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42,別れを告げる時
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長いように思えた社交シーズンは終わり、フィリスはウィンスレット家へと感謝の言葉を告げて王都からそのまま父と共にリヴィングストンの領地へと帰った。
久しぶりの領地に、フィリスは逃げてここへ戻ってきた日を思い出した。今回は“逃げ”ではない。今回は……次へ進むための、帰郷だった。
フィリスは居間で、大きな布へ刺繍をしていた。
黙々としていると、ここで寛いでいるように見えるし、母に余計な気遣いをさせなくても済む。
「お姉さま」
「どうしたの?マイリ」
「私も一緒に刺繍をするから、教えて」
「もちろん、いいわよ」
にこりと微笑むとマイリはホッとしたように近づいてきた。何しろ四年ぶりの再会なのだから、この前の帰郷ではマイリとは会わないように避けていたから。
小さなハンカチに刺繍枠をつけ、リヴィングストンのコマドリとデイジーの紋章とイニシャルのMを刺したいらしい。
「色はどれにするか決めた?」
「ええっと、これとこれとこれ」
オレンジにピンクにブルー。どれもマイリが好きそうな色だった。
「ううーん。どれも好きな色なのは分かるわ。でも、同系色にした方がこういう場合は綺麗に仕上がるわ」
フィリスはマイリが選んだ、一番お気に入りらしいオレンジにそしてもう少し薄いオレンジと黄色を選んだ。
「どう?これにひとつだけ薄いグリーンを使っても良いとは思うけど」
マイリは糸と図案を眺めて、フィリスに力強く頷いた。
「お姉さまの言うようにしてみる!」
14歳のマイリは、最近柔らかいコルセットをつけるようになりぐっと大人びた。金の髪と琥珀色の瞳は母とよく似ていた。
「フィリスが帰って来て良かったわ。私だと何も言うことを聞かないのだから」
デリアが呆れがちに言って、マイリのこれまでの作品を見せた。
なるほど、マイリは好きな色でしてしまいバランスが悪くなってしまう。しかし、難しい年頃でもあり母の言うことは聞きたくないのだろう。
「だって、お母様のセンスは古臭いのよ」
どうやら、王都で社交シーズンを過ごしてきたフィリスのセンスは大丈夫だと信じているらしい。
「マイリ、外からじゃなくて内側から刺していってみて」
どうも手つきが危なっかしい。
「待って、針は小さく動かすのでいいの。もっと細かく刺して」
そんな二人のやり取りを、デリアは嬉しそうに微笑んで眺めていた。
「姉さん」
声をかけてきたのは、ライオネルだ。
「どうしたの?レン」
「父上が呼んでる」
「分かったわ、マイリ。また後でね」
「一人で頑張ってしてみる」
フィリスはマイリの頭を撫で、それから席を立った。
既にフィリスよりも背の高いライオネルは、すっかり青年に近づいた。
「多分、あいつの件だ」
どうも、口調が悪い。男の子特有のそういう時期なのだろうか?
