睡恋―sui ren―

桜 詩

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61,二人の王子

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 結婚して翌週の事、王宮から帰宅したジョエルから、王子の誕生を知らされた。同じ日の数時間違いでセシル妃も王子を産んだと聞きフィリスは驚いた。

「それで、祝いに一緒に行って欲しい」
「ええ、もちろん。わたしも一緒で良いのなら」

「うちは何と言っても、ウィンスレット家だから」
それだけ言えば理解されるくらいに、王家と近い家だ。

王宮との付き合いなんて、子爵家の出身のフィリスにはとても緊張してしまうけれどこれからはそうは言っていられない。


 報せを受けたその四日後、フィリスは王宮へ行くために一番良いデイドレスを身につけて、王宮へと向かった。
ジョエルと共に向かったのは、王族のプライベート空間。
その中でも王太子 エリアルドの住まう冬の棟へと案内をされた。

ガーデンに面した心地よいサロンに、父親となったエリアルド王子とギルセルド王子、その二人の妃 フェリシアと王子妃 セシル。その二人と生まれたばかりの王子が揺りかごで寝かされていた。近くには乳母たちも控えていて、二歳になるリリアナ王女もおもちゃで遊んでいた。

ジョエルはここまで来て挨拶をする。
「ギルセルド殿下、両妃殿下、妻のフィリスを紹介します」

「王子様のご誕生本当におめでとうございます」
フィリスは正式な低く下がるお辞儀をした。

「ありがとう、それから結婚おめでとう」
ギルセルドが華やかな笑みを向ける。

「そんなに堅苦しくしないで、どうぞ寛いでね。私たちももちろんそうするわ、レディ フィリス。今日は素敵なお祝いをありがとう」
ギルセルドに続いてフェリシアが言葉を引き継いだ。

ジョエルが用意していたお祝いは新しい乳母車だった。
「ウルフスタン社で作らせたらしい。乗り心地はきっと最高によさそうだ」
エリアルドがにこやかにフェリシアに話しかけた。

「レディ フィリス、おめでとうございます。以前にご挨拶だけさせてもらいましたよね、今日は来てくださって嬉しいです」
セシルは少し控えめに微笑んだ。
ほんのり赤みのある金髪が、愛らしい雰囲気に良く似合っていた。

「こんにちは」
可愛い声で挨拶をしてきたのはリリアナだった。小さな背はまだフィリスの膝よりも少し上くらいだ。

「あたたんもこんにちは」
フィリスのドレスを軽く引っ張って、言うのがとても可愛らしい。両親から受け継いだ血のお陰か、二歳にしてとても美少女だった。

「赤ちゃんの事よ」
にこりとフェリシアは微笑んだ。
「リリアナはお腹にいる時からずっとあたたんあたたんって、楽しみにしていたから」

「そう、赤ちゃんにもこんにちはさせてね」
フィリスは、白いレースのかかった揺りかごで寝かされている本当に小さな二人の王子に近づいた。

「とても可愛い弟君ですね」
近づけば健やかな寝息が二人分聞こえてくる。

「おとうと、ちがうの、おなまえついたのよ」
リリアナは一人ずつ指し示して
「このこがふぇるでこのこがあるなの」
とそう言った。

お披露目前の生まれたばかりの王子はフェルディナンド、そしてギルセルド王子の子にはアルフレッドと名付けられたとジョエルから聞いていた。

「フェル王子にアル王子なんですね、紹介してくださってありがとうございます、プリンセス」

「ぷりんちがうの。りりーなの」

「リリアナは、リリーと呼ばれるのが好きなんだ。どうかそう呼んでやってほしい」
エリアルドが横からそう声をかけてきた。

「ではそのように」
フィリスは、愛しくてたまらない様子のエリアルドに、つい微笑ましく思ってしまった。

リリアナはエリアルドと一緒に積み木で遊び初めて、それにギルセルドとジョエルも混じっている。それは、ほのぼのと、というよりは、子供と遊ぶ、というのが不似合いな男性達なので違和感がありすぎた。


