mistress

桜 詩

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第一章

12

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アネリは、ウィリスハウスに戻ってきた。
ひさしぶりのタウンハウスに、我が家のようにほっとした自分に苦笑した。
ここは仮住まいだというのに……。
くすりとアネリは笑みをもらした。

この屋敷はアネリのいない間も、綺麗に整えられていて帰って来た彼女の為に抜かりなく準備がされていたのだ。
「おかえりなさいませ」
にこやかにジェフリーをはじめ使用人一同が揃って出迎えてくれた。
「ただいま、留守の間までありがとう」

チェリーとデイジーが旅装をといて、昼のドレスに変えてくれる。

新しい年のために、フェリクスが送ってくれたそうだ。
表向きの愛人の為に…。本当に律儀だなとアネリは申し訳なくなる。
フェリクスが来なくなれば………アネリはここから出されて、どこかにやられるだろうか?

ふと、そんな考えがよぎった。

アネリは旅の疲れの為に、自室のカウチソファに少しだけ……と、横たわると、いつの間にか、そのまま眠っていたようでアネリははっと気がつくと、あたりは薄暗くなっていてもったいない事をしたと叱咤して起き上がった。
壁についているベルを鳴らせば
「お目覚めですか、アネリ様」
チェリーとデイジーがすぐに来てくれた。

「お食事はどういたしましょう?」
「そうね、軽くでいいわ」
あまり食欲はなかったが、きっとミセス・シビルはアネリの為の料理を
用意してくれている。

デイジーとチェリーがすぐに夜のドレスに着替えさせてくれる。
どうせみる人もいないのに、とアネリは苦笑した。
しかしどんな状況でもきちんとしておくことは、常々大切な事だと思っていたので、不服ではない。

部屋で取ろうかと思ったけれど、アネリはもはや令嬢でもない。ダイニングに行き、控えめに出してくれた晩餐を食べたが、やはり疲れのせいか進まずに残してしまった。
「あまり食欲がなくて、残してしまったの。ごめんなさいといっておいて」
給仕をする従僕のブライアンに伝えると、席をたった。

階段を昇る途中で少し、ふらりとしてアネリは手すりに捕まった。部屋に戻ると、気になることが出てきた。

最後の月のものはいつだった…? 
ぞくりとした。
旅の疲れと色々な事があったせいだと言い聞かせても、ライアンと睦み合った日々を思えば、そういう心配は付きまとうだろう…。

不安な気持ちを抱きながら、アネリは具合が悪いと馬車酔いかも知れないと言って、デイジーとチェリー二人に夜着に着替えさせてもらい、早々にベットに入った。

寝付けるはずもなく、ひたすら寝返りをうつ。
薬湯はずっと飲み続けていた。その効果を信じるしかない…!


アネリは半月ほど遅れてやって来た待ち望んでいたものにほっと安堵の息をもらした。
やはり遅れていただけだったのだ!

帰ってきてから、ライアンもフェリクスも来ていない。このまま、フェリクスはアネリの事を忘れて、ここにやって来ずに別れをつげられたい一方で、ライアンがまた来ることを祈ってもいた。

しかし…
「アネリ、具合がよくなかったと聞いて心配してた」
フェリクスは、麗しい顔に心配そうに眉を寄せて言った。
「ありがとう、でももう平気よ」
にっこりと、笑って見せた。
アネリからもう来るなと言うことは、ルール違反だ。
どうすれば、この律儀な彼はここに来なくなるだろう?
最初の約束を破って…

「ああ、そうだ。アネリは父にあってるよね」
「ええ」
「どうも、父の様子が変だ…」
どきりとした。
「ウィンスレットハウスにあまりいなかったんだ」
他ならぬアネリが彼と共にいたのだ……

「公爵閣下はお忙しいのではないかしら?」
「うん…母が、絶対に女の所だとぶつぶつ言っていてね…もう。空気が悪くて」
フェリクスの言葉に胸が痛む……

「父はさ、昔から母と上手くいってはないんだけどその辺はちゃんとした人で、何日もどこへ行くとも言わず出掛けるなんてなかったんだ」
そうなのだ…と意外に思った。

「でも、きっと母が嫌だったんだ…俺、スクールに行ってからうちの母がかなり特殊だと気づいたんだよな…」
妻のことをあれと言っていたライアン。
フェリクスもまた、彼女の話をしている。
「なんていうか、俺らのことも次期公爵と、公爵の娘ってだけでたまに憎んでるんじゃないかって思うほどでさ…」
「憎むなんて…子供が憎い母親なんていないわ」
「…けど、子供の時に両親のケンカをきいた…。父が母に、男の子を産んでくれといっててさ、母がそれに二人も産んで醜くなったのに、これ以上はどうしても無理だ。おぞましいって言ったんだ」
アネリは息を飲んだ
「それ聞いて、その時は意味がわからなかったけど、俺たちを産みたくなかったんだって思って…」
「そんな事…」
ないとは言えなかった。
「悲しい事ね…フェリクス…」
アネリはフェリクスの頭を撫でた。

フェリクスも、されるがままだ。
「大丈夫よ…少なくとも、お父様はあなたを愛してるわ。こうやって将来を心配するほどに…」
くすりとアネリは笑った。
「私も貴方が好きよフェリクス、貴方はまっすぐに清廉な人よ」
自分を否定的に思わないでいてほしくて、アネリはそう告げた。
「あー。なんかアネリって、いないからわからないけどいたら姉みたいだ…。ついぼろっといってしまった」
クスクスとフェリクスも笑った
「暗いよな!」
「私の方がもっと暗いわよ」
アネリは苦笑した。何せほとんど殺される状態で、死なずにいた女だ。
「なに?聞かせてよ」
「ダメよ。女には色々と秘密が多いの」
「なんだよそれ、思わせ振りだな」
フェリクスは屈託なく笑った。


フェリクスが、帰ったあと自室に向かったアネリは扉を開けた瞬間に、口を塞がれ羽交い締めにされた。
「静かに…」
ひさしぶりに、聞くライアンの声にぞくりとする。
「どうやって………」
「ここは私の邸にだから、裏の道があるということだ」
誰にもばれずに入れる入り口があるようだ。
「フェリクスとは本当に、話をするだけなんだな…アネリ」
「もしここにきたらどうするつもりだったの?悪趣味だわ…!」
これまではないとはいえ、絶対にない事などあるだろうか…。
いや、ありそうだが……

ライアンは微笑むと、アネリの体を羽交い締めから解くと、抱き締め直して唇を寄せる。
「怒るな…ひさしぶりに会ったというのに……」
優しい声に胸が熱くなる。
「閣下……でもやはりこの屋敷では駄目よ…」
「君はいつも駄目だと言うね…」
ライアンはぐいっと体を強く抱き合わせると、
「こんなにも君を欲しているのに…」
アネリのお腹に、ライアンの昂りが当り彼の情欲を知らしめた。
アネリだとて、声を聞いたときから、体がすでに熱を帯びたのがわかっていた。
返事の変わりに、アネリはつま先だちでライアンの首に手を回して唇を合わせた。


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