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7巻
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《二百五十六日目》
【神】級の【神代ダンジョン】である【フレムス炎竜山】を無事に攻略した俺――アポ朗は、昨夜なんやかんやあった末に、三大欲求の一つを存分に満たした。
やっかいなフィールドボス達との度重なる激戦、直属の精鋭【八陣ノ鬼将】達の助けが無ければ高確率で死んでいただろうダンジョンボス〝灼誕竜女帝〟との死闘。それらを経てかなり溜まっていた諸々を発散できた事によって、一夜明けた今は心身共にスッキリ軽くなっている。
ただ、現在地はダンジョンである火山の最深部の為、気持ちのいい朝陽を拝めないのだけは残念でならない。もし拝めていれば、より清々しい朝を迎えられたに違いない。
それにここは少々蒸し暑く、加えて昨夜の行為によって全身が汗やら何やらで濡れているので、肌がベタついて爽快感が今ひとつ足りなかった。
だからか、この辺りに満ちているのが溶岩などではなく、適温の温泉だったら、と思う。そうであったならば、まずかけ湯で汚れを落とし、それからゆっくりと浸かった事だろう。最初は半身浴で身体を慣らし、ジワジワと温めて疲れが湯に溶け出していくのを楽しむのだ。そしてゆっくりと肩まで浸かった後は、クイッ、と用意していた酒を飲む……
その時に飲むのは何がいいだろうか。
長い年月をかけて熟成した、まさに大森林の至宝と言うべき美味なるエルフ酒か。
あるいは特定のダンジョンモンスターのドロップ品である、種類と数が潤沢な迷宮酒か。
はたまた以前[詩篇]をクリアして手に入れた、【鬼酒・銘[尽きぬ夜桜の一滴]】や【鬼酒・銘[鬼酔殺・無尽]】を解禁するのもいいかもしれない。
などと色々と想像していると、ゆっくりくつろげる《クーデルン大森林》の温泉が急に恋しくなった。
あの、浸かるだけで心身が生まれ変わるような素晴らしい温泉で、大好きな酒を好きなだけ堪能する――それがどれほど素晴らしい事か、外に出ている今は殊更強く実感させられる。
思い出してしまえば、懐かしさが止まらなくなった。ある種のホームシックみたいなものだろう。
最近は何かと働きすぎのような気もするので、そろそろ長めの休暇が欲しい。何も気にせず休暇を満喫できる場所といえば、やはり大森林の拠点となる。
日々成長を遂げている大森林近辺でも、まだまだやりたい事は多い。できるだけ早く帰れるよう準備を整えたい。そしてその時は、子供達も連れて行こう。
そんな、急に湧き出した願望と未来の確定事項については一先ず置いといて。
俺が朝起きてまずした事は、【金剛夜叉鬼神・現神種】という新たな身体の操作の確認だった。
【存在進化】したばかりの昨日は完全に持て余していたが、一夜をカナ美ちゃんと共に過ごした結果、既に大体の使い方を把握できている。能力値が跳ね上がったとはいえ、誰でもない自分自身の肉体だ。実際に動かしていれば自然と慣れる。制御できない訳がない。
しかしまだ完璧ではない為、不安定で頼りない部分がある。それを無くす為に幾つか簡単な武術の型を繰り返し、微調整を重ねて身体操作の習熟に努めた。
やはり、四本となった腕の扱いには特に苦戦させられた。
動かす事に違和感がある訳ではない。呼吸をするように、当たり前に動かせる。しかし二本の腕だった時と比べて、筋肉のつき方、神経や血管が通る場所、関節部の可動範囲、骨格の形状、連動する部位など、諸々が大きく違っている。そのため、殴る、という単純な動作でも力の入れ具合がこれまでとは異なるし、上半身のバランスの取り方も改めねばならない。
