Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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3巻

3-4

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《百八日目》

 今朝到着した《シーリスカ森林》には、喰った事の無いモンスターが数多く生息していた。
 巨大な湖やそこから枝分かれした川など水源が多いからか、両生類系やら爬虫類系やらのモンスターが多く――
 赤いうろこと高熱を宿した爪が印象的な〝レッドリザード〟
 チーターを思わせる体躯に爪や尻尾の先に灯った赤い炎が特徴的な〝グリフォルンド〟
 馬に蛙の瞳と水色でヌメリのある鱗、ヒレのような後ろ足と太い尻尾を加えた外見の〝ケルピー〟
 水晶のような外皮と牙を持つ八メートルほどの体長を誇る〝クリスタルクロコダイル〟
 黄色と紫色の毒々しい色合いの模様を持つ〝イルネスフロッグ〟
 岩のような亀の甲羅と頭部を持つ〝岩亀蛙〟
 羽音も無く近づいてきて俺達の血を吸おうとする一〇センチほどの〝サイレントモスキート〟
 高速で跳ね回って周囲を無作為に攻撃する〝砲弾バッタ〟
 ――などがいた。
 今は仕事中である故、それ等を探し回って喰う、という事はできない。
 だが、荷台に寝転がって俺達のソファ代わりになっていたクマ次郎とクロ三郎を森に解き放てば、首の骨を砕かれて絶命したケルピーやら、胸部に巨大な爪痕のあるレッドリザードなどを持ち帰ってきてくれる。
 あるいは群れを成して、向こうから襲いかかってくる事もある。
 襲ってきたモンスターの中でそれなりに厄介だったのは、意外な事に最も小さく安全に見えた砲弾バッタだった。
 突っ込んで来ても俺はアビリティで強化した肉体で受け止められるし、ダム美ちゃんも軽く察知して避けるか、そもそも攻撃そのモノが効かなかったりする。だが、鍛冶師さんやお転婆姫達はそうはいかない。彼女達のような非戦闘員では、到底避けられない速度の攻撃である。
 胴体ならば服に仕込んだ分体で防げるが、頭部を狙われると分体の反応が遅れて当たってしまう可能性も僅かにあった。その小ささも厄介さを増幅している。
 幸い群れの数が少なかったし、砲弾バッタでは貫通できない硬度を誇る骸骨百足で移動していたおかげで対処できたが、もっと数が多かったら大事になっていたかもしれない。
 実際、人間の生活範囲で大量発生した時はかなり大変なのだそうだ。街の城壁に大量の砲弾バッタが体当たりを仕掛けてきて、街が蹂躙じゅうりんされた例もあるのだとか。
 やはり数の力は偉大だという事だろう。
 捕まえたモンスター達は昼食の材料にして、皆で美味しく頂きました。毒があるイルネスフロッグは俺だけしか喰っていないのだが、赤髪ショートはちょっと食べたそうにしていた。恐らく赤髪ショートではイルネスフロッグの毒を解毒できないと思うので、あえて無視したが。


[能力名【疫病散布デヒューズ】のラーニング完了]
[能力名【病魔びょうまの運び主】のラーニング完了]
[能力名【燃える爪】のラーニング完了]
[能力名【耐火粘液分泌たいかねんえきぶんぴつ】のラーニング完了]
[能力名【疫病感染インフェクション】のラーニング完了]
[能力名【石頭】のラーニング完了]
[能力名【頭突き】のラーニング完了]
[能力名【無音飛行サイレント・フライト】のラーニング完了]
[能力名【威圧脆弱】のラーニング完了]
[能力名【変温非対応】のラーニング完了]

