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3巻
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ただ欠点も色々とあるようだ。
まず一つ目は、一体の生成でスケルトン五十体分くらいの魔力を持っていかれる事。
夜、あるいは闇から魔力を回復できる俺には大した問題ではないのだが、それでもある程度のダルさを感じる量の魔力が一度で消費される。他の魔術も併用する場合、昼の連続使用はちょっと控えた方がいいようだ。
二つ目は、生成速度がスケルトンなどと比べて遥かに遅い上、一度に一体しか生成できない事。
とは言え十三秒待てばブラックオーガでもブラックフォモールでも同じように生成できるし、待ち時間相応に強いので、大きな欠点ではないとは思う。
三つ目は、必ず命令しなければならないという事だ。
せっかく生成しても放置しておいたら、ただ邪魔なだけなのだ。下手をすれば行動を阻害する原因になるかもしれない。まあ、その時は敵諸共に殺せばいいのだろうけど……ふむ。やっぱり欠点と言うほどのモノでも無いのかもしれない、と思えてきた。
まあ、【下位アンデット生成】と似たような感覚で扱えるアビリティであると思っておけば間違い無いだろう。
それに【下位アンデッド生成】と同じく、生成できる種族には色々と隠された条件があるようで、この世界に居るはずの〝単眼鬼〟は生成不可だった。実際にサイクロプスを確認、あるいは殺害すれば生成できるようになるのではないか、と睨んでいる。
【下位巨人生成】についてはこんなモノだろう。
今度は【見殺す魔眼】について。
これを茂みから飛び出してきたブレードラビットに対して行使したのだが、アビリティ名の通りに、見ただけで死んでしまった。
何が起こったのかは定かではないが、死骸には一切の傷が無い。突然死だ。
これは使用を控えようと思う。こんな味方を巻き込みかねないアビリティは早々使えたモノではないし、実は鏡で反射される、なんて弱点があったら笑えない。
奥の手としては十分期待しているが。
次は【巨人の鉄槌】や【圧殺超過】などについて。
【巨人の鉄槌】を発動させると、雪山で使った時と同じく巨大な腕の幻影が発生した。
試しにブラックフォモールを生成して『全力で守りを固めろ』と命令を下してから殴ってみたら、その巨体を数十メートルも吹き飛ばす事ができ、攻撃を防いだ両腕の骨や背骨は折れていた。一撃で殺せないまでも、行動不能にはできるらしい。
ブラックフォモールの怪我を治し、今度は【圧殺超過】や【巨人王の覇撃】それに【黒鬼の強靭なる肉体】など、身体能力や攻撃力が上昇する全てのアビリティを発動させた状態で殴ってみる。
俺の全力の一撃を受け止めさせるため、先ほどと同じ命令を下す。そして固く拳を握りしめ、動く。
その結果、ブラックフォモールの巨躯は爆散した。野営していたのが人気の無い草原だったので飛散した臓腑や血液による被害は最小限に抑えられたが、緑の絨毯の一部が赤く染まっているのは中々にシュールである。
ただその後にちょっとしたトラブルがあった。充満する濃厚な血の匂いでダム美ちゃんが興奮してしまい、それを落ちつかせるのに苦労したのだ。俺の血を吸わせると落ちついてくれたが、興奮状態で周囲に振り撒いた魅了の魔力は色々とヤバかった。
何がヤバかったって、その影響を受けた赤髪ショート達や風鬼さん達女性陣すら、色々とギリギリだった、とだけ言っておこう。
とにかく、【巨人の鉄槌】は多数の敵と戦う時に、非常に役立ちそうなアビリティだった。一応の欠点は、両腕にしか幻影を発生させられない事だろうか。
そんな感じで新たなアビリティの効果的な使用法を考えつつ、合成能力を駆使して更に効果が高く、それでいて使い勝手のいいアビリティの模索を始めた。
コレから忙しくなりそうだと思いつつ、今日も森の中を行く。
新しいモンスターも結構喰っているのだが、アビリティを得られなかったので説明は省略。
今日は森の中で手頃な洞窟を発見したのでそこを宿とし、クマ次郎とクロ三郎を放し飼いにして獲物を獲ってこさせる。ボルフォルは、解放すると多分他のモンスターに喰われてしまうので洞窟内から出す事はできなかったが。
買い溜めしておいた食材もあったし、お転婆姫から香辛料の類をタンマリもらっていたので、昨日に引き続いて豪華な晩餐だった。
飯を喰った後はこの世界についてのちょっとした勉強会を開いてから寝た。
本日の合成結果。
【突進力強化】+【猪突猛進】=【黒使鬼吶喊】
【強者の威圧】+【巨人王の威厳】=【黒使鬼の威厳】
【刃骨生成】+【鋭角生成】=【鋭刃骨生成】
【結晶鰐の鎧皮】+【硬い皮膚】+【鋼硬毛皮】=【傷付かない黒使硬鎧皮】
《百二十日目》
骸骨百足を自走させて最短ルートを移動し続けた結果、拠点には予想よりも早く到着しそうである。
ルート上にある森や山で――
五〇センチはある茸的な見た目の植物系モンスター〝胞子茸〟
緑色の肌で、木製の巨大棍棒を振り回す〝木枝巨鬼〟
鉄のような体毛を持つリス〝鉄鼠〟
尻尾がまるでハンマーのように発達している〝鎚尾蜥蜴〟
青い鱗と手に持つ三又水槍が特徴的な〝ブルーリザード〟
