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捜索開始
#9
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行方不明の宝塚アンナに似た容姿のアンドロイドが、ジャンクショップで『スマホ』を購入していた。
黒居さんからもたらされたその情報の重要性は僕には評価できない。
アンナを捜索する役に立つのか、立たないのか。
アンナを含む家事用アンドロイドの『PRM-λ』シリーズは、見た目に個体差が出にくい。
所有者がアンドロイドに個性を持たせようとしない限り、容姿が変化することはない。
逆に、所有者がこだわりぬいて奇抜な恰好をさせていることもあるという。
しかし、このあたりは雑誌で読んだだけの実体験を伴わない知識なので、世のアンドロイド所有者たちが、着せ替え人形よろしくアンドロイドにそのような恰好をさせているのか、僕にはよくわからない。
では、最も身近なアンドロイド所有者である宝塚雄志がどうであるかというと……世間的にはどうなんだろう、あの恰好は。
もちろん僕はアンナがどのような装いをしているか知っている。
ただ、それが奇抜であるかどうか僕には判別できないだけだ。
「メイドさんといえばコレ」とでも言わんばかりのクラシックなエプロンドレスに身を包み、腰の位置には進化の過程で間違って生えてきた羽みたいに大きなリボンがある。そうは言っても、絵画の中の天使みたいに大きい羽根ではなくて、せいぜいカラスと猛禽類の羽根の中間くらいのサイズしかない。
髪の色は亜麻色、ミディアムレングスのストレートヘアーで、後ろ髪は仕事の邪魔にならないようアップにして目立たない位置に固定している。
これくらいなら奇抜でもなんでもなくて、「ただの家政婦の恰好じゃないか」という感想を抱いて終わるのだがーー実は今挙げたものには、アンナの『装備』が含まれていない。
雄志の両親は、どうやら心配性らしい。あるいは過保護か。
僕の両親が妹のかな子に対して過保護を発揮するみたいに、子供の万難を排する方針を持っているように邪推してしまう。
アンナの衣装の中には、家事用アンドロイドの装備として製造元企業からオフィシャルに販売されている、非常用および護身用アイテムが大量に詰まっている。そしてそれらは雄志の両親に装備するよう命じられたものだ、と雄志は教えてくれた。
ソーイングキットに始まり、小型ランタン、携帯用トイレ、編み込みロープ、発煙筒、組み立てて使えば杖程度の長さにはなるであろう伸縮式の警棒、その他多数。
ぱっと見では数多くの装備を服に収めている様子はないのだが、所有者本人がそう言っているのだから事実なのだろう。腰のリボンが無駄に大きいのも、装備品の収納のためにそうなっているらしい。
服装は地味だが、中身が奇抜、とでも言えばいいだろうか。
これらの理由により、僕には「宝塚アンナが奇抜であるかそうでないか」が判別できないのだった。
「そうだねー、そのあたりは私も里見ちゃんと同じ意見かな。ユウくんのうちのアンナちゃんは地味だよ、見た目だけなら確かにそう。だけどなんていうのかな……そう、行動だ。行動が奇抜なんだよね。恰好っていうよりは」
「どういうことです?」
と僕は言った。
僕と雄志が入居しているマンションの管理人の森さんは、マンションのエントランスにあるテーブルに肘を預けながら、返事をした。
僕は森さんの対面に座っているから、予期せぬ形で彼女の顔が接近してきて焦った。
「正しくは、アンドロイドにしては奇抜、って言うのがふさわしいのかな。私も小さい頃に家事用アンドロイドと一緒に生活したことがあるけど、アンナちゃんみたいに人間っぽい動きはしてなかった。まあ、そこは人工知能の進化も関係しているかもしれないけど」
「ああ……言われてみれば、確かに。アンナは挨拶からして人間っぽいですからね」
「そうそう、お天気の日にエントランスで会うと『おはようございます、森さん』って言って機嫌よさそうに近づいて来て、軽く世間話なんかしてくれる。『いい天気ですね』なんて決まりきった言葉なんて口にしない。ああ、あと挨拶もバリエーションが豊富なのよ。語尾を伸ばしたりとか、『あ、おはようございます』って小さく言い淀んだりとか、こっちが忙しそうにしているのを察して、すれ違いざまに小さく挨拶してきたりとかさ。どうなってるんだろうね、あの子」
「さあ、僕には何とも」