「レン、お母様たちにはまだ言っては駄目よ」
「それくらい分かってるさ。それにしてもまどろっこしいな。馬で走って殴りに行きたいよ」
「相手は伯爵なのよ。一般人とは違うの……貴方もただで済まないから止めなさいね」
「だからしてないんだろ?」
二人して書斎につき、ライオネルがノックをするとすぐに扉を開けた。
「こら、応えがあってから開けなさい」
「普段はきちんとしている」
「なら、家でもそうしなさい」
スターリングは、奥の机から立ち上がるとソファに座るように勧める。
「さて……フィリス。仕上げは上々だ……。
うちが手を引いてから、ヴィヴァースの領地の運営はたちまちバランスを崩した。そんな時にのこのこと王都へ行き、邸を借りて新妻に言われるがままに買い物をし、おまけに無くなったフィリスの持参金の分を取り戻そうとまずい所へ投資した……。結果、投資先は見事にこけて、約束の月々の支払いは滞ってきた。そこで……モリスに依頼して邸を買うと申し出てきた。
売れば多少は足しになるだろう。あの家以外にも邸はあるはずだからな?」
もう、そんな風になっているとはさすがは父だとフィリスは思った。けれどもずっと、虎視眈々と狙いをつけていたのだろう。いくらなんでもほんの数ヵ月ではこうまでならない。きっと一年がかりで細工をしていたはずだ。
フィリスが、嫁いでからも内情に精通していた事も大いにあるだろうが……。
「ええ、お父様」
フィリスはにっこりと微笑んだ。
彼が上手い口車に乗せられたという投資先とやらも、父が何か細工をしていたのかとつい考えてしまう。ブライアンは人が好すぎる部分もあり、きっとすぐに騙されたはずだ。
「それで、邸はお前のものになるが……どうする?」
「一人、売りたい人がいるの」
「それは?」
「ノエル・アーチボルト」
フィリスはずっと誰がいいか考えていた。そうして出た結論が彼だった。
「アスカナート人だな?何故か聞いてもいいか?」
「アーチボルト家は………イングレスに、拠点が欲しいと思うからよ。ノエルはここで花嫁を探してるようだし……。ここに邸があれば、ここから人脈を更に広げて仕事の可能性も広がる。それに、何よりもあんな邸を軽く買えるくらいに裕福だからよ」
「成る程、確かに良い判断かも知れないな」
スターリングは、軽く微笑んで頷いた。
「さて、明け渡しの日にはフィリスも行くか?」
「ええ、もちろんよ。さようならを言いに」
****
ヴィヴァースの邸がなくなっても、それほど離れていない所に所有している小さな邸がある。これまでと同じ暮らしとはいかないだろうが、それでも住む所はあるのだから、フィリスの憐れみの心はさほど生じなかった。
明け渡しのその日、フィリスは美しい青い色のドレスを着てヴィヴァースの邸へと着いた。スターリングとライオネル、それにベンシャミン・モリス。
すでに邸の外へ大きなトランクがいくつも運び出され、馬車に乗せられていっていた。あの日、夜中に自分の荷物をビリーの馬車に乗せて走った日を思い出す。
フィリスの姿を認めて、アリスンが近づいてきた。
「どうして?私たちは上手くやっていたじゃないの……助けてくれたっていいでしょう?」
「さぁ、どうでしょうか」
彼女はいつも、息子だけが大事だった。口当たりのいい事を言うわりに、落ち込むフィリスに平気で子供の事を聞き、あからさまにため息をついていた。
「お止めなさい、アリスン。みっともない……すべてはブライアンがしくじったからよ……。あの時、どうあっても止めるべきだったのにそうしなかった私たちにも責任がありますよ」
キャスリーンが嗜めた。
「ブライアンは……騙されたのよ……!」
涙を流しながら、アリスンはキャスリーンに連れて行かれた。
そうして少し経ってから出てきたのは、赤ん坊を抱いたジェラルディンとブライアンだった。
「フィリス……!」
ジェラルディンが笑おうとして、失敗して顔を歪める。
「どうして?こんなことになるの?私達、ちゃんと悪い事をしたと思ってる、でも、貴女は謝らせてくれなかったじゃない」
優しげに見える顔を悲しみに歪めた。
謝らせてくれなかった、とはよく言えたものだ。どうしても被害者ぶりたいのだろう。意味のない抗議には答えなかった。
「わたしはあなたに、きちんと言ったわ。早くこちらの流儀に慣れるようにって」
「何の事なの?」
「分からないの?貴女は今は伯爵夫人、その称号が欲しかったのでしょ?ずっとこの邸の側に住んで、ここの一員になりたかったのね。それで、扱いやすそうなわたしに近づいて、邸に出入りするようになった……。でもね、伯爵夫人となったからには………貴族の社会の流儀を学ばないといけないのよ。
今のヴィヴァースの領地は、もはやほとんど別の人の物よ、その意味が分かる?その分収入が無くなるということ。
