神を拾った竜殺し~星の少年と炎の少女~・改訂版

みつまめ つぼみ

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第1章:神を拾った竜殺し

第10話 男たちの沽券(1)

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 竜峰山ドラゴンズ・ピーク下山三日目、順調に行けば、夕方にはふもとに着くはずだ。

 李スリットが背負われているアイリーンが、ぽつりとつぶやく。

「大人って難しいのね」

「急にどうした? 嬢ちゃん」

『リストリット殿下って――』

「殿下はやめてくれ。今まで通りで構わん」

 きょとんとしたアイリーンがうなずいて告げる。

『じゃあ――リストリットさんって、こんなに頼り甲斐があって、優しくて素敵な人じゃない?
 なのに意外な一面があるんだなーって。
 私はこんな大人になりたいような、なりたくないような、複雑な気分よ』

「んー? よく分からんが、何か嬢ちゃんの気分を害することをしちまったか?」

『私じゃないわ――ううん、なんでもないの。忘れて』

 ――何が言いたいんだ?

 リストリットは首をかしげたあと、何事もなかったかのように会話を始めた。




****

 間もなく夕暮れが迫る頃、四人はつい山麓さんろくまで辿たどり着いていた。

 リストリットは隠しておいた馬の無事を確認し、荷物を括りつけていく。

「野盗が出ると、ニアでは嬢ちゃんを守り切れん。
 俺の馬に嬢ちゃん、ニアの馬にノヴァが乗れ。それで構わんな?」

 ノヴァとアイリーンがうなずいた。

 四人が二頭の馬にまたがり、リストリットとニアがノヴァとアイリーンを抱えて馬を走らせた。

 四人は街道へ抜け、一路最寄りの町ピークスへと向かっていった。

 夜になっても馬を走らせ、深夜頃に野営をして眠りに就く。

 その甲斐かいあって、翌日の昼前にはピークスの町にたどり着くことができた。




****

 ピークスに着くと、リストリットはすぐに宿に入り二階の四人部屋を借りた。

 部屋に荷物を置くと、リストリットが告げる。

「俺とニアは魔力装填薬カートリッジを探しに行く。
 お前たちは部屋で待っててくれ」

 ノヴァとアイリーンがうなずくのを見て、リストリットたちは部屋を出ていった。

 残されたアイリーンはベッドに腰を下ろし、どこか居心地の悪さを感じていた。

 隣のベッドに腰掛けるノヴァの視線が気恥ずかしい。

 『お前を失いたくない』と言われてから、急にノヴァを一人の男性として意識しだしていた。

 自分にかけられた言葉の数々が頭をよぎる。

 『お前を一人にはしない』だの、『伴侶』だの、『孤独にしない』だの――。

 ノヴァの言葉は情熱的で、言いたい放題だった。

 そんな言葉が、自分好みの同年代男子の口からポンポンと飛び出るのだ。

 意識するなという方が無理がある。

 そんなノヴァに自分の全裸を見られた――恥ずかしさで転げまわりたい気分だった。

 ――ノヴァは神様! だからあれはノーカン!

 アイリーンは必死に自分に言い聞かせていた。

 だが二千五百年の未来に目覚め、周りには誰も残っていない。

 そんな中でただ一人、ノヴァだけは常にそばに居てくれた。

 父親ヴォルディモートの最後の言葉も、肉声を再現してまで聞かせてくれた。

 目が覚めてから孤独を感じた瞬間はなかったのだと、改めて気付いていた。

 この時代で自分の時代を知り、同じ言語を口にしてくれる唯一の存在。

 かけられる言葉も、込められた思いやりの数々が胸にみた。

 テディの鱗を渡してくれた時の言葉は、きっと一生忘れることはできないだろう。

 そうしてノヴァの言葉にひたっているうちに、ふと気が付く。

 ――ノヴァは今、どんな気持ちでいるんだろう?

