Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐

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7巻

7-2

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 それで、ダンジョンの変更点とは関係ないが、設定している最中に気がついた事がある。
 なんと嬉しい事に、ここで死んだ攻略者から得られる経験値が、全てではないが俺にも流れ込んでくる仕様になっているらしい。
 浅い場所の難易度を下げたのも、挑戦しようとする者の数が増えれば増える程、効率よく俺自身のレベルが上がると思ったからに他ならない。現在の種族では、一レベル上げるのにも必要経験値が馬鹿みたいに多いので、正直このシステムは非常に助かる。
 ――哀れな獲物達よ、俺の為に挑戦するがいい。
 などと、背後から俺に抱きついているカナ美ちゃんと共に悪役の笑みを浮かべた。


 ここに留まる理由は無くなったので、これからカナ美ちゃんと迷宮都市《ラダ・ロ・ダラ》に向かう。だがその前に、ちょっとした夜空のデートを楽しむ事にした。
 現在は俺達二鬼とも、種族として元々保有する能力によって自在に空を飛べるようになっているのだが、今回は自分達の力を使うつもりはない。新しく手に入れた《使い魔ファミリア》の試乗も兼ねているからだ。
 新しい《使い魔》の名はタツ四郎しろう、種族は【古代炎葬竜エンシェント・フレメイションドラゴン】である。
 体長は約八〇メートルと、一部例外を除けば【知恵ある蛇/竜】としてもかなりの大型に属し、【帝王】類にも迫る巨躯を誇っている。
 巨躯を支える強靭な四肢には、鋼鉄のかたまりすら空気のように切り裂く高熱を纏う赤い鈎爪かぎづめが備わり、禍々まがまがしい赤黒い竜鱗や竜殻で覆われた胴体は生半可な攻撃では傷一つ付きそうにない。
 側頭部には立ち塞がるモノをことごとく貫く魔槍の如き四本の赤い竜角が、橙色だいだいいろに燃える炎の毛を備えたつややかな背中には二対四枚の巨大な竜翼が生えている。
 まるで宝石のような紅蓮の竜眼からは高い知性が感じられ、鋭牙が無数に並ぶ口内には煌々こうこうとした竜炎が見受けられた。
 全身から発散される存在感はあまりに濃厚で、【フレムス炎竜山】時代のフィールドボスだった竜帝と同等か、もしかするとそれ以上ありそうだ。
 そんなタツ四郎が何故俺の《使い魔》となっているのか。
 それは、遥か古代に死んで化石として眠っていたタツ四郎を、ダンジョン改造中の俺がたまたま見つけ、これ幸いと復活させたからに他ならない。
 こいつを復活させるのに必要だったのは、今回ではなく前回の【存在進化】時に得た能力――つまり【使徒鬼アポストルロード絶滅種エクスピシーズ】の保有スキル【化石復元】である。
【化石復元】は太古の化石を一定量用意しなければ発動できず、これまでは化石が無かったので未使用だったのだが、今回ようやくその真価を発揮してくれた訳だ。
 この古代竜を復活させてからしばらく観察して分かったのだが、タツ四郎の生来の気性は荒く、執念深いようだ。一度敵とみなせば、そいつが完全に炭化するまで執拗に追い続けるのだから。
 太古の世は現在よりも強靭な種族が多く、そんな時代を生き抜いたタツ四郎という存在は、追いかけられる側からすれば悪夢でしかない。
 だが復活させた俺には完全服従でかなりなついているし、何気ない仕草にどことなく愛嬌あいきょうがあって、中々可愛いものである。
 癒されつつタツ四郎に【騎乗】した俺と、俺に背後から抱きつくカナ美ちゃんは、夜の闇に紛れて【鬼哭神火山】から飛び立った。
 アッという間に高度数千メートルまで到達して雲を突き抜け、夜の雲海を見下ろしながら二鬼でしばしの飛行を楽しんだ。目的地まではあっと言う間だが、せっかくのデート、こうしたひと時も悪くないだろう。
 それにしても、こうして何かに乗って空を飛ぶのもいいもんだ。月明かりに照らされた雲海の美しさを見ていると、日々心と身体に溜まっていく何かしらが軽減されるかのようである。
 飛行中、様々な考えが脳裏をよぎった。
 俺が意識を無くしていた間に、面白そうな事が立て続けに発生していた。情報収集の為に各国に忍ばせている分体経由で知ったそうした流れは、様々な思惑で掻き混ぜられながら着実に進行中だ。
 規模がこれまでに無い程大きい事象なので、確実に乗り越える為には早めに行動を開始しておいた方が良さそうだ。
 もっとも、今までの地道な活動のおかげで、そこまで急を要する状況でもない。とにかくできるだけコチラの利益になるよう上手く転がすべく、これからも粛々しゅくしゅくと手を広げていくのみである。ああ、本当に楽しみだ。
 未来で手に入るであろう獲物を思っていると、カナ美ちゃんに小突かれた。
 少々考えすぎていたようだ。反省しつつ、デートを楽しむ。
 やがてそんな魅力的な時間も終わりを迎える。雲海の切れ目から迷宮都市《ラダ・ロ・ダラ》が見えたので、高度数千メートルを飛ぶタツ四郎の背から飛び降りて入る事にした。
 タツ四郎の姿が目撃されれば、混乱は必至。無用な混乱を招くのは宜しくない。だから俺とカナ美ちゃんは、夜空のスカイダイビングをしばし堪能したのだった。
 空からの不法侵入と言えるかもしれないが、そんな話は今更である。
 少なくとも、俺は気にしない。