――などを喰ってみたのだが、アビリティは得られなかった。
一応身体能力の強化はできているが、上昇率は微々たるモノである。
使徒鬼は種族的に強過ぎるようで、新しいアビリティを得る確率は大幅に減ってしまった。コレからは質よりも量を重視していくべきだろうか。
まあ、今持っているアビリティの数も相当だし、焦って新しいのを得る必要はないかもしれない。気に入った種族がいれば、集中的に喰う事にしよう。
今日も特にイベントは無く進んで行った。平和な一日である。
《百二十一日目》
森の中を進んでいた昼頃、少々開けた場所にある小さな村を見つけた。
村を囲う木の柵のせいでハッキリしないが、見えた家の数から恐らく住民は百人から二百人程度だろうか……と思って近づいて行くと、血の臭いと死臭が漂っている事に気が付いた。
【直感】なども警報を鳴らしていたので、骸骨百足に鍛冶師さん達を残し、俺とダム美ちゃんの二人だけで更に村に近づく。
事前調査として【早期索敵警戒網】を発動させてみると、たった一人、村の中央に生きている人間が居るようだ。
一応、鍛冶師さん作のハルバードを取り出して、ついでに今まで殆ど使っていなかった黒銀の腕輪――【孤高なる王の猛威】の能力を発動させて右腕を保護するガントレットに変形。周囲を警戒しながら村の中に入る。
しかし警戒するまでも無かったようだ。
村の様子は、かなり酷いモノだった。
もはや何人分なのか分からないほどにバラバラの肉片が村中に散らばっている。家の屋根には人間の上半身が載っていたり、四肢の一部分だけが血溜まりの中にあったり、幼い子供の頭部だけが転がっていたりした。相当残忍な虐殺が行なわれたのだろう。
家屋の幾つかは粉々に叩き潰され、村の地面に幾つか大きな穴がある事から、何かしらの大型モンスターが地中から襲ったのではないか、と推測できる。
とにかく話を聞く為に生き残りの反応がある地点まで近づいていく。
そこにいたのは、赤と紫と銀の混じった毒々しい血溜まりの中に両膝をつき、天を見上げながら慟哭している、全身傷だらけの青年だった。
そしてその青年は、普通の村人ではないらしい。
青年の身体を守る銀鋼の軽装鎧は、所々損傷がありながらも陽光を反射して煌めき、その腰には装飾の無い実用重視の剣が一振りある。そして背中には、シュテルンベルト王国の紋章が描かれた灰色の破れたマントを装備していた。
十中八九、王国に所属する【騎士】だろう。
こんな(言っては悪いが)寂れた村に居るはずの無い人間だ。
この村を滅ぼした何かしらのモンスターを追っていた騎士団の構成員、という考え方もできなくはないが、それにしては他の騎士団員の姿や痕跡は見受けられない。
もしかしたら、この青年はたった一人で追っていたのかもしれない。
と考えたところで、青年が何者なのかについて予想するのを止めた。青年に話を聞けば全て分かるのだから、あれこれ考えるのは時間の無駄だ。
泣き叫んでいる青年に近づくと、青年がそれを大切そうに抱いているのに気が付いた。下半身が丸ごと無くなっている女性の亡骸。その亡骸から流れ出る鮮血によって、軽装鎧の前面の大部分は赤く染まっていた。
状況から察するに、青年の大切な人だったのだろう。
二人の別れを邪魔するのは気が引けたので、しばらくの間は青年が泣くに任せ、泣き声が小さくなったタイミングを見計らって声をかけた。
青年は、その時初めて俺達に気が付いたという表情でコチラを向いた。その瞳は、虚ろでありながら、奥底では憎悪に燃えていた。当然悲しみなどもあるのだろうが、青年の心の中には復讐心が滾っているようだ。
それでも話を聞こうとすると、唐突に青年が獣のように低く呻き出した。
【早期索敵警戒網】と【直感】が激しく警報を鳴らす。
その時点で『あ、やばい』と思った。背後にダム美ちゃんを庇うように立ち位置を変える。
青年は地面にそっと女性の亡骸を寝かせ、腰の剣を抜いて俺達に襲いかかってきた。瞳は相変わらずガラスのように虚ろなままだ。
どうも青年は、精神的な負荷に耐え切れず、暴走し始めてしまったらしい。
青年の全身から薄らと黒く汚れた魔力が放出される。それによって青年の速度は底上げされ、膂力も引き上げられているようだった。【狂戦士】系の【職業】でも獲得しているのだろうか。
まるで獣のような疾走速度と身のこなしで、青年は俺を殺す為に接近してくる。
俺の首を刈ろうとする青年の剣をガントレットで受け流そうとして――
[夜天童子の【異教天罰】が発動しました]
[これにより夜天童子は敵対行動/侵攻開始を行った《異教徒/詩篇覚醒者》に対して【終末論・征服戦争】の開戦を宣言しました]
[両者の戦いが決着するまで、夜天童子の全能力は【三〇〇%】上昇します]
[特殊能力【異教天罰】は決着がつき次第解除されます]
――唐突に脳内でアナウンスが流れた。
な、と疑問に思う前に、青年の斬撃を受けた衝撃をガントレット越しに感じた。
いまさら、止まる事はできない。だから、ただ動く。
そして五秒も経たず。
[決着がつきました]
[特殊能力【異教天罰】は解除されます]
[夜天童子は《異教徒/詩篇覚醒者》との【終末論・征服戦争】に勝利した為、報酬が与えられます]
[夜天童子は【陽光之魂剣】を手に入れた!!]
