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11,凍える心、熱い感情 ☽
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まだまだ楽の音は途切れないが、真夜中を過ぎてデビュタントであるトリクシーは部屋へと戻り、エスコート役のジョエルと付き添いのフィリスも、大広間を離れて居住スペースへとやって来ていた。
「疲れたな。少し、一緒に飲む?」
ここへやって来てようやくはりつめていたものを解せるはずなのに、それでもまだどこかやるせないものがあって、どうすれば自分を取り戻せるか分からない。
それで、ジョエルが示した酒肴を見て、普段は飲まないウイスキーを少しだけ飲もうと決めた。
「ええ」
二人の今いる家族用の居間は、暖炉で温かくオレンジ色に照らされ、今にも崩れそうな気持ちをより際立たせてしまう。
平気なふりはもう疲れて、疲れて……今はもうただの捨て猫のように惨めな自分だった。いつかジョエルがフィリスをそう評したように……。
淋しくて、温かい手が恋しい。
不意に考えもせず言葉は自然とこぼれ落ちていた。
「凍えそうなの」
それは二人の間にポトリと落ちた。
ジョエルはフィリスの言葉で一瞬動きを止め、それからウイスキーの入ったグラスを渡した。
「飲んで」
言われるがままに一気に飲み干して、喉を焼く感覚にフィリスは咳き込んだ。続いて体がカッと熱くなる。
「あなたは………?凍えそうじゃない?」
今日のジョエルが、一瞬だけ見せた緊張。
それが示すものは、もしかしたら……。
「さぁ……どうかな」
―――彼の本心を読めない
それでも、フィリスには分かることもある。
「あなたは、わたしを心配してるって。だったら今日もう一度………わたしを泣かせてくれる?たぶん、これは泣きたい気分なのに……上手く泣けないの」
泣けば少しはすっきりとするだろうか?
泣いて抱きしめられたら、少しは温まる気がする。
「泣きたいか………だろうな」
「でも……ここじゃダメ、わたしの部屋へ」
フィリスはきっぱりと言った。
誰かに見られたくはない。
「……未婚の娘じゃないから、私」
だから、例え二人きりで部屋にいることはタブーではなく平気なはず。
付き添いの役目が終わり、今のフィリスはただのフィリス・ザヴィアーで、正論をいう必要はない。
ジョエルは、立て続けに二杯あおると、飲み干したグラスをコトリ、と音を立てて置いた。その硬質な音は、部屋に大きな一音を響かせた。
「俺は今日、君に胸を貸すだけで済まないかも知れない。めちゃくちゃにして泣かせるかもしれない」
それを聞いたとき、やはり彼も………どこか、行き場のない想いを抱いてると感じた。
「いいの。そうして………むしろ、めちゃくちゃにされて泣いてしまいたい」
そう言ったフィリスを、壁に追い詰めると、顔の両側に肘をついて、ジョエルは瞳を合わせ覗きこみながら、反応を確かめるかのようにゆっくりとキスをした。
ジョエルは、フィリスの二人の間でさ迷った手を捕らえ、少しだけ力を入れた。そしてまるで男の力を誇示するかのように、壁に縫い留める。さぁ、これでどうする?と尋ねるかのように。
「俺の腕で、泣くことを選ぶのか?」
掠れた声が、情熱を帯びているみたいで、どうしてか、彼が今は、本能と理性とでせめぎあってると感じた。そのギリギリの所で、荒ぶる本能を抑えている、強靭な理性を振り払いたくなった。
彼の言う、泣く、の意味が本来の泣くという意味じゃない。と不意にフィリスは理解した。
「泣かせて、ジョエル。お願い……」
抑制を無くした彼は、どんな顔をするのだろう。
哀しみが彼の真ん中を覆ってる。それはフィリスには見えていて、きっとフィリスが同じような哀しみを持っているから気づけた。