さすがはマンションの管理人さん。エピソードが豊富である。挨拶ひとつに関しても観察力が光る。
きもち話し方が年相応でない、まるで主婦同士がばったり会ったときの会話のノリに近いものが感じられたが、それは多彩な住人を相手にコミュニケーションをとるためのテクニックなのだろう、と僕は勝手に納得した。
そう、森さんに言われて気づいたが、宝塚アンナは対人コミュニケーションが『人間に似すぎている』ことも特異なんだった。
僕がアンナをアンドロイドでなく、まるで人間であるかのようにふと勘違いしてしまうのも、それが原因だった。
もしかしたら、雄志が僕に対して長期間にわたるドッキリを仕掛けている最中なのではないかと疑ったこともあるほどだーー「実はアンナはアンドロイドじゃなくて人間でした!」と言われても、僕はさほど驚かないだろう。それくらい彼女の言動は人間っぽいのだ。
逆に、「アンナは人間じゃなくてアンドロイドでした!」の方が僕は驚くかもしれない。
アンドロイドと見せかけてやっぱりアンドロイドなのか、こんなに人間っぽい動きするくせに、と。
「ユウくんに聞いたけど、アンナちゃん行方不明なんだって?」と森さん。
僕は無言でうなずいた。
「それなら及ばずながら協力するよ、管理の仕事もあるから、片手間になるけど」
「いえ、助かりますよ。むしろ、森さんの情報網の方が僕や雄志より広いまである」
「そうかもね。ま、期待しないで待ってて。それと、近いうちにユウくんも交えて鍋パしようよ。入居してる田中さんと近藤さんからお肉たくさんいただいちゃって食べきれないほどあるから」
「わかりました。雄志にも伝えておきます。それと、近々妹がやってくると思うので、その時は通してやってくれますか」
「オッケー。ホントはダメだったりするけど、学生時代の先輩として見逃してあげましょう」
森さんに別れを告げて僕はエレベーターホールへ向かう。
向かうは八階の三号室、雄志のいる部屋だ。
今朝も足を運んだ場所だが、そろそろ僕も雄志も互いに報告しておくことが溜まってきているので、ここらで情報共有しておくべきだろう。
エレベーターがやってくるときのポーン、という穏やかな音が聞こえてくるまで、じっと待つことにした。
そして、実際に僕が黙っているうちに、エレベーターのドアが開き、そこから降りていく人とすれ違った。
その人の「こんにちは」という小さな挨拶に対して、僕も同じように返事した。
黒居さんからもたらされたその情報の重要性は僕には評価できない。
アンナを捜索する役に立つのか、立たないのか。
アンナを含む家事用アンドロイドの『PRM-λ』シリーズは、見た目に個体差が出にくい。
所有者がアンドロイドに個性を持たせようとしない限り、容姿が変化することはない。
逆に、所有者がこだわりぬいて奇抜な恰好をさせていることもあるという。
しかし、このあたりは雑誌で読んだだけの実体験を伴わない知識なので、世のアンドロイド所有者たちが、着せ替え人形よろしくアンドロイドにそのような恰好をさせているのか、僕にはよくわからない。
では、最も身近なアンドロイド所有者である宝塚雄志がどうであるかというと……世間的にはどうなんだろう、あの恰好は。
もちろん僕はアンナがどのような装いをしているか知っている。
ただ、それが奇抜であるかどうか僕には判別できないだけだ。
「メイドさんといえばコレ」とでも言わんばかりのクラシックなエプロンドレスに身を包み、腰の位置には進化の過程で間違って生えてきた羽みたいに大きなリボンがある。そうは言っても、絵画の中の天使みたいに大きい羽根ではなくて、せいぜいカラスと猛禽類の羽根の中間くらいのサイズしかない。
髪の色は亜麻色、ミディアムレングスのストレートヘアーで、後ろ髪は仕事の邪魔にならないようアップにして目立たない位置に固定している。
これくらいなら奇抜でもなんでもなくて、「ただの家政婦の恰好じゃないか」という感想を抱いて終わるのだがーー実は今挙げたものには、アンナの『装備』が含まれていない。
雄志の両親は、どうやら心配性らしい。あるいは過保護か。
僕の両親が妹のかな子に対して過保護を発揮するみたいに、子供の万難を排する方針を持っているように邪推してしまう。
アンナの衣装の中には、家事用アンドロイドの装備として製造元企業からオフィシャルに販売されている、非常用および護身用アイテムが大量に詰まっている。そしてそれらは雄志の両親に装備するよう命じられたものだ、と雄志は教えてくれた。
