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突然の訪問者
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猫のソックスがやって来て、ラファエルも遊びに来ることが増えてティファニーは時に笑顔を見せることがある。
少女らしいその姿にレオノーラもキースもほっとさせられていた。
そんな頃であった。
プリスフォード夫人が訪ねてきたのは…
「こちらにうちのティファニーがお世話になっているとお伺いしましたの」
クロエ・プリスフォードは、レオノーラよりいくつか年上なくらいだろうか?
なるほど、ティファニーがレオノーラたちに反抗的な態度をとったのはレオノーラたちが義理の母親の方に年齢が近かったのもあるのだろう。
貴族の夫人らしくたおやかな女性に見えるが、前バクスター子爵亡き後にティファニーを邸から追い出した事を思えば見た目通りではないのであろう。
「ええ、確かにこちらにおります」
レオノーラは笑みを張り付けたまま淡々と返事をした。
「知らなかった事とはいえ、随分とお世話になりました。今日はあの子を迎えに来ました」
クロエはにこやかに告げた。
「レオノーラ様も新婚でいらっしゃるのに、お邪魔してしまって本当に申し訳ございませんわ。あの子も年頃ですし、ちょうど良縁がございましたの」
「…良縁と言いますと、結婚させたいと言うことですか?」
「ええ、そうなんですの。是非にとデーヴィド・エーヴリー卿がおっしゃって下さって…あちらはしっかりとした身分の申し分ないご縁だと思いましてね」
その名を聞いて、レオノーラは絶対に止めたくなった。女癖が悪く、良いとはとても思えない。
「失礼ながら、ティファニーとデーヴィド卿では年が離れすぎでは?」
「まぁ、レオノーラ様ったら…ライアン卿とレディ エレナも、これくらいの年の差ですわ。ちっともおかしくありませんわよ」
「…ティファニーは16ですよ?27歳だったレディ エレナとは違いますよ」
レオノーラは硬い声で言うが、クロエの笑みは崩れない。
「ともかく、ティファニーに会わせて下さいませ。あの子と直接話をしますから…」
バタンと扉が乱暴に開いたかと思うと、
「そんなに良縁だと思われるのでしたら、お義母様が結婚すれば?」
ティファニーはそう言うと、バサッと何かを投げつけた。
「きゃぁ!なに!?」
クロエは叫んだ。
レオノーラは扉を開いて立ち尽くしたティファニーと、ティファニーが投げたそれを見て、ティファニーが長い髪を切って投げたということに気づいた。
「ティファニー!なんて事を!」
レオノーラが叫ぶと
「絶対に、バクスター邸には戻らない!」
ティファニーは叫び返すと、踵をかえした。無惨に肩の辺りで短くなった髪が痛々しい。
「ティファニー、待って!」
「子爵夫人、ひとまずお引き取りを」
レオノーラはそう言うと、ティファニーの後を追った。
「…な、なんて礼儀知らずな子なの…ずっと育ててきてあげたのに…」
クロエはわなわなと唇を震わせながら言うと
「ええ、帰ります。でも、後日あの子を迎えに来ますわ。もう我が儘勝手にはさせませんから」
クロエはきっぱりと言うと、帰っていった。
クロエが出ていくと、外は雨が降りだしていた。
レオノーラはアークウェイン邸の前を見たが、ティファニーの姿はどこにも見えなかった。
レオノーラは邸に戻ると、
「ティファニーを探して!」
従者や、メイドたちに声をかけた。
徒歩で出ていったはずである。それほど遠くに行けたはずもないのに、ティファニーの行方はわからずに、レオノーラは焦った。
ついていないことに、雨はどんどん酷くなりどしゃ降りとなった。メイドや従者たちはたまらずに帰ってきていた。
「どこかで雨宿りされていますわ、きっと…」
ぐっしょりと濡れたダイナがレオノーラに言った。
「そう、だね…ダイナも着替えよう。風邪をひいてしまう…」
キースが帰宅して、顛末を説明する。
「探しに行こうにも…この雨だ…」
溜め息をついて、
「明日探しに行こう…」
さすがのレオノーラも今度ばかりは心配で仕方がない。
アークウェイン邸は、静まり返っている…まるで以前のように…。
レオノーラとキースは、寄り添いながらなかなか眠れない夜を過ごした。