色々と突っ込み所がある脳内アナウンスが言うように、青年は俺達の前で気絶している。
暴走した事によって通常時よりも身体能力が飛躍的に上昇していたとは言え、その分理性などが消失し、ただ純粋に速く強いだけの攻撃を仕掛けてくる青年をあしらうのはかなり簡単だった。
むしろ、殺さないように手加減する事の方が難しかったくらいだ。
そもそも青年は最初からかなりのダメージを負っていたのに対し、俺は勝手に発動した【異教天罰】によって肉体が強化されていた。ただでさえ【孤高なる王の猛威】によって膂力が跳ね上がっていたのに、だ。
殴りでもすれば、確実に青年を即死させるほどのダメージを与えてしまっただろう。それは避けたかった。
だから、片足を一歩引いた半身の姿勢で青年の腹部に向けて腕を伸ばし、愚直に突っ込んでくる相手の突進力をそのまま返す事にした。
言ってみれば、青年は自分から鉄柱に突進して自滅した、という事になる。
そのダメージは青年が耐えられる量を超え、骨肉の軋む音と共にガクリと青年の肉体から力が抜けた。かなりの衝撃だったので、青年が目を覚ますまでにはそれなりに時間が必要だろう。
取りあえず所々骨が折れた青年が死なないように回復させて、眼が覚めるまで待つ事に。
その間に俺とダム美ちゃんは、村にばら撒かれている死体の処理を行う。分体も使って肉片の一つ一つを掻き集め、地面を掘り返して埋める。
この世界では、死体を野ざらしで放置しているとスケルトンやゾンビになる。だから戦場に残された兵士の亡骸は、モンスターになる前に埋葬されるのが普通だ。
俺としても、村人達の体がこのまま付近のモンスターに喰い荒らされ、ゾンビになり果てるのは少々不憫だったので、纏めて供養してやるのだ。
作業は十数分で完了した。
掌を合わせ、南無。冥福を祈る。
埋葬が終わったら、今度はまだ使える食器などを村から回収させてもらう。
このまま放置されてしまうくらいなら、俺達が活用した方が道具にとっても幸せだろう。
まあ、拠点でも色々と変化があり、日用生活品の補充がそれなりに重要なので丁度良かった、というのが本音なのだが。
死体を埋葬した手間賃として貰う、という事にしとこうか。
村中から使えそうなモノを片っ端からかき集め終えたのは、作業開始から二十分くらいが経過した頃だろうか。
まだ青年は起きる気配がないので、水球を造って顔に浴びせてみる。すると飛び起きた。
また襲いかかってくるかと思ったが、暴走は治まったらしい。
しばらくの間、青年は何が何やら、といった感じでうろたえていたが、強引に青年が抱き抱えていた女性と最後の別れをさせる。
青年は再び女性を抱き、涙を滂沱と流した。
二人の別れが済んだ後は女性の亡骸を埋め、改めて青年から話を聞く。
聞いた情報を纏めると、青年はこの村出身の平民なのだが、ある日突然【陽光の神の加護】を得た事で生活が一変したらしい。
どこから聞きつけたのか、【加護】を得て一ヶ月も経たない内に国からの使者がやってきて、青年を王都にある騎士や軍師を育成する学園に入学させたそうだ。
この世界に実在する神々から与えられる力――【加護】を有するモノは、それだけで超越した力を持つ。
同じくらいの技量の【加護】を持つ者と持たない者が戦えば、十中八九前者が勝つ。【加護】は神々の中で最も力の低い【亜神】によるモノですら、どれもこれも強力な力となる。
その為、国は【加護】持ち達を集め、他国に渡さないように囲い込むのだそうだ。しかも青年の場合はそれなりに保有者が居る【亜神の加護】ではなく、それよりランクが一つ上でより希少な【神の加護】だったから、より迅速に、より強制的に連れて行かれたらしい。
学園に入学してからは、貴族の坊ちゃん達の陰湿な妨害を受けたり、【神の加護】持ちの青年を引き込もうとするお嬢様方を相手に色々と苦労したそうだが、そこら辺はどうでもいいので省略するとして。
何故青年がこの村に帰ってきていたのかというと、村で生活していた幼馴染の女性を迎えに来たからだそうだ。青年は王都に行ってからも度々村に戻っては女性との繋がりを保ち、そしていよいよ結婚する事になっていたらしい。
政治的なしがらみもあったのだが、青年が努力して軍の中で一定以上の地位や王様の信頼を獲得し、ついにそれ等を撥ね退けたとのだという。まだ幾らかは障害が残っていたものの、それでも幸せだったそうだ。
当然昨日までは、だ。
今日、女性を王都に連れて行く為に青年が村に戻ってくると、村人のほぼ全員が既に喰い殺された状態だったらしい。青年は何が起こったのか理解できずに村を歩き回った末、そこで見た。
村で最後に生き残っていたあの女性が、駆け寄る青年に助けを求めて手を伸ばし、そして地面から出現した一体の大型モンスター――フィリポのペットと同じ【大鎧百足】だったらしい――によって、一瞬で下半身を食い千切られる瞬間を。
その後はよく覚えていないそうだが、青年は【陽光の神の加護】と軍で鍛えた力で、【大鎧百足】に一定以上のダメージを負わせて、コレを退散させる事に成功。