「本気でめちゃくちゃにされてもいいって?」
もしかしたら、傷つけ合うだけかも知れない。
そして傷ついて、互いに傷を舐め合うのかも知れない。
それでも、どうにも処理できない感情をぶつける相手が………たまたま必要な時に、しっくりきてしまう相手が目の前にいた。ただ、それだけ。
「そうよ、わたしを壊すくらいめちゃくちゃに」
フィリスはそう言うと、緩んだ手から自由になった手で、彼の襟元に指を這わせそして自分へと近づけた。彼のムスクの官能的な香気が立ち上ぼり、それと共に禁断の空気を立ち込めさせる。
「きっと君は後悔する……」
ジョエルの唇とフィリスの唇が、重なりそして深く互いを味わう。キスとキスの間でジョエルは、そんな事を呟いた。
軽くふれあっただけの宿り木のキスとは違う、まったく別の知らない………知らなかった唇と舌の味。
「もう、遅いの」
後悔するのは、きっとそう。
だけどもう遅い。危険な予感があった時に遠くに離れるべきだった。
今、きっと自分達は分かり合える。そう感じるのは勘違いじゃない……。
同じ痛みを、苦しみを、そんな想いを抱いていて、だからこそ誰よりも理解し合える。
想う人は二人とも違う人。
それでも、だからか、怒りにも似た滾る欲望だけがふつふつと飛び火のようにあちこちに火をつけていくみたいだった。
深いキスと、愛撫が大胆になるにつれ、次第に遠慮なくフィリスの体に密度を増すジョエルの体。ドレス越しに、彼の膝が太股の間を衣擦れの音をさせながら割り開いた。
少しだけ荒くなったジョエルの喘ぐような呼吸が、キスの合間に鼓膜を震わせる。
愛撫が深くなると、ドレスの上見頃がはだけて白い胸元が空気に触れ、ひんやりとした空気に一瞬さらされたかと思えば、熱いくらいの唇と舌に蹂躙されて一気に加熱させられた。
中途半端に覗く白い肌とそれに淡い薔薇色の色づきが、ジョエルの唇に翻弄されて色を濃くしていく。その先端が固く立ち上がるのが艶かしくて……。
コルセットのせいで、よりふっくらと突き出させる乳房、そしてその薔薇色が、唾液で光り、そしてそんな淫らなそこをキツくつねられてフィリスは声を高く上げた。
次第に朧気になる意識で、潤んだ視界でジョエルと目と目が合う。
「ごめん、本気で余裕ない」
ドレスは腰の辺りに行き場を失い、ジョエルのあの綺麗な指は下着を取り去り、すでに潤ったあわいに滑り込んだ。
指が忍び込んだ花弁は、くちゅっと音をさせてそこが準備済みだと伝えてる。一瞬で火のついた官能にフィリスの唇から甘い吐息がこぼれた。熱い血液が一気に流れるそこはジンジンと主張して、彼の指が滑る度に水音も激しく、そして容易く長い指を誘い込んでうっとりと味わった。
余裕ない、とは言っても………まさか……。
まさか、こんな所で、誰かに見つかったら。
そんな考えが一瞬過りそして、砂の山があっけなく波に浚われるかのように失せていった。
待って、という間もなく、ジョエルはフィリスをソファに膝をつかせると、後ろから一気に貫いたのだ。
「っああ!」
まだ十分に解れていないそこは、ジョエルの固さとそれから、ずっしりとした質量をもつ屹立に貫かれて、限界を訴えている。
こんな体勢ではじめて受け入れたフィリスは、驚愕の眼差しをジョエルに向けた。
「こうして受け入れるのははじめて?」
少しだけ宥めるようにお尻を撫で、それから力強くがっちりと腰を捕らえた彼は、ギリギリまで引き抜いてそしてまた一気に貫く。
「…………っや…………あっ!」
数度そうされると、次第に愛液でジョエルの男たる証は滑らかに抽挿をはじめて、激しさにフィリスは声を喪った。
紳士らしさの欠片もない、欲望だけが支配するセックスは、フィリスの本能を呼び覚まして、悲鳴のような喘ぎとすすり泣きをもたらした。
襟足の、ほつれて首にかかる髪を軽く掴まれ、乱れた呼吸の唇に後ろからの強引なキスで蹂躙され、痛いほど張りつめた乳房はきつく掴まれ、腰は激しく打ち付けられている。