そういった訳で最初は困ったが、前世で特殊環境下において有効な多腕型の特殊パワードスーツを何度か使用した経験があったので、しばらく試しているうちに何とかなった。
まずは身体を自在に動かせるようになるのが目的なので、これまで体得していた技術や武術などを最適化、あるいは改良する作業は、我が永遠の親友ミノ吉くんと組手しながら考えようと思う。
そうして確認を始めて三〇分も経たないうちに、身体を動かすと自然と発生してしまう烈風や雷撃なども完全に制御下に置けるようになった。余程の事が無い限りは、不意の暴発による被害は出ないはずだ。これなら、周囲に無駄な影響を及ぼす事なく戦えるだろう。被害が出たら出たでどうにかするつもりだが、手間は省けるなら省いた方がいいに決まっている。
確認作業を終えた頃、丁度カナ美ちゃんが起きた。
まだ寝ぼけ眼で、ボンヤリとしている姿は非常に可愛らしい。上半身を起こして前面を薄布で覆い隠しただけのほぼ全裸なその姿は、非日常な周囲の光景と相まって、妖艶で背徳的でありながら神秘的だった。
【存在進化】したカナ美ちゃんの現在の種族は【氷血真祖・超越種】だそうだ。
【氷血真祖】とは【吸血鬼】という種族の始まりにして頂点――【始祖】に限りなく近いとされている【真祖】の一種で、種族特性からして氷と血の扱いに関しては並ぶ者がほぼいないという。
分体を使って各国から集めた情報によれば、こんな記録がある。
遥か大昔、極寒の地に生息し、気紛れに近隣諸国を蹂躙していた【氷河龍王】を相手に単鬼で挑んだ【氷血真祖】は、地形が大きく変化する程の激戦を三日間にわたり繰り広げた。そして最終的に長大な【氷河龍王】の肉体を六分割して殺害し、放置すれば環境を汚染してしまう多量の【龍血】を魔氷に変え、赤い魔氷原を形成したそうだ。
そこは現在も存在するらしいが、ここからは結構離れた場所のようなので、実際に行くのはまたの機会にする。
このように、【真祖】は【帝王】類に勝るとも劣らない強さを誇る。その【超越種】であるカナ美ちゃんは、実質的に【帝王】類よりも強い事になるだろう。複数の【加護】もある為、恐らくそれで間違いない。
《アタラクア魔帝国》の【魔帝】や《エストグラン獣王国》の【獣王】は[英勇詩篇]とよく似た[帝王詩篇]の《詩篇覚醒者》達だが、現在のカナ美ちゃんと一対一で戦えば、高確率で負けてしまうだろう。生物としての格からして、カナ美ちゃんは以前と比べ物にならなくなった訳だ。
そんなカナ美ちゃんは、まだ完全に覚醒していないからか、【氷血真祖】として最初から備わっている【魅了】の魔力を周囲に無造作に振りまいている。
まるで涸れぬ源泉の如く溢れ出る【魅了】の魔力が充満し、効果範囲内にいる生物の本能を剥き出しにさせてしまうある種の異空間が形成された。
それは、彼女の肢体を思う存分楽しんだ俺ですら魅せる程に強力で、思わずゴクリ、と唾を呑み込む。
仕草の一つ一つが艶めかしく、分かっていても目が離せない。俺以外の誰かがこの場にいれば、性別など関係なしに襲いかかって――その瞬間ひき肉にされそうだが――いたに違いない。
全く、カナ美ちゃんは最高だぜッ。
などという、やや【魅了】されたような状態で出てきた惚気も置いといて。今日も一日元気に活動する為に重要な、朝食の支度をする。
材料は、俺とカナ美ちゃんの目の前と、【異空間収納能力】の中にある。
つまり魔氷によって保存されている灼誕竜女帝の肉体と、収納しておいた〝紅蓮竜帝〟の肉体、そして各種調味料である。
当然ながら、二頭の竜を全て喰べる訳ではなく、肉体のごく一部を使うだけだ。本当なら九鬼が揃った状態で手をつけたかったが、残念な事に他の七鬼はここには居ない。
【存在進化】を終えるまで俺が蛹のような状態になっている間は休暇と皆で決めたらしく、カナ美ちゃん以外は好き勝手に動いているからだ。
