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第2章:星の少年と炎の少女
第20話 賓客の噂
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ジャクリーヌが去り、二人きりになった部屋でアイリーンが呟く。
『本当に優秀な教師だったわ。最初から最後まで態度が変わらなかったもの。とてもいい人ね』
『リストリットが手配した教師だ。それなりの人材を選んだのだろう』
ジャクリーヌと入れ替わるようにニアが姿を現す。
人払いがされた部屋で、ニアがノヴァたちの前に腰を下ろす。
「もう授業が終わったそうね。ジャクリーヌさんも驚いてたわよ?」
ノヴァとアイリーンが顔を見合わせる。
『ジャクリーヌさんの授業の成果、ニアさんにも見てもらいましょうか』
『そうだな。ではここからは、なるだけウェルバット語で会話をしよう』
アイリーンがニアに向き直って告げる。
「ジャクリーヌさんはとても優秀な教師だったわ。
それより、魔力装填薬の改善を早く何とかしないと。
そろそろ私たちの体にも悪影響が出る頃よ?」
ノヴァがアイリーン答える。
「それなら、これから僕らが口にする前に成分を調整してから口にすれば、問題は軽減できるでしょう。
ですがそんな手間をかけなくても良いように、改善を急ぎたいですね」
ニアが寒気を感じたかのように身を震わせた。
「……ねぇノヴァくん、なんなの? その言葉遣い」
「ジャクリーヌが教えた通りの言葉遣いですが、何か問題が?」
「問題と言うか……普段のノヴァくんの言葉遣いにはならないの?」
ノヴァがフッと笑みをこぼして答える。
「突然言葉遣いを変えたら怪しまれますよ。
それにジャクリーヌの責任問題となりかねません。
このまま生活するしかありませんね」
「ノヴァくんはそれで不満はないのかしら」
「不満? 特に感じてませんよ。問題ありません。
それより、どうやって毎日の魔力装填薬を調達してるんですか? 怪しまれません?」
ニアが小さく息をついて答える。
「今はまだ、私が実験に使う名目で離宮の在庫を持ち出してるわ。
でもそろそろ怪しまれる頃ね。
殿下の冒険者としての予算から、密かに調達することになるかもしれないわ」
ノヴァがニアに尋ねる。
「リストリットは顔を見せませんね。
今は何をしてるんですか?」
ニアが寂し気な笑みで答える。
「政務漬けの毎日よ。貴方たちの世話は、私が見ることになってるの。
何かあれば、殿下の指示を仰ぐことにもなってるわ。
だから心配しないで」
アイリーンが思案しながら告げる。
「ねぇニアさん。私たちはウェルバット語を覚えたわ。
魔法なしでも本を読むことができるくらいにね。
それなら、私たちが新しい薬を開発してもいいんじゃないかしら」
ニアが眉をひそめて答える。
「言語を知らなかった孤児が、新薬を開発するの? かなり怪しまれるわよ?」
「私たちが怪しまれる程度なら問題ないわ。
たまたま才能があったことにでもすればいいじゃない。
それに魔導に携わる者として、あんな粗悪な品が市場に流通してるのを放置できないわ」
ニアが呆気に取られながら答える。
「……もうそんな言葉まで覚えてるのね。
うーん、殿下に相談してみるわね?」
ニアがソファから立ち上がり、部屋を出ていった。
入れ替わりに監視役の世話係が部屋に入ってきて、ノヴァたちを静かに見張っていた。
アイリーンがノヴァに視線を送る――ノヴァが頷いた。
ここからは先史文明言語で話そう、という合図だ。
『ねぇノヴァ、貴方はどう思うの?』
『俺は構わんと思うが、リストリットが渋るのではないか?
それに、新薬を作る魔導工房を用意する必要がある』
『それならニアさんの魔導工房を借りられないかしら。
魔導士なのだし、自分の魔導工房くらいは持ってるはずよ?