苦しいくらいの官能に、本当に死にそうなくらいの情熱にフィリスは文字通りめちゃくちゃに翻弄された。やがて小さな死がフィリスを浚っていった……―――――。
****
気がつくとフィリスは、ウィンスレット家の与えられた部屋で、自分のベッドの上でシュミーズで眠っていた。
「気がついた?」
「わたし………どうしたの?寝てしまったの?」
「気を失ったんだ」
「ここまで、運んで来たのね……」
ベッドの横にいたジョエルは、上着類は脱ぎタイも外された軽くシャツを羽織っただけの姿だった。
「ごめんなさい、迷惑をかけたわ」
「いや………俺が悪かった。それよりもどこが痛い?」
フィリスの側に腰を下ろすと、ベッドがきし、っと音を立てた。
「痛い?」
フィリスが身じろぎすると、確かに無理な体勢だったのかあちこちが軋む。
「ごめん、本当に乱暴だった。どこも平気?」
「たぶん」
「じゃあ、大丈夫か確かめる。さっきのお詫びも兼ねて」
ジョエルは、フィリスの手を取ると指先にキスをして、爪の先を舌先で舐めた。
「ここは………多分平気だよな?」
「ええ………でも、変な気分…」
指の間に舌を差し込まれて、それが妙にエロティックなのだ。
その動きが生々しく、女を犯す男の動きそのものに見えるからだ。
指先から掌へ、それから手首の透けた血管を辿るように唇が這うと血液に乗って、ジョエルの香りがフィリスを侵略するみたいに感じた。柔らかな女性らしい曲線を描く腕を唇が這い、そして上げさせた腕から、脇へと到達する。
「やだ……そこは……」
フィリスは脇を舌でなぞられ、身をよじった。
羞恥とそれからくすぐったさと、すぐ側に乳房があるところに彼の絹みたいな髪が触れて、おかしくなりそうだった。
「甘酸っぱい香りがする」
ジョエルは見せつけるように匂いを嗅ぐと、尖らせた舌で窪みをなぞり、それから反対側の腕も上げさせて晒してしまう。
無防備な姿にフィリスは彼の獲物にでもなってしまったような気がした。
薄いシュミーズ越しにもツンと立ち上がった乳首が、凄く感じてしまってると主張していて、それを捕らえたジョエルの青い瞳が危険な光を灯した。
互いの昂りが生き物のように蠢いて、二人を絡めとっていくのがなぜか見える気がした。唇が開いて綺麗に並ぶ白い歯が覗くと、それがフィリスの脈打つ首筋に甘く噛みつく。
―――わたしは、すでに死んだんだわ
ふいにそう、思えた。
さっき、気を失った時にフィリスの過去の欠片が死んだ気がする。そしてまた彼が触れる度に、新しい生がはじまる気がする。
そんな気がして、フィリスは彼が噛んだそこを顔を反対に向けて、唇の前にさらけ出した。
両方の手で、持ち上げられた乳房がこんもりと山を作り谷間を深くした。シュミーズの布越しに、彼に良いように形を変える柔らかな乳房はまるで淫らなダンスを踊って、フィリス自身が誘ってるみたいな感覚に陥らせた。
「っん………」
乳房が踊る度に、尖った先端が上質で滑らかなはずの生地なのに、そこに擦れて更に硬く尖らせる。
「ジョエル、お願い」
「何をお願い?」
「分かってる癖に………ジンジンしてるの」
「レディ フィリス、ではこれを脱いでそのジンジンとしてる所を見せて下さいますか?」
上から体を退けたジョエルがフィリスの腕を引いて起き上がらせる。フィリスは腰をずらしてシュミーズを少しずつ引き上げて、そして頭から引き抜いた。
そしてつい、胸元を両腕で包んだ。
「フィリス、お願いしたのは君の方だろ?」
フィリスは震える吐息と共に、腕を両サイドに下ろした。
「赤くなって、熟して落ちそうだ」
二の腕を捕らえた彼は、ジンジンしてるそこに舌で触れてそれから唇で挟み、そして吸って弄んだ。
反対は指で摘み、潰して転がして弄ぶ。
「………っあ……っあ………」