《二百五十八日目》

 迷宮都市《ラダ・ロ・ダラ》にある、迷宮商会《蛇の心臓》の店舗。
 ここはかつて名を馳せた攻略者が膨大なアイテムと潤沢な資金を注ぎ込んで建築し、その攻略者が亡くなった後はついこの前まで数十人もの不法滞在者によって占拠されていた屋敷である。
 そこは現在、非常に繁盛していた。
 扱っている商品の大半は一級品。しかも値段は質と比べて手頃である。使用頻度は少ないが特定の場面では大いに活躍する細々としたモノも揃っている。
 一定の金額毎に押されるスタンプカードは、空欄が全て埋まると一定金額の値引き、または腕利きのドワーフ達による武具の手入れ一回無料サービスなどの特典あり。
 接客をしている店員は見目麗みめうるわしいエルフや【鬼人ロード】の女性が多い為、男性比率高めで攻略者達が多く訪れていた。店員に惑わされて鼻の下を伸ばす軟弱者も数多いが、一方でその他大勢に埋もれない猛者もさ達が真剣に商品の下見をしていたりもする。
 開店してからまだひと月も経過していないばかりか、大々的な宣伝もしていないにもかかわらず、何故こんなにも賑わっているのか。
 確かに開店セールや立地条件の良さ、新しく出来たという目新しさも客を呼んでいる一因だろう。しかし最たる原因は別にある。
 ここに攻略者達が集うのは、つい数日前、迷宮都市《ラダ・ロ・ダラ》に異形の集団がやって来たからだった。
 つまり、ミノ吉くん達の凱旋がいせんだ。
 先日【存在進化】した皆の種族は強力無比なものばかりであり、余所では支配者として国を治めているような種族が大半を占めている。そんな目立つ集団が迷宮商会《蛇の心臓》に迷う事なく直行し、そこでここ数日生活しているのだ。
 力こそ正義、という傾向が強い迷宮都市において、規格外の力を持つ存在が多数滞在する店を見に来る者が多いのは、当然といえば当然だ。そこに行けば彼らと縁を結べる可能性があるだけでなく、強者が贔屓ひいきするような店ならではの武具や雑貨を手に入れ、あやかりたい、と思う事だろう。
 せっかく俺が関わっている事をカムフラージュする為に迷宮商会《蛇の心臓》を用意したのに、この時点で本来の目的とズレているような気もするが、まあ起きてしまったことは仕方ない。
 実は迷宮商会《蛇の心臓》の店主――俺の変装だが――が俺達と知り合いで、その縁でミノ吉くん達が泊まっている、という噂話をさり気なく流す事にした。《戦に備えよパラベラム》の団員達には、人に聞かれればそう答えるように伝えておく。それでもダメな時は、開き直って別の案を考えればいいだけだ。
 ともかく、予想以上の繁盛ぶりを喜びつつ、【変身シェイプシフト】と【形態変化メタモルフォーゼ】によって誠実そうな金髪碧眼きんぱつへきがんの青年実業家風に外見を変え、柔和な笑みを浮かべ店主として常連客を獲得すべく接客した。
 他の都市なら、この選択で正解だったのだろう。誰だって、強面こわもてでヒトを頭から喰いそうなのより、優しく誠実そうな人物の方を信頼するに決まっている。
 だがここは迷宮都市。他の都市と同一視するのは不適切だったのだ。
 どうやらナヨナヨした外見だと舐められる傾向にあるらしく、変装した状態ではフザけたやからがうるさくさえずるようになったのだ。威圧して大幅な値下げを強要してくる者や、金を支払わずに商品を持っていこうとする者が続出してしまった。
 まあ、そんな奴らは一瞬で捩じ伏せ、とっ捕まえて、専用の暗室で色々とこの店の常識を叩き込んだりしてやって、ともかく頑張った。
 夜には皆で竜肉を使った宴会を、とも思ったが、ミノ吉くんとアスちゃんは都市外に居るので、明日にお預けになった。残念であるが、仕方ない。