今までの魔力装填薬の名目だった実験も、“新薬開発の為”と言えば怪しまれなくなる。
ニアさんの実験を私たちが見学して、一緒に開発したことにしたらどうかしら』
ノヴァが顎に手を置いて考えていた。
『……ニアに相談してみるとしよう』
しばらくして、リストリットがニアを伴い姿を現した。
すぐに人払いがされ、困り顔のリストリットがノヴァたちの向かいに腰を下ろす。
「お前ら、魔力回復薬の問題はわかるが、さすがにお前らが新薬を作るのは無理があるぞ」
アイリーンが微笑んで答える。
『それについては、いつも傍にニアさんが居てくれるじゃない?
ニアさんの魔導工房を見学していて、私たちが助言したことにでもすればいいんじゃないかって思って。
ニアさんが一人で開発したことにしてもいいわ。
とにかく早急に魔力回復薬をなんとかしたいの』
リストリットが頭を掻きながらニアに尋ねる。
「んー、ニアはどう思うんだ?」
「私一人で新薬を開発したことにするのは、やはり無理があります。
私は魔導薬学にそれほど造形があるわけではありませんし。
それに、他人の手柄を横取りする真似もしたくありません。
どちらにしても怪しまれるなら、ノヴァくんとアイリーンちゃんが開発したことにして頂けると、私も助かります」
リストリットが小さく息をついた。
「そうか……『お前が手ほどきをして、ノヴァたちが独自の視点から新しい薬を開発した』ぐらいが落としどころかもしれないな。
よしっ! それでいこう!」
ノヴァがニヤリと微笑みながらリストリットに尋ねる。
『それはそうと、リストリットよ。
お前とニアは、いつ正式に婚姻を結ぶのだ?
急いだ方がいいと分かっているのだろう?』
リストリットが視線を外しながら答える。
「あー、準備は進めている。それは安心してくれ。
だがすぐに『はい、今日から夫婦です』とはいかないんだ。
仮にも王子だからな。陛下の承認ももらわないとならん。
陛下が戻り次第報告をして、その後になる。
陛下もそろそろミドロアル王国から戻られるころだ。
陛下が前から賓客も呼んでいるらしいから、どんなに遅くても再来週には戻られる」
アイリーンが小首を傾げて尋ねる。
『あら、賓客ってどなたか偉い方が来るの?
それで王都の検問が始まっていたのね』
リストリットが頷いて答える。
「ああ、アルトゲイル皇国の女皇を呼んでいる。
テスティア女皇がこの国を訪問することになってるんだ。
『この国の技術水準を確かめたい』と言ってな」
アイリーンが眉をひそめて尋ねる。
『なぜ、技術水準を確かめたいのかしら?』
リストリットが肩をすくめて答える。
「さぁな。テスティア女皇は、定期的にそういう名目で各国を訪問するんだ。
あの国はエウセリア中央審査会を牛耳る国だ。そのせいじゃないか?」
ノヴァが眉間に皺を寄せて尋ねる。
『なんだ? その“中央審査会”というのは』
「この大陸の大国で構成される、技術審査機構だよ。
大きな戦争につながりかねない、危険な技術の流通を防止するのが目的らしい。
新しい技術を開発すると、そこに届けて承認をもらわんと市場に出せないんだ。
各国に支部があって、新薬も同じように審査を受ける必要がある」
ノヴァが不機嫌そうに答える。
『なぜそう思うかはわからんが、不愉快だな。
それでは技術が進歩するのを阻害するようではないか』
アイリーンが頷いて告げる。
『躍進的な技術というのは、悪用すれば簡単に危険なものになるわ。
それを全て抑制していたら、当然文明の発達に影響が出る。
現在の技術水準が低いのは、その影響なのかもしれないわね』
リストリットがため息交じりで答える。