胸がこれほど感じてしまう所だなんて、フィリスははじめて知った。そんな風にずっと愛撫されると、どんどん敏感になって体がふるふると震え、仰け反った。
「や……もぅ………ダメ……っ!」
軽く叫ぶと真っ白に意識が霞む。
「胸でこんなに感じるなんて、敏感なんだな」
こんな感覚は、知らなかった。
「知らないわ……こんなの…」
「そう?」
ジョエルは胸で感じすぎて、力なく横たわったフィリスの太股を割り開いて、指で割れ目をなぞった。
「ここはさっき、乱暴にしてしまったから」
「やだ、見ないで」
「痛めてないか、見るだけだ」
顔を寄せて、ちゅっと音をたててキスをすると、舌を這わせぴちゃぴちゃと滴る愛液を絡めて愛撫する。
「そん………な……所にっ、……んっ………ぁ……ん、汚いわ」
フィリスは羞恥にすすり泣いた。
それでも、軽く達したばかりの体は少しも力が入らず、そして官能に燃えていた。
花芯を尖った舌で愛撫されると、あられもない姿なのも次第に気にならなくなって、ただ彼のすることを受け止めていた。
「やっ、………んぅ………あっ………」
「良かった、いいみたいだな」
唇がそっと離れたかと思えば、指が中へと入り中を確かめるように蹂躙していく。
「気持ち良さそうに、だらだら滴ってるよ、フィリス。あどけない様な顔をしていても、ここはしっかり大人だな」
ぐちゅっぐちゅっと指がフィリスの中を抜き差しする度に音をさせて、お尻の方までぬるぬるとした愛液が滴ってるのが分かって、側の枕に顔を埋めた。
「顔を隠しても、こっちはもっとして欲しいってひくひくして、指を飲み込んでる。そろそろ、物足りないかな?どう?フィリス」
膣内が、蠢いて指を咥えてる。動きに合わせてまるで吸い付くみたいに。
それでも、もっと奥を、そしてさっきまで裂かれそうなほど奥まで貫いた物を覚えてるから、欲しくて愛液が滴る。
「ええ、………そう。あなたの言うとおりよ。足りないわ」
「じゃあ、脱がせて。君が欲しいのを、その手で触れて示して」
フィリスは、横に寝そべったジョエルのズボンの前を開いて下へとずり下ろした。飛び出して来たその彼の男の証が、臍へ向かってそそりたっていて、思わず息を飲んだ。
熱さと固さを確かめたくなって、両手で触れた。
「こんなの……無理だわ」
思わず呟いていた。
「ついさっき、根元まですっぽり呑み込んでたよ」
それを聞いて、フィリスの全身がかあっと赤くなった。
曲刀みたいな弧を描く、凶器じみたそれは力に満ち溢れていて怯ませ、ごくんと息を飲んだ。
「跨がって、あてがって。大丈夫だよ」
彼はまるで処女みたいに躊躇うフィリスに、軽く手で腰を持って跨がるのを手伝った。
跨がって彼の屹立の滑らかな先端が、潤ってとろとろに解れた蜜口を愛撫すると、そこは、すべらかな凶器の先へキスをして、それからずぶずぶと飲み込んで行く。
腰を下ろした瞬間、ジョエルの形に蜜壺が絡みつき擦れあっただけで心地よさに脳裏が真っ白に染まった。
「………ぁ…っ…………!」
下からがつがつと突き上げる動きに翻弄され、乱れた荒い呼吸とそれから、切ない喘ぎ声を上げて、ジョエルの熱を体に受け止め続けた。
「………っあ……ぁ――――――――!」
体を震わせ、崩れ落ちると、抱き止めたジョエルは今度は組み伏して膝を肩にかけて深く貫いた。
中を抉るような彼の凶器が、フィリスの弱く敏感な箇所を攻め立てる。
「や……またっ…………っ!」
体をガクガクさせて達して気を失いそうなフィリスを抱き止めた。
「まだ、ダメだよ。気を失ったら」
はぁ、と息を出したジョエルは、一度引き抜き体勢を変えて後ろから抱きすくめるようにして再び中へと侵略した。
ともすれば高い声をあげてしまいそうで、手を当て堪えるフィリスの唇をキスでふさぎ、乳房と花芯を愛撫しながら、きゅうきゅうと締め付ける蜜壺を荒々しく突き上げる。