伯爵となったら、お金が降ってわいてくる訳でも、無条件にお金を貸してもらえる訳でも、無条件に贅沢を出来る訳でも無いの、理解できて?」
「フィリス!貴女には私はずっと親切にしてきたわ!」
「そうね、ありがとう。夫を奪ってくれて、お陰様でとても助かったわ」
フィリスはにっこりと微笑んだ。
「赤ちゃん、可愛いわね。貴女に似てるの?」
ジェラルディンの腕の中で、赤ん坊が少し顔を動かした。黒髪の丸々とした女の子だった。
「この子は渡さないわよ」
「要らないわよ……。知っていて?王都の噂では貴女のその子供、父親が誰か疑われてるみたい。この後の行動には気をつけてね。ジェラルディン」
「なんですって?」
ジェラルディンは、フィリスを叩きのめしたいような表情をした。しかしそれは、赤ん坊を抱いていては叶わない。
ブライアンは青い顔をしていて、黙ってやり取りを聞いていた。
「ブライアン、なんとか言って」
「もう……何もかも分からないよ……。私を責めないでくれ」
「ブライアン!」
「ヴィヴァース伯爵、伯爵夫人……あなたたちの言う通り、きちんと話をするべきだったわね。だから、けじめの挨拶をしに来たの。ごきげんようそして永遠にさようなら」
フィリスは、二人に背を向けて三年間過ごした邸へと入った。
中には使用人たちが整列して待っていてくれた。
「奥方様」
トルーマンが呼び掛ける。
「いいのよ、もう奥方様じゃないから」
ウィニーとミセス・グリーンが近づいて鍵を渡してきた。それは二人に託したフィリスの部屋の鍵だった。
「残念だけど、わたしはここへは住まないの。だから、この鍵は次の主人に渡してね……もう、あのまま残さなくていいの。自由にして、あの部屋を」
「はい、フィリス様」
ミセス・グリーンが言い、ウィニーがにこっと微笑んだ。
最後にもう一度、その鍵を使って、フィリスの物だった部屋を開けた。
懐かしい、フィリスの好みにした部屋。
それでもそれを好ましく思っていたのは、今のフィリスではなく過去の……一人で耐えていたフィリスだった。
もう、この部屋はフィリスの部屋ではなかった。その事に軽く微笑みを浮かべた。
久しぶりの領地に、フィリスは逃げてここへ戻ってきた日を思い出した。今回は“逃げ”ではない。今回は……次へ進むための、帰郷だった。
フィリスは居間で、大きな布へ刺繍をしていた。
黙々としていると、ここで寛いでいるように見えるし、母に余計な気遣いをさせなくても済む。
「お姉さま」
「どうしたの?マイリ」
「私も一緒に刺繍をするから、教えて」
「もちろん、いいわよ」
にこりと微笑むとマイリはホッとしたように近づいてきた。何しろ四年ぶりの再会なのだから、この前の帰郷ではマイリとは会わないように避けていたから。
小さなハンカチに刺繍枠をつけ、リヴィングストンのコマドリとデイジーの紋章とイニシャルのMを刺したいらしい。
「色はどれにするか決めた?」
「ええっと、これとこれとこれ」
オレンジにピンクにブルー。どれもマイリが好きそうな色だった。
「ううーん。どれも好きな色なのは分かるわ。でも、同系色にした方がこういう場合は綺麗に仕上がるわ」
フィリスはマイリが選んだ、一番お気に入りらしいオレンジにそしてもう少し薄いオレンジと黄色を選んだ。
「どう?これにひとつだけ薄いグリーンを使っても良いとは思うけど」
マイリは糸と図案を眺めて、フィリスに力強く頷いた。
「お姉さまの言うようにしてみる!」
14歳のマイリは、最近柔らかいコルセットをつけるようになりぐっと大人びた。金の髪と琥珀色の瞳は母とよく似ていた。
「フィリスが帰って来て良かったわ。私だと何も言うことを聞かないのだから」
デリアが呆れがちに言って、マイリのこれまでの作品を見せた。
なるほど、マイリは好きな色でしてしまいバランスが悪くなってしまう。しかし、難しい年頃でもあり母の言うことは聞きたくないのだろう。
「だって、お母様のセンスは古臭いのよ」
どうやら、王都で社交シーズンを過ごしてきたフィリスのセンスは大丈夫だと信じているらしい。
「マイリ、外からじゃなくて内側から刺していってみて」
どうも手つきが危なっかしい。
「待って、針は小さく動かすのでいいの。もっと細かく刺して」
そんな二人のやり取りを、デリアは嬉しそうに微笑んで眺めていた。
「姉さん」
声をかけてきたのは、ライオネルだ。
「どうしたの?レン」
「父上が呼んでる」
「分かったわ、マイリ。また後でね」
「一人で頑張ってしてみる」
フィリスはマイリの頭を撫で、それから席を立った。
既にフィリスよりも背の高いライオネルは、すっかり青年に近づいた。
「多分、あいつの件だ」
どうも、口調が悪い。男の子特有のそういう時期なのだろうか?