「そうかもな。だが、エウセリア国際法で決まっていることだ。簡単には変えられん。
まぁ、今はともかく新薬を作るのが先だ。
――ニア、後は任せる。早々に完成するよう手伝ってやってくれ」
『本当に優秀な教師だったわ。最初から最後まで態度が変わらなかったもの。とてもいい人ね』
『リストリットが手配した教師だ。それなりの人材を選んだのだろう』
ジャクリーヌと入れ替わるようにニアが姿を現す。
人払いがされた部屋で、ニアがノヴァたちの前に腰を下ろす。
「もう授業が終わったそうね。ジャクリーヌさんも驚いてたわよ?」
ノヴァとアイリーンが顔を見合わせる。
『ジャクリーヌさんの授業の成果、ニアさんにも見てもらいましょうか』
『そうだな。ではここからは、なるだけウェルバット語で会話をしよう』
アイリーンがニアに向き直って告げる。
「ジャクリーヌさんはとても優秀な教師だったわ。
それより、魔力装填薬の改善を早く何とかしないと。
そろそろ私たちの体にも悪影響が出る頃よ?」
ノヴァがアイリーン答える。
「それなら、これから僕らが口にする前に成分を調整してから口にすれば、問題は軽減できるでしょう。
ですがそんな手間をかけなくても良いように、改善を急ぎたいですね」
ニアが寒気を感じたかのように身を震わせた。
「……ねぇノヴァくん、なんなの? その言葉遣い」
「ジャクリーヌが教えた通りの言葉遣いですが、何か問題が?」
「問題と言うか……普段のノヴァくんの言葉遣いにはならないの?」
ノヴァがフッと笑みをこぼして答える。
「突然言葉遣いを変えたら怪しまれますよ。
それにジャクリーヌの責任問題となりかねません。
このまま生活するしかありませんね」
「ノヴァくんはそれで不満はないのかしら」
「不満? 特に感じてませんよ。問題ありません。
それより、どうやって毎日の魔力装填薬を調達してるんですか? 怪しまれません?」
ニアが小さく息をついて答える。
「今はまだ、私が実験に使う名目で離宮の在庫を持ち出してるわ。
でもそろそろ怪しまれる頃ね。
殿下の冒険者としての予算から、密かに調達することになるかもしれないわ」
ノヴァがニアに尋ねる。
「リストリットは顔を見せませんね。
今は何をしてるんですか?」
ニアが寂し気な笑みで答える。
「政務漬けの毎日よ。貴方たちの世話は、私が見ることになってるの。
何かあれば、殿下の指示を仰ぐことにもなってるわ。
だから心配しないで」
アイリーンが思案しながら告げる。
「ねぇニアさん。私たちはウェルバット語を覚えたわ。
魔法なしでも本を読むことができるくらいにね。
それなら、私たちが新しい薬を開発してもいいんじゃないかしら」
ニアが眉をひそめて答える。
「言語を知らなかった孤児が、新薬を開発するの? かなり怪しまれるわよ?」
「私たちが怪しまれる程度なら問題ないわ。
たまたま才能があったことにでもすればいいじゃない。
それに魔導に携わる者として、あんな粗悪な品が市場に流通してるのを放置できないわ」
ニアが呆気に取られながら答える。
「……もうそんな言葉まで覚えてるのね。
うーん、殿下に相談してみるわね?」
ニアがソファから立ち上がり、部屋を出ていった。
入れ替わりに監視役の世話係が部屋に入ってきて、ノヴァたちを静かに見張っていた。
アイリーンがノヴァに視線を送る――ノヴァが頷いた。
ここからは先史文明言語で話そう、という合図だ。
『ねぇノヴァ、貴方はどう思うの?』
『俺は構わんと思うが、リストリットが渋るのではないか?
それに、新薬を作る魔導工房を用意する必要がある』
『それならニアさんの魔導工房を借りられないかしら。
魔導士なのだし、自分の魔導工房くらいは持ってるはずよ?