《二百五十九日目》

 朝から、屋敷の中で一番豪華な内装の自室で溜まっていた書類を処理したり、集めたドロップアイテムを整理確認して販売する価格を決めたりなど、仕事にいそしんだ。
 昼頃にそれが終わると、今回の攻略で集めた宝箱――
 フィールドボス〝ヴォルカニック・ジェネラルエイプ〟からは宝箱【火猿将かえんしょうひつぎ
 フィールドボス〝マグマナイト・サーペンディア〟からは宝箱【螺王らおう墓守はかもり
 フィールドボス〝ラルヴォリック・ゴルドエレファリオン〟からは宝箱【巨象兵きょぞうへいひつぎ
 フィールドボス〝ヴォルケイン・ブルオークキング〟からは宝箱【猪王いのししおう霊廟れいびょう
 フィールドボス〝ブルーフレイム・デビルトォレント〟からは宝箱【悪魔樹あくまじゅ卒塔婆そとば
 フィールドボス〝トーラスデーモンロード・アーダーディア〟からは宝箱【灼牛魔しゃくぎゅうま遺物いぶつ
 フィールドボス〝紅蓮竜帝・フレルブ=イグナトス〟からは宝箱【紅蓮ぐれん帝墓ていぼ
 迷宮の主ダンジョンボス〝灼誕竜女帝・ムスタリア=イグナトス〟からは宝箱【女帝じょてい宝骸ほうがい
 ――を開け、中身を確認していく。
 前回の【清水の滝壺アクリアム・フォルリア】では五〇種類の品々を得る事ができたが、今回は何と一〇〇種類ものアイテムを得る事ができた。
 入っていた数は【火猿将の柩】と【螺王の墓守】が五種類と一番少なく、【巨象兵の棺】と【猪王の霊廟】は一〇種類、【悪魔樹の卒塔婆】と【灼牛魔の遺物】は一五種類、【紅蓮の帝墓】と【女帝の宝骸】は二〇種類と最も多かった。とはいえどれもこれも有用な物ばかりであり、戦力増強には欠かせない品々だ。
 特に武具は全て強力なマジックアイテムだっただけに、誰にどれを与えようか、かなり悩む事になった。実力に見合わない強すぎるモノを与えては成長を阻害してしまう恐れがあるのだが、誰にも与えずに保管するのでは非常に勿体無い。
 そうだな、最近ではチラホラ【鬼乱十八戦将きらんじゅうはちせんしょう】に目覚める者達が出てきたので、そちらに優先的に与えるのがいいだろう。
 悩んだ結果、それでも大半はアイテムボックスの中に眠らせておく事にしたが、幾つかは団員に与える予定である。
 そうしてなんやかんやとあわただしく過ごし、夕方になった。もうすぐミノ吉くんとアス江ちゃんが帰ってくるので、宴会の用意を進める。
 もう雪が降る事も無くなり、徐々に暖かくなり始めているので、汚しても後片付けが楽な屋外でバーベキューをする事にした。
 会場となる庭には至るところに〝永続光コンティニュアル・ライト〟の魔法が付与されたランタンが設置され、夜に対する備えは万全。団員達は明るいうちに準備を終えるべく、食器やら机やらをせわしなく用意していく。
 そんな様子を見ながら、銀腕をミートナイフに変形させた俺は、コンロ型マジックアイテムの前で仁王立ちした。
 目の前の台には、調理される事を待つ竜肉が鎮座している。相変わらず美しい輝きを放つそれを、俺はさばいていく。
 今回は切って焼くだけという簡単な料理法なのでブラさとさんが最適だとは思うのだが、それを察知したのか、彼女はスペせいさんと共に派生ダンジョンの一つに潜ってしまって現在不在である。一応罪悪感があるのか、ブラ里さんは『手土産にダンジョンボスを殺してくるから、見逃してよ』と言っていた。達成できなかった場合は何かしらさせるつもりだが、まあ間違いなく倒してくるだろうから、逃げた事に関しては気にしないようにした。