迷宮都市《ラダ・ロ・ダラ》に造っておいた、総合商会《戦に備えよ》の子会社――迷宮商会《蛇の心臓》を拠点として買い物を楽しんだり。
迷宮で怪我をした者の治療を、相場よりも安い値段で行ったり。
迷宮都市近隣ながら危険地帯にある未発見鉱脈を探し当てたので趣味を兼ねて掘ったり。
修業として、近場で目撃情報のあったボスモンスターを討伐したり。
とある分野の濃厚な趣味を裏で布教したり。
そういった事情により、今回喰べられるのは俺とカナ美ちゃんだけだ。皆揃って『お疲れ様ー』と祝杯をあげたかったのだが、仕方ない。残念ではあるが、それぞれが思い思いに休暇を楽しんでいて、近くにいないのが悪いのだ。
それに、この食材を美味しく喰べるには味をよく知る必要があり、その為に俺が先んじて喰べておくのはむしろ当然である。
という事にしておこう。まさにどこにも隙のない、万全の建前武装である。
こんな馬鹿な建前を削ると出てくる本音はもちろん、こんな美味そうな肉を目の前にして我慢する事など、俺にはできなかったのだ。
今の俺を突き動かしているのは、極めて個人的でありながら、生物としては必須である、純粋なまでの食欲だった。
【存在進化】したからか、あるいは【世界の宿敵・飽く無き暴食】なんてけったいな能力を得てしまったからかは分からないが、以前よりもずっと早く腹が空くのである。
今も肉を見ているだけで腹が激しく鳴き喚き、口からは涎がこぼれそうになっている。
本能が、目の前の肉を喰らい疲弊した肉体を癒す上質なエネルギーを補給しろ、と訴えかけてくるようだ。
これに耐えるのは、流石の俺にもできそうになかった。理性の抑えはあれど、ここまで肥大化した本能には抗い難い。
それで、まあ、なんやかんやと――ツマミ喰いをするか否か――苦悩しながら調理していった。
灼誕竜女帝を覆う魔氷はカナ美ちゃんに溶かしてもらいつつ、竜肉を切り分ける。当然と言うべきだろうが、これが非常に切り難い。ドワーフ達が丹精込めて製造した、切れ味抜群のミスラル製の包丁ですら作業は困難を極め、少しでも無茶な使い方をすればほぼ確実に刃毀れしてしまう。
魔力による強化があったにしろ、あの巨躯を支えるだけあって、筋繊維一つ一つの強度や密度からして他の生物と比べものにならないくらい優れている。竜肉をモノともしない切れ味を誇る刃物でも無い限り、調理には高い技術と竜肉に対する深い知識が必要になるだろう。
倒す事もそうだが、調理する事も難しいとは、何とも難儀な奴である。その分期待は高まるのだが、それはさて置き。
拠点で俺の帰りを待っている姉妹さん達に渡して料理してもらう際には、俺が予め切っておいた方が良さそうだな、と心のメモに記しつつ、四つの銀腕を部分的に変形させて切り分けていく。
そうして出来たのは、三〇〇キロは軽く超えていそうな竜肉塊が積み重なった肉の山。元が元だけに、かなりの数に切り分けても一つ一つがまだこれほど巨大である。
流石にそのままでは調理し難いので、一つを更に細かく切り分けて、五キロ程度の肉片にしてみた。この肉片の数が総数六〇。それでも十分大きいが、これくらいのボリュームがあった方が喰べ応えはあるだろう。
そこまで調理を終えたところで、堪らず感嘆の溜息を漏らした。
何故なら、竜肉は魔氷によって新鮮なまま冷凍されていたとはいえ、死後数日が経過していようともまだ生きているかのような瑞々しい生命の輝きを発し、まるで宝石の如くであったからだ。いや、もはや宝石すら凌駕すると言ってもいい。
一度この輝きを見てしまえば、たとえ美食家でなかったとしても、全財産を出してでも喰べたいと思うに違いない。俺も自分の物でなかったら、たったひと口の為にも金を惜しまないだろう。
そんな至高の竜肉を、地面に置いた鉄板の上にポンポンと並べていく。マグマに囲まれたここでは、地熱によって鉄板はすぐさま高熱を宿す。その上で焼かれていく様を見ていると、流石は灼誕竜女帝の竜肉だ、とここでも感心させられた。
