司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ

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第3章:神霊魔術

27.

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 翌朝、目が覚めた私は案の定二日酔いになっていて、早速二日酔いを癒す術式を自分にかけた。

「――ふぅ、すっきりした。
 この術式、本当に便利ね。
 どうして広まってないのかしら」

 今日は休日、図書館は閉館してるし、私はどうしたらいいだろう?

 ……そういえば、みんなはあの後、どうなったのかな?

 顔を洗いに一階に降りて行った私は、驚きで顎が外れるかと思うほど口を空けていた。

「な、なんでみんながまだいるの……」

 宴会部屋には昨日の面々が、そのまま残っていた。

 シルビアさんとサブリナさんは、部屋の片隅で眠っている。

 アイリスは、ヴォルフガングさんにもたれかかって眠っているようだ。

 まさか、あれからずっと飲んでるの?!

 私の声にフランツさんが振り向き、爽やかな笑顔で応える。

「ああ、おはようヴィルマ。よく眠れたかい?」

「う、うん。眠れたけど……なんでみんな、まだ残ってお酒を飲んでるの?」

 カールステンさんが少し眠たそうな目で応える。

「魔導議論が白熱してね。
 酒を飲みながら語り明かしていたのさ。
 私たちは魔導士でこそないが、魔導図書館の司書、魔導への探求心なら、負けていないからね」

「あ、あそこって魔導図書館だったんだ」

 魔導図書館――魔導書の収蔵を主目的とした図書館の別称だ。

 教養書や歴史書などは副次的なものに限られ、率先して魔導書を蒐集することを目的としている。

 ヴォルフガングさんがフッと笑みをこぼす。

「もちろんその通りさ。魔導学院付属は伊達じゃないよ。
 ただ、貴族子女の教育目的だから、一般的な魔導図書館と比べると、比率が一般書寄りだがね。
 教授職に就く前から、私が相談役として収蔵書物の選定を手伝ってきた。
 現在もオットー子爵夫人と共に、その作業に当たっているよ」

 私はテーブルの傍に座り込んで、お水をコップに注ぎながら尋ねる。

「なんだかヴォルフガングさんって、この図書館と古くから関わってたんですね。
 皆さんもヴォルフガングさんの教え子って話だったし、どういう関係なんですか?」

 ヴォルフガングさんがワイングラスを手の中で回しつつ、「ふむ」と応えた。

「十年くらい前かな。私がこの学院の臨時講師を務め始めたのは。
 ここに居るのは、その頃の教え子たちだよ。
 そうしていくうちに、生徒たちに魔導を伝える楽しさを知り、後進育成の楽しみを得た。
 若い才能が国を盛り立てていく様子を見て、私は教授職の道を選択したんだ」

 私は水を飲み干してから、テーブルに残っている料理を摘まみつつ尋ねる。

「王様は反対しなかったんですか? 確か、筆頭宮廷魔導士とかだったんじゃ?」

 ヴォルフガングさんがフッと笑った。

「最初は渋られたよ。私を手放したくないとね。
 だが私に頼りきりでは、次の世代で国力が大きく落ち込んでしまう。
 だからこそ新しい世代の瑞々しい才能を鍛え上げ、彼らに国を牽引してもらうべきだ、と説いた。
 最終的に陛下も納得し、そして今に至る」

 ファビアンさんがエールをちびちびと飲みながら、ヴォルフガングさんに尋ねる。

「ですが、後継者となる宮廷魔導士が居なかったのではないですか?
 当時からこの国はヴォルフガング様の一強状態。
 それだけヴォルフガング様が秀でた魔導士だというのもありますが、後継の筆頭宮廷魔導士は、さぞ苦労しているでしょう」

「キルヒナー侯爵が跡を継いでくれているが、私と比べるのは酷だね。
 彼も一流の魔導士、他国であれば胸を張れる実力がある。
 今は私なりに彼をバックアップしながら、国家を運営してもらっているよ」

 私はもぐもぐとお肉を咀嚼しながら考えて、それから発言する。

「んーと、つまり結局まだ、王様はヴォルフガングさんを頼ってるってことですか?」

 ヴォルフガングさんがニヤリと微笑んだ。

「そこは想像に任せよう。
 ――さて、ヴィルマが起きてきたからには、我々男性陣は帰るとしよう。
 女性の身支度の邪魔をしては悪いからね」

 頷いたフランツさんたちが立ち上がり、ヴォルフガングさんを先頭にして宿舎から出て行った。

 途端に室温が下がっていき、冷気が室内に入り込んでくる。

 ――寒い?! 何で急に?! いやそりゃあ、冬だけど?!