 相変わらず美味そうな竜肉を前にすると、気分が良くなってくる。今日は秘蔵の酒を皆に振舞ってやるか、と思っていると、数名の見知らぬ女を引き連れて廊下を足早に進むイロちゃんの姿を見つけた。皆揃って大量の紙やインク瓶や筆を抱えている。
鬼腐人フィメロット亜種バリアント】だったイロ腐ちゃんは、先日のダンジョン攻略時に【腐死鬼姫アーディハイド新種ニュスペシス】という種族に【存在進化】している。
 外見はそこまで大きく変化していないが、よりはかなげでか弱そうな雰囲気が追加された事により、大切に育てられた何処かの国のお姫様のように見える。
 だがふとした時に見せる何気ない仕草は蠱惑的こわくてきであり、瞳には隠しようのない退廃的で狂気的な薄暗い光を宿し、欲望を掻き立てるかぐわしい体臭の奥底には表現しがたい腐臭を隠している。
 そんなイロ腐ちゃん改めアイちゃんが、見知らぬ女達を引き連れて、とある一室に入っていった。そこはアイ腐ちゃんの個室なので、個人的に友人を招く事はなんら不思議な話ではない。
 そして何をするつもりなのかは、女達が浮かべていた奇妙な笑みから予想できた。
 きっと、『布教活動』に勤しむのだ。
 以前から【腐食の神の加護】を持っているからか、アイ腐ちゃんのとあるかたよった分野における布教活動の手腕は卓越しているらしく、日々順調に同好の士を増やしている。今の女達に見覚えはないので、きっと迷宮都市《ラダ・ロ・ダラ》で新たに獲得した仲間に違いない。
 温厚そうで清楚な【聖職者】やプライドの高そうな【貴族令嬢】、短髪で鍛えられた肉体を持つ現役の【冒険者】や変わった風貌の【画家】などが居るようだが、必要がない限り、個人の趣味に干渉するつもりは無い。
 趣味は個人の自由である。他人がどうこう言うものではないだろう。周りに迷惑をかけないのならば、勝手にすればいいと俺は思う。仮に俺達が彼女達ののモデルにされたとしても、あえて俺達がそれを知らなければいいだけだ。
 むしろ精神の安定の為に、俺は深入りしない。絶対にだ。
 という事で、見て見ぬふりをすべく別の方向に目を向けると、そこには以前は無かった王者の風格というか、支配者の貫禄というべきモノを備えたセイくんとクギちゃんが居た。どうやら今まで、セイ治くんが格安の報酬で行っている治療をクギ芽ちゃんが手伝っていたらしい。
 仲良く並び立ち、今日の晩飯を用意している俺達の所にゆっくりと向かってくる。美男美女で、非常に絵になる二鬼だ。
 現在のセイ治くんは【聖輝鬼王セイリーネスキング・亜種】に、クギ芽ちゃんは【九祇鬼姫くぎおにひめ・亜種】となっている。予想外といえば予想外だが、セイ治くんは【鬼王キング】の一種になり、ある種のカリスマを帯びている。
 相変わらず戦闘能力自体はかなり低い――あくまでも【鬼王】の中ではという事であり、平均的な【鬼人】程度ならば完勝できる――ようだが、治療能力において並ぶ者を探すとなると大変だ。
 まさか、両腕欠損に加えてへそから下がすっかり消失し、数秒後には確実に息絶えるはずだったブラックグレムリンを、一瞬で完全回復させるとは。生きてさえいれば、身体を半分以上欠損した状態からですら治せるセイ治くんは、これから大いに活躍してくれるだろうと期待している。
 クギ芽ちゃんは以前よりも綺麗になり、立ち振舞いがどこか洗練されていた。そしてその九つある眼を介した攻撃の威力や命中精度が向上したので、それなりに戦えるようにもなっている。