「旦那様!奥方様!ティファニー様がお戻りになりました!」
夜明けを迎えた早朝に、同じく眠れなかったのだろう、執事の声が扉の外で響いた。
階下に駆け降りると、ティファニーが膝を抱えてソファに座っていた。
「ティファニー!どこに行っていた!」
はっと、水色の瞳がレオノーラを見た。
「とても…心配した…」
「…ごめん…なさい」
ティファニーの瞳から涙が零れおちた。
「こんな風に、自分を傷つけて」
怒りをにじませたレオノーラに、
「たかが髪の毛よ…」
ティファニーは哀しげな顔をした。
「たかがじゃないだろう?ずっと綺麗に伸ばしてきたんだろう?バカな真似をしたね」
「怒ってる…よね」
「怒ってる…でも、帰ってきてホッとした」
レオノーラはそっとティファニーを抱き寄せた。
「本当に…?私、まだここにいてもいいのかな…追い出すのなら、もう早く追い出してね…」
不安を滲ませた声に、レオノーラはその迷子のような表情を見た。
「ティファニーは、ここにいていいんだ」
キースが静かに言った。
「いつまで…?」
「いつまでだって大丈夫さ」
「レオノーラとキースに赤ちゃんが出来ても?」
「もちろん、そうだ。家族が増えてもここにいていいんだ」
レオノーラもきっぱりと言い切った。
「私、親戚でもなんでもないのに?」
「不安なら、うちの子になるかい?」
キースがふっと笑ったらしい。
「ふふっ、そこまで言っちゃう?」
ティファニーが泣き笑いの顔をした。
「帰らないなんて、嘘。いいの、もう…充分ここに居させて貰った…お義母さまがああ言うなら、私家に戻る…」
何か、ふっ切れたようなそんな顔である。
「ティファニー…結婚を受け入れるのか?」
「…私は、バクスター子爵の姉だもの…そう生まれたんだから」
「早まることはない、私がちゃんと確認してくるから」
キースがティファニーの短くなった髪をくしゃっと撫でた。
「疲れただろう、少し部屋で休もう」
素直にティファニーが頷くと、ゆっくり立ち上がる。
「レオノーラ…キース…心配かけて、ごめんなさい…」
恥ずかしそうに言うと、階段を駆け足で上がっていった。
「…俺たちも少し寝ようか…すっかり寝不足だ…」
キースはレオノーラの腰に腕を回すと、部屋に向かって促した。
「そうだな、寝てスッキリさせてややこしい事は片付けよう」
レオノーラもホッとすると共に眠気がやって来た。
少女らしいその姿にレオノーラもキースもほっとさせられていた。
そんな頃であった。
プリスフォード夫人が訪ねてきたのは…
「こちらにうちのティファニーがお世話になっているとお伺いしましたの」
クロエ・プリスフォードは、レオノーラよりいくつか年上なくらいだろうか?
なるほど、ティファニーがレオノーラたちに反抗的な態度をとったのはレオノーラたちが義理の母親の方に年齢が近かったのもあるのだろう。
貴族の夫人らしくたおやかな女性に見えるが、前バクスター子爵亡き後にティファニーを邸から追い出した事を思えば見た目通りではないのであろう。
「ええ、確かにこちらにおります」
レオノーラは笑みを張り付けたまま淡々と返事をした。
「知らなかった事とはいえ、随分とお世話になりました。今日はあの子を迎えに来ました」
クロエはにこやかに告げた。
「レオノーラ様も新婚でいらっしゃるのに、お邪魔してしまって本当に申し訳ございませんわ。あの子も年頃ですし、ちょうど良縁がございましたの」
「…良縁と言いますと、結婚させたいと言うことですか?」
「ええ、そうなんですの。是非にとデーヴィド・エーヴリー卿がおっしゃって下さって…あちらはしっかりとした身分の申し分ないご縁だと思いましてね」
その名を聞いて、レオノーラは絶対に止めたくなった。女癖が悪く、良いとはとても思えない。
「失礼ながら、ティファニーとデーヴィド卿では年が離れすぎでは?」
「まぁ、レオノーラ様ったら…ライアン卿とレディ エレナも、これくらいの年の差ですわ。ちっともおかしくありませんわよ」
「…ティファニーは16ですよ?27歳だったレディ エレナとは違いますよ」
レオノーラは硬い声で言うが、クロエの笑みは崩れない。
「ともかく、ティファニーに会わせて下さいませ。あの子と直接話をしますから…」
バタンと扉が乱暴に開いたかと思うと、
「そんなに良縁だと思われるのでしたら、お義母様が結婚すれば?」