 名前と神であること以外、思い出せないと言っていた。

 同類は他に居ない。神の魂を持つホムンクルスなど、前代未聞だ。

 せいぜいもっとも近い存在が人の魂を持つホムンクルス――アイリーンだけだろう。

 ノヴァは自分が居なくなった時、どうなってしまうのか。

 アイリーンがぽつりと疑問を口に乗せる。

『ねぇノヴァ。私たちの耐用年数はどうなるのかしら』

『アイリーンの設計耐用年数は起動後百年だ。
 今から百年程度は稼働し、その後機能を停止する』

 アイリーンが小首をかしげた。

『体を作り変えているのに?』

『魂との接続部の問題だな。
 魂魄安定装置から出た時点で、カウントダウンが始まっている。
 細胞をどれほど作り替えようと、魄との接続部は魔導工房がなければどうにもならん』

『ノヴァの耐用年数は?』

『この体の設計耐用年数は起動後三百年だ。
 お前を決して見送る側にはさせないという、硬い意志を感じるな』

 ノヴァは含み笑いを浮かべ、楽しそうに語った。

 アイリーンがノヴァに尋ねる。

『私が機能停止したら、ノヴァはどうなるの?』

『機能停止するまで、人の世で生き続けることになるだろう』

 『アイリーンを孤独にさせないために作られた存在だ』とノヴァは言っていた。

 そんなノヴァは、作られたときから孤独になることを宿命づけられていた、ということになる。

 それは、とても寂しいことではないだろうか。

『ノヴァは孤独じゃないの?』

『今は、お前が居る』

『私が機能停止したら、ノヴァは孤独になってしまわないの?』

 ノヴァがフッと笑みを浮かべた。

『……そうだな。だが神とは孤独な存在だ。
 うっすらと、そんな覚えがある。ならば特に問題はあるまい』

 ――そんなのは嘘だ!

 謎の確信がアイリーンの胸にった。

 ノヴァはアイリーンにこだわっていた。

 自分と共にろうとしていた。

 それは自分を孤独にさせないためだけじゃなく、孤独になりたくないからではないのか。

 時折見せる、捨てられた子犬のようなすがる目を思い出していた。

『私が居なくなった時、自分で機能停止すればいいんじゃないの?』

『神は自ら死ぬことができない。
 つまり、機能停止することもできない。
 そういう機能が、魂にないのだ。
 別の要因で機能停止するのを待つしかない』

『私は自分で機能停止することはできるの?』

『お前が望めば、いつでも機能を停止することができる。
 お前の父親ヴォルディモートはそう作っている。
 お前の魂は人間だ。ゆえに、お前は自ら機能停止を選ぶことができる』

 アイリーンはその事実に、心が引き裂かれるほどの悲しみを覚えた。

 ノヴァは自ら機能停止する機能すら、付けてもらえなかったというのか。

 せめてアイリーンが機能停止すると同時に、機能停止させることはできなかったのだろうか。

 ノヴァは神だ。神の魂を持っている。ならば耐用年数など飾りだろう。

 人間やホムンクルスと比較にならないほど、無限に近い力を内包した魂だ。

 魂が力尽きることはないだろう。

 自ら死ねないということは、身体機能に損傷を見つけたら、それを見逃すことはできない。

 損傷個所を修復して生き続けるのだ。人の世で、孤独に。

 誰かに破壊してもらうその日まで、ただひたすらに孤独を味わうことになる。

 それは、あまりにも残酷ではないだろうか。

 自分をここまで想ってくれる存在を、そんな残酷な世界に置き去りにしていいのだろうか。

 アイリーンは悩み、どうしたらいいか思案を巡らせた。

『……ねぇノヴァ。私の体はいつか、保守が不要になるように作り替えると言ってたわよね?』

『そうだ。魂の出力問題を解決するため、お前の体か魂に手を入れることになる』

 アイリーンはまっすぐノヴァの目を見つめて告げる。

『その時に、私を“貴方あなたと同じ時間を歩める体”にすることはできる?』

『……可能か不可能で言えば、可能だろう。
 お前の父親ヴォルディモートの知識と神の力を合わせれば、何とかなるはずだ』

 アイリーンが思い切って告げる。

『それなら、私に貴方あなたと同じ時間を歩ませて欲しいの。
 そういう体や魂に作り替えて、私にも貴方あなたの孤独を癒させて欲しいの』

 ノヴァは困惑したように眉をひそめ、アイリーンの目を見つめ返していた。
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