mistress

桜 詩

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第三章

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エリザベスの日々は、公爵夫人らしく毎夜ごとに舞踏会に夜会に出掛け、昼は毎日茶会に、サロンとびっしりであった。
ライアンが話そうとしても、避けられている身である彼は真剣な話をすることはとても難しかった。

唯一口を聞けるのは、家族での晩餐の時。しかしフェリクスとジョージアナがいる前で離婚を切り出しがたく、無為に時は過ぎていきライアンは焦燥にかられていた。

アネリことエレナもまた、ライアンが離婚の事をまだ話せていないと言われても、まだ嵐は起こっていない…その事にほっとしている自分がいた。

社交シーズンが終わり、ライアンたちも主領地に帰る。
エレナは…エレナ・ヘプバーンの名を取り戻す事が出来ていた。弁護士コリンがそう告げた時、ようやく生き返ったような、人生の軌道が切り替えられたような気持ちになった。

このシーズンは、エレナはウィンスレット公爵のカントリーハウスから程近い邸に滞在することになっていた。
そこは、少しこじんまりとしているものの、立派な邸だった。
ウィリスハウスから、ジェフリーをはじめ、使用人たちも共に滞在する。気心の知れた彼らとなら、はじめて滞在する家でも普段通りに過ごせそうだった。

エレナは、ウィンスレット公爵邸の近くに滞在することに少し躊躇う気持ちはあったが、目と鼻の先では無いことと、会える距離にライアンがいる、ということに滞在を決めてしまっていた。

少し馬で走らせれば、広大な土地にそびえ立つウィンスレット公爵邸が見える…
あそこに、ライアンとその家族がいるのかと思うと、表現しがたい気持ちに襲われた。
とくに夫人に対する気持ちは複雑だった。妻の座にある彼女が憎いのか?それとも彼を永らく放っておいてくれたから、彼はエレナを愛したのか…それなら感謝をするべきなのか?足元にすがって別れて下さいと懇願をしたいのか…。何も言わずに奪い去りたいのか…。
フェリクスとジョージアナを産んだ、美しいであろう公爵夫人…いったいどんな女性なのだろう。

エレナは首を降って、嫌な嫉妬心とも言うべき感情を払った。

ディヴィの操る馬車で出掛けたウィンスレットの領地にある街は王都にも匹敵するほどの美しく栄えた街で、エレナは街の散策を楽しんだ。

王都にはない種類のお茶やお菓子を買ってみたり、便箋や新しいインク。
少しばかりの買い物をしてみると、エレナの気持ちも少し明るくなった。

買い物から帰ると、王都にいた頃から取りかかっていた刺繍の続きをしながら過ごす。それはここ数年もの間過ごしてきた、エレナの生活ぶりだった。
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