「……っ…………!」
ジョエルも軽く呻きを漏らすと、フィリスの絶頂の叫びと共に欲望を解き放った。荒い息の中、きつく抱き締めあいながら、絶頂に震える体を感じ合った。
「疲れたな。少し、一緒に飲む?」
ここへやって来てようやくはりつめていたものを解せるはずなのに、それでもまだどこかやるせないものがあって、どうすれば自分を取り戻せるか分からない。
それで、ジョエルが示した酒肴を見て、普段は飲まないウイスキーを少しだけ飲もうと決めた。
「ええ」
二人の今いる家族用の居間は、暖炉で温かくオレンジ色に照らされ、今にも崩れそうな気持ちをより際立たせてしまう。
平気なふりはもう疲れて、疲れて……今はもうただの捨て猫のように惨めな自分だった。いつかジョエルがフィリスをそう評したように……。
淋しくて、温かい手が恋しい。
不意に考えもせず言葉は自然とこぼれ落ちていた。
「凍えそうなの」
それは二人の間にポトリと落ちた。
ジョエルはフィリスの言葉で一瞬動きを止め、それからウイスキーの入ったグラスを渡した。
「飲んで」
言われるがままに一気に飲み干して、喉を焼く感覚にフィリスは咳き込んだ。続いて体がカッと熱くなる。
「あなたは………?凍えそうじゃない?」
今日のジョエルが、一瞬だけ見せた緊張。
それが示すものは、もしかしたら……。
「さぁ……どうかな」
―――彼の本心を読めない
それでも、フィリスには分かることもある。
「あなたは、わたしを心配してるって。だったら今日もう一度………わたしを泣かせてくれる?たぶん、これは泣きたい気分なのに……上手く泣けないの」
泣けば少しはすっきりとするだろうか?
泣いて抱きしめられたら、少しは温まる気がする。
「泣きたいか………だろうな」
「でも……ここじゃダメ、わたしの部屋へ」
フィリスはきっぱりと言った。
誰かに見られたくはない。
「……未婚の娘じゃないから、私」
だから、例え二人きりで部屋にいることはタブーではなく平気なはず。
付き添いの役目が終わり、今のフィリスはただのフィリス・ザヴィアーで、正論をいう必要はない。
ジョエルは、立て続けに二杯あおると、飲み干したグラスをコトリ、と音を立てて置いた。その硬質な音は、部屋に大きな一音を響かせた。
「俺は今日、君に胸を貸すだけで済まないかも知れない。めちゃくちゃにして泣かせるかもしれない」
それを聞いたとき、やはり彼も………どこか、行き場のない想いを抱いてると感じた。
「いいの。そうして………むしろ、めちゃくちゃにされて泣いてしまいたい」
そう言ったフィリスを、壁に追い詰めると、顔の両側に肘をついて、ジョエルは瞳を合わせ覗きこみながら、反応を確かめるかのようにゆっくりとキスをした。
ジョエルは、フィリスの二人の間でさ迷った手を捕らえ、少しだけ力を入れた。そしてまるで男の力を誇示するかのように、壁に縫い留める。さぁ、これでどうする?と尋ねるかのように。
「俺の腕で、泣くことを選ぶのか?」
掠れた声が、情熱を帯びているみたいで、どうしてか、彼が今は、本能と理性とでせめぎあってると感じた。そのギリギリの所で、荒ぶる本能を抑えている、強靭な理性を振り払いたくなった。
彼の言う、泣く、の意味が本来の泣くという意味じゃない。と不意にフィリスは理解した。
「泣かせて、ジョエル。お願い……」
抑制を無くした彼は、どんな顔をするのだろう。
哀しみが彼の真ん中を覆ってる。それはフィリスには見えていて、きっとフィリスが同じような哀しみを持っているから気づけた。
「本気でめちゃくちゃにされてもいいって?」
もしかしたら、傷つけ合うだけかも知れない。
そして傷ついて、互いに傷を舐め合うのかも知れない。
それでも、どうにも処理できない感情をぶつける相手が………たまたま必要な時に、しっくりきてしまう相手が目の前にいた。ただ、それだけ。