ティファニーはそう言うと、バサッと何かを投げつけた。
「きゃぁ!なに!?」
クロエは叫んだ。
レオノーラは扉を開いて立ち尽くしたティファニーと、ティファニーが投げたそれを見て、ティファニーが長い髪を切って投げたということに気づいた。
「ティファニー!なんて事を!」
レオノーラが叫ぶと
「絶対に、バクスター邸には戻らない!」
ティファニーは叫び返すと、踵をかえした。無惨に肩の辺りで短くなった髪が痛々しい。
「ティファニー、待って!」
「子爵夫人、ひとまずお引き取りを」
レオノーラはそう言うと、ティファニーの後を追った。
「…な、なんて礼儀知らずな子なの…ずっと育ててきてあげたのに…」
クロエはわなわなと唇を震わせながら言うと
「ええ、帰ります。でも、後日あの子を迎えに来ますわ。もう我が儘勝手にはさせませんから」
クロエはきっぱりと言うと、帰っていった。
クロエが出ていくと、外は雨が降りだしていた。
レオノーラはアークウェイン邸の前を見たが、ティファニーの姿はどこにも見えなかった。
レオノーラは邸に戻ると、
「ティファニーを探して!」
従者や、メイドたちに声をかけた。
徒歩で出ていったはずである。それほど遠くに行けたはずもないのに、ティファニーの行方はわからずに、レオノーラは焦った。
ついていないことに、雨はどんどん酷くなりどしゃ降りとなった。メイドや従者たちはたまらずに帰ってきていた。
「どこかで雨宿りされていますわ、きっと…」
ぐっしょりと濡れたダイナがレオノーラに言った。
「そう、だね…ダイナも着替えよう。風邪をひいてしまう…」
キースが帰宅して、顛末を説明する。
「探しに行こうにも…この雨だ…」
溜め息をついて、
「明日探しに行こう…」
さすがのレオノーラも今度ばかりは心配で仕方がない。
アークウェイン邸は、静まり返っている…まるで以前のように…。
レオノーラとキースは、寄り添いながらなかなか眠れない夜を過ごした。
「旦那様!奥方様!ティファニー様がお戻りになりました!」
夜明けを迎えた早朝に、同じく眠れなかったのだろう、執事の声が扉の外で響いた。
階下に駆け降りると、ティファニーが膝を抱えてソファに座っていた。
「ティファニー!どこに行っていた!」
はっと、水色の瞳がレオノーラを見た。
「とても…心配した…」
「…ごめん…なさい」
ティファニーの瞳から涙が零れおちた。
「こんな風に、自分を傷つけて」
怒りをにじませたレオノーラに、
「たかが髪の毛よ…」
ティファニーは哀しげな顔をした。
「たかがじゃないだろう?ずっと綺麗に伸ばしてきたんだろう?バカな真似をしたね」
「怒ってる…よね」
「怒ってる…でも、帰ってきてホッとした」
レオノーラはそっとティファニーを抱き寄せた。
「本当に…?私、まだここにいてもいいのかな…追い出すのなら、もう早く追い出してね…」
不安を滲ませた声に、レオノーラはその迷子のような表情を見た。
「ティファニーは、ここにいていいんだ」
キースが静かに言った。
「いつまで…?」
「いつまでだって大丈夫さ」
「レオノーラとキースに赤ちゃんが出来ても?」
「もちろん、そうだ。家族が増えてもここにいていいんだ」
レオノーラもきっぱりと言い切った。
「私、親戚でもなんでもないのに?」
「不安なら、うちの子になるかい?」
キースがふっと笑ったらしい。
「ふふっ、そこまで言っちゃう?」
ティファニーが泣き笑いの顔をした。
「帰らないなんて、嘘。いいの、もう…充分ここに居させて貰った…お義母さまがああ言うなら、私家に戻る…」
何か、ふっ切れたようなそんな顔である。
「ティファニー…結婚を受け入れるのか?」
「…私は、バクスター子爵の姉だもの…そう生まれたんだから」
「早まることはない、私がちゃんと確認してくるから」
キースがティファニーの短くなった髪をくしゃっと撫でた。
「疲れただろう、少し部屋で休もう」
素直にティファニーが頷くと、ゆっくり立ち上がる。
「レオノーラ…キース…心配かけて、ごめんなさい…」
恥ずかしそうに言うと、階段を駆け足で上がっていった。
「…俺たちも少し寝ようか…すっかり寝不足だ…」
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