エナドリ転生 〜怠惰な暮らしが希望です〜

黒蓮

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第二章 学園生活

出会い 2

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 黒塗りの高級魔導車から颯爽と降り立った獣人美少女――ジェシカ・ライオネルは、艶のある金髪をサイドでお団子に纏めた髪型をしており、赤い瞳はネコの様に瞳孔が縦長だった。
 私の身長が百七十七センチということを考えれば、彼女は大体百六十センチ半ばというところだ。
 
「ようこそライオネル殿。私はフリューゲン辺境伯領次期当主、パトリック・フリューゲンです」
「次期当主補佐、ケイル・フリューゲンです」
 
 出迎える兄二人は、頭も下げずに貼り付けた笑みを浮かべているが、営業マンとして仕事をしていた私からすれば、獣人を見下している本心を隠せていないのは明白だ。
 
(この家の者は、国王陛下の勅命という意味が分かってないのか? いくら敵国とはいっても、休戦中で他国の要人なんだけどなぁ︙︙)
 
 兄二人の失礼な態度に内心で頭を抱えつつ、私も挨拶を行う。
 
「ライオネル殿の来訪、心より歓迎申し上げます。私はフリューゲン辺境伯三男――ハルトと申します。これより辺境伯家当主の元へご案内いたします」
「出迎え感謝します、ハルト殿。それでは当主殿への案内をお願いします」
 
 兄二人の態度に思うところがあったのか、彼女は私の名前だけを口にして、兄たちを無視する態度をとっていた。
 その様子に、二人の兄は苛立ちの表情を浮かべているが、初対面の印象は、最初の五秒で決まる。相手から自分がどう見えているかを客観視することが、優秀な営業マンに必要な能力の一つだ。
 微妙な雰囲気のまま、ライオネル嬢を応接室へと案内する。彼女は、同じくネコ耳が特徴の獣人の侍女を一人連れてきていた。妙齢の侍女は魔導車の運転や、ライオネル嬢の身の回りの世話をするらしいが、常に警戒した視線を周囲へ向けており、護衛も兼ねているようだった。
 
(休戦中とはいえ、敵国に少女一人では不用心だから当然か)
 
 とはいえ、今回の交換留学は国策だ。彼女の身に何かあれば外交問題になる。それは、戦争再開を意味する。
 今の王家の考え方に則れば、その引き金を引いた者は大罪人とされるだろう。
 
(それがこの家の当主をはじめ、兄二人も理解していないとは︙︙獣人と、どんな因縁の歴史があったか知らないが、それを下の世代にまで押し付けないで欲しいものだ)
 
 家にある書物には、獣人とはいかに野蛮で残忍かということを強調したものしかなかった。どんな事が切っ掛けで、どうしてここまで関係が悪化したのかは記されていなかったが、今の王家はその歴史を乗り越え、和平の道に進もうとしていると聞く。
 それを弱腰外交だと非難する貴族家も多いようだが、私は王家の考えに賛同する。
 
(ネコ的な要素は少ないとはいえ、あのふわふわなネコ耳︙︙素晴らしい)
 
 内心をポーカーフェイスで完璧に覆い隠し、応接室へと案内する。
 挨拶自体は問題なく済んだものの、事務的なやり取りのみで、とても他国の要人を相手にしたものとは思えなかった。
 彼女はこのまま我が家で一泊して体を休めた後、明日の早朝に王都へ向けて出発する。その案内人として、私も同行することを確認した。
 その内容について彼女に思うところは無いようで、愛想笑いを浮かべたままだった。
 このまま何事もないことを祈っていたのだが、彼女を歓迎する立食形式の晩餐会で、それは起こった。
 切っ掛けは、ケイルが不用意に発した一言だった。
 
「しかし獣人ってのは、見た目だけは悪くないな。愛玩動物として価値が出そうだ」
 
 晩餐会といっても、領内に住む有力者を招待した程度の小規模なもので、他国の要人を歓迎していると対外的に見えるようにしただけの形式的なものだ。
 形式的といっても、歓迎しなければならないことは事実であるにも関わらず、ケイルは地元の有力者との会話の中の一言とはいえ、その言葉は偶然にも会場内が静かになった時に発せられてしまい、この場にいる全ての者の耳に入ってしまった。
 当然、言われた当事者である彼女にも。
 
「ほぅ――では人間とやらも、ピーチクパーチク喚く小鳥として籠に入れてやれば、良い見世物になるな」
 
 壁の花と化していたライオネル嬢は、微笑みを浮かべながらケイルの元へ歩み寄っていたが、その目はまったく笑っていない。
 
「小鳥だと! 獣風情が! 我々を愚弄するか!」
 
 彼女の挑発的な言葉に、ケイルは簡単に乗せられてしまった。その様子を籐巻きに見ていた私は、この先の展開にため息が出る。
 
「おかしなことを言う。先に我らを侮辱したのは貴様の方だろう」
「ふんっ! 俺はお前らの容姿を褒めてやったのだぞ! むしろ喜ぶべきところじゃないのかね?」
「私も貴様らの有り様を褒めてやったのだ。お前たちこそ喜ぶべきじゃないのか?」
 