「レン、お母様たちにはまだ言っては駄目よ」
「それくらい分かってるさ。それにしてもまどろっこしいな。馬で走って殴りに行きたいよ」
「相手は伯爵なのよ。一般人とは違うの……貴方もただで済まないから止めなさいね」
「だからしてないんだろ?」
二人して書斎につき、ライオネルがノックをするとすぐに扉を開けた。
「こら、応えがあってから開けなさい」
「普段はきちんとしている」
「なら、家でもそうしなさい」
スターリングは、奥の机から立ち上がるとソファに座るように勧める。
「さて……フィリス。仕上げは上々だ……。
うちが手を引いてから、ヴィヴァースの領地の運営はたちまちバランスを崩した。そんな時にのこのこと王都へ行き、邸を借りて新妻に言われるがままに買い物をし、おまけに無くなったフィリスの持参金の分を取り戻そうとまずい所へ投資した……。結果、投資先は見事にこけて、約束の月々の支払いは滞ってきた。そこで……モリスに依頼して邸を買うと申し出てきた。
売れば多少は足しになるだろう。あの家以外にも邸はあるはずだからな?」
もう、そんな風になっているとはさすがは父だとフィリスは思った。けれどもずっと、虎視眈々と狙いをつけていたのだろう。いくらなんでもほんの数ヵ月ではこうまでならない。きっと一年がかりで細工をしていたはずだ。
フィリスが、嫁いでからも内情に精通していた事も大いにあるだろうが……。
「ええ、お父様」
フィリスはにっこりと微笑んだ。
彼が上手い口車に乗せられたという投資先とやらも、父が何か細工をしていたのかとつい考えてしまう。ブライアンは人が好すぎる部分もあり、きっとすぐに騙されたはずだ。
「それで、邸はお前のものになるが……どうする?」
「一人、売りたい人がいるの」
「それは?」
「ノエル・アーチボルト」
フィリスはずっと誰がいいか考えていた。そうして出た結論が彼だった。
「アスカナート人だな?何故か聞いてもいいか?」
「アーチボルト家は………イングレスに、拠点が欲しいと思うからよ。ノエルはここで花嫁を探してるようだし……。ここに邸があれば、ここから人脈を更に広げて仕事の可能性も広がる。それに、何よりもあんな邸を軽く買えるくらいに裕福だからよ」
「成る程、確かに良い判断かも知れないな」
スターリングは、軽く微笑んで頷いた。
「さて、明け渡しの日にはフィリスも行くか?」
「ええ、もちろんよ。さようならを言いに」
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ヴィヴァースの邸がなくなっても、それほど離れていない所に所有している小さな邸がある。これまでと同じ暮らしとはいかないだろうが、それでも住む所はあるのだから、フィリスの憐れみの心はさほど生じなかった。
明け渡しのその日、フィリスは美しい青い色のドレスを着てヴィヴァースの邸へと着いた。スターリングとライオネル、それにベンシャミン・モリス。
すでに邸の外へ大きなトランクがいくつも運び出され、馬車に乗せられていっていた。あの日、夜中に自分の荷物をビリーの馬車に乗せて走った日を思い出す。
フィリスの姿を認めて、アリスンが近づいてきた。
「どうして?私たちは上手くやっていたじゃないの……助けてくれたっていいでしょう?」
「さぁ、どうでしょうか」
彼女はいつも、息子だけが大事だった。口当たりのいい事を言うわりに、落ち込むフィリスに平気で子供の事を聞き、あからさまにため息をついていた。