しかし本人が言うには、【大鎧百足】が退散したのは青年を恐れたからとは思えないらしい。
もしかすると、村人を喰って腹が膨れ、殺すのに手間取りそうな青年と対峙するのが面倒になったのかもな。
そしてどんどん冷たくなっていく女性の亡骸を抱きしめていたところに俺達が来た、という訳だ。
この世界ではよくある悲劇なのかもしれないが、俺には慰めの言葉が思い付かなかった。
説明してもらっている間も、青年の瞳には【大鎧百足】に対する憎悪が滾っていた。最初のような虚ろな瞳ではなく、確固とした意志がそこにある。
素材も良さそうな上、【加護】持ち……色々と使えそうだし、そうするべきだと【直感】も囁いたので、青年をスカウトしてみた。
お前が欲している、【大鎧百足】を殺せる力をくれてやるから、お前の一生を俺に捧げろ、と。
そして【大鎧百足】の飼い主には心当たりがあるぞ、と。
まるで悪魔の契約のようだ。
青年は、本当にそんな力をくれるのか、と聞いてきた。本当に殺す事ができるのか、アイツを知っているのか、と。
それに俺は、【大鎧百足】はもちろん、その背後に居るだろう敵さえも殺させてやると囁き、頷く。
数瞬だけ沈黙した後、結局青年は差し伸べた俺の手を掴んだ。力をくれるのなら、殺せるなら、何でも支払うのだそうだ。
俺が例のイヤーカフスを差し出すと、青年は迷わず耳に付けた。
これで契約は成された。
俺は青年――取りあえず復讐者とでも呼ぼうか――に【大鎧百足】を殺せるだけの力を与えねばならず、それと引き換えに復讐者という強力な部下を得る。
どちらも損はない。そう、損はない。
これからは、更に楽しい事になりそうである。
[夜天童子の【運命略奪】が発動しました]
[これにより《詩篇覚醒者/主要人物》である復讐者(シグルド・エイス・スヴェン)の運命が夜天童子の支配下に置かれた為、英勇詩篇〔輝き導く戦勇の背〕は世界詩篇〔黒蝕鬼物語〕に組み込まれます]
[最上位詩篇に組み込まれた為、国家詩篇〔シュテルンベルト〕から英勇詩篇〔輝き導く戦勇の背〕が永久に削除されました]
[詩篇転載の為、英勇詩篇〔輝き導く戦勇の背〕の《副要人物》である称号【妖炎の魔女】【守護騎兵】【簒奪者】【慈悲の聖女】保因者の【詩篇能力/特殊能力】は一時凍結されます]
[称号【妖炎の魔女】と【慈悲の聖女】は既に覚醒状態にあります。保因者の運命が夜天童子の支配下に置かれた時、特殊能力凍結を解除する事が可能になりました]
[称号【守護騎兵】と【簒奪者】は未覚醒状態です。能力を解放するには保因者の運命が夜天童子の支配下に置かれた後、定められた条件をクリアしてください]
[英勇詩篇〔輝き導く戦勇の背〕の《詩篇覚醒者/主要人物》の能力解放決定権は、掌握者である夜天童子に一任されました]
[以後、《詩篇覚醒者/主要人物》である復讐者(シグルド・エイス・スヴェン)の能力解放は夜天童子の意思によって行われます]
早速面白い事が判明した。
戦う前に流れたアナウンスからして、復讐者は俺と同じように――世界詩篇と英勇詩篇、という規模の差があるようだけど――【詩篇】と呼ばれる、この世界の神秘に携わるモノの一人だと推察できた。
しかも俺が【詩篇】を獲得した時のアナウンスには無かった《詩篇覚醒者/主要人物》とある事から、【詩篇】の中核を成す人物なのではないのだろうか。
うん、予想外だ。ビックリだ。
一通り驚くと冷静になれたので、簡単に情報を纏める。
どうも復讐者――シグルド・エイス・スヴェンという名前は分かったが、俺は今後も復讐者と呼び続けるつもりである――が《詩篇覚醒者/主要人物》としての真の能力を解放するには、俺の意思が必要なようだ。
意識すると、『能力を解放するかしないのか』という選択肢が脳裏に浮かんだ。
俺が望めば、何時でも復讐者の能力を解放できるようだ。
だから、今は解放しないでおく事にした。
能力を解放したら途端に【隷属化】の効果を弾かれたりしたら笑えない。
会ってすぐの人の誓いを完全に信じられるはずもない。もう少し復讐者について知ってからでもいいだろうさ。幸い、時間はいくらでもあるのだから。
それにしても《詩篇覚醒者/主要人物》や《副要人物》ってヤツは、他にも居るのだろうか……居るんだろうなぁ。フィリポの呟きからすると、【勇者】と【英雄】とやらがそれである可能性が非常に高い。
彼・彼女等は、きっとフィリポのように強いのだろう。という事は多分、その肉はとても美味いに違いない。
うん、敵対する《詩篇覚醒者/主要人物》や《副要人物》とやらを探し出して、ぜひ喰いたいものである。
いや、絶対に一度は喰ってやると心に決めた。
勝つと得られる特典とか、是非とも収集したいし。
まず一つ目は、一体の生成でスケルトン五十体分くらいの魔力を持っていかれる事。
夜、あるいは闇から魔力を回復できる俺には大した問題ではないのだが、それでもある程度のダルさを感じる量の魔力が一度で消費される。他の魔術も併用する場合、昼の連続使用はちょっと控えた方がいいようだ。