 私は慌てて玄関を閉め、暖炉に術式で火をくべた。

 ふわりと温かい空気が戻ってきて、室温が上がっていく。

 ん? なんとなく術式の残滓ざんしがある。んーとこれは……あ! 温度調節術式?!

 まさかヴォルフガングさん、一晩中温度調節術式の結界を張りながらお酒を飲んでたの?!

 お酒にも強いんだろうけど、よく魔力が足りたなぁ。

 図書館みたいな施設は、専用の魔導具による補助で術式を長期間維持できる。

 だけどここにそんなものはないから、自力の魔力だけで一晩中術式を維持していたことになる。

 一流の魔導士でも、そんなことができるという話は文献に残ってない――少なくとも、第五図書館の蔵書にはなかった。

 あー、その辺の話も聞いておきたかったな。


 私はまだ寝ているシルビアさんやサブリナさん、アイリスに毛布をかぶせると、顔を洗ってから入浴の準備を始めた。




****

 私がお風呂から上がってくると、女性陣も目を覚ましているようだった。

 シルビアさんが眠たそうな目で告げる。

「おはよう、ヴィルマ。みんなはもう、帰ったみたいね」

「はい、さっき帰りましたよ。徹夜で魔導に付いて語り明かすとか、みんな魔導が好きなんですねぇ」

 サブリナさんがクスリと笑った。

「そうじゃなきゃ、この図書館の司書になろうなんて思わないわ。
 特にヴォルフガング様は魔導フリーク、魔導が好きで、好きが高じて達人になられた方。
 語り出したら止まるわけがないのよ」

 なるほど、魔導好きの集まりだったのか。

 アイリスは毛布を畳むと、「私は後から入浴しますので、お先にどうぞ」と部屋に戻っていった。

「シルビアさん、サブリナさん、入浴してから帰ります?」

 シルビアさんが思案しながら応える。

「んーそうね。汗だけ流させてもらおうかしら。さすがにお酒臭いわ」

「はーい、タオル用意してきますね」


 二人の入浴が済むと、彼女たちは手際よく術式で髪を乾かしていく。

 さらに何かの術式を発動させると、部屋の中にふわりと花の香りが漂った。

「え、なんですか? その術式は」

 サブリナさんがニコリと微笑んだ。

「これは香水代わり、≪芳香≫の術式よ。
 こうした生活術式は、あまり魔導書に載ってないでしょうから、知らないのかしら」

 知らなかった……便利な術式があるんだなぁ。

 私が読んでいたのはどちらかというと、学術的な魔導書ばかりだ。

 生活術式なんてジャンルがあること自体、知らなかった。

 まだまだ世の中には、知らない魔導がたくさんあるんだなぁ。

「私にも、その術式使えますかね?」

 二人はニコリと微笑んで頷いた。




****

 食堂の厨房から職員がやって来て、食器類を回収していった。

「あれ? 食堂って休日も開いてるんですか?」

 シルビアさんが微笑みながら応える。

「そうよ? ここには反対側に学生寮もあるの。
 学生寮の生徒たちが食事をできるよう、食堂は営業してるわ。
 アイリスがお風呂から上がったら、みんなで朝食を食べに行きましょうか」


 アイリスが部屋に帰ろうとするのを呼び止め、彼女の同意を得てからみんなで食堂に向かうことにした。

「その前に――≪乾燥≫! そして≪芳香≫!」

 あっという間にアイリスの髪が乾き、ふわりとラベンダーの香りが漂った。

「……魔導って、便利なんですね」

 私はニコリと微笑んで告げる。

「さ、食堂に行こうか!」

 頷いたアイリスを連れて、四人で食堂に向かって歩きだした。
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