 だが最も特徴的なのはその感知能力だ。通常時でも俺がアビリティを駆使するより優秀だが、本気を出せば、広大な王都の数倍から十数倍の範囲をあます事無く感知できる。
 軍隊同士が各地でぶつかり合う戦争になっても、クギ芽ちゃんはそれらの戦場の全てを見透すだろう。敵が策を駆使しようとしても、全て事前に分かってしまう。ならば敵の弱点を容易に穿うがてるし、敵の反撃をいち早く叩き潰せるだろう。後方支援としてはこれ以上無い程頼りになりそうだ。
 そんな二鬼は、甲斐甲斐かいがいしく世話を焼く部下達が用意した場所で優雅に宴の始まりを待っている。
 どちらも団内では頂点に近い地位にいるのだから当然の待遇なのだが、ではトップであるはずの俺が何故こうして直々に肉を捌いているのか、と思わなくもない。
 まあ、カナ美ちゃんが隣で手伝ってくれているので、別にいいけどな。
 しばらくして、ブラ里さんとスペ星さん達が帰還した。キッチリとダンジョンボスのドロップアイテムという手土産付きで。だから、逃げ出した事に一言二言愚痴ぐちを浴びせてやった後は、適当にくつろいでいるように言っておく。
 それから更に時間が過ぎた頃、ミノ吉くんとアス江ちゃん達も帰ってきたので、いよいよバーベキューを開始した。
 皆一様に、まず金網の上に並ぶ竜肉を見て硬直し、立ち直ってからは嬉々ききとして喰べ始め、そしてそのあまりの美味さに仰天していた。滂沱ぼうだの涙を流し、ひざまずいて身を震わせ出す者も多い。
 皆一心不乱に喰べ続け、切っておいた全ての竜肉が無くなると、余韻よいんを味わいながらひと息つく。その後は竜肉の感想や仕事の進み具合などを話題にして盛り上がり、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎとなった。
 俺が三〇個程用意した大樽には、アルコール度数が非常に高い、高級品に分類される迷宮酒が入っている。それがまるで水のように消費されていった。飲み比べをしてすっかり酔っ払い、赤ら顔でふらついている者もかなり多い。夜でも活気がある迷宮都市でも、今夜はここが一番賑やかなのは間違いないだろう。
 やはり皆で飲む酒はいいもんだ。一人で飲む酒も美味いが、誰かと飲む酒も美味い。今、皆が楽しそうにしている様子を見ながら、隣に座っているミノ吉くんやカナ美ちゃん達と【鬼酒・銘[尽きぬ夜桜の一滴]】を飲み交わしていると、つくづくそう思う。
 竜肉は皆に振舞った代わりに、特別な酒である【鬼酒・銘[尽きぬ夜桜の一滴]】を飲むのは我々九鬼だけだ。他の団員が羨ましそうに見ているようだが、こればかりは振舞うつもりは全くない。
 それは、幹部以外に飲ませられるシロモノではない、という理由もあるが、なにせ竜肉との組み合わせが絶品だ。それぞれだけでも極上だというのに、組み合わせると更に何倍にも美味くなる。消費した分は時間経過で元に戻る酒とはいえ、誰彼構わず制限なく飲ませては肝心の俺達が楽しめん。これも階級格差だと思って諦めてもらうほかない。
 そうこうして、楽しい宴は夜遅くまで続き、後片付けをしてベッドに寝転んだ。
 睡魔は即座にやって来る。
 そして意識が沈む直前、脳裏に響いたアナウンス。


[赤髪ショート(ルベリア・ウォールライン)が【鬼乱十八戦将】に覚醒しました]
[称号【赤餓狼あかがろう】が贈られます]

 やはり赤髪ショートも数に入っていたかと思いつつ、俺は意識を手放した。


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