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21,芽生えた想いに
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ジョエルの姿が消えた後、メイドがフィリスの上体を起こし
「お召し替えを」
「ありがとう………でも、もう少しこのままではいけないかしら」
「ですが、もう少し楽なドレスの方が」
困ったように言うメイドにフィリスはしぶしぶ頷いた。
「……そうね」
フィリスはジョエルの残していったものが、さっきから熱くなっていて、それを隠したかったのだ。
ボタンに手をかけ、ドレスの上見頃を開けて脱ぎ続いてコルセットを外せるように背中をメイドへと向けた。
メイドが用意したのはコルセットなしの胸の下で切り替えのあるドレスで、深すぎない襟ぐりが跡を隠してくれてホッと一息ついた。
枕を背にあて、ベッド上テーブルで温かいスープを食べる事にした。トレーの上にはスープにパン、それからオムレツ、サラダにベーコンと、大人が食べるにしてはいずれもとても小さなサイズで用意されてあった。
そういえばこの屋敷に来てから、いつの頃からか小さなサイズの物になったとフィリスは思い出した。それにしても今日の分は一品がさらに小さく、色々と品数がある。
「……聞きたいの、いつもわたしのために小さなサイズで用意してくれているの?」
「はい、フィリス様は食が細いようですから、少しずつ色々と食べて頂けるようにと」
「まぁ………では、公爵夫人にお礼を言わなくては」
「いえ、ジョエル様が。……フィリス様のお料理は、お部屋での朝食はそのように少な目に、晩餐の時にも他の方の分よりも減らさせて頂いておりました」
「そう……気遣いをありがとう」
部屋だと一人だから、明らかに量を減らしてその分品数を多く出してくれていたのだ。
「とても、美味しそうね、頂くわ」
フィリスはメイドに微笑みかけ、スプーンを手に取った。
時間をかけて、ゆっくりとフィリスはそれらを食べた。
いつもは……出された物に、何も疑問にも思わず残してしまっていた。そして、時間をたっぷりとかけてすべてのお皿を、綺麗にしたのは本当に久しぶりの事だった。
それを目にしたメイドが、嬉しそうに微笑みトレーを、下げていった。
(優しくしないで)
もっと、狡く悪いだけの男でいてくれたなら。
だから危険だと思っていたのに。
これ以上優しい所を知ってしまったら……。
なのに今となっては、今すぐ離れて生きて行くことを決意するほどの強さもなくて、ただ………芽生えてしまいそうな心に、蓋をして埋めてしまうしかない。
****
今朝、――ソールズベリとの乗馬。
約束の通り彼は迎えにやって来た。
フィリスはウィンスレット家の白馬を用意されていたので、馬に騎乗し、ソールズベリの鹿毛の馬と並んでフォレストレイクパークのロットンロウを目指したのだ。
散歩や乗馬を楽しむ上流の人々。朝の社交の場だ。
ここへ二人で来ることはつまり、そのまま社交界の面々へ、二人で出掛けていましたよ、と知らしめる事と同じだった。
「気持ちのいい朝ですね」
「ええ、本当に」
そうは言っても、フィリスの内心は全く違った。
ジョエルの行為は、フィリスの身体に痕跡をたくさん残していて、今朝方まで彼の物が苛んだ蜜壺は少しの刺激で疼く。
横のりの鞍は、右足を鞍にかけて左足と揃えるように乗るのだが、夜毎に彼に苛まれた体はあちこちが辛く、そして寝不足も重なりロットンロウに着いた頃には楽しむどころでは無くなってしまった。
「レディ フィリス?どうしました?」
「なんでも………いえ、少しめまいが……」
本当にめまいがしているというよりは、そんな気分だった。
ソールズベリの手が伸びて、馬から降りフィリスは道の端に座らされた。
「君」
ソールズベリは、後ろから着いてきていたウィンスレット家の馬丁を呼び馬車を呼んでくるように告げた。
しばらくそうしていると、馬車が停まりソールズベリに寄りかかるようにして歩き馬車に乗った。
「ご気分が優れないのに気付かずに申し訳なかった」
「いいえ、わたしも大丈夫だと思っていたのです」
馬車の中で俯き、フィリスは顔を彼から隠した。
