ふたりきりの閉鎖倶楽部

きどじゆん

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人間たちの置かれた状況

#6

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「よくやりましたね、人間よ……貴方ですよアナタ、とぼけた顔をしているそこの男です」
 俺のことを指しているらしい。だが、こいつに褒められても嬉しくないというか、騙そうとしているのではとか、疑心暗鬼になってしまう。
「やれやれ、嫌われたものです。しかし私はあなたを許しましょう。人はあやまちを犯すもの……たとえあなたが心の中で、私のことをどれだけひどく貶そうとも、許しましょう」
 どうやら、俺の脳内モノローグはこいつに筒抜けで、すべて聞かれていたらしい。
 ふむ……そういえばこいつ、俺好みの声してるな。好きな女性声優さんそっくり。
 姿は見えないが、声からして楚々とした女性の姿をしているのだろう。それでいて胸元が大胆に開いた純白のドレスとか着てて、金髪ロングだったら拝み倒すね、間違いない。
 あと、胸がでかかったら揉ませてほしい。
「……本当にどういう神経の図太さなのか。神に対してあれだけ侮辱する言葉を生み出しておきながら、あまつさえ、そのような欲望までも。一度頭蓋骨を左右に割ってその中身を確かめてみましょうか。なにか興味深いものがみつかるかもしれません」
 あ、ごめんなさい、調子に乗りました。反省してます、本当です。

 それはさておき、という声。
 あえて空気の重さが溜まるまで待ってから、神ーー個人的希望で女神と呼ぶーーは話しだした。
「人間の男よ、あなたはここでの役割を見事に果たしました」
「え?」
 突然言われても困惑する。
 もうちょっとわかりやすくお願いします。神様ってばイジワルさん。
「最初に伝えたとおりです。あなたはここで待っていなければならないと。そして、あなたが待たねばならなかったのは、そこの女性です」
「……え、急に私? いきなり話振らないでくれない?」
 今度はナンナが困惑する番だった。
 まあ、彼女の視点では、目が覚めたら見知らぬ男がいて、そいつと話していたら、今度はどこからともなく声が聞こえてきた、という突飛にもほどがある状況なわけで。俺が彼女だったら文句を一ダースほどブッパしているところだ。
 彼女がそうしないということは、俺よりも人格者なのだろう。もしくは、汚い言葉のストックと負の感情のチャージが足りていないだけか。
 ーーそれか、それができるほどの気力や体力がないか、だ。

「そして、あなたの役割というのは、そこのーーナンナという名ですか? 彼女が落ちて来たところで、彼女を受け止めることです」
 と女神が俺に言った。「落ちてきたってなにそれ、どこから!?」と、ナンナが驚愕している。
 え、マジで? それ本気で言ってる?
「私は真面目に言っています」
 メチャクチャ痛かったんですけど。
「少しぐらい痛くても男なら我慢しなさい、というのがあなた方の生活圏での暗黙の了解のはずですが」
 だからどうした、隠れてないで姿見せてこっち見ながら言ってみろやチキン野郎。
 少しぐらいだ? こちとら痛みで死ぬかと思ったぞ。
「あら、今からそれを再現してもいいのですよ? 今度はそう、本来負うはずだった傷の半分ぐらい、おまけしてあげましょう。あなたのその『態度』から鑑みて、どうやらそれをお望みのようですから。大丈夫、死にはしませんよ。貴方の住居の近場にあるナントカツリーぐらいの高さから飛び降りて地面に衝突しても死なない程度に頑丈なら、という前提はありますが、それが十二分に満たされていれば貴方は死にません……神は嘘を言いませんよ」
 身を投げ出して土下座する。
 この女神が本気かどうかは想像つかないが、こいつにそれだけの力があるのはわかる。俺をここに連れてきたのはこの女神だ。この空間に状態変化を無くす特性を与えたのもこいつで、その目的はナンナが俺に衝突したときに生じるエネルギーを打ち消すためだろう。
 人間の体はほぼ水分でできている。あまりにも高いところから地面へ叩きつけられたら飛沫となって散り散りとなることだろう。
 おらぁ、そんな死に方イヤだ。
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