神を拾った竜殺し~星の少年と炎の少女~・改訂版

みつまめ つぼみ

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第2章:星の少年と炎の少女

第30話 初授業

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 ムシュメルトに案内され、ノヴァとアイリーンは教室に足を踏み入れた。

 教室の中には同い年の男女が三十人ほど、興味津々で二人に視線を注いでいる。

 ムシュメルトが教壇きょうだんに立ち、生徒たちに声を張り上げる。

「今日からクラスに編入することになった、新しいクラスメイトです。仲良くしてください」

 ノヴァとアイリーンはムシュメルトに促され、教壇きょうだんの前に立った。

「僕はノヴァ・ウェルシュタインです」

「私はアイリーン・ウェルシュタインです」

 生徒たちからまばらな拍手が浴びせられた。

 ムシュメルトに促され、ノヴァとアイリーンは空いている席へ腰を下ろした。

「では授業を開始します。教科書を開いてください」

 こうして、二人の学園初日が開始された。




****

 授業は魔導理論だった。

 『魔力がどこからきて、どこへ行くのか』。その現在の理論が教科書に沿って進められる。

 アイリーンは退屈で眠くなりかけながら、必死に眠気と戦っていた。

 前を向いたままのアイリーンがノヴァに告げる。

『どうしようかしら。
 魂の定義がない状態で魔力を論じても、何の意味があるのか分からないわ……』

『頑張って耐えておけ。初日から居眠りなどしては、心証が悪くなるぞ』

 先史文明――アイリーンの時代では、ホムンクルス製造技術によって魂の解析が進んだ。

 それにより魔導理論が大幅に書き換わったのだ。

 全ての魔導理論は『世界と魂の定義』を前提としており、魔力もまた、魂を根拠にした力だった。

 つまり魂の定義が認知されていない現代の魔導理論は、はるかに稚拙ちせつで頭打ちになる袋小路の理論なのだ。

 これを退屈と思わずにいるのは、アイリーンに取って耐えがたい苦痛だった。

つらいわ……ねぇノヴァ、認識阻害魔法で眠ってることを隠しておいてもらえない?』

 ノヴァが微笑ほほえみながら小さく息をついた。

『仕方ないな、魔導理論の時間だけだぞ?』

 ノヴァから了承を得たアイリーンは、そのまま机でうつぶせになり、ストンと意識を手放した。

 そんなアイリーンの顔を、ノヴァは楽しながめていた。




****

 授業が終わる間際まぎわにノヴァに起こされ、アイリーンが目を覚ます。

 それと同時にムシュメルトが手を打ち鳴らし、声を上げる。

「では休憩時間とします」

 言い終わると、ムシュメルトは教室から出ていった。

 その途端とたん、ノヴァとアイリーンの周囲に人だかりが生まれた。

 気安い女生徒がノヴァにたずねる。

「ねぇねぇ! アルトゲイルの皇族って話は本当?!」

 ノヴァは曖昧あいまいうなずいて答える。

「ええと……どうやら、そう伝わってしまっているみたいですね。
 ですが正式な皇族ではないんですよ。
 なので、皇族だとは思わないでください」

 別の男子生徒が二人にたずねる。

「殿下たち、同じウェルシュタインだよな? 親戚か何かか?」

 アイリーンが眉をひそめて答える。

「んーと、ウェルシュタインは偽名のようなもので、親戚でもなんでもないのよ」

 別の女生徒が興味津々にたずねる。

「じゃあお二方はどういった関係なのかしら?」

 アイリーンが微笑ほほえんで答える。

「伴侶よ。私とノヴァは婚約者なの。生涯を共に在ると誓い合った間柄よ」

 周囲の生徒たちから冷やかしの声が上がる。

 興奮した女生徒が口を開こうとしたその時、一人の女生徒が大きく手を打ち鳴らした。

「皆様、お二方のご迷惑よ。それ以上は控えなさい」

 叱られた生徒たちは、人だかりを解散させて席に戻っていった。

 アイリーンがその女生徒に頭を下げる。

「ありがとうございました。助かりました」

 女生徒がニッコリと微笑ほほえんで答える。

「とんでもありませんわ。クラスメイトがご迷惑をおかけしました。
 私はディール公爵家のセレンですわ。よろしくお願いします」

「アイリーン・ウェルシュタインよ。
 公爵家だなんて、凄い方もいらっしゃるのね」

 アイリーンの言葉に女生徒――セレンが口元を手で隠して笑った。

「あら、何を仰るの? アルトゲイル皇族の方が格は高いわ。
 我が国の王族より、ずっと書く上でしてよ?」

 ノヴァが横から告げる。

「先ほども言った通り、僕らは正式な皇族ではありません。
 身分なんてないようなものですよ」

 セレンが華やかに微笑ほほえんだ。

「では、そういうことにしておきますわ。ノヴァ殿下」

 ノヴァが苦笑しながら答える。

「できれば、その『殿下』もやめて欲しいところなんですが」

「それは無理よ。学園中にあなた方が皇族であることが周知されているもの。
 ノヴァ殿下やアイリーン殿下を呼び捨てにしたら、それこそ外交問題になりますわ」

 にこりと華やかに微笑ほほえみ続けるセレンに対し、ノヴァは黙り込んでしまった。

 親しい友人でもないのに大国からの賓客ひんきゃくの敬称を省略するなど、有り得ない話だ。

 一般常識を持つのであれば、そこは控えざるを得ない。

 ノヴァはため息をついて答える。

「わかりました。貴女あなたの好きになさってください」

 アイリーンはノヴァが敗北するところを見て、どこか新鮮な気分にひたっていた。




****

 休憩時間が終わると、ムシュメルトが戻ってきて二限目の授業が開始された。

 今度は魔法術式の座学――術式の解説と暗器を行う授業だ。

 理論よりはマシだが、アイリーンは眠気に抗うのに必死だった。

「ねぇノヴァ、やっぱり魔導に関する授業はつらいわ」

「ホムンクルスは本来睡眠を必要としない。なぜそうも眠くなるのだ?』

 睡眠をとれないわけではない。機能自体はあるのだ。

 だが通常、ホムンクルスは睡眠をとらずに活動できる生命体だった。

 アイリーンが小首をかしげて答える。

『なぜかしら……魂が人間だから?』

 ノヴァがうつむいて考え込み、アイリーンに答える。

『……ああ、わかった。お前の頭脳は元の“アイリーンの頭脳”を設計図としている。
 より人間に近い特性があるのだろう。
 お前の父親ヴォルディモートもまさか、ここまで人間に近い特性になるとは思っていなかったようだがな』

『それはどうしようもないわね……。
 お父様は私を再現したかったのでしょうし。
 人間の私を複製元とする以上、避けられないことなのね』

『ではどうする? また認識阻害させて眠っておくか?』

 アイリーンがうなずいて答える。

『じゃあ、あとはよろしくね』

 いうが早いか、再びアイリーンは夢の世界へ羽ばたいた。

 安らかな寝息を立てるアイリーンの顔を、ノヴァはまた楽しそうにながめていた。




****

 授業の終わりにアイリーンが起こされ、再び休憩時間になった。

 だが生徒たちは次々と席を立ち、教室の外へ移動を開始していた。

 アイリーンが通りかかった女子生徒に声をかける。

「みんな、どこに行くの?」

「次の授業は魔法技術の実技ですもの。
 休憩時間中に外に移動しなければならないの」

 アイリーンが微笑ほほえんでうなずいた。

「そう、ありがとう――ノヴァ、私たちも移動しましょうか」

 アイリーンはノヴァと共に、生徒たちのあとに付いていった。
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