もう少し苦戦しろよ、いやマジで。飛べるんだぜ、こいつ等。速いんだぜ、こいつ等。知恵が回ってデカいんだぜ、こいつ等。
そりゃ地上戦なら俺でもサクッと殺せるけどよ、気配を隠して死角から高速で迫ってくるからコイツ等ちょいと手強いんだぜ? なのに、なんでそんなに何でもないようにパッと殺してるんだよ。
いやもう、ちょっと待ってくれよ。
っと、道を進んでいたらボスが出やがった。
五羽のファレーズエーグルを率いた、翡翠の羽毛を持つ亜種だ。普通よりも二倍はデカイ。威圧感も圧倒的だ。
コイツなら流石にオガ朗でも苦戦するに違いない。種族と見た目からして【風の神】や【疾風の亜神】とかの加護を授かっているだろうから、ほぼ間違いなく風を使った遠距離攻撃を使ってくる。
そうなると、飛べないオガ朗は……えーと、オガ朗の背中から翼が生えた? いや、翼じゃねぇか。どっちかってぇーと、虫の翅に近い。
いやどっちでもいいけど。いややっぱりよくないけど。
なんでオーガにそんな器官ができんだよ。意味わかんねぇーよ。オガ朗に関しては色々と意味不明な出来事あったけどさ、これは異常過ぎんだろ、あまりにも。
幾ら凄いっつってもよ、種族はオーガだぜ? 普通なら鬼人である俺達よりも二つは格下の存在だぜ? なんでそんなのがこんな事できんだよ。もう意味わかんねぇよ。
って現実逃避してたら何気に空中戦白熱してッし、どうすりゃいいんだ。
最終的には俺と同じような顔で呆けている風鬼と幻鬼と顔を見合わせ、ただ戦いを見つめるしかできなかった。
……決着がついた。
かなりの時間空中で激戦を繰り広げていたが、しかし次第にオガ朗が押され、一瞬の隙を好機と見たボスが最大の攻撃を繰り出して――本気を出したオガ朗によって呆気なく地に叩きつけられている。
直前まではオガ朗が負けそうになっていたのだが、気がつけば一発逆転。
もうどんな反応をすればいいのかと。
ああ、もういいや。これからは俺の精神の平穏の為に、深く考える事は止めるべきだろう、ってのだけは分かった。
鬼は強い者を尊ぶ。そしてオガ朗は間違いなく強い。ならば尊ぶべき存在だ。
どんなに常識外れだとしても、尊ぶべき存在なのだ。実際凄いしな。
うん、それでいいや、もう。
・熱鬼は深く考える事を止めた。
・熱鬼はオガ朗に対しての忠誠度を飛躍的に上げた。
・熱鬼は状態異常【常識不在】を発症した。
【少年騎士視点:九十九日目】
私の主――ルービリア姫が、私達護衛が僅かに眼を離した隙に居なくなっていたのは、最初はいつもの悪戯だと思っていました。
何故なら、普段から姫はこういった悪戯をよくしていたからです。時によってはもっと酷い時もあるくらいです。
ですが私達の下に身代金を要求する手紙が届いた時、今回は悪戯ではなく、暴漢共に誘拐されたのだと知りました。あの時は流石の私も血の気が失せたものです。
姫の力ならばそう簡単に捕まる事はないだろう、などと気を抜き過ぎていたのでしょうか。愚かな私を殴り殺したくなったものです。
それで事態が変わるのならば躊躇なくしたのでしょうが、そうはならないので一刻でも早く姫の御身を救い出す為に駆けずり回ったのが昨日の事。
昨日はとりあえず身代金を持って暴漢共が指定した場所に行って金を渡しましたが、姫は居らず、更なる金品を要求される、といった顛末になりました。
それには流石に私も怒り、とりあえず金を持って帰る一人を見逃し、残り五人を討ち取って情報を吐かせようと思い、剣を抜きました。
ですが私は不甲斐ない事に、最初は勝っていたものの意外と技量の高かった暴漢共に耐えられ、最終的には数の差で敗北しかけたのです。
二、三人が捨て身で私の身体に組みついて動きを封じ、倒れた私の上に乗った下郎は下卑た笑みを浮かべ、その手には太いナイフが握られていました。
あの時は没落貴族である私を側近に取り立てていただいた御恩も返せず、こんな薄汚い裏路地で果てるかと思い、何とかしようともがきました。
しかし拘束を解く事は叶わず、私が殺されそうになったその時、とある御仁に助けられたのです。
その縁で今日、私はここに居ます。
周囲は闇で染まり、空にはうっすらと星が輝いています。夜だから気温は低く、身体が震えてしまいそうですが出来るだけ音を立て無いように気を使いながら行動中だったりします。
隠密行動中の私の隣には、私を助けてくれた黒衣の人物から渡された名鉄なるマジックアイテムを介して接触し、姫の救出の為に雇った傭兵の団員がいます。
王城でも滅多に見ないような美貌の持ち主である半吸血鬼の麗人。
高度な幻術を呼吸するが如く自在に操る幻想鬼の男性。
種族的には前者二名よりも劣るはずなのに感じる威圧感が半端ではない大鬼の雄。
普通なら幻想鬼が三名の中ならリーダーなのでしょうが、この三名の中では幻想鬼が立場が一番弱く、オーガが一番強いそうです。
発する威圧感からして、それは納得できるものでした。
などと言うのはともかく、暴漢――ヒト攫いを主な活動とする組織――達のねぐらは、どうもオーガが既に調べていたらしく、こうして夜闇に紛れて潜入しているという訳です。
それで救出作戦ですが、滞りなく終わり、姫は無事救出できました。
心底よかった、と思います。
姫は拘束こそされていましたが暴行されている様子も無く、攫われたというのに堂々と眠っていました。
寝顔を見ながら、もっと自重して欲しいと思っても仕方ないのではないでしょうか。
しかし、それにしても、オーガの戦闘能力が予想以上です。
無駄の無い洗練された動きは敵が反応する間を与えず、仮に反応できても全てを粉砕するような圧倒的攻撃力の前では無力でしょう。
短時間で暴漢共を殲滅できたのも、無駄に時間を長引かせなかったのも、圧倒的な強さを誇ったオーガがいたからこそですね。勿論他の二鬼の力も要因ではありますが。
――これは、姫の計画に使えるのではないでしょうか。
そうですね、きっと強力な戦力になってくれるに違いありません。
ならば一刻も早く今後に続く依頼をし……あ、あれ? なんだか、視界が、ぐるぐる、回る……
ね、眠……い。なぜ、オーガ達が、苦笑、をして……ああ、意識が……途切れ――――暗転。
・幻鬼くんによる催眠術が少年騎士に施されました。
・少年騎士は催眠によって誘拐は全て姫の悪戯、そもそも誘拐事件とかない。貴族の裏事情などさらさらないよ、と他の護衛に説明するようになりました。
・この日見た秘密の書類に関しての記憶は封印されました。
【クマ次郎視点:百三日目】
クマー。
ボスの為にご飯を狩ってくるクマー。
初めての森でドキドキしたクマー。
始めて見る獲物が多かったクマー。
赤い蜥蜴とかヌメッとした馬を持って帰ったクマー。
そしたらボスが褒めてくれたのだクマー。
クロと一緒にもっと狩って、もっともっと褒めてもらうのだクマー。
今日は頑張ったのだクマー。
沢山褒めてもらえたのだクマー。
美味しいモノで腹いっぱいなのだクマー。
眠くなったので骨の家で寝るのだクマー。
寝てると皆引っ付いてくるから、温かいのだクマー。
クマー。
・クマ次郎はレベルを上げた。
・クマ次郎はクロ三郎との連携がより上手くなった。
・クマ次郎は順調に強く大きくなっている。
【苦労している第四グループリーダーなホブ凛視点:百十一日目】
あかーん。もうあかーん。
なんやの、なんやの。
うちらのグループ、めっちゃ気まずいんやけど。なんでオガ朗兄はうちにこんなグループのリーダーとか任せたんよ。
虐めや、これ虐めや。
もちょいと簡単な組み合わせにしてもえーんとちゃうの?