 イルネスフロッグの肉は、口に入れただけでとろけるような柔らかさだった。
 砲弾バッタは、見た目はアレだが頭部はなかなか歯応えがあり、身も海老など甲殻類に似た味なので案外美味い。
 人間に似た骨格を持つレッドリザードを喰うのは、最初は鍛冶師さん達にも抵抗があったようだが、一口食べてみると、あれ案外美味おいしいね、とどんどん食べていった。やっぱり美味うまい飯というのは、生きる為の活力を生んでくれるという事が良く分かる出来事だった。
 ケルピーは馬の肉と似て美味いのだが、何処どこか変わった味である。何が違うとはハッキリ言えないのだが、取りあえず何かが違う味わいだった。
 そんな話題で盛り上がる賑やかな食事中、俺の背後を流れていた川から突如、クリスタルクロコダイルが姿を現した。水中から襲いかかってきた、と言った方が良いか。
 食事という、生物が少なからず油断してしまう場面を狙って、ずっとタイミングを見計らっていたのだろう。
 巨大な口内にビッシリと生え揃ったクリスタルのような鋭牙えいがには、俺すらも噛み殺せそうな輝きがある。
 恐らくクリスタルクロコダイルは、オーガよりも生物として上位の種族だ。噛みつかれたまま水中に引き込まれれば、厄介な事になったかもしれない。
 しかし、不意打ちとはいいながらも自分の存在を気付かれている時点で失敗している。
 実は【気配察知】で不意打ちを予測していた俺は、慌てる事無く冷静に、振り返る事すらせず、その無防備極まりなく開かれた巨大な口内にハルバードを深々と突き入れ、【三連突き】を発動。穂先ほさきから発生した三本の雷の槍が、体内を蹂躙じゅうりんする。更に実際の刀身とアビリティによって生じた不可視の刀身によって肉を穿うがたれ、クリスタルクロコダイルの中身はグチャグチャに破壊される。俺の手には、確かに命を奪った感触が残った。
 肉の焼ける匂いと煙が立ち上る。
 クリスタルクロコダイルの素材はかなり高額で取り引きできるらしく、売れそうな部位を解体。最近はダム美ちゃんや赤髪ショートも解体スキルが上達してきたので、二人に任せる。そして俺は比較的価値の低い尻尾の肉を拾い上げて丸焼きにし、それを頬張った。
 うん、美味い。滴る肉汁が口内を満たし、食欲が更に湧き上がってくる。肉から得たエネルギーによって、俺の体が少々強化された感覚もある。


[能力名【結晶鰐けっしょうわに鎧皮がいひ】のラーニング完了]
[能力名【結晶鰐の鋭牙】のラーニング完了]
[能力名【水中の捕食者】のラーニング完了]

 身体も強化できてアビリティも得られるとは、良い事ずくめだ。自然と笑みが零れる。
 その様子を、お転婆姫は興味深そうに見つめていた。
 何かソワソワしていたので、どうしたんだと聞いてやると、『何故お前は殺した生物を必ず喰らうのか』と質問された。
 それに対して俺は、殺したからだ、と返す。
 俺は自分の為に、生きる為に他者を殺す。そしてどのような理由があれ、俺が関与した事で誰かが死んだのなら、できる限りそいつを喰うようにしている。
 アビリティを得るため、というのが一番強い理由だが、恨みもまとめて受け取ってやる、という気持ちを奮い立たせる為の儀式のようなものだ。まあ、自分なりの責任の取り方だろうか。信条の一つ、と言っていいかもしれない。
 似たような事を語って聞かせた前世の同僚は、オマエは変わっているよ本当に、と呆れていた。
 そしてその同僚と同じようにお転婆姫は『……ふむ』と表情は呆れつつも、何かを考え込むように沈黙し、その話はそれで終わった。
 まあ、お転婆姫なりに何か思うところでもあるのだろう。相変わらず俺の肩に乗ったままだから、全く締まらないがな。
 その後も、俺達は襲ってくるモンスターを殺し、その血肉を喰らいながら森の中を進んでいくのであった。


 久々に、本日の合成結果。


【不協和音】+【混乱を呼ぶ鳴き声パニック・ボイス】=【死を招きし鬼声デス・ボイス
【甲殻防御】+【殻に籠る】+【金剛蜘蛛の堅殻】=【不破の城殻】
【気配遮断】+【認識妨害】+【忍び足スニーキング】=【認識困難】
【湧き上がる戦闘本能】+【生存本能】=【狂い猛る黒鬼の本能バーサーカーモード


