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34,父の訪問
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父 スターリングが訪ねてくると知らせがあったのは、春も盛りの頃だった。王家の婚礼祝いの為の上都だという。
報せの手紙は、フィリスをほんの少し喜ばせた。
実の所、父も母もフィリスの事を本当は厄介払い出来て清々としていたら、なんて想像してしまったりしていたからだ。
待ち人が来たことを知らされ、フィリスは私用の客人を迎える為の応接室へと向かった。
「フィリス、元気だったか?」
「ええ、お父様」
フィリスは懐かしい顔に微笑みを向けた。
「なんだか少し痩せたような気がするが」
「ほんの少しよ。こちらの人たちはみんなスタイルが良いのだもの、羨ましくって」
「無理することなど無い。お前は充分綺麗だよ」
その言葉にフィリスは作った笑みを向けた。
親の言うこと程あてにならない事はない。
「ここでの暮らしはどうだ?困っている事はないか?」
「大丈夫よ、ウィンスレットの方々はとても良くして下さるし、それにお父様が持たせて下さった資金もあるし……何も困らないわ」
そうか、と冷ややかに見える顔を綻ばせた。
「お母さんも、会いたがっていたが……」
「仕方ないわ。マイリを放ってはおけないものね」
マイリは14歳でまだまだ留守番という訳にはいかない。
リヴィングストン家は王都へ一族揃ってやってくる事はないので、今回の滞在もホテルを利用しているはずだ。
タウンハウスは所有するにしても借りるにしても莫大な費用がかかるのだ。
そういう面も合理的なスターリングらしいとフィリスは思っていた。
マイリにはついにフィリスは、自身の離婚の事を直接話せなかった。数日の滞在で……そこを去り、誤魔化した。
「マイリは?」
「マイリは、相変わらず生意気盛りだな。フィリスと違って親の言うことなど聞くとは思えない」
「そうね」
懐かしい妹の様子を思い浮かべてフィリスはクスクスと笑った。大抵の姉妹がそうであるように、姉と妹というのは仲がいいかと思えば次の瞬間には喧嘩をしていたりするものだし、年の離れたマイリの我が儘ぶりにはフィリスもかなり我慢を強いられたものだ。
「あと、レンには手紙で伝えた」
レン、とは弟のライオネルの事だ。16歳の今は寄宿舎で生活をしている。スクール生活を満喫していて友人たちと遊ぶのが楽しいらしくて、休みとなっても家にもろくに帰らず友人たちの家へと遊びに行ってしまう。
「ヴィヴァースへの悪口雑言が書かれた手紙が届いた。到底女性には見せられない文面だったね」
ふっとスターリングが笑った。
「フィリス、こんなことを言うのは酷かも知れないが……。再婚を考えてみてはくれないか?」
スターリングの言葉にフィリスは絶句した。
「お父様!」
思わずフィリスは立ち上がってしまった。
「まさか……具体的な話がおありだとか、仰るなら……わたし、倒れそうよ」
「悪かった……そうじゃない。ただ、このまま独りでというのは心配なんだとても」
スターリングは青ざめたフィリスをソファに座らせた。
「絶対に無理、絶対に嫌」
いつも父の言うことを聞いてきたフィリスの言葉にスターリングは戸惑いを見せた。
「フィリス……」
「心配されるのは分かるの。でも、二度と……結婚なんてしたくない」
ましてや……彼ではない誰かとなんて。
「わかった。フィリスがそうまで言うなら、無理なんだろう……」
「ごめんなさい」
スターリングの顔には苦渋が滲んでいる。
こんな憂い顔をさせてしまって申し訳なくなる。
いつも、言う事を聞いてきた。それでも、これだけは譲れない。
「いや。私が悪かった、早く新しい生活を、と思ったがフィリスはそれを望んではいないんだね」
「期待に応えられなくてごめんなさい」
「いや、謝らなくていい。私の見る目が無かったんだ、もっとましな男だと思っていたのだかな」
スターリングは、フィリスにお茶の入ったカップを持たせた。
よほどひどい顔色をしていたのだと、フィリスはそう思った。
「お前をこのまま不安定な立場のまま置いておきたくはないんだが……。これほど嫌がるのなら仕方がない。それならせめて、家に帰らないか?」
家に帰る。
そうしたら……。
それはしたくない。
「今はここにいるのが楽しいの。トリクシーの付き添いで、王都でのデビュー気分も味わえたし、王都は華やかでとても楽しいわ」
ふむ、とスターリングは嘆息すると
「本当に、そうなんだな?何か困ってる事は本当に無いのか?」
「ええ、すべて順調よ。年も成人に認められる年になって、ようやく大人になれた気分よ」
「お前が一人でヴィヴァースで耐えてきた事を思うと、今も何か我慢をしているのじゃないかと気掛かりなんだ。いずれにせよ、好きにしていい。しかし、いつでも帰ってきなさい」
「ありがとう、お父様。心配はいらないわ」
スターリングは名残惜しい顔をしたが、いつもの理知的な表情に戻した。
「わかった。じゃあ何か困った事があれば何でも言ってきなさい。離れて住んでいたとしても、私たちは家族なのだから」
フィリスの離婚に、傷ついたのは父も同じかも知れないとフィリスはそう感じた。自分がよかれと思い薦めた相手と上手くいかずに別れてしまったのだから。