うちらのグループは、ちょいと早ようランクアップした同期で同性のオーガが二鬼、ホブゴブリン・メイジのうちが一鬼、虎頭人体の虎人が二体、プライド高めな雷竜人が二名、奴隷やけど便利やから連れてる人間が三人、って組み合わせなんやけどな。
気まずいねん。めっちゃ気まずい。
オガ朗兄の鶴の一声でうちがリーダーやってんけどな、ぶっちゃけうちってこの中じゃ弱いねん。
下から数えた方が早いんよ。やのにリーダーやから、姉妹のオーガはともかくな、強さを重んじとるワータイガーの兄ちゃんとか、雷竜人の爺ちゃん姉ちゃんとか、不服そうにしとんねん。
なんで従わなきゃなんねーの、自分よりも弱いのに、って雰囲気纏ってんよな。
何日か一緒やけど、なかなか仲良うできとらんのよ。
あー気まずいねん、もう胃に穴が開きそうや。
人間は黙っとるから気にせんでもええかもしれんけど、こう、背後からヒシヒシと何かを訴えるような視線が突き刺さるっていうんかな、一時も落ち着かんでな。
あー、ほんま、どうにかならんかなー。そか、うちがどうにかせんといかんのやろか。
あかーん。もううち色々と折れそうやわ。
≪後日≫
……ほら、キリキリ動かんかい! 遅いッ、もう一回さっきの動きや。
……この■■■野郎ッ! お前は■■■で■■■な■■■にも劣る■■■やな。
……■■■■で■■■■から■■■■やけん、■■■■じゃけー■■■■■■■■■■■■や。
……■■■■、■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■、■■■■■■■■■■■■。
・ホブ凛はストレスが許容量を突破した為ハッチャけた。
・ホブ凛はグループ内の不和を罵声と暴力と権力(イヤーカフスの能力も使用)でねじ伏せた。
・ホブ凛は【ハードマン鬼軍曹】の資質に目覚めた。
・ホブ凛は部下育成・調教能力が大きく向上した。
・ホブ凛は自分以外のメンバーの団結力を飛躍的に上昇させた。
※■は自主規制的なものだと思ってください。
【復讐者視点:百十六日目】
ようやく、ようやくだ。ようやくこの日がやってきた。
思い返せば、【陽光の神の加護】を得た事で運命が一変したあの日から、俺は彼女を、アイナを妻に迎える為に努力し続ける日々を過ごしてきた。
自由な結婚が許されなくなったからこそ、アイナを心の支えに努力してきたのだ。
王都にある優れた軍人を育成する学園で、多くの貴族に嫉妬され蔑まれ虐げられた時も。
下心だけで近づいてくる令嬢が、べたべたと気持ち悪く接触してきた時も。
少しでも戦果を挙げる為に、戦場で全身を敵の血で濡らした時も。
泣き叫びながら向かってくる少年兵の首を、切り落としたあの時も。
アイナが居るから乗り越えられた。
アイナがこの世界で生きていてくれるからこそ戦えた。負けなかった。
嫉妬に捕らわれた貴族には、それを寄せ付けない力を見せつけた。
気持ちの悪い令嬢には、嘘で塗り固めた表情と言葉で対処した。
戦場に立てば感覚が麻痺して、ただ敵を殺す事だけに集中した。
眼の前で命乞いされても、何も思わず殺せるようになった。
アイナだけが俺を支える柱だった。
俺の心はアイナという存在によって守られていた。
そうだ、あの日から俺の周りには怖いモノが多くなりすぎた。
ただの農民として生まれ、生きていた俺が、生きていくには国の中心は余りに息苦しかった。
村では考えられない事が、王都では普通だった。嘘を嘘で固めたような気持ち悪い空気が、王都には確かにあった。
だから心の底から安心できるアイナを手に入れる為に、恋人であるアイナを王都に迎える為に、俺は戦い続けていたのだ。
そしてようやく功績が認められ、褒美として王に結婚を認めてもらえた。
俺はアイナを妻に迎える権利を得たのだ。
とはいえ即座に結婚という訳にも行かず、流石に手続きや準備などで手間取ったので、今日迎えに行っている訳だ。
だから俺は少しでも速く、と逸る気持ちを抑える事もできず、軍馬に乗って野を駆けている。
途中で炎を操る“炎狐狼”の群れや、猪の頭部を持つ熊“荒猪熊”などに遭遇したが、一閃で四肢と首を刎ねるだけで死体は放置していく。
死体はモンスター達によって骨も残らないと思うが、仮にアンデッドになったとしても、四肢と首が無いのなら脅威にはなり難いだろう。
モンスターなど立ちふさがる脅威を排除して、俺は俺が生まれた村に一時でも早く到着する為に急ぎ。
そして村に到達する寸前、嫌な臭いを嗅いだ。
それは嗅ぎ慣れた血の臭いだった。
何故血の臭いが、と思うと同時に嫌な予感がした。
そしてその予感は当たっていた。
村に入ると、既に見慣れてしまった、しかし心の底から震えるような凄惨な光景が広がっていたからだ。
地面に転がっている半分だけの頭部は、狩人のアジルのモノだった。明るい性格で周囲をよく盛り上げていた中年の男だが、今は苦悶の表情を浮かべ、内臓の海に沈んでいる。恨めしそうに見開かれた眼からは血の涙が零れていた。
上半身だけの状態で抱き合い、死んでいる熟年夫婦、ドッチとブーア。日頃からよくケンカしている二人だったが、本当に愛し合っていたのだと死体を見れば理解できる。唯一穏やかな表情で死んでいる事だけが救いだろうか。
まだ十歳になったばかりの少女、エイラは苦痛と絶望の感情で固まった顔と、皮膚や僧帽筋などによってギリギリ千切れていなかった傷だらけの右腕しか残っていなかった。そしてエイラの小さな手が自分よりも小さい子供の手を握り締めている事から、死ぬ直前まで弟のエグルと一緒に逃げていたかもしれない。だが握られた手は肘の部分までしか残っていないので、エグルのものかは断定しかねた。
村に一件だけある薬師の家の屋根に、骨盤から下が消失して腸が広がっている女性、シャーレイがぶら下がっている。去年俺の三つ下の弟分であるムージアと結婚したばかりで、身籠ったという報告があったのに、憎悪の感情を浮かべながら死んでいる。死体の下にある人間の様な肉塊は、もしかしたら二人の子供なのかもしれない。
他にも隣人が、知人が、親戚が惨たらしい有様で死に絶えていた。
だが、まだ誰か分かる程度の損傷ならば良い方だろう。大半は原型すら止めていないのだ。
誰の物かも分からない臓物や肉片が血の海の中に漂い、まるで縄張りでも主張するかのように広範囲にばら撒かれている。
そして俺が感じた縄張りの主張は、事実その通りなのだろう。
凶暴で好奇心旺盛な高レベルモンスターは、時にこのような惨劇を造りだす。そしてその場合、生存者はほぼ居ない。
住民の悉くが殺される。
――――ッ!!