二つ目は、生成速度がスケルトンなどと比べて遥かに遅い上、一度に一体しか生成できない事。
とは言え十三秒待てばブラックオーガでもブラックフォモールでも同じように生成できるし、待ち時間相応に強いので、大きな欠点ではないとは思う。
三つ目は、必ず命令しなければならないという事だ。
せっかく生成しても放置しておいたら、ただ邪魔なだけなのだ。下手をすれば行動を阻害する原因になるかもしれない。まあ、その時は敵諸共に殺せばいいのだろうけど……ふむ。やっぱり欠点と言うほどのモノでも無いのかもしれない、と思えてきた。
まあ、【下位アンデット生成】と似たような感覚で扱えるアビリティであると思っておけば間違い無いだろう。
それに【下位アンデッド生成】と同じく、生成できる種族には色々と隠された条件があるようで、この世界に居るはずの〝単眼鬼〟は生成不可だった。実際にサイクロプスを確認、あるいは殺害すれば生成できるようになるのではないか、と睨んでいる。
【下位巨人生成】についてはこんなモノだろう。
今度は【見殺す魔眼】について。
これを茂みから飛び出してきたブレードラビットに対して行使したのだが、アビリティ名の通りに、見ただけで死んでしまった。
何が起こったのかは定かではないが、死骸には一切の傷が無い。突然死だ。
これは使用を控えようと思う。こんな味方を巻き込みかねないアビリティは早々使えたモノではないし、実は鏡で反射される、なんて弱点があったら笑えない。
奥の手としては十分期待しているが。
次は【巨人の鉄槌】や【圧殺超過】などについて。
【巨人の鉄槌】を発動させると、雪山で使った時と同じく巨大な腕の幻影が発生した。
試しにブラックフォモールを生成して『全力で守りを固めろ』と命令を下してから殴ってみたら、その巨体を数十メートルも吹き飛ばす事ができ、攻撃を防いだ両腕の骨や背骨は折れていた。一撃で殺せないまでも、行動不能にはできるらしい。
ブラックフォモールの怪我を治し、今度は【圧殺超過】や【巨人王の覇撃】それに【黒鬼の強靭なる肉体】など、身体能力や攻撃力が上昇する全てのアビリティを発動させた状態で殴ってみる。
俺の全力の一撃を受け止めさせるため、先ほどと同じ命令を下す。そして固く拳を握りしめ、動く。
その結果、ブラックフォモールの巨躯は爆散した。野営していたのが人気の無い草原だったので飛散した臓腑や血液による被害は最小限に抑えられたが、緑の絨毯の一部が赤く染まっているのは中々にシュールである。
ただその後にちょっとしたトラブルがあった。充満する濃厚な血の匂いでダム美ちゃんが興奮してしまい、それを落ちつかせるのに苦労したのだ。俺の血を吸わせると落ちついてくれたが、興奮状態で周囲に振り撒いた魅了の魔力は色々とヤバかった。
何がヤバかったって、その影響を受けた赤髪ショート達や風鬼さん達女性陣すら、色々とギリギリだった、とだけ言っておこう。
とにかく、【巨人の鉄槌】は多数の敵と戦う時に、非常に役立ちそうなアビリティだった。一応の欠点は、両腕にしか幻影を発生させられない事だろうか。
そんな感じで新たなアビリティの効果的な使用法を考えつつ、合成能力を駆使して更に効果が高く、それでいて使い勝手のいいアビリティの模索を始めた。
コレから忙しくなりそうだと思いつつ、今日も森の中を行く。
新しいモンスターも結構喰っているのだが、アビリティを得られなかったので説明は省略。
今日は森の中で手頃な洞窟を発見したのでそこを宿とし、クマ次郎とクロ三郎を放し飼いにして獲物を獲ってこさせる。ボルフォルは、解放すると多分他のモンスターに喰われてしまうので洞窟内から出す事はできなかったが。
買い溜めしておいた食材もあったし、お転婆姫から香辛料の類をタンマリもらっていたので、昨日に引き続いて豪華な晩餐だった。
飯を喰った後はこの世界についてのちょっとした勉強会を開いてから寝た。
本日の合成結果。
【突進力強化】+【猪突猛進】=【黒使鬼吶喊】
【強者の威圧】+【巨人王の威厳】=【黒使鬼の威厳】
【刃骨生成】+【鋭角生成】=【鋭刃骨生成】
【結晶鰐の鎧皮】+【硬い皮膚】+【鋼硬毛皮】=【傷付かない黒使硬鎧皮】
《百二十日目》
骸骨百足を自走させて最短ルートを移動し続けた結果、拠点には予想よりも早く到着しそうである。
ルート上にある森や山で――
五〇センチはある茸的な見た目の植物系モンスター〝胞子茸〟
緑色の肌で、木製の巨大棍棒を振り回す〝木枝巨鬼〟
鉄のような体毛を持つリス〝鉄鼠〟
尻尾がまるでハンマーのように発達している〝鎚尾蜥蜴〟
青い鱗と手に持つ三又水槍が特徴的な〝ブルーリザード〟
――などを喰ってみたのだが、アビリティは得られなかった。
一応身体能力の強化はできているが、上昇率は微々たるモノである。
使徒鬼は種族的に強過ぎるようで、新しいアビリティを得る確率は大幅に減ってしまった。コレからは質よりも量を重視していくべきだろうか。