ソーイングキットに始まり、小型ランタン、携帯用トイレ、編み込みロープ、発煙筒、組み立てて使えば杖程度の長さにはなるであろう伸縮式の警棒、その他多数。
ぱっと見では数多くの装備を服に収めている様子はないのだが、所有者本人がそう言っているのだから事実なのだろう。腰のリボンが無駄に大きいのも、装備品の収納のためにそうなっているらしい。
服装は地味だが、中身が奇抜、とでも言えばいいだろうか。
これらの理由により、僕には「宝塚アンナが奇抜であるかそうでないか」が判別できないのだった。
「そうだねー、そのあたりは私も里見ちゃんと同じ意見かな。ユウくんのうちのアンナちゃんは地味だよ、見た目だけなら確かにそう。だけどなんていうのかな……そう、行動だ。行動が奇抜なんだよね。恰好っていうよりは」
「どういうことです?」
と僕は言った。
僕と雄志が入居しているマンションの管理人の森さんは、マンションのエントランスにあるテーブルに肘を預けながら、返事をした。
僕は森さんの対面に座っているから、予期せぬ形で彼女の顔が接近してきて焦った。
「正しくは、アンドロイドにしては奇抜、って言うのがふさわしいのかな。私も小さい頃に家事用アンドロイドと一緒に生活したことがあるけど、アンナちゃんみたいに人間っぽい動きはしてなかった。まあ、そこは人工知能の進化も関係しているかもしれないけど」
「ああ……言われてみれば、確かに。アンナは挨拶からして人間っぽいですからね」
「そうそう、お天気の日にエントランスで会うと『おはようございます、森さん』って言って機嫌よさそうに近づいて来て、軽く世間話なんかしてくれる。『いい天気ですね』なんて決まりきった言葉なんて口にしない。ああ、あと挨拶もバリエーションが豊富なのよ。語尾を伸ばしたりとか、『あ、おはようございます』って小さく言い淀んだりとか、こっちが忙しそうにしているのを察して、すれ違いざまに小さく挨拶してきたりとかさ。どうなってるんだろうね、あの子」
「さあ、僕には何とも」
さすがはマンションの管理人さん。エピソードが豊富である。挨拶ひとつに関しても観察力が光る。
きもち話し方が年相応でない、まるで主婦同士がばったり会ったときの会話のノリに近いものが感じられたが、それは多彩な住人を相手にコミュニケーションをとるためのテクニックなのだろう、と僕は勝手に納得した。
そう、森さんに言われて気づいたが、宝塚アンナは対人コミュニケーションが『人間に似すぎている』ことも特異なんだった。
僕がアンナをアンドロイドでなく、まるで人間であるかのようにふと勘違いしてしまうのも、それが原因だった。
もしかしたら、雄志が僕に対して長期間にわたるドッキリを仕掛けている最中なのではないかと疑ったこともあるほどだーー「実はアンナはアンドロイドじゃなくて人間でした!」と言われても、僕はさほど驚かないだろう。それくらい彼女の言動は人間っぽいのだ。
逆に、「アンナは人間じゃなくてアンドロイドでした!」の方が僕は驚くかもしれない。
アンドロイドと見せかけてやっぱりアンドロイドなのか、こんなに人間っぽい動きするくせに、と。
「ユウくんに聞いたけど、アンナちゃん行方不明なんだって?」と森さん。
僕は無言でうなずいた。
「それなら及ばずながら協力するよ、管理の仕事もあるから、片手間になるけど」
「いえ、助かりますよ。むしろ、森さんの情報網の方が僕や雄志より広いまである」
「そうかもね。ま、期待しないで待ってて。それと、近いうちにユウくんも交えて鍋パしようよ。入居してる田中さんと近藤さんからお肉たくさんいただいちゃって食べきれないほどあるから」
「わかりました。雄志にも伝えておきます。それと、近々妹がやってくると思うので、その時は通してやってくれますか」
「オッケー。ホントはダメだったりするけど、学生時代の先輩として見逃してあげましょう」
森さんに別れを告げて僕はエレベーターホールへ向かう。
向かうは八階の三号室、雄志のいる部屋だ。
今朝も足を運んだ場所だが、そろそろ僕も雄志も互いに報告しておくことが溜まってきているので、ここらで情報共有しておくべきだろう。
エレベーターがやってくるときのポーン、という穏やかな音が聞こえてくるまで、じっと待つことにした。
そして、実際に僕が黙っているうちに、エレベーターのドアが開き、そこから降りていく人とすれ違った。
その人の「こんにちは」という小さな挨拶に対して、僕も同じように返事した。
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