俺は村中に轟くほどの大声でアイナを呼んだ。
今日迎えに行くと予め手紙を出し、返事も貰っているので、間違いなくアイナはここにいるはずなのだ。
もし、もしもアイナが死んでいたら。この手に持った臓器がアイナのモノだとしたら。足元に転がっている眼球がアイナのモノだとしたら。身体を濡らす血がアイナのモノだとしたら。
そう考えると、気が狂いそうになった。何も考えられなくなっていく。
――アイナ何処に居るんだッ!!
脳裏を埋め尽くすアイナの表情、優しい声、ふとした仕草、甘い匂い、柔らかい肌の感触、ホッと安心できる温かさ、長年積み重ねた思い出の数々。
叫びながら村の中心である開けた場所に出て、周囲を見回した。
小さな物音。そこを見れば、物陰で小さくなっているアイナが居た。恐怖からか身体は小刻みに震え、蒼褪めた顔には血化粧が施されている。綺麗だったに違いない服は血で赤く染まり、所々破損しているが、アイナが生きているのならばどうでもいい。
だが俺を見たアイナが安堵の笑みを浮かべ、俺の下へ駆け寄ってくる事に焦りを覚えた。
ここに来るまでに見た、村中にある地面の大穴。
それは村を襲ったモンスターが地中を移動するタイプである事の証明であり、その類は振動によって地上の標的を捕捉する。
先程から大声を上げていたのも、まだ此処にいるのなら標的を俺にする為だった。
なのにアイナが走ってやってくる。アイナが狙われる可能性が高くなる。
俺は勿論アイナに止まるように言ったが、恐怖からか、アイナはただ俺の方に向かってくる事を止めない。こうなれば少しでも早くアイナを連れて、遠くへと向かうしか選択肢は無かった。
運良く距離はそう離れていない。俺も走り出す。即座に埋まっていく距離。
そして伸ばした指と指が、僅かに触れた。安堵からお互いに自然と笑みを交わした。
――次の瞬間、地面から飛び出した何か。
眼の前で、アイナの下半身が鮮血と共に消失。俺の方へと弾かれるように飛んでくる上半身。抱きとめる。腕の中からコチラを見つめる生気の抜けた顔。光を失った瞳。上半身の断面から噴き出す赤。手の中に広がる臓器の重さと温かさ。失われていく熱。
何が起きたのか、分からなかった。
アイナは俺の腕の中に居る。下半身を無くした状態で。アイナの顔を見ても、抱きしめても、ピクリとも反応しない。
何が起きたのか、分からなかった。
――ォォォォォォ、ゥゥォオオオオオオアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!
何処か遠くの出来事のようにしか感じなかったが、俺の声帯から奇妙に歪んで重苦しい叫び声が上がった時、俺の精神の重大な部分が破綻したような気がした。
赤く染まった視界の中で、アイナが助けを求めているのが見えた気がした。
当然、そんなモノは幻影だ。アイナは俺の腕の中で、もう動く事は無い。
それが堪らなく辛くて、悲しくて、眼の前に居る百足型の魔蟲が、どうしても憎かった。殺し尽くしたいと、心の底から思うくらいに。
アイナを地面に寝かせ、俺は剣を抜いて獣のような咆哮を上げた。
アイナの仇であるコイツを、コロスタメニ。
・シグルドは愛する者を失った。
・シグルドは精神が負の感情で汚染された。
・シグルドは復讐者となりました。
・百足型魔蟲の撃退に成功した。
・復讐者は悲しみで暴走している。
・復讐者はやってきたオガ朗に攻撃を仕掛けた。
・暴走状態な復讐者はオガ朗によって即座に制圧された。
・復讐者は愛する者の仇を討つため、力を与えると囁いたオガ朗の配下に加わった。
・復讐者の詩篇はオガ朗の詩篇に組み込まれました。
【迷宮都市“グリフォス”のギルド長視点:百二十二日目】
あ、リリチアちゃん、おはよう、今日もくびれた腰のラインが綺麗だね。私のダブついた腹が滑稽に見えるよ、あっはっは。
え、セクハラ? いやだなー、上司と部下のスキンシップじゃないか。
ただのスキンシップだよ、スキンシップ。
だからさ、抜いたナイフは鞘に収めてね。君、一応私を守る役割もあるんだよ? そんなゴミを見るような眼で、毒に濡れたナイフを近づけないで欲しいなぁ。
レベル低いから、薄皮一枚切られただけで、コロッと死んじゃうよ、私が。
うん、そうそう、ありがとね。ちょっとセクハラだったかもしれないね。次からは気をつけるよ。
でも、そう眉間に皺を寄せてばっかりだと、せっかくの可愛い顔が勿体ないよ。リリチアちゃんは、もっと笑った方が可愛いよ。笑顔の方が、私も好きだしね。
……うん? 顔が真っ赤だね。疲れからくる風邪とかなら、今日は休んでもいいよ。
何せ、最近は例の≪ミノタウロス事件≫で慌ただしかったからね、リリチアちゃんには人一倍頑張ってらったから、その分ゆっくりと休むといい。
朝一番に上ってくるミノタウロスを殺す為に≪連結部隊≫を送ったから、遅くても夕方にはこの騒ぎも収まるだろうしね。
だから……え、疲れではない? 身体は全然大丈夫、だから仕事をする、と。ああ、そうかそうか。その方が助かるけど、無理だけはしないでね。
さて、じゃあ今日の予定は何かな?
