睡恋―sui ren―

桜 詩

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24,老公爵の葬儀

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 ウィンスレット一家は、皆喪服を身に纏っている。
フィリスもまた、黒のドレスとベール付きの帽子を被り、トリクシーと共にお会いしたこともない相手の葬儀に参列する事になった。

 デュアー公爵家は、ウィンスレット家に比べると寂れて見えた。ウィンスレット家のマリウス……ジョエルの弟がこの家に養子に入り、資金援助があるのだろうが、まだまだ行き届いていない様子だった。

一度傾いた家を立て直すのは、なかなか難しい事なのだ。
亡くなったクラレンス・デルヴィーニュの孫娘、コーデリアは、これぞ貴族令嬢という金髪の細かな巻き毛にくっきりとした青い瞳。形よい唇をしていて涙を流す姿にさえ凛とした美しさがあった。

ジョエルは彼女に近づき、一言二言言葉をかけると、コーデリアはジョエルの胸元に額をつけ、彼の手は小刻みに震える背を撫でていた。

フィリスはそれを見て、何故か苦しくなってそっと顔を伏せて見ないようにしたけれど、どうしても気になって見てしまった。葬儀には、レナ・アークウェインと彼女の父親のグランヴィル伯爵 ジョルダン・アシュフォードも続いてやって来て、彼はマリウスに声をかけていた。

コーデリアは、レナに声をかけられるとようやくジョエルから離れ彼女と腕を組んで会話を交わしている。

埋葬は領地の方でするそうだが、現在領地の屋敷は人手に渡っていて、それを買い戻す交渉をしているそうで、葬儀だけはこの、タウンハウスでする事になったそうだ。

穏やかな顔の老公爵は、とても良いご尊顔だった。生前に話した事はないけれど、棺に白い花を添えていると、厳しくも優しい気高い公爵の在りし日を想像をしてしまった。

 コーデリアは悲しみに歪む顔も美しく、そしてレディらしく気高く見えた。フィリスはどうしてか………同じ年の彼女が……こんなときなのに、羨ましくてならなかった。

何の瑕疵もない女性というのは、なんて輝いて見えるのだろう。どんな時でも……。
泣くのに相応しい時に、泣けると言うのも……。

フィリスは彼女にお悔やみの言葉を掛けて、そっと一番後ろの列に立ち老公爵を見送った。


****


 葬儀の後、数日がたち、マリウスとコーデリアはウィンスレット家を訪ねてきた。

その夜の晩餐は、二人を交えてとなり、少しだけいつもよりも賑やかな雰囲気がした。マリウスの髪は、ジョエルよりも明るい金褐色で、瞳は紫、珍しい事にフィリスと同じだった。ただ、色味はマリウスの方が濃い。どこか色気があるところもジョエルとは似ていた。ただ、ジョエルにはどこか影があり、それはマリウスには無かった。

「それで………結局マリウスはどうするんだ?」
フェリクスの問いに、マリウスはうーん、とちらりとコーデリアを見た。

「どうするか………。うん、公爵ともコーデリアともよくよく話してね、私とコーデリアは結婚はしない事になった」
「そうか………それは残念だ」
フェリクスは軽く苦笑した。

「ごめんなさい、私はやっぱりそうは出来ないと思って……」
「まぁ、らしいと言えば、らしいよね」
マリウスがにこりと微笑んで続けてぼやいた。
「フラれる前に、フラれた気分だ」

「と、いうことはもう、お相手がいるのね?」
ルナの言葉に、コーデリアは食事の手をきちんと休めると

「ええ、そうなんです。もっとも……まだ口説いている最中なのですけど。私、カーク・オルセンと結婚したいと思ってるの」
「………誰だい、それは」
フェリクスが眉を寄せて考えている。記憶を辿っているらしい。

「ふふふっ、知らないのも無理はありません。長年うちに使えてくれている、御者兼従者兼庭師兼もろもろ支えてくれた………かけがえのない人なんです。マリウスが来るまで、彼が何かとうちの事をしていてくれたものですから……。状況が変わってから、よくよく考えて心は定まりました」

「じゃあ、レディ コーデリアは………えっと、平民の方と結婚なさるの?」
トリクシーが目をパチパチさせて言った。
「ええ、そうよ。彼はずっと馬の世話をするのが夢だったの。それでレナにもお願いして、アークウェインの牧場の管理をさせてもらう事にしたの」

「そんな事まで、もう決めてしまっているの?」
ルナが驚いて声をあげた。
「ええ、来シーズンには、こちらのマリエがデビューするのでしょう?そうすればもう、私は社交界に居なくても良いと思うの。貧乏公爵家の姫よりも、れっきとした公爵のお姫様が君臨するのだから。この世界とは今シーズン限りで決別するわ」
きっぱりとした言葉に、フィリスはまた惚れ惚れと彼女を見てしまった。

瞳が合い、コーデリアはにこりと微笑んだ。

「羨ましい?ジョエル」
コーデリアがジョエルに目を向けて、そんな事を言った。

「なぜ、羨ましがる必要が」
ジョエルは呆れた声を出した。
「だいたい、カーク・オルセンはまだ受けて無いんだろ?」

「受け入れさせるわ、絶対」
「カークは、俺と結婚した方が良いってコーデリアを説得してるんだ」
こそこそとマリウスはジョエルに言った。
それを聞いたコーデリアは、
「誰が何と言おうと、私は決めているの」

意志の固さを出したコーデリアは、とても綺麗な表情で、誰も反対なんて出来そうに見えなかった。

「カーク・オルセンまで巻き込んで、レナの側に住むとはね」
ジョエルが笑いながら言った。
「いいでしょ、私はレナが大好きなの。レナは……カークの事を話した時、『恋人なの?』って聞いてくれたのよ。もちろん今もその時もそうでは無かったけれど、なかなか家の使用人をそういう風に見てくれる人はいないわ」

「それは、何というかレナらしい発言だな」
ふっとジョエルが微笑んだ。

―――羨ましい?ジョエル

それは、レナの側に居られて、という事じゃないかとそう思えた。と言うことはつまり、コーデリアはジョエルがレナを好きだって気づいていたのでは、ということではないかと、フィリスはふとそう感じてしまった。

「ああ、あまりレナの名前を気安く呼ぶとヴィクターに睨まれそうだ」
くすっとジョエルが笑うと
「あいつ、結婚してからは凄いからなぁ」
マリウスが同じように笑った。

そんな親しい間柄の特有の空気に、少し哀しくなってしまった。
フィリスはふと自分はどこかで………ジョエルの特別な面を知っていると、それを知っているのは自分だけだと思っていた事に気づいてしまった。

また………自分は、思い上がっていたんだと、そう気づいてしまった。

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