鉄板の温度は非常に高く、普通の肉なら僅かな時間で炭化してしまうだろうに、この竜肉はジワジワとしか焼けない。厚く切った事も原因だろうが、そもそもの性質からして炎熱に強いのは間違いないだろう。
ここ以外で調理する際には、肉をもっと薄くするか、通常とは比べモノにならない程の高熱を発生させる器具を用意する必要がある。
ところで何処かで聞いた話だが、肉や魚は強火でサッと焼くよりも、弱火でジックリと焼いた方が、肉汁がしっかり閉じ込められるらしい。
これが本当かどうかハッキリとは覚えていない。だが、戦闘中に軽く喰べた経験からして、失敗したとしても竜肉が不味くなる事はまず有り得ないと思う。今回はこの話を確かめるのに丁度いい機会ではないだろうか。
だから俺とカナ美ちゃんは、ただひたすらに焼けていく様を見続けた。
それにしても、巨大な竜肉が美味しそうな匂いを発するのをただ見ているに止めるには、強靭な精神力が必要らしい。
無意識に手が伸び、肉を掴む直前にハッと気がついて何とかそれを引っ込め、また手を伸ばし、なんて事を繰り返してしまったのだ。一〇回を超えた辺りで数えるのを止めた。
あまりにも暴力的に本能に訴えるその匂いは中毒性の高い違法な魔法薬よりも厄介だ。また竜肉の赤みが徐々に喰べ頃に変わっていく様子など目の毒で、身体を押さえていないと耐え切れなかった。
目を閉ざしてもみたが、しかしそれは逆効果だった。溢れ出る肉汁が鉄板の上で心地よく弾ける音が、より印象的に聞こえるからだ。
その他にも様々な誘惑が、何とか耐えんとする俺達をあざ笑うかのように、食欲を暴走させるべく訴えかけてくる。
だがそれらに勝利して、俺とカナ美ちゃんはついに焼けた竜肉を手に入れた。
滴る肉汁は神々しい黄金の光を纏い、芳醇な竜肉の香りは驚嘆すべき事に竜の幻影を浮かべている。ただ焼いただけだというのに、生の状態よりも遥かに美味そうだ。
思わずゴク、と唾を呑んだ。
この状態でも、今までの食べ物の中で一番美味いのは間違いない。だが、俺はジックリと焼いたにもかかわらずまだ生きているかのような気配を発する竜肉を、マジックアイテムの釜で炊いた迷宮産の白米に重ねて、大きな器の上に盛り付けた。
山盛りの白米と、積み重なる竜肉のコラボレーションである。
こうすると単品の時よりも更に美味そうで、もはや涎がこぼれるのを止められない。先ほどよりもゴクリと大きく唾を呑み込んで、愛用の箸で竜肉と白米を一緒に口に持っていく。ズッシリとした重さがまた堪らない。思わず笑みを浮かべてしまう。
待ちきれずに開いていた口に竜肉と白米がゆっくりと入ったら、香りすら逃がさぬようにサッと閉じる。
すると、俺の歯はまず竜肉を捉えた。そして抵抗らしい抵抗を感じる事もなく、竜肉に突き刺さる。
その瞬間、まるで喜劇のように大げさなリアクションと共に感動と感涙が溢れ出た。
非常に強靭であると共に柔軟でもある竜肉の高密度な筋繊維は、幾つもの層を形成している。柔らかい部分、硬い部分などその層ごとに食感は異なり、また味も変化していく。
様々な食感や味わいを楽しめるのだが、それでいて互いの味を打ち消す事は無い。むしろ引き立て合っていると言えるだろう。
しかもやはりジックリ焼いたからか、溢れ出る肉汁の量が半端ではない。たったひと口で、口内は満杯になったのだ。少しずつ飲んで減らさなければ、もう一度噛む事すら難しい。
この肉汁がまた美味い。飲み続けると、竜肉と同じく味が変化していくのである。まさに千変万化。幾ら喰べても飽きがこない。
喰べれば喰べる程に様々な顔を覗かせる奥の深いこの竜肉は、なるほど至高の肉である。しかも米にも肉汁が染み込んで、より深い味わいとなっているのだからもう堪らん。