「体調が悪いのは、ヴィヴァースのせいでしょう」
「……いいえ、もう、関係ありませんから」
フィリスはソールズベリにそう告げた。
「私があなたを幸せにしてあげたい」
そんな風に言われて、フィリスは顔をあげた。
そうして、真摯な眼差しを受けて
「あなたはわたしを誤解しています。そんな不幸せな女じゃありませんから……わたし。今のままで………十分です」
馬車はウィンスレットへ着き、ソールズベリはフィリスの手を取った。
「私はウィンスレットに言われたからではなく、真剣に考えていると、覚えていてください」
そう言って、フィリスの身体を支えながら馬車を降りた。
玄関ホールにつくと、ジョエルが来てくれて………。
本当は歩けるのに、彼は抱き上げて運ぼうとする。それでもフィリスも抗議する事なく、彼の腕に収まった。
軽々と運ぶ頼もしい一面を見て、そういえば最初の夜も知らないうちに、運ばれていたことを思い出した。
あの夜も、こんな風に運ばれたのかと思うと………。
婚礼の日、ブライアンに抱かれながらヴィヴァースの屋敷に入ったこと。この国では花嫁を抱き上げ、屋敷へと入るのは伝統だった。
花嫁にする事と、フィリスは重ねてしまった。
ジョエルとはあり得ないはずの事なのに。
階段を上りきりベッドに降ろされた時には、すぐに離れて行くであろう彼を、思い浮かべた記憶と今の想いと、それで、置いて行かれたく無くて、思わず引き留めたくなって………キスをしてしまった。
この見つかるかも知れないという時間であるのに、フィリスの行動に抗議する彼に、つい昨日の夜の事を持ち出してしまった。
知られたくなかった。
一瞬でも、あり得ない事を想像してしまったのを……。
そんなことを望んでもいないのに、重ねてしまったことを。
自分たちにあるのは、単なる欲望の………捌け口だけ。
苦しい想いを、どうにも出来ない二人の、単なる傷の慰め合い。
それだけでしかないのだから。
だから………。
もう、優しくしないで。
これ以上、そんなあなたを知ったら、どうすればいいのかわからなくなりそう。
もう、誰にも心を奪われたくない……。
彼の唇の跡は、フィリスの記憶にしっかりと残ってしまって、しばらくはそこが本当に違う熱を帯びているようだった。
「お召し替えを」
「ありがとう………でも、もう少しこのままではいけないかしら」
「ですが、もう少し楽なドレスの方が」
困ったように言うメイドにフィリスはしぶしぶ頷いた。
「……そうね」
フィリスはジョエルの残していったものが、さっきから熱くなっていて、それを隠したかったのだ。
ボタンに手をかけ、ドレスの上見頃を開けて脱ぎ続いてコルセットを外せるように背中をメイドへと向けた。
メイドが用意したのはコルセットなしの胸の下で切り替えのあるドレスで、深すぎない襟ぐりが跡を隠してくれてホッと一息ついた。
枕を背にあて、ベッド上テーブルで温かいスープを食べる事にした。トレーの上にはスープにパン、それからオムレツ、サラダにベーコンと、大人が食べるにしてはいずれもとても小さなサイズで用意されてあった。
そういえばこの屋敷に来てから、いつの頃からか小さなサイズの物になったとフィリスは思い出した。それにしても今日の分は一品がさらに小さく、色々と品数がある。
「……聞きたいの、いつもわたしのために小さなサイズで用意してくれているの?」
「はい、フィリス様は食が細いようですから、少しずつ色々と食べて頂けるようにと」
「まぁ………では、公爵夫人にお礼を言わなくては」
「いえ、ジョエル様が。……フィリス様のお料理は、お部屋での朝食はそのように少な目に、晩餐の時にも他の方の分よりも減らさせて頂いておりました」
「そう……気遣いをありがとう」
部屋だと一人だから、明らかに量を減らしてその分品数を多く出してくれていたのだ。
「とても、美味しそうね、頂くわ」
フィリスはメイドに微笑みかけ、スプーンを手に取った。
時間をかけて、ゆっくりとフィリスはそれらを食べた。
いつもは……出された物に、何も疑問にも思わず残してしまっていた。そして、時間をたっぷりとかけてすべてのお皿を、綺麗にしたのは本当に久しぶりの事だった。
それを目にしたメイドが、嬉しそうに微笑みトレーを、下げていった。
(優しくしないで)