あー、溜まった書類ですか、そうですよね。
んー。ざっとこんなもんですかね。
……うん? 私に会いたいってヒトがきた? まあ、仕事も区切りがいいし、いいよ、通して。
って事だったんだけど。
……あー、結構長い間ギルド長を務めてきた勘が、客人に対してコイツヤバいって言ってる。久しぶりだなぁ、この感覚。
種族が鬼人なのは間違いないだろうけど、【人物鑑定】でも詳細が全く分からないか。
相当高レベルなのか、もしくは高度な隠蔽能力があるか、それ以外の要因かはともかくとして。
さて、そんなロードさんの用事はなにかなっと。
ふむふむ、なるほどなるほど……今問題になっている、ダンジョンから上ってくる明らかに普通と違うミノタウロスが、目の前のアポ朗さんの仲間がランクアップした個体、っていう話が本当なら、色々と面倒だなぁ。
確かに、ランクアップした個体というのは線は考えてなかった。ランクアップする事自体珍しいからね、その可能性をすっかり失念していた私の失態だ。
反省せねば。
でも本当にそうなのだとしたら、なぜそんな事を知っているのか、という疑問がでるね。私も独自の情報網をもっているから、昨日までは確かにアポ朗さんはこの都市には居なかったのは確実です。
そこら辺は気になりますが、踏み込める訳もありませんし、アポ朗さんの話によればミノタウロスは今日の昼頃には外に出てくるらしいので、情報の真偽の確認の為、一緒に出迎えてもらう事になりました。
残った問題はレイドパーティとどうなったのか、だけど、何も無かったと思う事は、あり得ませんし。
はぁ……事後処理が面倒そうだなぁ。
という訳で、色々ありましたが昼頃。迷宮の出口にて出待ちです。
さて、見た事も無いミノタウロスというのは……これはこれは、報告書では知っていたけど、実物がこんなに大きくて、こんなに凄まじいとは、予想外だねぇ。ランクアップする個体だけはある、と考えてもいいのかもしれないけど、これはちょいと規格外でしょう。
あまりの威圧感に、もしもの時の護衛として連れてきた皆さんが気圧されて使いモノになりそうにありませんし。最も強いリリチアちゃんでさえ、まさか動けなくなってしまうとは、いやはやビックリだねぇ。
腕利き冒険者十八名で構成された≪連結部隊≫が呆気なく負けて、担がれているのにも、本当にビックリだ。
しかも、誰も死んでいないとはね。大怪我はしてるけど、骨折程度なら問題ないだろうし。
今日はいつになく刺激的な日になってしまいましたねぇ。
うーん、個人的にアポ朗さんとは友好的な関係を築きたいものですねぇ。
・ギルド長は名鉄を手に入れた。
・ギルド長は友好的な関係を築きたそうにしている。
【とある蟷螂型甲蟲人視点:百二十四日目】
視線の先では団長と、副団長が戦っている。
≪外部訓練場≫に造られた円形闘技場の中で繰り広げられている戦いは、あまりにも凄まじ過ぎて、その全てを理解する事は難しい。
複眼によって優れた動体視力を持つ私ですら、速過ぎて見えない攻撃の応酬。
訓練では見せなかった団長の本気の刺突によって、赤き軌跡が中空に何重にも重なっている。
あまりにも大きすぎる副団長の振り下ろす戦斧が、雷炎を纏って地を砕き、周囲を爆砕する。
巨躯からは信じられないほどの速度で駆ける事で、見る者には一瞬で移動したように感じさせた副団長は、速度のままに団長と衝突し、しかしなにがどうなったのか突撃した副団長の方が吹き飛んだ。
縦に何回も回転し、地面に墜落。それに追い打ちを仕掛ける団長の攻撃は、しかし何がどうなっているのか私達には理解できない。
その後も戦いは続いたが、終始団長優位の流れである。ただ危険だったので、最後まで観戦できたのはごく一部の幹部だけだったのは、悔やまれた。
私も最後まで見ていたかったが、ああなっては、とてもではないが無理だった。
攻撃の余波だけで見ていただけの私達が死にかけた、といえば、戦いの凄まじさが少しは伝わるかもしれない。
戦いを見て感じたのは、やはり団長の底が見えない、という事だろうか。
団長は体術だけで化物だ。堅牢な外骨格に包まれている私を素手で無力化するほどには化物だ。
そんな存在に武器を持たせればどうなるか。簡単に想像ができてしまう。
しかも団長が種族的能力や【加護】という事では説明できない、理解不能の力を行使すると、敵対するものは最早抗う事すら許されない。
まさか人間しか使えない【戦技】を事もなげに使うとは、もう、理解の外側だった。
ただ見ていて、私の下腹部が熱を持った、という事だけはハッキリしている。
強い子孫を残したいというのは、私達の本能だ。
・蟷螂は自主練を開始した。
・蟷螂は発情したかもしれない。
・蟷螂は交尾した雄を喰い殺すらしい。
・蟷螂は権妻要員ではない。
【ゴブ爺視点:百三十日目】
最近、身体のぉ動きがぁ、とんとぉー悪うなったぁ。
目も霞んでぇ、関節が痛んでぇ、性欲も失せてきたんだわぁ。
そろそろぉ、ワシも逝くかもしれんなぁ。
もう少しくれぇ、先を見てみてぇんやけど、何処まで見れるかいのぉ。
温泉に浸かってぇ、もうちょいは頑張らんとなぁ。
・ゴブ爺の寿命=■■日。
・ゴブ爺はフラグを立てた。
わし等は非常に困っていた。
と言うのも、このクルート村ができた頃からの付き合いがあったオーク達が、ここ最近、わし等に乱暴を働くようになったからだ。
わし等の村は大森林の精霊に祝福された木を材料に、楽器などを製造する職人が住民の大半を占めている。クルート村がそもそも職人が集まって作った村なのだから当然なのだが、その為、木材の確保は重要事項である。
だが、大森林から祝福された木を伐採するにはやや奥に向かう必要があり、その道程にはモンスターといった危険が存在する。
わし等でもゴブリン程度なら何とかなる。多少知恵が回る個体が居れば厄介だが、人数と武器を揃えれば退治する事は十分可能だ。
しかし戦闘に関連する【職業】を持たぬわし等にはそれ以上に危険なモンスターが跋扈する大森林で安全に伐採する事は、非常に難しい。出来ない事も無いだろうが、運が悪ければ凶悪なモンスターに遭遇して全滅してしまう可能性は高い。
この問題が解決しなかったらそもそも村が成り立たなかったのだが、幸いと言うべきか、木材を求めた職人の集まりでしかなかった十年前のある日、知恵の回るオークと交流する事が出来た。
オークという種族は本来、性欲と食欲を優先する愚鈍なモンスターだ。
でっぷりと太った腹、豚の頭、強靭すぎる精力、道具を扱う程度の知能がギリギリあるだけの、亜人種の中でもかなり獣に近い生物であり、本来なら即座に討伐するべき対象でもある。
だが交流した群れにはリーダーやメイジ、といった普通よりも知恵のある個体がちらほらと居た事によって統率されていた。
そして群れのトップであり人間と遜色無い知能を誇るオークリーダーが、女の奴隷や道具を要求する代わりにわし等は襲わないし、むしろ伐採時の護衛をする、と言い出した時には驚いたものだ。
最初は専属の護衛を雇い続ける費用が無かった為に仕方なく雇ったのだが、オーク達は思いの外扱い易く、気がつけば今になるまで関係は続いていた。
オーク種の大半はモンスターだが、わし等は次第にオーク達を【大勢に害なすモノ】ではなく、どこか親しき隣人のように思えていた。
なのに、今になって村はそのオーク達に襲われた。
襲撃は顧客貴族の好意によって設置されていた人造魔法生物【守人】と職人の有志によって何とか撃退できたが、しかし被害は甚大だ。程度の差はあれど怪我人は多く、村を覆う柵の一部は壊され、最低限もしもの時に喰えればと思って続けていた畑は荒らされた。
そして最悪な事に、女の弟子が数名攫われている。女弟子達がどうなるかなど、変わってしまった――否、本来の姿に戻ってしまったオーク達を思えば、簡単に想像できてしまう。
本能のままに、欲望を満たすのだろう。
それを考えればそれだけで怒りは燃え上がり、師匠として弟子を守ってやれなかった悔しさで身が捩れそうだ。
だが、助けるにはわし等の力は余りにも足りなさ過ぎた。村の外に出ては、遠からず全滅してしまうだろう。だからあいつ等を切り捨てて、村の未来を考えなくてはならなかった。
村の脅威を排除する為にギルドへオーク退治の依頼を出す、そう村で意見が決まりかけていた頃だろうか。
“アレ”がやって来たのだ。
歪な馬車のような何かに乗った、肌に面妖な刺青を施した大鬼。
ただ対峙するだけで沸き立つ怖気。見られただけで鳥肌が立ち、冷や汗が溢れ出る。
脳筋で凶暴なオーガに似つかわしくない、知性ある瞳。
人間の女や男女の鬼人を引き連れた姿、銀色の左腕という特異性。
戦闘経験の無いわしですら、ただ本能だけで刺青オーガの危険性を感じ取れた。
こんな時に、なぜこんな化物が、と思わなかったといえば嘘ではない。
しかもオーク達のように、報酬を支払うのならわし等を守ってやると言ってきた。
当然、疑心を抱いた。そしてより強く恐れた。
オークならばまだ【守人】によって撃退は出来る。外から冒険者を雇う事で殲滅する事も可能だろう。だが、刺青オーガに襲われれば、とてもではないがわし等は殺される。冒険者を何十人何百人雇ったとしても、わし等は生き残れるはずがない。そして、そんなオーガに逆らえるはずもなかった。
もし報酬がわし等を奴隷とする事、だという理不尽極まりないモノでも呑むしかないではないか。
決まり切った選択肢の提示に、憤りを覚えないはずがない。
と最初はそう思っていた訳だが、報酬は拍子抜けするほど些細なモノであった事と、オーガと共にやって来た赤い短髪の女達に説得されたので契約を結んだ。
そうする事が正しいとは思っていたが、不安はあった。
しかし昼頃、ホブゴブリン・メイジとゴブリンの集団が攫われてしまった女弟子達を保護して村にやってきた。
弟子達は既に暴行された後だったが、それでも短期間だったのは不幸中の幸いだと言える。
オークに攫われてしまえばその殆どは行為に耐えきれずに身体と精神を壊し、子を産むだけの母体として生きて死ぬのだから。
こうして助けられた事だけでも、今回の判断は正解だったのだろう。
まあ、それでも色々と不安はあるが、この契約で何とかこれからも木材の確保ができそうなのでホッと安心しておこう。
ああ、しかし、今後どうなるか不安で腹痛がしそうだ。
今は短期契約でお試し中だが、さてどうなる事だろうか。
≪後日≫
……あ、どうもホブ鉄さん。今日もいい天気ですね。
……ああ、いえいえ、最近ちょっと胃が痛いんですよ。
……え? 薬、も扱っていると? ああ、なら丁度いい。良く効く胃薬はありませんかな?