「ええ、お父様」
フィリスはせめて安心させたくて、笑顔で応えた。スターリングはソファから立ち上がり邸を去っていった。
報せの手紙は、フィリスをほんの少し喜ばせた。
実の所、父も母もフィリスの事を本当は厄介払い出来て清々としていたら、なんて想像してしまったりしていたからだ。
待ち人が来たことを知らされ、フィリスは私用の客人を迎える為の応接室へと向かった。
「フィリス、元気だったか?」
「ええ、お父様」
フィリスは懐かしい顔に微笑みを向けた。
「なんだか少し痩せたような気がするが」
「ほんの少しよ。こちらの人たちはみんなスタイルが良いのだもの、羨ましくって」
「無理することなど無い。お前は充分綺麗だよ」
その言葉にフィリスは作った笑みを向けた。
親の言うこと程あてにならない事はない。
「ここでの暮らしはどうだ?困っている事はないか?」
「大丈夫よ、ウィンスレットの方々はとても良くして下さるし、それにお父様が持たせて下さった資金もあるし……何も困らないわ」
そうか、と冷ややかに見える顔を綻ばせた。
「お母さんも、会いたがっていたが……」
「仕方ないわ。マイリを放ってはおけないものね」
マイリは14歳でまだまだ留守番という訳にはいかない。
リヴィングストン家は王都へ一族揃ってやってくる事はないので、今回の滞在もホテルを利用しているはずだ。
タウンハウスは所有するにしても借りるにしても莫大な費用がかかるのだ。
そういう面も合理的なスターリングらしいとフィリスは思っていた。
マイリにはついにフィリスは、自身の離婚の事を直接話せなかった。数日の滞在で……そこを去り、誤魔化した。
「マイリは?」
「マイリは、相変わらず生意気盛りだな。フィリスと違って親の言うことなど聞くとは思えない」
「そうね」
懐かしい妹の様子を思い浮かべてフィリスはクスクスと笑った。大抵の姉妹がそうであるように、姉と妹というのは仲がいいかと思えば次の瞬間には喧嘩をしていたりするものだし、年の離れたマイリの我が儘ぶりにはフィリスもかなり我慢を強いられたものだ。
「あと、レンには手紙で伝えた」
レン、とは弟のライオネルの事だ。16歳の今は寄宿舎で生活をしている。スクール生活を満喫していて友人たちと遊ぶのが楽しいらしくて、休みとなっても家にもろくに帰らず友人たちの家へと遊びに行ってしまう。
「ヴィヴァースへの悪口雑言が書かれた手紙が届いた。到底女性には見せられない文面だったね」
ふっとスターリングが笑った。
「フィリス、こんなことを言うのは酷かも知れないが……。再婚を考えてみてはくれないか?」
スターリングの言葉にフィリスは絶句した。
「お父様!」
思わずフィリスは立ち上がってしまった。
「まさか……具体的な話がおありだとか、仰るなら……わたし、倒れそうよ」
「悪かった……そうじゃない。ただ、このまま独りでというのは心配なんだとても」
スターリングは青ざめたフィリスをソファに座らせた。
「絶対に無理、絶対に嫌」
いつも父の言うことを聞いてきたフィリスの言葉にスターリングは戸惑いを見せた。
「フィリス……」
「心配されるのは分かるの。でも、二度と……結婚なんてしたくない」
ましてや……彼ではない誰かとなんて。
「わかった。フィリスがそうまで言うなら、無理なんだろう……」
「ごめんなさい」
スターリングの顔には苦渋が滲んでいる。
こんな憂い顔をさせてしまって申し訳なくなる。
いつも、言う事を聞いてきた。それでも、これだけは譲れない。
「いや。私が悪かった、早く新しい生活を、と思ったがフィリスはそれを望んではいないんだね」
「期待に応えられなくてごめんなさい」
「いや、謝らなくていい。私の見る目が無かったんだ、もっとましな男だと思っていたのだかな」
スターリングは、フィリスにお茶の入ったカップを持たせた。
よほどひどい顔色をしていたのだと、フィリスはそう思った。
「お前をこのまま不安定な立場のまま置いておきたくはないんだが……。これほど嫌がるのなら仕方がない。それならせめて、家に帰らないか?」
家に帰る。
そうしたら……。
それはしたくない。
「今はここにいるのが楽しいの。トリクシーの付き添いで、王都でのデビュー気分も味わえたし、王都は華やかでとても楽しいわ」
ふむ、とスターリングは嘆息すると
「本当に、そうなんだな?何か困ってる事は本当に無いのか?」
「ええ、すべて順調よ。年も成人に認められる年になって、ようやく大人になれた気分よ」
「お前が一人でヴィヴァースで耐えてきた事を思うと、今も何か我慢をしているのじゃないかと気掛かりなんだ。いずれにせよ、好きにしていい。しかし、いつでも帰ってきなさい」
「ありがとう、お父様。心配はいらないわ」
スターリングは名残惜しい顔をしたが、いつもの理知的な表情に戻した。
「わかった。じゃあ何か困った事があれば何でも言ってきなさい。離れて住んでいたとしても、私たちは家族なのだから」
フィリスの離婚に、傷ついたのは父も同じかも知れないとフィリスはそう感じた。自分がよかれと思い薦めた相手と上手くいかずに別れてしまったのだから。
「ええ、お父様」
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