司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ

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第4章:異界文書

37.

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 王宮に向かう馬車の中で、私は魔力検知を使いながらヴォルフガングさんの魔術を観察していた。

 馬車を包み込むようなヴォルフガングさんの魔力が、雪を押しのけながら馬車が走っていく。

 これなら、雪対策をした馬車で走っていける。

「なるほど……こんな魔力制御でいいんですね」

 ヴォルフガングさんがニコリと微笑みながら応える。

「簡単だろう? だが馬車に乗ってる間、魔力展開を維持する必要がある。
 まだフランツたちでは、そこまで長時間の魔力制御はできない。
 今日の天気で学院にやってこれる人間は、そう多くはないだろう」

 それでも、厨房の職員たちは学生寮の生徒たちのためにきちんと出勤している。

 衛兵たちや雪かきを担当するような人たちも、歩いて出勤していた。

 魔導が使えなくても休めないとか、仕事って大変だなぁ。

「ところで、なんで私が王宮に呼ばれたんですか?」

「呼ばれたわけじゃないよ。私が連れて行くべきだと思ったから連れて行くだけだ」

 どういう意味だろう?

 小首をかしげていると、フッとヴォルフガングさんが笑みをこぼした。

「今回の異常気象、ひとつ心当たりがあってね。
 どうせだから君にも見てもらおうと、そう思ったのさ。
 おそらく陛下と話し合って、学院に魔導書を持ち帰ることになると思う」

「魔導書ですか? その魔導書が原因ということですか?」

 大雪を降らせるような魔導書なんて、あるんだろうか。

「私にもまだ確信はない。だが思い当たるものが、それしかない。
 今回の雪は異常だ。自然現象ではなく、魔導による現象――それは確かだと思う」

 そんな魔導書を学院に持ち帰る? 何をするために? 持ち帰って大丈夫なの?

 いくつもの疑問が湧いてきたけど、うまく言葉にならなかった。

「……どうなるんですかね」

「それは私にもわからない。全ては王宮に行って確認をしてからの話だ」


 馬車は雪道を静かに駆け抜け、王宮を目指していった。




****

 従僕が雪をかき分けて近づいてきてドアを開け、馬車を降りたヴォルフガングさんは、魔力のまゆをまとっているようだった。

 ――それで風雪を防いでるのかーっ!

 服が雪で濡れることもない。私に手を差し出しながら、ヴォルフガングさんが告げる。

「ヴィルマも同じようにやってごらん」

 私は言われた通り、見た通りに、自分の魔力を身体全体を覆う形に展開し、風雪が身体に届かないように弾いた。

 ヴォルフガングさんがニコリと微笑んで告げる。

「上出来だ。尤も、ヴィルマならできて当然だがね」

「ありがとうございます……」

 馬車を降りると、私たちは王宮の中に足を踏み入れた。


 ヴォルフガングさんは、王宮の従者に「陛下に謁見を」と伝え、別の従者が案内するままに歩いて行く。

 応接間に辿り着いた私たちは、ゆっくりとソファに座り込んだ。

 侍女たちが給仕してくれる温かい紅茶で身体を温めながら、黙って待った。

 やがて入り口に王様が姿を見せる――その顔は、なんだか弱り顔だ。

「よく来てくれたヴォルフガング。お前を呼ぶべきか、迷っていたところだ」

 ヴォルフガングさんが片眉を上げて王様に応える。

「では、やはり『異界文書マギア・エクストラ』が原因だと?」

 王様がゆっくりと頷き「おそらくな」と応えた。

 ――『異界文書マギア・エクストラ』! 魔導三大奇書の一つ!

 異界から転移してきたとか、異界の魔導士が執筆したとか、諸説ある魔導書だ。

 中身は見たこともない文字が書かれていて、今まで誰一人として解読に成功したことがないという。

 五百五十五年前に突如として歴史に現れたその魔導書は、何が記されているのか誰も知らない神秘の魔導書だった。

「なんでそんな本が、王宮にあるんですか?!」

 思わず立ち上がって声を上げた私に、ヴォルフガングさんが応える。

「ヴィルマが『神霊魔術アニムスルクス』の写本に成功しただろう?
 それを受けて、ある国が依頼をしてきたんだ。『異界文書マギア・エクストラを写本できないか』とね」

「ある国って、どこですか?」

「それは言えない。内密にして欲しいということだからね。
 そんな稀覯本きこうぼんを持っていると知られると、面倒が増える。
 所有者は伏せてほしい――それが先方の出した条件だ」