「そうよ、わたしを壊すくらいめちゃくちゃに」
フィリスはそう言うと、緩んだ手から自由になった手で、彼の襟元に指を這わせそして自分へと近づけた。彼のムスクの官能的な香気が立ち上ぼり、それと共に禁断の空気を立ち込めさせる。
「きっと君は後悔する……」
ジョエルの唇とフィリスの唇が、重なりそして深く互いを味わう。キスとキスの間でジョエルは、そんな事を呟いた。
軽くふれあっただけの宿り木のキスとは違う、まったく別の知らない………知らなかった唇と舌の味。
「もう、遅いの」
後悔するのは、きっとそう。
だけどもう遅い。危険な予感があった時に遠くに離れるべきだった。
今、きっと自分達は分かり合える。そう感じるのは勘違いじゃない……。
同じ痛みを、苦しみを、そんな想いを抱いていて、だからこそ誰よりも理解し合える。
想う人は二人とも違う人。
それでも、だからか、怒りにも似た滾る欲望だけがふつふつと飛び火のようにあちこちに火をつけていくみたいだった。
深いキスと、愛撫が大胆になるにつれ、次第に遠慮なくフィリスの体に密度を増すジョエルの体。ドレス越しに、彼の膝が太股の間を衣擦れの音をさせながら割り開いた。
少しだけ荒くなったジョエルの喘ぐような呼吸が、キスの合間に鼓膜を震わせる。
愛撫が深くなると、ドレスの上見頃がはだけて白い胸元が空気に触れ、ひんやりとした空気に一瞬さらされたかと思えば、熱いくらいの唇と舌に蹂躙されて一気に加熱させられた。
中途半端に覗く白い肌とそれに淡い薔薇色の色づきが、ジョエルの唇に翻弄されて色を濃くしていく。その先端が固く立ち上がるのが艶かしくて……。
コルセットのせいで、よりふっくらと突き出させる乳房、そしてその薔薇色が、唾液で光り、そしてそんな淫らなそこをキツくつねられてフィリスは声を高く上げた。
次第に朧気になる意識で、潤んだ視界でジョエルと目と目が合う。
「ごめん、本気で余裕ない」
ドレスは腰の辺りに行き場を失い、ジョエルのあの綺麗な指は下着を取り去り、すでに潤ったあわいに滑り込んだ。
指が忍び込んだ花弁は、くちゅっと音をさせてそこが準備済みだと伝えてる。一瞬で火のついた官能にフィリスの唇から甘い吐息がこぼれた。熱い血液が一気に流れるそこはジンジンと主張して、彼の指が滑る度に水音も激しく、そして容易く長い指を誘い込んでうっとりと味わった。
余裕ない、とは言っても………まさか……。
まさか、こんな所で、誰かに見つかったら。
そんな考えが一瞬過りそして、砂の山があっけなく波に浚われるかのように失せていった。
待って、という間もなく、ジョエルはフィリスをソファに膝をつかせると、後ろから一気に貫いたのだ。
「っああ!」
まだ十分に解れていないそこは、ジョエルの固さとそれから、ずっしりとした質量をもつ屹立に貫かれて、限界を訴えている。
こんな体勢ではじめて受け入れたフィリスは、驚愕の眼差しをジョエルに向けた。
「こうして受け入れるのははじめて?」
少しだけ宥めるようにお尻を撫で、それから力強くがっちりと腰を捕らえた彼は、ギリギリまで引き抜いてそしてまた一気に貫く。
「…………っや…………あっ!」
数度そうされると、次第に愛液でジョエルの男たる証は滑らかに抽挿をはじめて、激しさにフィリスは声を喪った。
紳士らしさの欠片もない、欲望だけが支配するセックスは、フィリスの本能を呼び覚まして、悲鳴のような喘ぎとすすり泣きをもたらした。
襟足の、ほつれて首にかかる髪を軽く掴まれ、乱れた呼吸の唇に後ろからの強引なキスで蹂躙され、痛いほど張りつめた乳房はきつく掴まれ、腰は激しく打ち付けられている。
苦しいくらいの官能に、本当に死にそうなくらいの情熱にフィリスは文字通りめちゃくちゃに翻弄された。やがて小さな死がフィリスを浚っていった……―――――。