 一触即発の雰囲気に頭が痛くなるが、この状況を父親がどうするのか視線を送るが、彼は他の有力者と一緒になって余興を見ているような表情をしていた。
 
(いくらなんでも、こちら側に非があるのは明らかだろうに。それでも誰も何も言わないとは︙︙獣人種との確執は相当だな)
 
 成り行きを他人事のように見ていたが、事態は思わぬ方向へ進んでいく。
 
「ふっ! 確か獣人たちは、諍いがあると決闘という野蛮な手段で解決するらしいじゃないか。どうだろう、俺と決闘してどちらに正義があるか証明しないか?」
「良いだろう。私が勝てば、土下座して謝ってもらおうか」
「俺が勝てば、お前を一晩可愛がってやるよ」
 
 ライオネル嬢は、怒りの表情も露に詰め寄っており、対するケイルは下卑た笑みを浮かべている。
 どっちが正義か悪かはこの際どうでもいいが、悪いのは明らかにケイルの方だ。
 とはいえ、ここで私が口を挟んでも何もできないだろう。なにせ私は、この家では無能のハルトなのだから。
 
「おい、ハルト! お前が立会人をやれ!」
 
 関わり合いたくないと気配を消していたのだが、ケイルが面倒なことを言ってきた。
 
「︙︙ケイル兄上。ライオネル殿は、他国からの客人として我が国に招かれています。そのような方と決闘をしてしまえば、両国の関係は――」
「ハルト。私が許可しよう」
 
 ケイルの短慮を考え直そうと説得を試みたのだが、私の言葉を遮って、これまで傍観していた父親が口を挟んできた。その表情は、明らかに余興を楽しみたいという感情が見て取れた。
 
「しかし父上、事はケイルだけの問題では――」
「聖獣王国の決闘の作法は私も知っている。勝敗について後から異議を申し立てたり、遺恨を残さぬようにするという素晴らしいものだ。今の二人には、最適な解決方法だ」
「︙︙わかりました。立会人を務めます」
 
 父親の落ち着いた様子から、この決闘は彼が発端になってケイルに指示したのではないかと推察する。そうなると、私がどうこう言っても何も変わらないだろうと諦めた。
 場所を中庭へ移し、二人は決闘用の装備に着替えた。晩餐会に招待されていた者たちは皆、決闘を見ることに楽しげな表情を浮かべていた。
 
「『エンハンス』!」
 
 ケイルは身体強化を施すと、深度『二』となる青色の光を纏う。
 そして――
 
「『イヴォルヴ』!」
 
 ライオネル嬢は獣化を行うと、体を青色の光が纏った次の瞬間、肉体が一回り膨れ上がり、爪や牙が鋭く伸びた。
 
(これが『獣化』︙︙獣化にも深度があり、最大深度『五』となれば、敏捷性やパワーは人間の身体強化を遥かに超えるらしいが、最大の特徴は、獣のような姿にもなれると本に書いてあった)
 
 つまり、彼女がネコの獣人である以上、ネコの姿にもなれるかもしれない。
 
(この世界に来てから、一度もネコ吸いをしていない︙︙)
 
 この世界では、ペットを飼うという習慣がない。というか、動物はオドによって魔物に変貌する可能性があるため、危なくて飼うという発想に至らないのが現実だ。
 
「ではこれより決闘を行います。勝利条件は相手に負けを認めさせるか、気絶させること。禁止条件は、相手が死ぬような攻撃を行う、もしくは治療に時間を要する重大なダメージを与えること。異存はありますか?」
「ない! さっさと始めろ!」
「私もそれで構わない」
 
 決闘の礼儀に従って、立会人として確認するが、二人とも相手への闘志というか、怒りを抑えきれていないように見える。
 一応決闘に使用する武器は、ケイルが木剣、ライオネル嬢が革製のガントレットなので、急所に打ち込まなければ怪我くらいで済むだろう。
 この世界では、『オド』を使用して怪我を治療する事ができる。ただ残念ながら、物語の魔法のように一瞬でとはいかないし、大量のオドが必要となる。そのため、オドの保有量が少ないと、なかなか完治しない。
 他国の要人であるライオネル嬢に、数日の治療を要する怪我をさせるわけにもいかない。
 
「では︙︙始めっ!」
 
 私が手を挙げると、両者ともに間合いを詰めようと踏み込んだ。
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