 《百九日目》

 太陽が真上に昇った頃、森を抜けた先にあるメイスン村に到着した。
 またもや俺がオーガという事で一悶着あった。むしろ都市よりも人間の比率が高い田舎だったせいで反発は更に大きかったが、それはお転婆姫の力によって終結した。
 お転婆姫が王族の象徴とも言える指輪タイプのマジックアイテムで中空に赤い刻印を浮かべ、村人達に俺達を受け入れるよう命令したからだ。この指輪は、王族以外使えないし、装備した本人でなければ外せない。しかも装着者が死ぬと、周囲の敵性人物全員に強力な呪いを付与するというシロモノだ。
 へへー、と近くに居た村人や観光客が一斉に膝を折って頭を垂れたのは、大昔の時代劇の一幕のようで、なかなか壮観だった。
 その後村で一番立派な村長宅に招待され、そこで一泊する事が決まった。しかし村長と村長夫人はまだビクビクしていたので、緊張をほぐそうと思い、《シーリスカ森林》で得たキノコや果実などの食料を提供してみる。
 ついでに、欲しい獲物が居るのならクマ次郎とクロ三郎に獲らせてきますから、などと話しかける。多少時間を必要としたが、村長達の対応は次第に変わっていった。
 やっぱり会話ってのは大事だよな。
 二時間ほどあれこれしてくつろいだ後で、村の名物である滝まで案内させて頂きます、と村長が言う。元々見に行くつもりだったし、もう一つの名物の温泉には後でジックリと入るつもりなので、それではとお願いした。
 村から少しだけ山に入った場所に、それはあった。まるで天から落ちてくるような、巨大な滝だ。
 眼前の素晴らしい光景に、俺達は思わず見入っていた。二〇〇メートルほどの高さから降り注ぐ大きな滝は、自然の美しさ、力強さを俺達に教えてくれる。飛沫しぶきで虹の橋がかかり、清涼な空気に満ちている。良いモノを見れた、と素直に思った。
 それはそれとして、滝壺には何やら強大な生物が眠っていると【気配察知】で掴めたのだが、その正体までは分からなかった。
 ダメもとで村長に聞いてみると、滝壺にはココら一帯の守り神的存在――ボス系モンスターだが、攻撃しなければ友好的らしい。しかもレアな竜種なのだとか――が棲んでいるそうだ。普段は静かに眠っているという。
 一瞬戦ってみたいという欲求が湧き起こるが、その感情は心の奥に封印しておく。
 今の俺では、恐らくはアビリティを駆使しても勝てない存在だからだ。機会があれば戦いたいものだと思いながら村に戻ると、続いて有名な温泉へ。
 王族が入る、という事で貸し切りにしてもらった。
 女湯にはお転婆姫達の護衛としてダム美ちゃんや風鬼さんが居るし、すぐ隣の男湯には俺達も居るので、たとえ暗殺者が押し寄せてきても即座に対応できる。その為、心置きなく温泉を堪能できた。
 メイスン村の温泉は、俺達の拠点のモノほどではないにしろ、なかなかにいいお湯だった。


 拠点の温泉が恋しくなったので、この依頼が終わったら絶対に一度帰ると決めた。アッチにも、色々と変化はあるしな。やる事はまだまだ山積みだ。
 一時間ほどで温泉から上がり、村長宅に戻る。すると、クマ次郎とクロ三郎が獲ってきたケルピーやボルフォル、ブレードラビットやホーンラビットやらが家の前に大量に積み上げられていた。村民達が集まって、せっせとそれ等を血抜きしたりしている。
 俺が戻って来るや否や、褒めて褒めてとじゃれついてきた二匹を可愛がりつつ、流石さすがに量が多いので、村の皆で喰いますか、と村長に提案してみる。
 その結果、夜は村全体が宴会場のようになった。至るところに設置された焚き火によって闇を退け、焼かれた肉を村の地酒で流し込み、歌って踊る大騒ぎ。
 絶世の美女であるダム美ちゃんや子犬的な可愛気がある赤髪ショートなど、女性陣は村の男衆に踊りに誘われて大変そうだったが、俺はそれを村長と共にただ眺めていた。
 踊りに誘われる程度は、ご挨拶だ。それにこちらは、まだまだ若い者には負けんと豪語する村長が出してくれた、特別上等な村の地酒で飲み比べの最中である。
 杯がからになると、今度は俺がエルフ酒を振舞った。一口飲んで愕然としていた村長には少々笑ってしまったが、それも仕方がない事だろう。エルフ酒は村長自慢の地酒にも増して美味いのだから。
 満面の笑みを浮かべる村長との飲み比べは、更に追加された地酒数本が空になるまで続けられた。


