司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ

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第4章:異界文書

49.

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『おいヴィルマ! 俺を壊すってどういうことだよー?!』

 泣きそうな声でマギーが叫んでいた。

 私は笑顔でマギーに応える。

「もちろん、本当に壊すんじゃないよ。
 私がマギーを二組写本して、片方を術式を使って経年劣化で崩壊させちゃうの。
 そしてその写本二組をグリュンフェルトに送り届ければ、マギーが回復したことは知られないよ?」

 王様が困惑した表情で告げる。

「だが、それでは『魔導三大奇書を破壊した』として、責任を追及されるだろう。
 それはどうするつもりだ?」

 私はふふんと胸を張って応える。

「壊すのはこの国でじゃなく、グリュンフェルトに送り返してから!
 一定期間で崩壊するよう、時限崩壊術式を仕込むんですよ。
 そうすれば、この国の責任を問うのが難しくなります!
 だって、輸送している人たちの責任になるからね!
 ……だめ、かな?」

 上目づかいでヴォルフガングさんを見ると、苦笑交じりで微笑んでいた。

「だがそれでは、ヴィルヘルミーナ王女が二冊も写本することになる。
 可能だと思うかい?」

「んー、マギーは三百ページもないし、休日返上で写本にあたれば、一か月で二冊分は届くんじゃないかなぁ」

 サブリナさんが疲れたような声を出す。

「あんた……本当に馬鹿げたことを考えるわよね。
 しかもそれを可能にする能力があるのが腹立つわ」

 ファビアンさんも困ったように微笑んでいた。

「まさか、『異界文書マギア・エクストラ』の写本二冊を一か月で終えられると想像できる奴は居ない。
 グリュンフェルトの目を欺く事はできると思う」

 カールステンさんがパーンと両手を打ち鳴らした。

「決まりだな! これ以上のプランはないように思える。
 あるなら今のうちに言ってくれ!」

 ヴォルフガングさんと王様が頷きあい、王様がみんなに告げる。

「では、ヴィルヘルミーナ王女の提案したプランを実行する!
 この場に居る者は、全面的にヴィルヘルミーナ王女をバックアップせよ!」

 私とお爺ちゃんとヴォルフガングさん以外のみんなが、深々と頭を下げた。




****

 王様の計らいで、図書館にお夜食が運び込まれて来た。

 時刻はまだ十九時、厨房が開いてる時間だ。

 みんなで応接間のテーブルを囲んで、わいわいと料理とお酒を楽しんでいた。

「だーかーらー! その王女ってのは止めてくださいよ!」

 フランツさんが戸惑うように私に応える。

「ですが、エテルナ王家の末裔なのは確かです」

 お爺ちゃんが横からフランツさんの頭を小突きながら、微笑んで告げる。

「何度も言わせんじゃねぇ。俺とヴィルマは平民――それで構わねぇんだ。
 亡国の王族だからなんだってんだ? 国を再興するつもりもねぇんだぞ?
 俺は農夫でヴィルマは司書。それ以上でもそれ以下でもねぇさ」