しばしの間は、何も考えずに一心不乱に喰べ続けた。俺もカナ美ちゃんも、目の前にある全てを喰べ尽くすまで止まらなかった。
喰べ終わった後には流石に腹がプクリと膨れたが、すぐに目に見えて凹んでいった。あっという間に消化されたらしい。自分の肉体ではあるが、なんだか不思議な光景だった。
それで今回二頭を喰べ比べたところ、竜帝よりも竜女帝の方が肉質が若干柔らかく、味に深みがあって、個人的には美味いように感じられた。
しかしやや硬い竜帝の肉もそれはそれで捨てがたく、どちらも長所があり短所がある。
これには個体の強さの違いもあるが、雄と雌という性差も要因として考えられるだろう。
[能力名【炎熱無効化】のラーニング完了]
[能力名【竜帝の爆炸咆哮】のラーニング完了]
[能力名【灼熱の竜血】のラーニング完了]
[能力名【無尽なる竜帝の命精】のラーニング完了]
[能力名【炎熱吸収】のラーニング完了]
[能力名【下位竜生成】のラーニング完了]
[能力名【中位竜生成】のラーニング完了]
[能力名【上位竜生成】のラーニング完了]
[能力名【迷宮警備員・主任】のラーニング完了]
そして九個のアビリティをラーニングできたのだが……
……待て、ちょっと待て。
一つ変なのが混じっているぞ。
なんだよ、【迷宮警備員・主任】って。
これはあれか? あれなのか? 竜女帝は実のところ常日頃はゴロゴロしていたのか? もしくはグータラしていたのか? あるいは初めての挑戦者である俺が来るまでずっと喰っちゃ寝しながら待っていたのか? だから、こんなモノを獲得したのか?
それは分からない。分かりたいとも思わないが、ともかく。
獲得したのだから考えても仕方ないとして、これにはどんな能力があるのだろうか。
試しに『宝石出ろ』と思いながら床ドンしてみると、叩いた近くの地面が隆起し、掌サイズの赤い宝石が出現した。
パパッと鑑定して何の変哲もない宝石だと確信した後、パクリ、と喰べてみる。コリコリとした食感と、僅かな甘味。それなりの量の魔力を内包しており、中々に美味しい。
――しばし黙考。
今度は『宝箱出ろ』と思いながら床ドンすると、にょきりと宝箱が出現した。
開けてみると、様々な品が入っている。魔法金属や、魔法薬の類だ。
お土産に丁度良さそうだったので、さっさとアイテムボックスに収納した。
その後もしばらく色々と試してみると、これは俺が支配したダンジョン限定ながら様々な特権を素早く行使できる能力らしい、という事が分かった。
もちろん獲得したダンジョンは、【迷宮略奪・鬼哭異界】を使って設定を弄れば内部のモノを全て操作できる。が、下手を打てば周囲が全てマグマで満ちてしまうなどの大小様々なミスが発生する可能性があるので、一瞬の差が生死を分けるような緊急事態にあっては使い難い。
だが今回の能力ならば、瞬時に欲しい物を出現させたり、簡単な地形変化を行使したりする事が可能だ。一応限界はあるようだが、簡単な用事なら大抵は一動作でどうにでもなる。
何だこれ、と最初は思ったが、ダンジョン内ならばかなり使えるので、まあ良しとしておこう。
そうこうしつつ、夕方近くまでダンジョンの機能を掌握したり、【飽く無き暴食】について調べたりした。
ダンジョンの調整はまだ時間がかかるが、【飽く無き暴食】の方は比較的早く解明できた。
どうも、こいつは俺の【吸喰能力】と非常によく似た性質をしているらしい。
細々とした能力も幾つかあるようだが、メインは喰べれば喰べる程、保持者――つまり俺だ――の能力を向上させる事にある。
つまり俺は喰べる程に、【吸喰能力】と【飽く無き暴食】という二つの能力によって以前より二倍速く強くなっていく、と捉えればいいだろう。
これはかなり助けになりそうだ。その分以前よりも食欲旺盛になっているが、それはさて置き。