****
気がつくとフィリスは、ウィンスレット家の与えられた部屋で、自分のベッドの上でシュミーズで眠っていた。
「気がついた?」
「わたし………どうしたの?寝てしまったの?」
「気を失ったんだ」
「ここまで、運んで来たのね……」
ベッドの横にいたジョエルは、上着類は脱ぎタイも外された軽くシャツを羽織っただけの姿だった。
「ごめんなさい、迷惑をかけたわ」
「いや………俺が悪かった。それよりもどこが痛い?」
フィリスの側に腰を下ろすと、ベッドがきし、っと音を立てた。
「痛い?」
フィリスが身じろぎすると、確かに無理な体勢だったのかあちこちが軋む。
「ごめん、本当に乱暴だった。どこも平気?」
「たぶん」
「じゃあ、大丈夫か確かめる。さっきのお詫びも兼ねて」
ジョエルは、フィリスの手を取ると指先にキスをして、爪の先を舌先で舐めた。
「ここは………多分平気だよな?」
「ええ………でも、変な気分…」
指の間に舌を差し込まれて、それが妙にエロティックなのだ。
その動きが生々しく、女を犯す男の動きそのものに見えるからだ。
指先から掌へ、それから手首の透けた血管を辿るように唇が這うと血液に乗って、ジョエルの香りがフィリスを侵略するみたいに感じた。柔らかな女性らしい曲線を描く腕を唇が這い、そして上げさせた腕から、脇へと到達する。
「やだ……そこは……」
フィリスは脇を舌でなぞられ、身をよじった。
羞恥とそれからくすぐったさと、すぐ側に乳房があるところに彼の絹みたいな髪が触れて、おかしくなりそうだった。
「甘酸っぱい香りがする」
ジョエルは見せつけるように匂いを嗅ぐと、尖らせた舌で窪みをなぞり、それから反対側の腕も上げさせて晒してしまう。
無防備な姿にフィリスは彼の獲物にでもなってしまったような気がした。
薄いシュミーズ越しにもツンと立ち上がった乳首が、凄く感じてしまってると主張していて、それを捕らえたジョエルの青い瞳が危険な光を灯した。
互いの昂りが生き物のように蠢いて、二人を絡めとっていくのがなぜか見える気がした。唇が開いて綺麗に並ぶ白い歯が覗くと、それがフィリスの脈打つ首筋に甘く噛みつく。
―――わたしは、すでに死んだんだわ
ふいにそう、思えた。
さっき、気を失った時にフィリスの過去の欠片が死んだ気がする。そしてまた彼が触れる度に、新しい生がはじまる気がする。
そんな気がして、フィリスは彼が噛んだそこを顔を反対に向けて、唇の前にさらけ出した。
両方の手で、持ち上げられた乳房がこんもりと山を作り谷間を深くした。シュミーズの布越しに、彼に良いように形を変える柔らかな乳房はまるで淫らなダンスを踊って、フィリス自身が誘ってるみたいな感覚に陥らせた。
「っん………」
乳房が踊る度に、尖った先端が上質で滑らかなはずの生地なのに、そこに擦れて更に硬く尖らせる。
「ジョエル、お願い」
「何をお願い?」
「分かってる癖に………ジンジンしてるの」
「レディ フィリス、ではこれを脱いでそのジンジンとしてる所を見せて下さいますか?」
上から体を退けたジョエルがフィリスの腕を引いて起き上がらせる。フィリスは腰をずらしてシュミーズを少しずつ引き上げて、そして頭から引き抜いた。
そしてつい、胸元を両腕で包んだ。
「フィリス、お願いしたのは君の方だろ?」
フィリスは震える吐息と共に、腕を両サイドに下ろした。
「赤くなって、熟して落ちそうだ」
二の腕を捕らえた彼は、ジンジンしてるそこに舌で触れてそれから唇で挟み、そして吸って弄んだ。
反対は指で摘み、潰して転がして弄ぶ。
「………っあ……っあ………」
胸がこれほど感じてしまう所だなんて、フィリスははじめて知った。そんな風にずっと愛撫されると、どんどん敏感になって体がふるふると震え、仰け反った。
「や……もぅ………ダメ……っ!」
軽く叫ぶと真っ白に意識が霞む。
「胸でこんなに感じるなんて、敏感なんだな」