 フランツさんは苦笑しながら、何とか納得しようとしてるみたいだ。

 シルビアさんとサブリナさんが、私を守るように背後に立った。

「あなた、今日はお酒を控えなさいよ? 明日から大事な作業があるんだから」

「そうそう。二日酔い治しの術式に頼りっぱなしになるより、二日酔いにならないように気を付けなさい」

「はーい」

 仕方ないので助言通り、今夜の私は柑橘類のジュースを飲んでいた。

 私の前にはアルフレッド殿下が立っていて、お酒を飲みながら話しかけてくる。

「ヴィルマよ、お前が王族だというのであれば、我が妃とするのも悪くないかもしれんな」

「まだ諦めてなかったの?! 早く諦めてください!
 それにエミリアさんはどうするんですか!」

 殿下がグラスを揺らしながら応える。

「そこが悩ましい所よ。お前を第一夫人とするか、エミリアを第一夫人とするか。
 お前を第二夫人とするのが本来は正しいのだろうが、王族ならば格が問題となる」

「あーもう! 正しいわけがないでしょうが! まず私と結婚することを諦めてください!」

「それはできんな」

 背中からマギーの声が響いてくる。

『んー? ヴィルマにアプローチしてるのか?
 まだまだ尻が青いな。ヴィルマにそんな言葉は響かないぞ?
 こいつはまだ、心がお子様だからな』

「そのお子様に背負われないと満足できないマギーはなんなのよ?!
 いいから黙って私の魔力を食べてなさい!」

 お爺ちゃんが今度は、アルフレッド殿下の肩に腕を回して額を小突いていた。

「おぅ坊主、うちの孫娘に手を出そうとか、良い根性してんじゃねーか。
 ケツの青い坊主が手を出せる女じゃねーって、叩きこんでやらねーといけねーか?」

 殿下は余裕の笑みで応える。

「私を未熟と、そう言ったのか。
 お前もなかなか面白い男だな。
 さすがヴィルマの祖父だ」

 近くで並んで立っているカールステンさんとファビアンさんは、他人事のように明るい笑顔で飲んでいた。

「いやはや、殿下相手でも遠慮なくつっかかるとは、さすがは王族だねぇ。
 亡国とは言え王に匹敵する人間じゃ、殿下も相手をするのに苦労しそうだ」

「まったくだ。あの御仁は魔導の腕前も高そうに感じる。
 実際に喧嘩をしても、勝つのが難しそうだしな」

 私は思わずカールステンさんとファビアンさんに対して声を上げる。

「そこの二人! 見物してないでお爺ちゃんを止めるのを手伝ってよ!」

「おっと、王女様直々のお願いが飛んできたぞ? ファビアン行って来いよ」

「私が? ここはフランツに任せておくさ」

「――私か?! なんでそこで私の名前が出てくるんだ?!」

 カールステンさんとファビアンさんが顔を見合わせ、ニンマリ笑った。

「そりゃあお前」

「決まってるよなぁ」

 二人がフランツさんを見て、同時に口を開く。

「ポイント稼ぎ」

「なんのだよ?!」

 フランツさんが猛烈な勢いで二人に食って掛かった。

 ディララさんがクスクスと笑いながらフランツさんの肩を叩く。

「今のうちに好感度を稼いでおきなさいということよ。
 王族の末裔なら、親を説得しやすいでしょう?
 あとはあなたが覚悟を決めるだけじゃないの?」

 ヴォルフガングさんがワイングラスを片手にフランツさんに告げる。

「おや? フランツがヴィルマに何かをするつもりかい?
 それじゃあ、まずは私が相手になろう。かかってきなさい」

「――なんでそこで、ヴォルフガング様が壁になるんですか!」

 ……賑やかな職場だなぁ。みんながお互いを思いあって、良い結果を導こうと日々努力してる。

 こんな職場に就職できて、本当に良かったな。

 私はジュースを一口飲むと、フランツさんをからかう輪の中に加わっていった。




****

 みんなで図書館を出たところで、王様が告げる。

「今回の事は、ヴィルヘルミーナの双肩にかかっている。
 決してしくじることのないよう、細心の注意を払って欲しい。
 ――それと、お前に権限を与えるよう手配をしておこう。
 休日出勤をするのであれば、一人で図書館に出入りするくらいは出来ぬと困るだろう」

 あ、図書館の外では元通りの扱いなんだ。

 まぁこっちの方が私もしっくりくるし、ありがたいけど。

「いつから一人で図書館に入れるようになるんですか?」

「そうよな、次の休日には間に合わせよう。
 ――オットー子爵夫人よ、解施錠のやり方は、伝授しておくがいい」

 ディララさんが頭を下げて応える。

「はい、承りました」

 私はきょとんとして二人に告げる。

「やり方はもうわかってるから、大丈夫ですよ?」

 ディララさんが驚いたように顔を上げ、私の顔を見つめてきた。

「どういうこと? 誰かに教わったの?」

「先日、フランツさんが施錠処理をしてるところは見てましたから。
 施錠の術式と逆のことをやれば、解錠の術式になりますよね?」

「それはそうなんだけど……見てただけで?」

 ヴォルフガングさんが楽しそうに笑い声をあげた。

「ハハハ! ヴィルマの前で迂闊に術式を使うと、簡単に技を盗まれてしまうね!
 もうオットー子爵夫人の空調術式調整も、ヴィルマはできるんじゃないかな?」

「――え? できますけど、やっていいんですか?
 司書長の仕事だから、やっちゃいけないと思って手は出してませんけど」

 ディララさんは呆気に取られて、小さく口を開けていた。

 王様が頷いて告げる。

「休日の空調管理は、ヴィルヘルミーナが行うと良い。
 お前にその権限も付与しておこう。
 ――オットー子爵夫人が納得するなら、平日も担当させればよい。
 その方が負担は軽減されるであろう?」

 ディララさんは頬に手を当てて悩んでいるみたいだった。

「そうですわね……この子の魔導の腕前なら、心配することはないでしょうし。
 それじゃあ試しに一週間、やってみてもらっていいかしら」

「喜んで!」

 ディララさんの負担を軽減できるなら、頑張るぞー!

 みんなが解散していく中で、帰ろうとするお爺ちゃんを慌てて呼び止めた。

「待ってお爺ちゃん! 折角だから今夜は宿舎に泊まっていってよ!
 ベッドは私の部屋にしかないけど、一緒に寝れば大丈夫でしょ?」

 お爺ちゃんが私に振り向いて、苦笑を浮かべた。

「馬鹿野郎、年頃の娘が爺と一緒に寝ようとするな。
 そんなに寂しかったのか?」

 私は指先を胸の前で合わせながら、上目遣いで応える。

「寂しいっていうか、もう少し一緒に居たいなって言うか……」

 お爺ちゃんがため息をついた後、微笑みながら私の頭を撫でた。

「仕方ねーな。俺ぁ床で眠るが、それで良けりゃあ泊ってやる」

「床じゃ風邪を引いちゃうよ?! 今は冬なんだよ?!」

 お爺ちゃんはカカカと楽しそうに笑い声をあげた。

「その程度は魔力制御でどうとでもなる。
 お前ほど魔力は高くないが、朝まで魔導を維持するぐらいは俺でもできらぁ」

 そっか、それなら大丈夫かなぁ?

 私はみんなに「おやすみー!」と別れを告げ、お爺ちゃんの背中を押して宿舎に向かった。
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