まあ、今持っているアビリティの数も相当だし、焦って新しいのを得る必要はないかもしれない。気に入った種族がいれば、集中的に喰う事にしよう。
今日も特にイベントは無く進んで行った。平和な一日である。
《百二十一日目》
森の中を進んでいた昼頃、少々開けた場所にある小さな村を見つけた。
村を囲う木の柵のせいでハッキリしないが、見えた家の数から恐らく住民は百人から二百人程度だろうか……と思って近づいて行くと、血の臭いと死臭が漂っている事に気が付いた。
【直感】なども警報を鳴らしていたので、骸骨百足に鍛冶師さん達を残し、俺とダム美ちゃんの二人だけで更に村に近づく。
事前調査として【早期索敵警戒網】を発動させてみると、たった一人、村の中央に生きている人間が居るようだ。
一応、鍛冶師さん作のハルバードを取り出して、ついでに今まで殆ど使っていなかった黒銀の腕輪――【孤高なる王の猛威】の能力を発動させて右腕を保護するガントレットに変形。周囲を警戒しながら村の中に入る。
しかし警戒するまでも無かったようだ。
村の様子は、かなり酷いモノだった。
もはや何人分なのか分からないほどにバラバラの肉片が村中に散らばっている。家の屋根には人間の上半身が載っていたり、四肢の一部分だけが血溜まりの中にあったり、幼い子供の頭部だけが転がっていたりした。相当残忍な虐殺が行なわれたのだろう。
家屋の幾つかは粉々に叩き潰され、村の地面に幾つか大きな穴がある事から、何かしらの大型モンスターが地中から襲ったのではないか、と推測できる。
とにかく話を聞く為に生き残りの反応がある地点まで近づいていく。
そこにいたのは、赤と紫と銀の混じった毒々しい血溜まりの中に両膝をつき、天を見上げながら慟哭している、全身傷だらけの青年だった。
そしてその青年は、普通の村人ではないらしい。
青年の身体を守る銀鋼の軽装鎧は、所々損傷がありながらも陽光を反射して煌めき、その腰には装飾の無い実用重視の剣が一振りある。そして背中には、シュテルンベルト王国の紋章が描かれた灰色の破れたマントを装備していた。
十中八九、王国に所属する【騎士】だろう。
こんな(言っては悪いが)寂れた村に居るはずの無い人間だ。
この村を滅ぼした何かしらのモンスターを追っていた騎士団の構成員、という考え方もできなくはないが、それにしては他の騎士団員の姿や痕跡は見受けられない。
もしかしたら、この青年はたった一人で追っていたのかもしれない。
と考えたところで、青年が何者なのかについて予想するのを止めた。青年に話を聞けば全て分かるのだから、あれこれ考えるのは時間の無駄だ。
泣き叫んでいる青年に近づくと、青年がそれを大切そうに抱いているのに気が付いた。下半身が丸ごと無くなっている女性の亡骸。その亡骸から流れ出る鮮血によって、軽装鎧の前面の大部分は赤く染まっていた。
状況から察するに、青年の大切な人だったのだろう。
二人の別れを邪魔するのは気が引けたので、しばらくの間は青年が泣くに任せ、泣き声が小さくなったタイミングを見計らって声をかけた。
青年は、その時初めて俺達に気が付いたという表情でコチラを向いた。その瞳は、虚ろでありながら、奥底では憎悪に燃えていた。当然悲しみなどもあるのだろうが、青年の心の中には復讐心が滾っているようだ。
それでも話を聞こうとすると、唐突に青年が獣のように低く呻き出した。
【早期索敵警戒網】と【直感】が激しく警報を鳴らす。
その時点で『あ、やばい』と思った。背後にダム美ちゃんを庇うように立ち位置を変える。
青年は地面にそっと女性の亡骸を寝かせ、腰の剣を抜いて俺達に襲いかかってきた。瞳は相変わらずガラスのように虚ろなままだ。
どうも青年は、精神的な負荷に耐え切れず、暴走し始めてしまったらしい。
青年の全身から薄らと黒く汚れた魔力が放出される。それによって青年の速度は底上げされ、膂力も引き上げられているようだった。【狂戦士】系の【職業】でも獲得しているのだろうか。
まるで獣のような疾走速度と身のこなしで、青年は俺を殺す為に接近してくる。
俺の首を刈ろうとする青年の剣をガントレットで受け流そうとして――
[夜天童子の【異教天罰】が発動しました]
[これにより夜天童子は敵対行動/侵攻開始を行った《異教徒/詩篇覚醒者》に対して【終末論・征服戦争】の開戦を宣言しました]
[両者の戦いが決着するまで、夜天童子の全能力は【三〇〇%】上昇します]
[特殊能力【異教天罰】は決着がつき次第解除されます]
――唐突に脳内でアナウンスが流れた。
な、と疑問に思う前に、青年の斬撃を受けた衝撃をガントレット越しに感じた。
いまさら、止まる事はできない。だから、ただ動く。
そして五秒も経たず。
[決着がつきました]
[特殊能力【異教天罰】は解除されます]
[夜天童子は《異教徒/詩篇覚醒者》との【終末論・征服戦争】に勝利した為、報酬が与えられます]
[夜天童子は【陽光之魂剣】を手に入れた!!]