もっと、狡く悪いだけの男でいてくれたなら。
だから危険だと思っていたのに。
これ以上優しい所を知ってしまったら……。
なのに今となっては、今すぐ離れて生きて行くことを決意するほどの強さもなくて、ただ………芽生えてしまいそうな心に、蓋をして埋めてしまうしかない。
****
今朝、――ソールズベリとの乗馬。
約束の通り彼は迎えにやって来た。
フィリスはウィンスレット家の白馬を用意されていたので、馬に騎乗し、ソールズベリの鹿毛の馬と並んでフォレストレイクパークのロットンロウを目指したのだ。
散歩や乗馬を楽しむ上流の人々。朝の社交の場だ。
ここへ二人で来ることはつまり、そのまま社交界の面々へ、二人で出掛けていましたよ、と知らしめる事と同じだった。
「気持ちのいい朝ですね」
「ええ、本当に」
そうは言っても、フィリスの内心は全く違った。
ジョエルの行為は、フィリスの身体に痕跡をたくさん残していて、今朝方まで彼の物が苛んだ蜜壺は少しの刺激で疼く。
横のりの鞍は、右足を鞍にかけて左足と揃えるように乗るのだが、夜毎に彼に苛まれた体はあちこちが辛く、そして寝不足も重なりロットンロウに着いた頃には楽しむどころでは無くなってしまった。
「レディ フィリス?どうしました?」
「なんでも………いえ、少しめまいが……」
本当にめまいがしているというよりは、そんな気分だった。
ソールズベリの手が伸びて、馬から降りフィリスは道の端に座らされた。
「君」
ソールズベリは、後ろから着いてきていたウィンスレット家の馬丁を呼び馬車を呼んでくるように告げた。
しばらくそうしていると、馬車が停まりソールズベリに寄りかかるようにして歩き馬車に乗った。
「ご気分が優れないのに気付かずに申し訳なかった」
「いいえ、わたしも大丈夫だと思っていたのです」
馬車の中で俯き、フィリスは顔を彼から隠した。
「体調が悪いのは、ヴィヴァースのせいでしょう」
「……いいえ、もう、関係ありませんから」
フィリスはソールズベリにそう告げた。
「私があなたを幸せにしてあげたい」
そんな風に言われて、フィリスは顔をあげた。
そうして、真摯な眼差しを受けて
「あなたはわたしを誤解しています。そんな不幸せな女じゃありませんから……わたし。今のままで………十分です」
馬車はウィンスレットへ着き、ソールズベリはフィリスの手を取った。
「私はウィンスレットに言われたからではなく、真剣に考えていると、覚えていてください」
そう言って、フィリスの身体を支えながら馬車を降りた。
玄関ホールにつくと、ジョエルが来てくれて………。
本当は歩けるのに、彼は抱き上げて運ぼうとする。それでもフィリスも抗議する事なく、彼の腕に収まった。
軽々と運ぶ頼もしい一面を見て、そういえば最初の夜も知らないうちに、運ばれていたことを思い出した。
あの夜も、こんな風に運ばれたのかと思うと………。
婚礼の日、ブライアンに抱かれながらヴィヴァースの屋敷に入ったこと。この国では花嫁を抱き上げ、屋敷へと入るのは伝統だった。
花嫁にする事と、フィリスは重ねてしまった。
ジョエルとはあり得ないはずの事なのに。
階段を上りきりベッドに降ろされた時には、すぐに離れて行くであろう彼を、思い浮かべた記憶と今の想いと、それで、置いて行かれたく無くて、思わず引き留めたくなって………キスをしてしまった。
この見つかるかも知れないという時間であるのに、フィリスの行動に抗議する彼に、つい昨日の夜の事を持ち出してしまった。
知られたくなかった。
一瞬でも、あり得ない事を想像してしまったのを……。
そんなことを望んでもいないのに、重ねてしまったことを。
自分たちにあるのは、単なる欲望の………捌け口だけ。
苦しい想いを、どうにも出来ない二人の、単なる傷の慰め合い。
それだけでしかないのだから。
だから………。
もう、優しくしないで。
これ以上、そんなあなたを知ったら、どうすればいいのかわからなくなりそう。
もう、誰にも心を奪われたくない……。
彼の唇の跡は、フィリスの記憶にしっかりと残ってしまって、しばらくはそこが本当に違う熱を帯びているようだった。
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