 セシルに椅子を勧められ、フィリスは二人の妃と一緒に座った。
「アンジェリンから聞いたけれど、とっても素敵な夜会だったのですって?」
「式の日のですか?」

「もちろんその夜会よ。もう、こんなに産み月が近くなければ見に行けたのに。私、デビューのエスコートはジョエルだったのよ」
「そうなのですね」

「とても残念!出掛けられるせっかくの機会だったのに、あと半年ずつどちらかにずらしてくれたら良かったのに」
「まぁ、フェリシアったら」
くすくすとセシルが笑った。

「畏れ多いって言ったのに、呼び捨てにしないと剣を抜いて怒るって言うんです」
こそ、とセシルがフィリスに言う。

「姉妹は呼び捨てなの、只でさえずっと余計なもの付きで呼ばれるのに、せめて身内くらいは無しにして欲しいの。もちろんあなたにもそうして欲しいわ。フィリス」
フェリシアはにこりと微笑んだ。
「わかりました、でも……公式の場所ではお許し下さいね……フェリシア」
フィリスがそう言うと、フェリシアは頷いた。

「時々ここに来てくれるうちに、リリーはすっかりジョエルになついてるのよ……意外でしょ?」
「ええ、意外です」
フィリスがそう言うと、三人でくすくすと笑ってしまった。

王宮での出来事や、色んな事とりとめもなく話した。


「リリーはそろそろお昼寝の時間ね、さようならは?」
フェリシアはふと時計に目をやってそう言った。

「ねむくない」

「眠たくなくても、ベッドに行くの」
「おきたらいつも、みんなかえっちゃう。いなくなるもん」

「リリー、………リリアナ。だめ」
びしっとフェリシアが言うと、綺麗な顔だけに迫力がある。

「では、リリー。オジさんの腕に乗っていきましょうか?」
ジョエルがそんな事を言い出してフィリスは内心驚いた。

「リリー、よかったなオジさんが一緒に行ってくれるって、絵本も読んでくれるかも知れないよ」
エリアルドも便乗してそう言うと

「うん、おじさんにのっていく~」
リリアナはにこっと笑うと

「さよなら」
とフィリスの頬にキスをした。
「あたたんもさよなら」
と続けて言った。

ジョエルが駆け寄ってきたリリアナを軽々と腕に乗せると、乳母と立ち去っていく。

「………変なこと言うって思うかも知れないけど……、もしかしたらおめでたじゃないかしら?」
フェリシアが声を潜めて言った。

「妃殿下?」
「やめて、フェリシアと呼んで」

「あの子、ずっと私のお腹に話しかけてて……。今あの子、お腹に向かってさよならって言ったわ」

「まさか、王子さまたちにですよ」
フィリスは笑った。
「そうよ、フェリシア。話しかけていたのはお腹が大きくなってきた時からでしょう?」

「そう言えばそうね、ここにいるのよって教えたから」
セシルの言葉にフェリシアも笑った。

「やだ、変なこと言ってしまったわ」
「ほんとに」
くすっとフィリスも笑った。

もしも、そんな事があったら嬉し過ぎて舞い上がりそうだけれど……。

「やだ、お茶も淹れ直してなかったわ」
セシルが言って、紅茶のセットに手を伸ばす。

「リリーはしばらく、ジョエルにお話のおねだりね。彼はどんな年齢の女性にも紳士らしく振る舞うの。だから……しばらくここでお茶を飲んで待っていましょ」

フェリシアの言葉通り、ジョエルが戻って来たのは30分は経った頃だった。そして戻ってきてすぐにフェルディナンドが泣き、つられるようにアルフレッドが泣いて、賑やかになる冬の棟だった。

「あらら時間切れね……また遊びに来てねフィリス」
フェリシアが言い、セシルもにこっと頬笑む。

セシルとフィリスは確か同年で、フェリシアは三つ年下の19歳。なのに彼女がやはり一番上に感じるのは、未来の王妃の風格ゆえにかも知れない。

「ええ、もちろん。また来させて下さいね、フェリシア」
呼び捨てにすると、親しみのこもった抱擁をされる。

「絶対よ、来ないと呼びに行くわ」
それはかなり大事になってしまいそうだ。

「ここにいると、我が儘は言った方が良いの」
にこっとフェリシアは微笑んだ。

乳母達が王子を抱いて行き、続いて二人の妃も出ていって急に静かになった。

ジョエルたちは三人で談笑していて、フィリスの方を見た。

「じゃあそろそろ帰ろうか」

ジョエルの言葉に頷いて、フィリスは冬の棟を後にした。

「ここには身元の確かな人間しか入れられないから、また来れる時は来て欲しい。お二人ともここへ呼べる友人が少ない方だから」
それはフィリスも同じだった。

友人と呼んでいた、一人の女性を失ったから。
「ええ、もちろん……」

少しだけ、かつての友人の事を考えて苦い想い出が甦ってしまった。それをジョエルのウエストに回した手と、それからこめかみへのキスが追い払っていった。
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