色々と突っ込み所がある脳内アナウンスが言うように、青年は俺達の前で気絶している。
暴走した事によって通常時よりも身体能力が飛躍的に上昇していたとは言え、その分理性などが消失し、ただ純粋に速く強いだけの攻撃を仕掛けてくる青年をあしらうのはかなり簡単だった。
むしろ、殺さないように手加減する事の方が難しかったくらいだ。
そもそも青年は最初からかなりのダメージを負っていたのに対し、俺は勝手に発動した【異教天罰】によって肉体が強化されていた。ただでさえ【孤高なる王の猛威】によって膂力が跳ね上がっていたのに、だ。
殴りでもすれば、確実に青年を即死させるほどのダメージを与えてしまっただろう。それは避けたかった。
だから、片足を一歩引いた半身の姿勢で青年の腹部に向けて腕を伸ばし、愚直に突っ込んでくる相手の突進力をそのまま返す事にした。
言ってみれば、青年は自分から鉄柱に突進して自滅した、という事になる。
そのダメージは青年が耐えられる量を超え、骨肉の軋む音と共にガクリと青年の肉体から力が抜けた。かなりの衝撃だったので、青年が目を覚ますまでにはそれなりに時間が必要だろう。
取りあえず所々骨が折れた青年が死なないように回復させて、眼が覚めるまで待つ事に。
その間に俺とダム美ちゃんは、村にばら撒かれている死体の処理を行う。分体も使って肉片の一つ一つを掻き集め、地面を掘り返して埋める。
この世界では、死体を野ざらしで放置しているとスケルトンやゾンビになる。だから戦場に残された兵士の亡骸は、モンスターになる前に埋葬されるのが普通だ。
俺としても、村人達の体がこのまま付近のモンスターに喰い荒らされ、ゾンビになり果てるのは少々不憫だったので、纏めて供養してやるのだ。
作業は十数分で完了した。
掌を合わせ、南無。冥福を祈る。
埋葬が終わったら、今度はまだ使える食器などを村から回収させてもらう。
このまま放置されてしまうくらいなら、俺達が活用した方が道具にとっても幸せだろう。
まあ、拠点でも色々と変化があり、日用生活品の補充がそれなりに重要なので丁度良かった、というのが本音なのだが。
死体を埋葬した手間賃として貰う、という事にしとこうか。
村中から使えそうなモノを片っ端からかき集め終えたのは、作業開始から二十分くらいが経過した頃だろうか。
まだ青年は起きる気配がないので、水球を造って顔に浴びせてみる。すると飛び起きた。
また襲いかかってくるかと思ったが、暴走は治まったらしい。
しばらくの間、青年は何が何やら、といった感じでうろたえていたが、強引に青年が抱き抱えていた女性と最後の別れをさせる。
青年は再び女性を抱き、涙を滂沱と流した。
二人の別れが済んだ後は女性の亡骸を埋め、改めて青年から話を聞く。
聞いた情報を纏めると、青年はこの村出身の平民なのだが、ある日突然【陽光の神の加護】を得た事で生活が一変したらしい。
どこから聞きつけたのか、【加護】を得て一ヶ月も経たない内に国からの使者がやってきて、青年を王都にある騎士や軍師を育成する学園に入学させたそうだ。
この世界に実在する神々から与えられる力――【加護】を有するモノは、それだけで超越した力を持つ。
同じくらいの技量の【加護】を持つ者と持たない者が戦えば、十中八九前者が勝つ。【加護】は神々の中で最も力の低い【亜神】によるモノですら、どれもこれも強力な力となる。
その為、国は【加護】持ち達を集め、他国に渡さないように囲い込むのだそうだ。しかも青年の場合はそれなりに保有者が居る【亜神の加護】ではなく、それよりランクが一つ上でより希少な【神の加護】だったから、より迅速に、より強制的に連れて行かれたらしい。
学園に入学してからは、貴族の坊ちゃん達の陰湿な妨害を受けたり、【神の加護】持ちの青年を引き込もうとするお嬢様方を相手に色々と苦労したそうだが、そこら辺はどうでもいいので省略するとして。
何故青年がこの村に帰ってきていたのかというと、村で生活していた幼馴染の女性を迎えに来たからだそうだ。青年は王都に行ってからも度々村に戻っては女性との繋がりを保ち、そしていよいよ結婚する事になっていたらしい。
政治的なしがらみもあったのだが、青年が努力して軍の中で一定以上の地位や王様の信頼を獲得し、ついにそれ等を撥ね退けたとのだという。まだ幾らかは障害が残っていたものの、それでも幸せだったそうだ。
当然昨日までは、だ。
今日、女性を王都に連れて行く為に青年が村に戻ってくると、村人のほぼ全員が既に喰い殺された状態だったらしい。青年は何が起こったのか理解できずに村を歩き回った末、そこで見た。
村で最後に生き残っていたあの女性が、駆け寄る青年に助けを求めて手を伸ばし、そして地面から出現した一体の大型モンスター――フィリポのペットと同じ【大鎧百足】だったらしい――によって、一瞬で下半身を食い千切られる瞬間を。