……おお、かなり安いですね。しかも良く効く。いやぁ、流石はパラベラムですな。頼りになりますよ。
・傭兵団製良く効く胃薬の値段=銅貨五枚(五百円)
・傭兵団の信用度=プライスレス
【熱鬼くん視点:九十三日目】
今日俺達が進んでいる崖沿いの山道には、“四翼大鷲”っていう周辺で最も強いモンスターが生息しているって話だ。
コイツとは俺が血気盛んだった頃、戦場で出会ったクソッたれ野郎――帝国の【覇狼英雄】って奴だったか。とにかく狼を模した装備と配下を率いていやがった――に倒されて、捕まっちまって、戦闘奴隷になる少し前、場所は違うが力試しで戦った事がある。
だから知ってるんだが、俺が戦った事のある飛行タイプのモンスターの中でもちょいと厄介な部類になるモンスターだ。
俺すら超えるほどデッカイ身体だってのに、名称通りに四つある翼を使った普通ではできないような挙動で自由自在に空を飛ぶ。それだけで面倒だってのに、獲物の死角から音も無く高速で迫り、強い麻痺毒を分泌する鉤爪で獲物をゆっくり弱らす狩り方がまた嫌らしい野郎なんだよなぁ。
まあ、戦い方が鬱陶しいだけで、慣れちまえば殺すのは特に問題無かったんだけどな。今よりもかなり弱かったあの時でも、全治三日程度の怪我を負うだけで殺せたし。
今ならもっと楽に殺せる相手だろうな。
それで此処には、そんなファレーズエーグルを統べるボス級モンスターがいるらしい。
しかもただのボス級じゃねぇ。数は少ないがその分強力な【加護持ち】ってな話だ。
【加護】、俺でも持ってねーモンを持つファレーズエーグルか。
きっと今の俺でも正面から戦えば大怪我を覚悟しねぇといけねぇ、ってなぐらいには強いだろう。
それに知恵が回るから、あいつ等が攻撃してくる際にカウンターとかでこつこつダメージを積み重ねていっても、ヤバいと思ったらあっという間に空に逃げちまって、仕留められねぇ可能性もあるな。
こいつ等の一番厄介な特徴は、知恵が回るところだろうな、うん。
やっぱ飛べるってのは、色々とずりぃーよなぁ。地上に居るしか無い身分としちゃ、羨ましいぜ。
そうだな、こいつ等なら流石に俺等を叩き伏せたオガ朗でも、早々簡単には……アレぇ?
えー、と。コイツ指先から、糸? を出して、完全に死角だった場所から最高速度で迫ったファレーズエーグルを捕まえちまったんだが。ええ、なんで糸? を出せるんだ? てかなんで察知できてんだよ。岩陰で完全に死角だったし、こいつ等気配隠すの上手いんだぞ、おい。
なんて俺等が思ってるのに、さくさくと十八羽捕まえ、喰っちまった。
えー、としか。もうえー、としか言えんわな。
もう少し苦戦しろよ、いやマジで。飛べるんだぜ、こいつ等。速いんだぜ、こいつ等。知恵が回ってデカいんだぜ、こいつ等。
そりゃ地上戦なら俺でもサクッと殺せるけどよ、気配を隠して死角から高速で迫ってくるからコイツ等ちょいと手強いんだぜ? なのに、なんでそんなに何でもないようにパッと殺してるんだよ。
いやもう、ちょっと待ってくれよ。
っと、道を進んでいたらボスが出やがった。
五羽のファレーズエーグルを率いた、翡翠の羽毛を持つ亜種だ。普通よりも二倍はデカイ。威圧感も圧倒的だ。
コイツなら流石にオガ朗でも苦戦するに違いない。種族と見た目からして【風の神】や【疾風の亜神】とかの加護を授かっているだろうから、ほぼ間違いなく風を使った遠距離攻撃を使ってくる。
そうなると、飛べないオガ朗は……えーと、オガ朗の背中から翼が生えた? いや、翼じゃねぇか。どっちかってぇーと、虫の翅に近い。
いやどっちでもいいけど。いややっぱりよくないけど。
なんでオーガにそんな器官ができんだよ。意味わかんねぇーよ。オガ朗に関しては色々と意味不明な出来事あったけどさ、これは異常過ぎんだろ、あまりにも。
幾ら凄いっつってもよ、種族はオーガだぜ? 普通なら鬼人である俺達よりも二つは格下の存在だぜ? なんでそんなのがこんな事できんだよ。もう意味わかんねぇよ。
って現実逃避してたら何気に空中戦白熱してッし、どうすりゃいいんだ。
最終的には俺と同じような顔で呆けている風鬼と幻鬼と顔を見合わせ、ただ戦いを見つめるしかできなかった。
……決着がついた。
かなりの時間空中で激戦を繰り広げていたが、しかし次第にオガ朗が押され、一瞬の隙を好機と見たボスが最大の攻撃を繰り出して――本気を出したオガ朗によって呆気なく地に叩きつけられている。
直前まではオガ朗が負けそうになっていたのだが、気がつけば一発逆転。
もうどんな反応をすればいいのかと。
ああ、もういいや。これからは俺の精神の平穏の為に、深く考える事は止めるべきだろう、ってのだけは分かった。
鬼は強い者を尊ぶ。そしてオガ朗は間違いなく強い。ならば尊ぶべき存在だ。
どんなに常識外れだとしても、尊ぶべき存在なのだ。実際凄いしな。
うん、それでいいや、もう。
・熱鬼は深く考える事を止めた。
・熱鬼はオガ朗に対しての忠誠度を飛躍的に上げた。
・熱鬼は状態異常【常識不在】を発症した。
【少年騎士視点:九十九日目】
私の主――ルービリア姫が、私達護衛が僅かに眼を離した隙に居なくなっていたのは、最初はいつもの悪戯だと思っていました。
何故なら、普段から姫はこういった悪戯をよくしていたからです。時によってはもっと酷い時もあるくらいです。
ですが私達の下に身代金を要求する手紙が届いた時、今回は悪戯ではなく、暴漢共に誘拐されたのだと知りました。あの時は流石の私も血の気が失せたものです。
姫の力ならばそう簡単に捕まる事はないだろう、などと気を抜き過ぎていたのでしょうか。愚かな私を殴り殺したくなったものです。
それで事態が変わるのならば躊躇なくしたのでしょうが、そうはならないので一刻でも早く姫の御身を救い出す為に駆けずり回ったのが昨日の事。
昨日はとりあえず身代金を持って暴漢共が指定した場所に行って金を渡しましたが、姫は居らず、更なる金品を要求される、といった顛末になりました。
それには流石に私も怒り、とりあえず金を持って帰る一人を見逃し、残り五人を討ち取って情報を吐かせようと思い、剣を抜きました。
ですが私は不甲斐ない事に、最初は勝っていたものの意外と技量の高かった暴漢共に耐えられ、最終的には数の差で敗北しかけたのです。
二、三人が捨て身で私の身体に組みついて動きを封じ、倒れた私の上に乗った下郎は下卑た笑みを浮かべ、その手には太いナイフが握られていました。