今までの魔力装填薬の名目だった実験も、“新薬開発の為”と言えば怪しまれなくなる。
ニアさんの実験を私たちが見学して、一緒に開発したことにしたらどうかしら』
ノヴァが顎に手を置いて考えていた。
『……ニアに相談してみるとしよう』
しばらくして、リストリットがニアを伴い姿を現した。
すぐに人払いがされ、困り顔のリストリットがノヴァたちの向かいに腰を下ろす。
「お前ら、魔力回復薬の問題はわかるが、さすがにお前らが新薬を作るのは無理があるぞ」
アイリーンが微笑んで答える。
『それについては、いつも傍にニアさんが居てくれるじゃない?
ニアさんの魔導工房を見学していて、私たちが助言したことにでもすればいいんじゃないかって思って。
ニアさんが一人で開発したことにしてもいいわ。
とにかく早急に魔力回復薬をなんとかしたいの』
リストリットが頭を掻きながらニアに尋ねる。
「んー、ニアはどう思うんだ?」
「私一人で新薬を開発したことにするのは、やはり無理があります。
私は魔導薬学にそれほど造形があるわけではありませんし。
それに、他人の手柄を横取りする真似もしたくありません。
どちらにしても怪しまれるなら、ノヴァくんとアイリーンちゃんが開発したことにして頂けると、私も助かります」
リストリットが小さく息をついた。
「そうか……『お前が手ほどきをして、ノヴァたちが独自の視点から新しい薬を開発した』ぐらいが落としどころかもしれないな。
よしっ! それでいこう!」
ノヴァがニヤリと微笑みながらリストリットに尋ねる。
『それはそうと、リストリットよ。
お前とニアは、いつ正式に婚姻を結ぶのだ?
急いだ方がいいと分かっているのだろう?』
リストリットが視線を外しながら答える。
「あー、準備は進めている。それは安心してくれ。
だがすぐに『はい、今日から夫婦です』とはいかないんだ。
仮にも王子だからな。陛下の承認ももらわないとならん。
陛下が戻り次第報告をして、その後になる。
陛下もそろそろミドロアル王国から戻られるころだ。
陛下が前から賓客も呼んでいるらしいから、どんなに遅くても再来週には戻られる」
アイリーンが小首を傾げて尋ねる。
『あら、賓客ってどなたか偉い方が来るの?
それで王都の検問が始まっていたのね』
リストリットが頷いて答える。
「ああ、アルトゲイル皇国の女皇を呼んでいる。
テスティア女皇がこの国を訪問することになってるんだ。
『この国の技術水準を確かめたい』と言ってな」
アイリーンが眉をひそめて尋ねる。
『なぜ、技術水準を確かめたいのかしら?』
リストリットが肩をすくめて答える。
「さぁな。テスティア女皇は、定期的にそういう名目で各国を訪問するんだ。
あの国はエウセリア中央審査会を牛耳る国だ。そのせいじゃないか?」
ノヴァが眉間に皺を寄せて尋ねる。
『なんだ? その“中央審査会”というのは』
「この大陸の大国で構成される、技術審査機構だよ。
大きな戦争につながりかねない、危険な技術の流通を防止するのが目的らしい。
新しい技術を開発すると、そこに届けて承認をもらわんと市場に出せないんだ。
各国に支部があって、新薬も同じように審査を受ける必要がある」
ノヴァが不機嫌そうに答える。
『なぜそう思うかはわからんが、不愉快だな。
それでは技術が進歩するのを阻害するようではないか』
アイリーンが頷いて告げる。
『躍進的な技術というのは、悪用すれば簡単に危険なものになるわ。
それを全て抑制していたら、当然文明の発達に影響が出る。
現在の技術水準が低いのは、その影響なのかもしれないわね』
リストリットがため息交じりで答える。
「そうかもな。だが、エウセリア国際法で決まっていることだ。簡単には変えられん。
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