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人間の男『カイトウ』の事情と記憶ーーその後に記録終了
#26
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くそう、何だ、何が起こっている。
まるで俺の心が浄化されていくみたいに、視界がまばゆく輝いている。天から光が注いでくる。
ナンナの言葉で俺が、俺の心が浄化されることなどあるはずがーーーー!
「カイトウさんも、もし良ければ……勝手に私を心の拠り所にしてくれていいんだよ」
心の拠り所、『錨』とは一体……うごごご!
ーー待てよ。
よくよく辺りを見回してみると、周囲に広がる森まで薄くなっていって……いやこれは、この閉鎖空間が、光に包まれている?
そうか、去り際に女神が言ったとおりなんだ。
あいつは、ナンナが『もうここには居られない』と真に思えるまでは、俺たちはここに閉じ込められたままだと言った。
そしてさっき、ナンナは言っていた。元の世界に帰りたい、と。
その結果がこの状況。
この閉鎖空間はもうすぐ消え去り、俺とナンナは現実世界に帰れる。
「なんだか、お別れっぽい感じだね」
とナンナが言った。
その瞳には涙はもう無い。彼女は微かな笑みをたたえていた。
ーーこのタイミングで優しい言葉を勝手に探してるの、何なの。
過去の俺、優しすぎじゃないか?
「じゃあ、カイトウさん元気でーーって言いたいところだけど、一つだけ教えて欲しい」
「別に構わない」
「カイトウさんの名前、教えて欲しい」
「私の名は怪盗ジャック。またの名をーー」
「そういうのもういいから。最後ぐらいちゃんとして! ……私に、カイトウさんの本名を教えて欲しいんだ」
そういえばお互い本名を名乗ってなかったな、長々と話したくせに。
「つまらん名前だ。カイトウの方が呼びやすいと後悔しても知らないぞ」
「それでもいい。どんな名前でも、きっと覚えていられるから」
光に包まれていて、ナンナの表情どころか姿までも見えなくなっている。
もはや聞こえているかどうかも怪しいが、俺は言うことにした。
仮に伝わらなかったとしても、それはそれで構わない。
彼女はこれから自分の生活に戻る。
きっとVの配信活動で忙しいから、俺の名前なんて長く記憶に残らず、いずれ風化することだろう。
ただーー俺の拙い記憶には、彼女と過ごした時間が長く残りそうな予感がした。
彼女の了承を得ること無く、自分勝手に。
「俺の名前はーーーー」
そして、光は途絶えた。
まるで俺の心が浄化されていくみたいに、視界がまばゆく輝いている。天から光が注いでくる。
ナンナの言葉で俺が、俺の心が浄化されることなどあるはずがーーーー!
「カイトウさんも、もし良ければ……勝手に私を心の拠り所にしてくれていいんだよ」
心の拠り所、『錨』とは一体……うごごご!
ーー待てよ。
よくよく辺りを見回してみると、周囲に広がる森まで薄くなっていって……いやこれは、この閉鎖空間が、光に包まれている?
そうか、去り際に女神が言ったとおりなんだ。
あいつは、ナンナが『もうここには居られない』と真に思えるまでは、俺たちはここに閉じ込められたままだと言った。
そしてさっき、ナンナは言っていた。元の世界に帰りたい、と。
その結果がこの状況。
この閉鎖空間はもうすぐ消え去り、俺とナンナは現実世界に帰れる。
「なんだか、お別れっぽい感じだね」
とナンナが言った。
その瞳には涙はもう無い。彼女は微かな笑みをたたえていた。
ーーこのタイミングで優しい言葉を勝手に探してるの、何なの。
過去の俺、優しすぎじゃないか?
「じゃあ、カイトウさん元気でーーって言いたいところだけど、一つだけ教えて欲しい」
「別に構わない」
「カイトウさんの名前、教えて欲しい」
「私の名は怪盗ジャック。またの名をーー」
「そういうのもういいから。最後ぐらいちゃんとして! ……私に、カイトウさんの本名を教えて欲しいんだ」
そういえばお互い本名を名乗ってなかったな、長々と話したくせに。
「つまらん名前だ。カイトウの方が呼びやすいと後悔しても知らないぞ」
「それでもいい。どんな名前でも、きっと覚えていられるから」
光に包まれていて、ナンナの表情どころか姿までも見えなくなっている。
もはや聞こえているかどうかも怪しいが、俺は言うことにした。
仮に伝わらなかったとしても、それはそれで構わない。
彼女はこれから自分の生活に戻る。
きっとVの配信活動で忙しいから、俺の名前なんて長く記憶に残らず、いずれ風化することだろう。
ただーー俺の拙い記憶には、彼女と過ごした時間が長く残りそうな予感がした。
彼女の了承を得ること無く、自分勝手に。
「俺の名前はーーーー」
そして、光は途絶えた。
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