あの時は没落貴族である私を側近に取り立てていただいた御恩も返せず、こんな薄汚い裏路地で果てるかと思い、何とかしようともがきました。
しかし拘束を解く事は叶わず、私が殺されそうになったその時、とある御仁に助けられたのです。
その縁で今日、私はここに居ます。
周囲は闇で染まり、空にはうっすらと星が輝いています。夜だから気温は低く、身体が震えてしまいそうですが出来るだけ音を立て無いように気を使いながら行動中だったりします。
隠密行動中の私の隣には、私を助けてくれた黒衣の人物から渡された名鉄なるマジックアイテムを介して接触し、姫の救出の為に雇った傭兵の団員がいます。
王城でも滅多に見ないような美貌の持ち主である半吸血鬼の麗人。
高度な幻術を呼吸するが如く自在に操る幻想鬼の男性。
種族的には前者二名よりも劣るはずなのに感じる威圧感が半端ではない大鬼の雄。
普通なら幻想鬼が三名の中ならリーダーなのでしょうが、この三名の中では幻想鬼が立場が一番弱く、オーガが一番強いそうです。
発する威圧感からして、それは納得できるものでした。
などと言うのはともかく、暴漢――ヒト攫いを主な活動とする組織――達のねぐらは、どうもオーガが既に調べていたらしく、こうして夜闇に紛れて潜入しているという訳です。
それで救出作戦ですが、滞りなく終わり、姫は無事救出できました。
心底よかった、と思います。
姫は拘束こそされていましたが暴行されている様子も無く、攫われたというのに堂々と眠っていました。
寝顔を見ながら、もっと自重して欲しいと思っても仕方ないのではないでしょうか。
しかし、それにしても、オーガの戦闘能力が予想以上です。
無駄の無い洗練された動きは敵が反応する間を与えず、仮に反応できても全てを粉砕するような圧倒的攻撃力の前では無力でしょう。
短時間で暴漢共を殲滅できたのも、無駄に時間を長引かせなかったのも、圧倒的な強さを誇ったオーガがいたからこそですね。勿論他の二鬼の力も要因ではありますが。
――これは、姫の計画に使えるのではないでしょうか。
そうですね、きっと強力な戦力になってくれるに違いありません。
ならば一刻も早く今後に続く依頼をし……あ、あれ? なんだか、視界が、ぐるぐる、回る……
ね、眠……い。なぜ、オーガ達が、苦笑、をして……ああ、意識が……途切れ――――暗転。
・幻鬼くんによる催眠術が少年騎士に施されました。
・少年騎士は催眠によって誘拐は全て姫の悪戯、そもそも誘拐事件とかない。貴族の裏事情などさらさらないよ、と他の護衛に説明するようになりました。
・この日見た秘密の書類に関しての記憶は封印されました。
【クマ次郎視点:百三日目】
クマー。
ボスの為にご飯を狩ってくるクマー。
初めての森でドキドキしたクマー。
始めて見る獲物が多かったクマー。
赤い蜥蜴とかヌメッとした馬を持って帰ったクマー。
そしたらボスが褒めてくれたのだクマー。
クロと一緒にもっと狩って、もっともっと褒めてもらうのだクマー。
今日は頑張ったのだクマー。
沢山褒めてもらえたのだクマー。
美味しいモノで腹いっぱいなのだクマー。
眠くなったので骨の家で寝るのだクマー。
寝てると皆引っ付いてくるから、温かいのだクマー。
クマー。
・クマ次郎はレベルを上げた。
・クマ次郎はクロ三郎との連携がより上手くなった。
・クマ次郎は順調に強く大きくなっている。
【苦労している第四グループリーダーなホブ凛視点:百十一日目】
あかーん。もうあかーん。
なんやの、なんやの。
うちらのグループ、めっちゃ気まずいんやけど。なんでオガ朗兄はうちにこんなグループのリーダーとか任せたんよ。
虐めや、これ虐めや。
もちょいと簡単な組み合わせにしてもえーんとちゃうの?
うちらのグループは、ちょいと早ようランクアップした同期で同性のオーガが二鬼、ホブゴブリン・メイジのうちが一鬼、虎頭人体の虎人が二体、プライド高めな雷竜人が二名、奴隷やけど便利やから連れてる人間が三人、って組み合わせなんやけどな。
気まずいねん。めっちゃ気まずい。
オガ朗兄の鶴の一声でうちがリーダーやってんけどな、ぶっちゃけうちってこの中じゃ弱いねん。
下から数えた方が早いんよ。やのにリーダーやから、姉妹のオーガはともかくな、強さを重んじとるワータイガーの兄ちゃんとか、雷竜人の爺ちゃん姉ちゃんとか、不服そうにしとんねん。
なんで従わなきゃなんねーの、自分よりも弱いのに、って雰囲気纏ってんよな。
何日か一緒やけど、なかなか仲良うできとらんのよ。
あー気まずいねん、もう胃に穴が開きそうや。
人間は黙っとるから気にせんでもええかもしれんけど、こう、背後からヒシヒシと何かを訴えるような視線が突き刺さるっていうんかな、一時も落ち着かんでな。
あー、ほんま、どうにかならんかなー。そか、うちがどうにかせんといかんのやろか。
あかーん。もううち色々と折れそうやわ。
≪後日≫
……ほら、キリキリ動かんかい! 遅いッ、もう一回さっきの動きや。
……この■■■野郎ッ! お前は■■■で■■■な■■■にも劣る■■■やな。
……■■■■で■■■■から■■■■やけん、■■■■じゃけー■■■■■■■■■■■■や。
……■■■■、■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■、■■■■■■■■■■■■。
・ホブ凛はストレスが許容量を突破した為ハッチャけた。
・ホブ凛はグループ内の不和を罵声と暴力と権力(イヤーカフスの能力も使用)でねじ伏せた。
・ホブ凛は【ハードマン鬼軍曹】の資質に目覚めた。
・ホブ凛は部下育成・調教能力が大きく向上した。
・ホブ凛は自分以外のメンバーの団結力を飛躍的に上昇させた。
※■は自主規制的なものだと思ってください。
【復讐者視点:百十六日目】
ようやく、ようやくだ。ようやくこの日がやってきた。
思い返せば、【陽光の神の加護】を得た事で運命が一変したあの日から、俺は彼女を、アイナを妻に迎える為に努力し続ける日々を過ごしてきた。
自由な結婚が許されなくなったからこそ、アイナを心の支えに努力してきたのだ。
王都にある優れた軍人を育成する学園で、多くの貴族に嫉妬され蔑まれ虐げられた時も。
下心だけで近づいてくる令嬢が、べたべたと気持ち悪く接触してきた時も。
少しでも戦果を挙げる為に、戦場で全身を敵の血で濡らした時も。
泣き叫びながら向かってくる少年兵の首を、切り落としたあの時も。