こんな感覚は、知らなかった。
「知らないわ……こんなの…」
「そう?」
ジョエルは胸で感じすぎて、力なく横たわったフィリスの太股を割り開いて、指で割れ目をなぞった。
「ここはさっき、乱暴にしてしまったから」
「やだ、見ないで」
「痛めてないか、見るだけだ」
顔を寄せて、ちゅっと音をたててキスをすると、舌を這わせぴちゃぴちゃと滴る愛液を絡めて愛撫する。
「そん………な……所にっ、……んっ………ぁ……ん、汚いわ」
フィリスは羞恥にすすり泣いた。
それでも、軽く達したばかりの体は少しも力が入らず、そして官能に燃えていた。
花芯を尖った舌で愛撫されると、あられもない姿なのも次第に気にならなくなって、ただ彼のすることを受け止めていた。
「やっ、………んぅ………あっ………」
「良かった、いいみたいだな」
唇がそっと離れたかと思えば、指が中へと入り中を確かめるように蹂躙していく。
「気持ち良さそうに、だらだら滴ってるよ、フィリス。あどけない様な顔をしていても、ここはしっかり大人だな」
ぐちゅっぐちゅっと指がフィリスの中を抜き差しする度に音をさせて、お尻の方までぬるぬるとした愛液が滴ってるのが分かって、側の枕に顔を埋めた。
「顔を隠しても、こっちはもっとして欲しいってひくひくして、指を飲み込んでる。そろそろ、物足りないかな?どう?フィリス」
膣内が、蠢いて指を咥えてる。動きに合わせてまるで吸い付くみたいに。
それでも、もっと奥を、そしてさっきまで裂かれそうなほど奥まで貫いた物を覚えてるから、欲しくて愛液が滴る。
「ええ、………そう。あなたの言うとおりよ。足りないわ」
「じゃあ、脱がせて。君が欲しいのを、その手で触れて示して」
フィリスは、横に寝そべったジョエルのズボンの前を開いて下へとずり下ろした。飛び出して来たその彼の男の証が、臍へ向かってそそりたっていて、思わず息を飲んだ。
熱さと固さを確かめたくなって、両手で触れた。
「こんなの……無理だわ」
思わず呟いていた。
「ついさっき、根元まですっぽり呑み込んでたよ」
それを聞いて、フィリスの全身がかあっと赤くなった。
曲刀みたいな弧を描く、凶器じみたそれは力に満ち溢れていて怯ませ、ごくんと息を飲んだ。
「跨がって、あてがって。大丈夫だよ」
彼はまるで処女みたいに躊躇うフィリスに、軽く手で腰を持って跨がるのを手伝った。
跨がって彼の屹立の滑らかな先端が、潤ってとろとろに解れた蜜口を愛撫すると、そこは、すべらかな凶器の先へキスをして、それからずぶずぶと飲み込んで行く。
腰を下ろした瞬間、ジョエルの形に蜜壺が絡みつき擦れあっただけで心地よさに脳裏が真っ白に染まった。
「………ぁ…っ…………!」
下からがつがつと突き上げる動きに翻弄され、乱れた荒い呼吸とそれから、切ない喘ぎ声を上げて、ジョエルの熱を体に受け止め続けた。
「………っあ……ぁ――――――――!」
体を震わせ、崩れ落ちると、抱き止めたジョエルは今度は組み伏して膝を肩にかけて深く貫いた。
中を抉るような彼の凶器が、フィリスの弱く敏感な箇所を攻め立てる。
「や……またっ…………っ!」
体をガクガクさせて達して気を失いそうなフィリスを抱き止めた。
「まだ、ダメだよ。気を失ったら」
はぁ、と息を出したジョエルは、一度引き抜き体勢を変えて後ろから抱きすくめるようにして再び中へと侵略した。
ともすれば高い声をあげてしまいそうで、手を当て堪えるフィリスの唇をキスでふさぎ、乳房と花芯を愛撫しながら、きゅうきゅうと締め付ける蜜壺を荒々しく突き上げる。
「……っ…………!」
ジョエルも軽く呻きを漏らすと、フィリスの絶頂の叫びと共に欲望を解き放った。荒い息の中、きつく抱き締めあいながら、絶頂に震える体を感じ合った。
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