 宴会が始まって二時間後くらいだろうか。
 酔っぱらった村人男性の一人が、ダム美ちゃんの尻を触った。いかにも酔っぱらいらしい下世話なセリフも加えつつ、である。
 怒ったダム美ちゃんによって本当に殴り殺されそうになったこの哀れな村人男性を、俺は救ってやった。治療を施し、内臓を傷つけない程度の威力で腹部を殴り、再び治療する。村人男性の息の根を止めるようと再び動き出したダム美ちゃんは、抱きしめて落ちつかせた。
 全く、他の男に特定部位を触られたりすると、所構わず暴走するダム美ちゃんは困ったモノだ。殺していい場合とダメな場合があるというのに。今回は殺してはダメな場合だぞ、と耳元でささやく。
 とは言え、俺も制裁を加えたのだから、そこまで強くは言えないけども。
 ふと気が付けば会場――つまり村全体が沈黙で満ちていた。赤髪ショート達は額に手を添え、アチャー、と言っている。
 俺は段々と痛くなり出した場の空気を変えるべく、【異空間収納能力アイテムボックス】から防衛都市で買った酒樽を取り出して、飲み比べの挑戦者を募集してみた。俺に勝ったら銀板四枚進呈、と言いながら。
 銀板は一枚一万ゴルドで、一万ゴルドは多分十万円相当の価値がある。つまり総額四十万円ほどになるだろうか。
 これには、自信のある男達が即座に喰いついてきた。皆目の色が変わっている。どうやら先ほどの事件は既に頭から追い出されたようだ。
 四万ゴルドともなると、村単位で見ても結構な収入だ。この大きさの村なら、一週間程度は何をせずとも全員が食いつなげる。そりゃ、目の色も変わる。
 数で押せば勝てると思っているのだろう。皆に連帯感が伝播でんぱしているのが何となく分かる。それに俺は村長と飲み比べをして、既に結構な量を飲んでいる、という計算もこの雰囲気を後押ししているに違いない。
 俺はお転婆姫を肩に乗せた状態で、村人だけでなく、観光客も相手にしながら酒を飲み続けた。
 お転婆姫が何かとあおってきたが、俺もそれに悪乗りして、飲み比べを盛り上げるのだった。


 結果だけを言おう。俺は誰にも負けなかった。
 酔いはするのだが、オーガだからかやはり酔い潰れる事はないのだ。
 酷いマッチポンプである。まあ、最終的に盛り上がったのだからいいだろう。


[能力名【水御陣すいごじん】のラーニング完了]
[能力名【刃骨生成】のラーニング完了]
[能力名【硬い皮膚ハードスキン】のラーニング完了]
[能力名【鋭角生成】のラーニング完了]

 ツマミを喰っていたら何時いつの間にかアビリティを手に入れていた。
 取りあえずそんなのは置いといて、今日は大好きな酒を大量に飲む事ができたので、ぐっすりと寝られた。


《百十日目》

 朝にメイスン村を出立し、巨人の一種である【フォモール】族の暮らす《クラスター山脈》に向かって進んでいく。
 道中特に大した事は起こらず、夕方になったら訓練をして寝た。
 明日の朝にはクラスター山脈のふもとに到着できるだろう、多分。


