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夜深の章
シャンデリアホール
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アシュフォード家を抜け出して、大通りに馬車を停めそこから賑やかな通りを少し歩く。
そうして辿り着いた場所は上流よりも中流よりの階級の人々の集う通称“シャンデリアホール”と呼ばれる社交場であった。
「いこう」
差し出された手に、手を重ね
「ええ」
そういつものように返事を返すと。
「ここでは、キレイな発音は目立つ」
そう言うジョルダンは、ぐっと砕けた発音で、騎士階級で生まれたグレイシアにはむしろ馴染み深くて、肩の力が抜ける。
「わかった」
入れば、目一杯着飾った人たちが、華やかというよりは、賑々しく躍り騒いでいて、
「ここでは……誰もが楽しんで踊るだけ、腹の探りあいなんて物には無縁だ」
ニヤリと笑うジョルダンが、グレイシアを導く。
「荒っぽい連中もいるから、俺から離れないで」
「そうなの?」
テンポがよいステップは、貴族たちの上品な雰囲気とは違って、ただひたすらみんな心から楽しんでいる。
「踊ろう」
「でも、踊り方がわからない」
「適当に、」
見よう見まねで踊れば、次第にジョルダンにつられてグレイシアも笑顔になる。
奥のテーブルではカードゲームをしている男性たち。それからお酒を飲むテーブル。一画ではシガーを燻らせたり、アシュフォード家の舞踏会とは雰囲気ががらりとかわる。
「何か飲もう」
ひとしきり踊って、喉がカラカラになっていたので素直に頷いた。
男性たちには、白や濃紺、臙脂色の騎士の隊服を着ている男性たちが多かった。あとは裕福な街の商人たちといった所だろうか。
グレイシアの父も騎士であったから、上流よりもこちらの方が馴染みやすくもある。
「どう?」
「……まぁまぁ」
飲み物は、あまり美味しいとは言えない。
「だろうな」
クスッとジョルダンが笑う。
「美人のお姉さん、踊ろう」
「えっ」
とまどううちに、踊りの輪の中に連れていかれてしまう。
酔っ払った男性にそのまま一緒に踊らされて、次々とパートナーを変える。
「お姉さん、美人だね?名前は?」
「……リシアよ」
「リシアね」
とっさに、昔うまく話せない頃のあだ名を口にした。
「次は俺と」
ふっと前に現れたのはジョルダンだった。
「楽しんでる?」
「楽しいわ」
ひとしきり、踊ってそして笑い合うと一画で騒ぎがおこる。
酔っぱらった者同士が熱くなっているのか、そして面白がる周囲の男性たち。
「けんか?」
「巻き込まれないうちに、出よう」
瞬く間に騒ぎが大きくなりつつあって、グレイシアの腕を取り預けてあったショールを取り、ジョルダンは走ってシャンデリアホールを後にした。
「まって……!そんなに……走れない」
息切れをしているグレイシアを抱き止めたジョルダンは、そっと街の路地に立ち止まった。
「走らせてごめん」
「走ったの、子供の時以来」
クスクスとグレイシアは笑った。
「それに、こんなに笑ったのも。とてもひさしぶり」
「俺も、ひさしぶりに笑った……楽しかった」
気がつけば、嫌な噂も、過去の嫌な思い出もこの一時は忘れていた。
「グレイシア」
名を呼ばれ見上げれば、優しく笑むジョルダンが側にいた。
そっと目を伏せれば、口づけが柔らかく降りてきてその背に手を廻した。
「今夜は、笑顔が見れて嬉しかった」
(……誤解してはだめ……。だけど今はただ心のままに時を過ごしたい)
「私も嬉しかった、一緒に笑ってそれから、走って」
ジョルダンと、グレイシアは………金銭で結びついている。
なのに今は、熱い恋人たちのように路上で抱き合ってそして、キスを繰り返している。
そんな二人にピュ~と口笛を吹かれ、少し現実に引き戻される。
「馬車に戻ろうか?」
「もう…街歩きは終わりなの?」
「今夜はね………ろそろ、二人の時間にしない?」
「そう、してもいいわ」
護られるように肩を抱かれて、グレイシアは再び馬車へと戻れば、お仕着せをきた御者が扉を開けてくれ、そして車内に乗った。馬車は、アリオール・ハウスへと向かって走り出した。
(今夜は……家にレナが居ない……)