「だけど! 写本の成功が確認できたのは、つい最近ですよ?! まだ一か月も経ってません!
 どうやって他国がそれを知ったんですか!」

 ヴォルフガングさんがチャーミングなウィンクを飛ばしてきた。

「一部の魔導士たちには、独自の情報網がある。
 遠隔地にいる者と、ちょっとした情報交換ができる程度だがね。
 私はその情報網に参加する魔導士の一人だ。
 そこで情報交換をしているのさ」

「つまり、ヴォルフガングさん経由で情報が伝わったってことですか?!」

 ヴォルフガングさんが立ち上がりながら応える。

「そういうことさ――さて、『異界文書マギア・エクストラ』を見に行くとしようか。行くよ、ヴィルマ」

 歩きだすヴォルフガングさんの背中を、私は戸惑いながら追いかけて歩いた。




****

 王宮の奥まった部屋に私たちが辿り着くと、そこには魔導士風の人たちが大勢集まって話し合っているようだった。

 私やヴォルフガングさん、そして王様に気が付くと、魔導士風の人たちが一斉にこちらに向けて頭を下げた。

 王様が厳しい顔で告げる。

「何かわかったか」

 魔導士風の人が、蒼褪めながら応える。

「……いえ、我々ではまったく、何も」

 王様が深いため息をつき、ヴォルフガングさんに振り向いた。

「頼めるか、ヴォルフガング」

 頷いたヴォルフガングさんが、私の背中を押しながら奥に歩いて行く。

 奥には台座の上に安置された、一冊の書物。

 なにこれ?! 気持ち悪い魔力だなぁ?!

 あまりに異質なそれは、魔力として認識するのが難しく感じるくらいだった。

 ヴォルフガングさんが防魔眼鏡ヴェールをかけ、ゆっくりとした足取りで書物に近づいて行く。

 ということは、あれが『異界文書マギア・エクストラ』か。

 私も防魔眼鏡ヴェールをかけてから、ヴォルフガングさんの後を追った。

 近づくほどに異質な魔力が感覚を刺激してくる。

「なんですかこれ、魔導書がここまで魔力を迸らせてるのなんて、見たことないですよ?!」

 ヴォルフガングさんが楽しそうな声で告げる。

「ほぅ、さすがだね。ヴィルマには、これが魔力だと感じられるんだね?」

「ええまぁ……でも、とんでもなく異質です。これは早く封印しないと、外に悪影響が出ますよ!」

「そうだね、早速封印をしてしまおうか――」

 スッと両手を本に掲げたヴォルフガングさんが、何かの術式を展開していた。

 見たこともないほど重層で複雑なその術式は、『異界文書マギア・エクストラ』を挟み込むような魔法陣を空中に描き出し、共鳴するように高音が鳴り響いた。

 うわっ?! 耳障りだなぁ?! これは……結界魔術、のアレンジか。即興で組んだのかな。

 光のまゆにつつまれた『異界文書マギア・エクストラ』から、異質な魔力が感じられなくなると、その場を支配していた異様な空気も霧散するように消えて行った。

「――ふぅ、ひとまずはこれでいいだろう。
 誰か、外の雪がどうなったか、見て来てもらえないか」

 頷いた魔導士風の人が一人、部屋の外に駆け出していった。

 私はその背中を一瞥した後、『異界文書マギア・エクストラ』の黒い革製の表紙をまじまじと覗き込む。

「タイトルも著者名も、どこに何が書いてあるのかわかりませんね。
 装飾なのか文字なのか、判別ができないです」

 凹凸模様がいっぱいあって、まるでわざとわかりにくくしてるみたいだ。

 ヴォルフガングさんが「ふむ」と応える。

「陛下、これは学院に持ち帰った方がいいかな?
 ここにあっても、対応できる魔導士が居ないだろう」

 振り返ると、王様が大仰に頷くところだった。

「構わぬ。ヴォルフガングよ、お前に預ける」

 さっき外に駆け出していった魔導士風の人が、息を切らしながら戻ってきた。

「――雪が! 雪がやみました!」

 それは、この異常気象が『異界文書マギア・エクストラ』による現象だったという知らせだった。
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