アイナが居るから乗り越えられた。
アイナがこの世界で生きていてくれるからこそ戦えた。負けなかった。
嫉妬に捕らわれた貴族には、それを寄せ付けない力を見せつけた。
気持ちの悪い令嬢には、嘘で塗り固めた表情と言葉で対処した。
戦場に立てば感覚が麻痺して、ただ敵を殺す事だけに集中した。
眼の前で命乞いされても、何も思わず殺せるようになった。
アイナだけが俺を支える柱だった。
俺の心はアイナという存在によって守られていた。
そうだ、あの日から俺の周りには怖いモノが多くなりすぎた。
ただの農民として生まれ、生きていた俺が、生きていくには国の中心は余りに息苦しかった。
村では考えられない事が、王都では普通だった。嘘を嘘で固めたような気持ち悪い空気が、王都には確かにあった。
だから心の底から安心できるアイナを手に入れる為に、恋人であるアイナを王都に迎える為に、俺は戦い続けていたのだ。
そしてようやく功績が認められ、褒美として王に結婚を認めてもらえた。
俺はアイナを妻に迎える権利を得たのだ。
とはいえ即座に結婚という訳にも行かず、流石に手続きや準備などで手間取ったので、今日迎えに行っている訳だ。
だから俺は少しでも速く、と逸る気持ちを抑える事もできず、軍馬に乗って野を駆けている。
途中で炎を操る“炎狐狼”の群れや、猪の頭部を持つ熊“荒猪熊”などに遭遇したが、一閃で四肢と首を刎ねるだけで死体は放置していく。
死体はモンスター達によって骨も残らないと思うが、仮にアンデッドになったとしても、四肢と首が無いのなら脅威にはなり難いだろう。
モンスターなど立ちふさがる脅威を排除して、俺は俺が生まれた村に一時でも早く到着する為に急ぎ。
そして村に到達する寸前、嫌な臭いを嗅いだ。
それは嗅ぎ慣れた血の臭いだった。
何故血の臭いが、と思うと同時に嫌な予感がした。
そしてその予感は当たっていた。
村に入ると、既に見慣れてしまった、しかし心の底から震えるような凄惨な光景が広がっていたからだ。
地面に転がっている半分だけの頭部は、狩人のアジルのモノだった。明るい性格で周囲をよく盛り上げていた中年の男だが、今は苦悶の表情を浮かべ、内臓の海に沈んでいる。恨めしそうに見開かれた眼からは血の涙が零れていた。
上半身だけの状態で抱き合い、死んでいる熟年夫婦、ドッチとブーア。日頃からよくケンカしている二人だったが、本当に愛し合っていたのだと死体を見れば理解できる。唯一穏やかな表情で死んでいる事だけが救いだろうか。
まだ十歳になったばかりの少女、エイラは苦痛と絶望の感情で固まった顔と、皮膚や僧帽筋などによってギリギリ千切れていなかった傷だらけの右腕しか残っていなかった。そしてエイラの小さな手が自分よりも小さい子供の手を握り締めている事から、死ぬ直前まで弟のエグルと一緒に逃げていたかもしれない。だが握られた手は肘の部分までしか残っていないので、エグルのものかは断定しかねた。
村に一件だけある薬師の家の屋根に、骨盤から下が消失して腸が広がっている女性、シャーレイがぶら下がっている。去年俺の三つ下の弟分であるムージアと結婚したばかりで、身籠ったという報告があったのに、憎悪の感情を浮かべながら死んでいる。死体の下にある人間の様な肉塊は、もしかしたら二人の子供なのかもしれない。
他にも隣人が、知人が、親戚が惨たらしい有様で死に絶えていた。
だが、まだ誰か分かる程度の損傷ならば良い方だろう。大半は原型すら止めていないのだ。
誰の物かも分からない臓物や肉片が血の海の中に漂い、まるで縄張りでも主張するかのように広範囲にばら撒かれている。
そして俺が感じた縄張りの主張は、事実その通りなのだろう。
凶暴で好奇心旺盛な高レベルモンスターは、時にこのような惨劇を造りだす。そしてその場合、生存者はほぼ居ない。
住民の悉くが殺される。
――――ッ!!
俺は村中に轟くほどの大声でアイナを呼んだ。
今日迎えに行くと予め手紙を出し、返事も貰っているので、間違いなくアイナはここにいるはずなのだ。
もし、もしもアイナが死んでいたら。この手に持った臓器がアイナのモノだとしたら。足元に転がっている眼球がアイナのモノだとしたら。身体を濡らす血がアイナのモノだとしたら。
そう考えると、気が狂いそうになった。何も考えられなくなっていく。
――アイナ何処に居るんだッ!!
脳裏を埋め尽くすアイナの表情、優しい声、ふとした仕草、甘い匂い、柔らかい肌の感触、ホッと安心できる温かさ、長年積み重ねた思い出の数々。
叫びながら村の中心である開けた場所に出て、周囲を見回した。
小さな物音。そこを見れば、物陰で小さくなっているアイナが居た。恐怖からか身体は小刻みに震え、蒼褪めた顔には血化粧が施されている。綺麗だったに違いない服は血で赤く染まり、所々破損しているが、アイナが生きているのならばどうでもいい。
だが俺を見たアイナが安堵の笑みを浮かべ、俺の下へ駆け寄ってくる事に焦りを覚えた。
ここに来るまでに見た、村中にある地面の大穴。
それは村を襲ったモンスターが地中を移動するタイプである事の証明であり、その類は振動によって地上の標的を捕捉する。
先程から大声を上げていたのも、まだ此処にいるのなら標的を俺にする為だった。
なのにアイナが走ってやってくる。アイナが狙われる可能性が高くなる。
俺は勿論アイナに止まるように言ったが、恐怖からか、アイナはただ俺の方に向かってくる事を止めない。こうなれば少しでも早くアイナを連れて、遠くへと向かうしか選択肢は無かった。
運良く距離はそう離れていない。俺も走り出す。即座に埋まっていく距離。
そして伸ばした指と指が、僅かに触れた。安堵からお互いに自然と笑みを交わした。
――次の瞬間、地面から飛び出した何か。
眼の前で、アイナの下半身が鮮血と共に消失。俺の方へと弾かれるように飛んでくる上半身。抱きとめる。腕の中からコチラを見つめる生気の抜けた顔。光を失った瞳。上半身の断面から噴き出す赤。手の中に広がる臓器の重さと温かさ。失われていく熱。
何が起きたのか、分からなかった。
アイナは俺の腕の中に居る。下半身を無くした状態で。アイナの顔を見ても、抱きしめても、ピクリとも反応しない。
何が起きたのか、分からなかった。
――ォォォォォォ、ゥゥォオオオオオオアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!