グレイシアは、レナの母だというのに。
なのにどうして、この夜はその事が淋しくあるのにどこか安堵しているのだろう。
そうして辿り着いた場所は上流よりも中流よりの階級の人々の集う通称“シャンデリアホール”と呼ばれる社交場であった。
「いこう」
差し出された手に、手を重ね
「ええ」
そういつものように返事を返すと。
「ここでは、キレイな発音は目立つ」
そう言うジョルダンは、ぐっと砕けた発音で、騎士階級で生まれたグレイシアにはむしろ馴染み深くて、肩の力が抜ける。
「わかった」
入れば、目一杯着飾った人たちが、華やかというよりは、賑々しく躍り騒いでいて、
「ここでは……誰もが楽しんで踊るだけ、腹の探りあいなんて物には無縁だ」
ニヤリと笑うジョルダンが、グレイシアを導く。
「荒っぽい連中もいるから、俺から離れないで」
「そうなの?」
テンポがよいステップは、貴族たちの上品な雰囲気とは違って、ただひたすらみんな心から楽しんでいる。
「踊ろう」
「でも、踊り方がわからない」
「適当に、」
見よう見まねで踊れば、次第にジョルダンにつられてグレイシアも笑顔になる。
奥のテーブルではカードゲームをしている男性たち。それからお酒を飲むテーブル。一画ではシガーを燻らせたり、アシュフォード家の舞踏会とは雰囲気ががらりとかわる。
「何か飲もう」
ひとしきり踊って、喉がカラカラになっていたので素直に頷いた。
男性たちには、白や濃紺、臙脂色の騎士の隊服を着ている男性たちが多かった。あとは裕福な街の商人たちといった所だろうか。
グレイシアの父も騎士であったから、上流よりもこちらの方が馴染みやすくもある。
「どう?」
「……まぁまぁ」
飲み物は、あまり美味しいとは言えない。
「だろうな」
クスッとジョルダンが笑う。
「美人のお姉さん、踊ろう」
「えっ」
とまどううちに、踊りの輪の中に連れていかれてしまう。
酔っ払った男性にそのまま一緒に踊らされて、次々とパートナーを変える。
「お姉さん、美人だね?名前は?」
「……リシアよ」
「リシアね」
とっさに、昔うまく話せない頃のあだ名を口にした。
「次は俺と」
ふっと前に現れたのはジョルダンだった。
「楽しんでる?」
「楽しいわ」
ひとしきり、踊ってそして笑い合うと一画で騒ぎがおこる。
酔っぱらった者同士が熱くなっているのか、そして面白がる周囲の男性たち。
「けんか?」
「巻き込まれないうちに、出よう」
瞬く間に騒ぎが大きくなりつつあって、グレイシアの腕を取り預けてあったショールを取り、ジョルダンは走ってシャンデリアホールを後にした。
「まって……!そんなに……走れない」
息切れをしているグレイシアを抱き止めたジョルダンは、そっと街の路地に立ち止まった。
「走らせてごめん」
「走ったの、子供の時以来」
クスクスとグレイシアは笑った。
「それに、こんなに笑ったのも。とてもひさしぶり」
「俺も、ひさしぶりに笑った……楽しかった」
気がつけば、嫌な噂も、過去の嫌な思い出もこの一時は忘れていた。
「グレイシア」
名を呼ばれ見上げれば、優しく笑むジョルダンが側にいた。
そっと目を伏せれば、口づけが柔らかく降りてきてその背に手を廻した。
「今夜は、笑顔が見れて嬉しかった」
(……誤解してはだめ……。だけど今はただ心のままに時を過ごしたい)
「私も嬉しかった、一緒に笑ってそれから、走って」
ジョルダンと、グレイシアは………金銭で結びついている。
なのに今は、熱い恋人たちのように路上で抱き合ってそして、キスを繰り返している。
そんな二人にピュ~と口笛を吹かれ、少し現実に引き戻される。
「馬車に戻ろうか?」
「もう…街歩きは終わりなの?」
「今夜はね………ろそろ、二人の時間にしない?」
「そう、してもいいわ」
護られるように肩を抱かれて、グレイシアは再び馬車へと戻れば、お仕着せをきた御者が扉を開けてくれ、そして車内に乗った。馬車は、アリオール・ハウスへと向かって走り出した。
(今夜は……家にレナが居ない……)
グレイシアは、レナの母だというのに。
なのにどうして、この夜はその事が淋しくあるのにどこか安堵しているのだろう。
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