《百十一日目》

 今朝になって、なんと姉妹さん達が妊娠している事が分かった。
 オーガである俺の精で生まれる子供は人間よりも成長速度が早いらしく、妊娠の前兆に気付く事も少ないという。今回も二人のお腹が膨らんで、ようやく分かったくらいだ。
 拠点にいるゴブじいに連絡をとり、どうすればいいのかを聞いてみると、オーガの子供の場合、母体のお腹が膨らむと、間もなく子は母体から急速に栄養を吸い取り出し、一気に成長して産まれるのだそうだ。母体がオーガの場合は人間と同じように出産するのだろうが、二人はオーガよりも小さな肉体の人間なので、恐らく腹を喰い破って出てくるぞ、と言われた。
 それを聞いて血の気が失せた俺は、二人がゆっくりと休める場所を探して急いで骸骨百足を走らせた。今はお転婆姫に構っていられないから、お守りは少年に任せる。お転婆姫も状況を把握しているらしく、静かなモノだった。
 ダム美ちゃんや赤髪ショート、鍛冶師さんに錬金術師さんは苦しむ二人を懸命に励ましている。
 移動中、お腹の子に栄養を吸い取られて目に見えて痩せていく二人に、秘薬として機能する俺の血を飲ませ、ついでに俺の肉の一部を喰わせてみる。
 俺の肉を喰う事には流石さすがに姉妹さんも難色を示したが、口移しで無理やり喰わせる。そしてその効果は抜群で、急激な痩せは止める事ができた。
 そのような応急処置をしながら骸骨百足を走らせる事三十分ほど。ようやくクラスター山脈に辿り着いた。丁度手頃な大きさの洞窟を見つけ、そこに骸骨百足ごと突入する。
 洞窟の中には腕が四本ある茶色の熊が数体居たが、問答無用で攻め殺し、二人が寝られる場所を確保。強烈な獣の臭いが充満していたが風を操作して換気し、熱鬼くんや幻鬼くん達に洞窟外の警戒を指示、風鬼さんには洞窟の奥に敵性生物が潜んでいないか見に行かせた。
 クマ次郎とクロ三郎にはそこ等で静かにしていろ、と言っておく。
 俺は苦しむ姉妹さん達を分体で造ったベッドに寝かせ、腹の子に吸収されていく栄養を補給する事に力を注いだ。赤髪ショート達も、各々作業を分担しながら二人を見守り続ける。
 姉妹さん達の腹部は、時が経つごとに大きく膨れていく。
 皮膚が引っ張られ過ぎて裂けてしまいそうなほどに膨れた腹部を、俺はありとあらゆる手を使って全力で癒していく。
 本来なら発狂していてもおかしく無いほどの激痛を感じていたはずだが、俺が生み出した麻酔である程度痛みを抑える事ができているようだ。
 流石の俺もこのような状況は初めてなので、止めどなく汗が流れ出る。


 どれほどの時間が過ぎただろうか。一時間未満だったかもしれないし、何時間も過ぎていたのかもしれない。それは分からないが、ついにその時はやってきた。
 姉妹さんの内、まず姉さんの方が酷く苦しみ出した。胎児としての成長を終え、産まれようともがく俺達の子が、姉さんを内部から苦しめているのだ。
 とっさの判断で俺は姉さんにより強力な麻酔を施し、【上位装具具現化】によって殺菌効果を持つ〝魂魄具こんぱくぐ〟のメスを出現させて、腹を切った。
 帝王切開である。
 そして腹の中から血塗ちまみれの女の子を取り出してダム美ちゃんに預け、姉さんの傷口にドバドバと俺の血を大量に流し込み、ありったけの術を使って傷を塞いでいく。【慈愛じあいの亜神の加護】によって通常よりも数段優れた効果を叩き出す回復技能ヒーリングスキルは、姉さんの腹部を傷痕一つ残さず治しきった。
 お転婆姫達に俺の血の効果を見られてしまったが、まあ、すぐにヒーリングスキルを使ったので、詳しく何をしていたのかは分からないだろうから放置。
 女の子はダム美ちゃん達が産湯うぶゆにつけてくれていた。元気な産声うぶごえが洞窟に響く。
 僅かに安堵あんどの空気が流れたが、今度は妹さんの方が苦しみ出した。先ほどと同じ事を繰り返し、今度は男の子を無事に取り出した。
 洞窟内に二人分の産声が反響して、そこでようやく俺の集中は途切れた。
 誰も死なせずにすんだ事にほっとし、初めての経験に今更ながら手が震えた。体力を大幅に消耗した状態でも、産まれた子を抱きかかえ、慈しむように母乳を飲ませている姉妹さんの姿を見て、思う。
 ああ、よかった、と。


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