何処か遠くの出来事のようにしか感じなかったが、俺の声帯から奇妙に歪んで重苦しい叫び声が上がった時、俺の精神の重大な部分が破綻したような気がした。
赤く染まった視界の中で、アイナが助けを求めているのが見えた気がした。
当然、そんなモノは幻影だ。アイナは俺の腕の中で、もう動く事は無い。
それが堪らなく辛くて、悲しくて、眼の前に居る百足型の魔蟲が、どうしても憎かった。殺し尽くしたいと、心の底から思うくらいに。
アイナを地面に寝かせ、俺は剣を抜いて獣のような咆哮を上げた。
アイナの仇であるコイツを、コロスタメニ。
・シグルドは愛する者を失った。
・シグルドは精神が負の感情で汚染された。
・シグルドは復讐者となりました。
・百足型魔蟲の撃退に成功した。
・復讐者は悲しみで暴走している。
・復讐者はやってきたオガ朗に攻撃を仕掛けた。
・暴走状態な復讐者はオガ朗によって即座に制圧された。
・復讐者は愛する者の仇を討つため、力を与えると囁いたオガ朗の配下に加わった。
・復讐者の詩篇はオガ朗の詩篇に組み込まれました。
【迷宮都市“グリフォス”のギルド長視点:百二十二日目】
あ、リリチアちゃん、おはよう、今日もくびれた腰のラインが綺麗だね。私のダブついた腹が滑稽に見えるよ、あっはっは。
え、セクハラ? いやだなー、上司と部下のスキンシップじゃないか。
ただのスキンシップだよ、スキンシップ。
だからさ、抜いたナイフは鞘に収めてね。君、一応私を守る役割もあるんだよ? そんなゴミを見るような眼で、毒に濡れたナイフを近づけないで欲しいなぁ。
レベル低いから、薄皮一枚切られただけで、コロッと死んじゃうよ、私が。
うん、そうそう、ありがとね。ちょっとセクハラだったかもしれないね。次からは気をつけるよ。
でも、そう眉間に皺を寄せてばっかりだと、せっかくの可愛い顔が勿体ないよ。リリチアちゃんは、もっと笑った方が可愛いよ。笑顔の方が、私も好きだしね。
……うん? 顔が真っ赤だね。疲れからくる風邪とかなら、今日は休んでもいいよ。
何せ、最近は例の≪ミノタウロス事件≫で慌ただしかったからね、リリチアちゃんには人一倍頑張ってらったから、その分ゆっくりと休むといい。
朝一番に上ってくるミノタウロスを殺す為に≪連結部隊≫を送ったから、遅くても夕方にはこの騒ぎも収まるだろうしね。
だから……え、疲れではない? 身体は全然大丈夫、だから仕事をする、と。ああ、そうかそうか。その方が助かるけど、無理だけはしないでね。
さて、じゃあ今日の予定は何かな?
あー、溜まった書類ですか、そうですよね。
んー。ざっとこんなもんですかね。
……うん? 私に会いたいってヒトがきた? まあ、仕事も区切りがいいし、いいよ、通して。
って事だったんだけど。
……あー、結構長い間ギルド長を務めてきた勘が、客人に対してコイツヤバいって言ってる。久しぶりだなぁ、この感覚。
種族が鬼人なのは間違いないだろうけど、【人物鑑定】でも詳細が全く分からないか。
相当高レベルなのか、もしくは高度な隠蔽能力があるか、それ以外の要因かはともかくとして。
さて、そんなロードさんの用事はなにかなっと。
ふむふむ、なるほどなるほど……今問題になっている、ダンジョンから上ってくる明らかに普通と違うミノタウロスが、目の前のアポ朗さんの仲間がランクアップした個体、っていう話が本当なら、色々と面倒だなぁ。
確かに、ランクアップした個体というのは線は考えてなかった。ランクアップする事自体珍しいからね、その可能性をすっかり失念していた私の失態だ。
反省せねば。
でも本当にそうなのだとしたら、なぜそんな事を知っているのか、という疑問がでるね。私も独自の情報網をもっているから、昨日までは確かにアポ朗さんはこの都市には居なかったのは確実です。
そこら辺は気になりますが、踏み込める訳もありませんし、アポ朗さんの話によればミノタウロスは今日の昼頃には外に出てくるらしいので、情報の真偽の確認の為、一緒に出迎えてもらう事になりました。
残った問題はレイドパーティとどうなったのか、だけど、何も無かったと思う事は、あり得ませんし。
はぁ……事後処理が面倒そうだなぁ。
という訳で、色々ありましたが昼頃。迷宮の出口にて出待ちです。
さて、見た事も無いミノタウロスというのは……これはこれは、報告書では知っていたけど、実物がこんなに大きくて、こんなに凄まじいとは、予想外だねぇ。ランクアップする個体だけはある、と考えてもいいのかもしれないけど、これはちょいと規格外でしょう。
あまりの威圧感に、もしもの時の護衛として連れてきた皆さんが気圧されて使いモノになりそうにありませんし。最も強いリリチアちゃんでさえ、まさか動けなくなってしまうとは、いやはやビックリだねぇ。
腕利き冒険者十八名で構成された≪連結部隊≫が呆気なく負けて、担がれているのにも、本当にビックリだ。
しかも、誰も死んでいないとはね。大怪我はしてるけど、骨折程度なら問題ないだろうし。
今日はいつになく刺激的な日になってしまいましたねぇ。
うーん、個人的にアポ朗さんとは友好的な関係を築きたいものですねぇ。
・ギルド長は名鉄を手に入れた。
・ギルド長は友好的な関係を築きたそうにしている。
【とある蟷螂型甲蟲人視点:百二十四日目】
視線の先では団長と、副団長が戦っている。
≪外部訓練場≫に造られた円形闘技場の中で繰り広げられている戦いは、あまりにも凄まじ過ぎて、その全てを理解する事は難しい。
複眼によって優れた動体視力を持つ私ですら、速過ぎて見えない攻撃の応酬。
訓練では見せなかった団長の本気の刺突によって、赤き軌跡が中空に何重にも重なっている。
あまりにも大きすぎる副団長の振り下ろす戦斧が、雷炎を纏って地を砕き、周囲を爆砕する。
巨躯からは信じられないほどの速度で駆ける事で、見る者には一瞬で移動したように感じさせた副団長は、速度のままに団長と衝突し、しかしなにがどうなったのか突撃した副団長の方が吹き飛んだ。
縦に何回も回転し、地面に墜落。それに追い打ちを仕掛ける団長の攻撃は、しかし何がどうなっているのか私達には理解できない。
その後も戦いは続いたが、終始団長優位の流れである。ただ危険だったので、最後まで観戦できたのはごく一部の幹部だけだったのは、悔やまれた。
私も最後まで見ていたかったが、ああなっては、とてもではないが無理だった。
攻撃の余波だけで見ていただけの私達が死にかけた、といえば、戦いの凄まじさが少しは伝わるかもしれない。
戦いを見て感じたのは、やはり団長の底が見えない、という事だろうか。
団長は体術だけで化物だ。堅牢な外骨格に包まれている私を素手で無力化するほどには化物だ。
そんな存在に武器を持たせればどうなるか。簡単に想像ができてしまう。
しかも団長が種族的能力や【加護】という事では説明できない、理解不能の力を行使すると、敵対するものは最早抗う事すら許されない。
まさか人間しか使えない【戦技】を事もなげに使うとは、もう、理解の外側だった。
ただ見ていて、私の下腹部が熱を持った、という事だけはハッキリしている。
強い子孫を残したいというのは、私達の本能だ。
・蟷螂は自主練を開始した。
・蟷螂は発情したかもしれない。
・蟷螂は交尾した雄を喰い殺すらしい。
・蟷螂は権妻要員ではない。
【ゴブ爺視点:百三十日目】
最近、身体のぉ動きがぁ、とんとぉー悪うなったぁ。
目も霞んでぇ、関節が痛んでぇ、性欲も失せてきたんだわぁ。
そろそろぉ、ワシも逝くかもしれんなぁ。
もう少しくれぇ、先を見てみてぇんやけど、何処まで見れるかいのぉ。
温泉に浸かってぇ、もうちょいは頑張らんとなぁ。
・ゴブ爺の寿命=■■日。
・ゴブ爺はフラグを立てた。
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