ふたりきりの閉鎖倶楽部

きどじゆん

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人間たちの置かれた状況

#5

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「あー、もう。なんだかスッキリしてる自分が嫌だわ」
 と言いつつ、ナンナは俺と向き合った。警戒しているのか、対面で話すには少し遠い間合いをとっている。
「それで、聞きたいことがあるから答えなさい」
「いいぞ。答えるとは限らないけど」
 いちいち腹立つやつ、というつぶやき。まあ、今は会話に飢えているから、よほど答えづらいものでなければ答えるんだが。

「ここどこ? こんなとこに連れてきてどうするつもり?」
「待て、前提がおかしい。そもそも、俺が先にここに居て、後からやってきたのはあんたの方だぞ」
「あの、変な嘘つくぐらいなら答えなくていいんだけど」
 いやいや、と手を振って否定する。
「俺が寝ていると突然、あんたがあの木の陰から歩いてきたんだよ。その後で気を失ったんだ」
 嘘をつく。
 あんたは空から落ちてきたんだよ、という真実は語りにくいというか、真実の方が嘘っぽく思われそうだ。
「はあ、それホント? なんか嘘言われてるような気がするんだけど」
 疑わしいものを見る目だ。それは俺の目に照準を合わせていた。
 意外とナンナは鋭い。これが女の勘というやつか。

「わかった。真実を話そう」
「最初から話せばいいのに……」
「ーー実は俺は怪盗なんだ。君のことを盗んできたんだ」
 重ねて、下手な嘘をつく。
 こう言えば、おそらく呆れた彼女はこの話題を聞き出そうとするのを諦めるだろう。俺が真実を話す気がない、と気づいて。
「え、あんた怪盗さんなの? ホントに?」
「……ああ、そうだ」
 ヤベえ。まさか、まさかだ。
 俺には怪盗についてなんの背景もネタもアイデアもないのに。こいつ、話を広げようとしてきやがった!
「ねえ、教えてよ。どうして私を盗んだの、私以外の人じゃいけなかったの? 私を選んだ理由は何?」
 あまつさえ、ニヤニヤと笑っていやがる。なんで嬉しそうにしてやがるんだ。
 ーーこうなってはもう、やるしかない。
 嘘を嘘で塗り固めて、ついでに泥沼に基礎工事もしてやって、最新のネタを惜しげもなく投入して、どれだけ疑おうと崩されることのない、完璧な虚像を作り上げるしかない!

 まずは怪盗の名前として適当にでっち上げた西洋人の名前を使ってみよう、と息を吸った、その時だ。
 天からか、森からか、それとも地面からか。
 どこからともなく女の声が聞こえてきた。その存在を強調するように、言葉に重みを乗せているように、その声は鷹揚で、慈しみのある声色だった。
 だが俺は覚えているぞ、この声はアイツだ。
 神を名乗る邪神こと悪魔的存在。生贄を定期的に欲しがり、人間の望みを叶える代わりにでかい代償をはらわせる系の詐欺師だ。詳しく知らんが、たぶんそう。
 俺をここに閉じ込めた張本人が、悪びれることもなく、俺とナンナに語りかけていた。
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