こうすれば能力がかけ合わさってラーニング確率が高くなるのだろうかとも思ったのだが、しかし現実はそう甘くないらしい。
というのは、俺が【存在進化】した為だ。【飽く無き暴食】で以前よりも吸収能力そのものは向上しているようだが、現在の種族【金剛夜叉鬼神・現神種】は強すぎて、ラーニング確率は以前より若干低くなったくらいだ。
もし【存在進化】しなければ以前よりも遥かにラーニングしやすくなったはずだが、もう後の祭りだ。今の種族を選んで失敗したとは思っていないし、ラーニング確率が極端に低下するのを防げたのだと考えれば、まあ仕方ない。
ともかく、謎が一つ解けたところで、ダンジョンを俺好みに改造する為に夜遅くまで頑張った。
ちなみに、俺の名前はアポ朗からオバ朗とした。夜叉朗やヤクシャ朗よりは、鬼神のオバ朗がしっくりきたからだ。一方のカナ美ちゃんは、カナ美ちゃんのままである。
本日の合成結果。
【下位竜生成】+【中位竜生成】+【上位竜生成】=【真竜精製】
《二百五十七日目》
昨日から今日の夕方にかけて黙々と作業した結果、ダンジョンの改造は一応の完成を見た。
【迷宮略奪・鬼哭異界】を行使すると、目の前に詳細な情報が表示された半透明の画面が浮かび上がり、それを操作すれば現実のダンジョンに反映されるようになっている。
最初は驚いたものだが、操作方法などはどことなく前世で使っていた機械端末と似ていたので、慣れればたいした苦もなく弄る事ができた。
ダンジョンの変更点については、細々と挙げればキリがないので、大きな変化をピックアップしてみよう。
まず、ここの名称は【フレムス炎竜山】ではなく、【鬼哭神火山】となっている。別に変えなくても良かったのだが、俺が攻略して支配したダンジョン――これからも増やすつもり――かどうかを分かりやすくした結果である。
次に、トラップの数や仕組みなどに俺の趣味が強く反映され、入ってきた獲物を逃さないよう、結構悪辣なモノが増えた。ただ攻略者を片っ端から亡き者にしては新規の攻略者が途絶えてしまうから、奥に進めば進む程極悪になるものの、比較的浅い場所はこれまでよりも簡単に進めるよう緩くしている。宝箱なども若干取りやすくなったので、以前よりも多くの攻略者達がやって来てくれるだろう。
それから出現するダンジョンモンスターに、マジックアイテムを狂わせる厄介な能力を秘めた〝ブラックグレムリン〟や、灼熱の溶岩で構成された悪魔〝デビルラーヴァ〟などを追加している。これらは単純な強さこそそれ程でもないが、攻略においては厄介となる能力持ちが多い。
そして最も大きな変化といえば、出現するフィールドボス達についてである。既存のモノだけでなく、新規のフィールドボスを数体加えてみたのだが、俺の加護の影響か新旧全てのフィールドボスの身体は黒く染まり、能力も飛躍的に上昇していたりする。ただでさえ強力な存在だったアイツ等が、更に強力になって攻略者達の前に立ち塞がる訳だ。
支配者としては非常に頼りになるが、攻略者の立場からすれば最悪だろう。ちなみに、フィールドボスの他にも普通のダンジョンモンスターより強力な個体が一定数存在するので、【鬼哭神火山】の全体的な難易度は【フレムス炎竜山】時代よりも数段上がっている。その分、倒した時に得られる戦果が前以上なので、実力者達はよりやる気になるのではないだろうか。
大きな変更点はこれくらいだ。他にも地形やら色々あるが、面倒なので省略する。
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タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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