その後はよく覚えていないそうだが、青年は【陽光の神の加護】と軍で鍛えた力で、【大鎧百足】に一定以上のダメージを負わせて、コレを退散させる事に成功。
しかし本人が言うには、【大鎧百足】が退散したのは青年を恐れたからとは思えないらしい。
もしかすると、村人を喰って腹が膨れ、殺すのに手間取りそうな青年と対峙するのが面倒になったのかもな。
そしてどんどん冷たくなっていく女性の亡骸を抱きしめていたところに俺達が来た、という訳だ。
この世界ではよくある悲劇なのかもしれないが、俺には慰めの言葉が思い付かなかった。
説明してもらっている間も、青年の瞳には【大鎧百足】に対する憎悪が滾っていた。最初のような虚ろな瞳ではなく、確固とした意志がそこにある。
素材も良さそうな上、【加護】持ち……色々と使えそうだし、そうするべきだと【直感】も囁いたので、青年をスカウトしてみた。
お前が欲している、【大鎧百足】を殺せる力をくれてやるから、お前の一生を俺に捧げろ、と。
そして【大鎧百足】の飼い主には心当たりがあるぞ、と。
まるで悪魔の契約のようだ。
青年は、本当にそんな力をくれるのか、と聞いてきた。本当に殺す事ができるのか、アイツを知っているのか、と。
それに俺は、【大鎧百足】はもちろん、その背後に居るだろう敵さえも殺させてやると囁き、頷く。
数瞬だけ沈黙した後、結局青年は差し伸べた俺の手を掴んだ。力をくれるのなら、殺せるなら、何でも支払うのだそうだ。
俺が例のイヤーカフスを差し出すと、青年は迷わず耳に付けた。
これで契約は成された。
俺は青年――取りあえず復讐者とでも呼ぼうか――に【大鎧百足】を殺せるだけの力を与えねばならず、それと引き換えに復讐者という強力な部下を得る。
どちらも損はない。そう、損はない。
これからは、更に楽しい事になりそうである。
[夜天童子の【運命略奪】が発動しました]
[これにより《詩篇覚醒者/主要人物》である復讐者(シグルド・エイス・スヴェン)の運命が夜天童子の支配下に置かれた為、英勇詩篇〔輝き導く戦勇の背〕は世界詩篇〔黒蝕鬼物語〕に組み込まれます]
[最上位詩篇に組み込まれた為、国家詩篇〔シュテルンベルト〕から英勇詩篇〔輝き導く戦勇の背〕が永久に削除されました]
[詩篇転載の為、英勇詩篇〔輝き導く戦勇の背〕の《副要人物》である称号【妖炎の魔女】【守護騎兵】【簒奪者】【慈悲の聖女】保因者の【詩篇能力/特殊能力】は一時凍結されます]
[称号【妖炎の魔女】と【慈悲の聖女】は既に覚醒状態にあります。保因者の運命が夜天童子の支配下に置かれた時、特殊能力凍結を解除する事が可能になりました]
[称号【守護騎兵】と【簒奪者】は未覚醒状態です。能力を解放するには保因者の運命が夜天童子の支配下に置かれた後、定められた条件をクリアしてください]
[英勇詩篇〔輝き導く戦勇の背〕の《詩篇覚醒者/主要人物》の能力解放決定権は、掌握者である夜天童子に一任されました]
[以後、《詩篇覚醒者/主要人物》である復讐者(シグルド・エイス・スヴェン)の能力解放は夜天童子の意思によって行われます]
早速面白い事が判明した。
戦う前に流れたアナウンスからして、復讐者は俺と同じように――世界詩篇と英勇詩篇、という規模の差があるようだけど――【詩篇】と呼ばれる、この世界の神秘に携わるモノの一人だと推察できた。
しかも俺が【詩篇】を獲得した時のアナウンスには無かった《詩篇覚醒者/主要人物》とある事から、【詩篇】の中核を成す人物なのではないのだろうか。
うん、予想外だ。ビックリだ。
一通り驚くと冷静になれたので、簡単に情報を纏める。
どうも復讐者――シグルド・エイス・スヴェンという名前は分かったが、俺は今後も復讐者と呼び続けるつもりである――が《詩篇覚醒者/主要人物》としての真の能力を解放するには、俺の意思が必要なようだ。
意識すると、『能力を解放するかしないのか』という選択肢が脳裏に浮かんだ。
俺が望めば、何時でも復讐者の能力を解放できるようだ。
だから、今は解放しないでおく事にした。
能力を解放したら途端に【隷属化】の効果を弾かれたりしたら笑えない。
会ってすぐの人の誓いを完全に信じられるはずもない。もう少し復讐者について知ってからでもいいだろうさ。幸い、時間はいくらでもあるのだから。
それにしても《詩篇覚醒者/主要人物》や《副要人物》ってヤツは、他にも居るのだろうか……居るんだろうなぁ。フィリポの呟きからすると、【勇者】と【英雄】とやらがそれである可能性が非常に高い。
彼・彼女等は、きっとフィリポのように強いのだろう。という事は多分、その肉はとても美味いに違いない。
うん、敵対する《詩篇覚醒者/主要人物》や《副要人物》とやらを探し出して、ぜひ喰いたいものである。
いや、絶対に一度は喰ってやると心に決めた。
勝つと得られる特典とか、是非とも収集したいし。
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