「お止めなさい、アリスン。みっともない……すべてはブライアンがしくじったからよ……。あの時、どうあっても止めるべきだったのにそうしなかった私たちにも責任がありますよ」
キャスリーンが嗜めた。
「ブライアンは……騙されたのよ……!」
涙を流しながら、アリスンはキャスリーンに連れて行かれた。
そうして少し経ってから出てきたのは、赤ん坊を抱いたジェラルディンとブライアンだった。
「フィリス……!」
ジェラルディンが笑おうとして、失敗して顔を歪める。
「どうして?こんなことになるの?私達、ちゃんと悪い事をしたと思ってる、でも、貴女は謝らせてくれなかったじゃない」
優しげに見える顔を悲しみに歪めた。
謝らせてくれなかった、とはよく言えたものだ。どうしても被害者ぶりたいのだろう。意味のない抗議には答えなかった。
「わたしはあなたに、きちんと言ったわ。早くこちらの流儀に慣れるようにって」
「何の事なの?」
「分からないの?貴女は今は伯爵夫人、その称号が欲しかったのでしょ?ずっとこの邸の側に住んで、ここの一員になりたかったのね。それで、扱いやすそうなわたしに近づいて、邸に出入りするようになった……。でもね、伯爵夫人となったからには………貴族の社会の流儀を学ばないといけないのよ。
今のヴィヴァースの領地は、もはやほとんど別の人の物よ、その意味が分かる?その分収入が無くなるということ。
伯爵となったら、お金が降ってわいてくる訳でも、無条件にお金を貸してもらえる訳でも、無条件に贅沢を出来る訳でも無いの、理解できて?」
「フィリス!貴女には私はずっと親切にしてきたわ!」
「そうね、ありがとう。夫を奪ってくれて、お陰様でとても助かったわ」
フィリスはにっこりと微笑んだ。
「赤ちゃん、可愛いわね。貴女に似てるの?」
ジェラルディンの腕の中で、赤ん坊が少し顔を動かした。黒髪の丸々とした女の子だった。
「この子は渡さないわよ」
「要らないわよ……。知っていて?王都の噂では貴女のその子供、父親が誰か疑われてるみたい。この後の行動には気をつけてね。ジェラルディン」
「なんですって?」
ジェラルディンは、フィリスを叩きのめしたいような表情をした。しかしそれは、赤ん坊を抱いていては叶わない。
ブライアンは青い顔をしていて、黙ってやり取りを聞いていた。
「ブライアン、なんとか言って」
「もう……何もかも分からないよ……。私を責めないでくれ」
「ブライアン!」
「ヴィヴァース伯爵、伯爵夫人……あなたたちの言う通り、きちんと話をするべきだったわね。だから、けじめの挨拶をしに来たの。ごきげんようそして永遠にさようなら」
フィリスは、二人に背を向けて三年間過ごした邸へと入った。
中には使用人たちが整列して待っていてくれた。
「奥方様」
トルーマンが呼び掛ける。
「いいのよ、もう奥方様じゃないから」
ウィニーとミセス・グリーンが近づいて鍵を渡してきた。それは二人に託したフィリスの部屋の鍵だった。
「残念だけど、わたしはここへは住まないの。だから、この鍵は次の主人に渡してね……もう、あのまま残さなくていいの。自由にして、あの部屋を」
「はい、フィリス様」
ミセス・グリーンが言い、ウィニーがにこっと微笑んだ。
最後にもう一度、その鍵を使って、フィリスの物だった部屋を開けた。
懐かしい、フィリスの好みにした部屋。
それでもそれを好ましく思っていたのは、今のフィリスではなく過去の……一人で耐えていたフィリスだった。
もう、この部屋はフィリスの部屋ではなかった。その事に軽く微笑みを浮かべた。
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