エナドリ転生 〜怠惰な暮らしが希望です〜

黒蓮

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第二章 学園生活

学園生活 1

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 決闘を有耶無耶にした翌朝早朝、私は父親の指示通りにライオネル嬢と王都にある学園へ向かう。
 我が家の者が見送りすることはなく、簡単な朝食を済ませてすぐの出発となった。
 事前に母上だけには挨拶をしておいたが、あまり体の調子が良くないので、ベッドで上体を起こしながら私を抱きしめ、「気をつけていってらっしゃい」と、優しい表情で言葉を掛けてくれた。
 
 辺境伯爵家としての見送りがないことをライオネル嬢に詫びたが、彼女は特に気にしていないようだった。というか、我が家のことを見限っているという雰囲気すら感じた。
 聴講生用の制服は学園が用意してくれるとのことで、私は細々とした生活必需品と着替え、貴重品を持っていくだけなので、ボストンバック一つで十分だ。
 ライオネル嬢が乗ってきた魔導車はワンボックス型で、結構な荷物が既に乗っている。

「では出発いたします。到着まで適宜休憩を挟みますが、十二時間以上の長旅なので、眠っていても結構ですよ」

 ライオネル嬢の侍女がハンドルを握り、助手席の私を無視して、後部座席のライオネル嬢へ話しかける。
 無礼を働いた覚えはないが、相手からすれば獣人を蔑む人間種として嫌悪感を持っていてもおかしくない。
 決闘騒動の後、私が案内役として同行すると父親から説明を受けた時、彼女は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに無表情で了承していた。
 
(この重苦しい雰囲気で十二時間か︙︙信頼関係を築きたいところだが、余計な行動は慎むべきだろうな)

 ネコは構いすぎると、嫌がって気分を害してしまう。前の世界のネコと気質が同じか分からないが、下手にご機嫌を取ろうとしても警戒されると考え、大人しくしていることにした。
 ちなみにケイルも同じタイミングで学園へ戻るのだが、フリューゲン家の所有する魔導車を使い、わざわざ日を遅らせて出発する。
 地方貴族の子供でさえ獣人種に対し、これほどの嫌悪感を持っている。和平条約の締結が本当に実現できるのかと、関係ないと思いつつも心配になる。

 王都への旅路は順調に進む。
 今まで自領から出たことはなかったが、街道は意外と整備されており、魔導車の速度も時速にして百キロ以上は出ている。
 これで十二時間掛かるというのだから、休憩時間を考慮しても、単純計算で辺境伯家から王都までは千キロ程度の距離があるということだ。
 そうして日が沈んだ頃、私たちはようやく目的地の王都に到着した。
(やっとか︙︙さすがに精神的に疲れた。今日は早く休みたい︙︙)
 そんなことを考えながら車窓から外を眺めると、王都の堅牢な二重外壁が目に映る。
 外壁の上からはライトで周辺を照らしており、魔物への警戒もしっかりしているようだ。
(王都周辺はそれほど強い魔物はいないと聞いているが、数年前にワイバーンの襲来で甚大な被害が出たと母上が言っていたな。その教訓からの警備体制ということか)
 フリューゲン辺境伯領の方が魔物の脅威は高いが、王都の警備体制の方が優秀だ。はやり国の重鎮が多く住まう王都は、厳重な警戒で安全を保っているのだろう。

 今日は予め手配されている宿屋で一泊し、翌日に学園へ向かう。
 ここの宿屋の手配は王家の方で行っているため、獣人種であるライオネル嬢たちの姿を見ても、店員は笑みを絶やすことなくそれぞれの部屋へ案内してくれた。
 国賓に対してこれが普通の対応なのだが、実家のこともあり、何か問題が起きるかもしれないと、変に緊張してしまった。
 
 翌日――。
 予定された時間に学園に到着し、職員案内のもと、広々とした会議室へ通された。
 大きな楕円形のテーブルには、既に他の留学生である四人の獣人が座っており、その隣の席には案内役らしき学生と、背後に護衛だろう、獣人の付き人が直立不動で警戒した視線を巡らせている。
 他にも生徒らしき人物が座っており、既に全員揃っているようで、どうやら私たちが最後だったようだ。 
 テーブルには名札が置いてあり、指定されている席に腰を下ろすと、対面に座っている眼鏡を掛けた妙齢の女性が立ち上がった。名札には、ローデンバーグ学園長と記載されている。
 
「ゼベック聖獣王国から来られた留学生並びに、その付添いとして参られた皆様。遠路はるばる、このフェルファ王国国立学園へお越しいただけたこと、学園を代表して御礼申し上げる。私は当学園の学園長をしております、メイラ・ローデンバーグと申します。短い期間ではございますが、皆様の学園生活がより充実したものとなるよう、職員ともども尽力して参りますので、よろしくお願いいたします」
 
 学園長が簡単な挨拶で締めくくると、その背後に待機していた男性が前に出て口を開く。
 
「以降の説明は、私より行います。申し遅れましたが、私は副学園長のジルクニフと申します」
 
 副学園長は軽く会釈すると、そのまま話を続ける。
 
「この学園での過ごし方については、事前にお渡ししております資料をご参照ください。生活習慣の違いもあるでしょうが、我が国に慣れ親しんでいただき、互いの国の交流が図れればと考えております。また、案内役に選ばれた学生につきましては、他の学生との円滑なコミュニケーションの助力と、生活サポートをお願いします」
 
 副学園長の言葉に、留学生や案内役の学生たちが小さく頷く。事前に話はついているようで、今の説明はあくまでも確認の意味が大きいようだ。
 私を除いて。
 
「まぁ、フリューゲン辺境伯家からは、学園に通っている生徒ではなく、わざわざ学生でもない御子息を聴講生として学園へ遣わしてきましたが︙︙王家の方針に異を唱えているのですかねぇ」
 
 副学園長は、私を睨みつけながら牽制してきた。私に言われたところでどうしようもないのだが、ここは素直に謝っておいた方が無難だろう。
 私は椅子から立ち上がると、深々と頭を下げる。
 
「フュリューゲン辺境伯家の者として、今回の家の対応に謝罪申し上げます。この学園の生徒である兄上は、本業の勉学に忙しく余裕がないため、留学生の方に迷惑を掛けないようにとの当主の配慮です。決して王家の方針に反するものではなく、我が家の事情であると斟酌していただければ幸いでございます」
 
 私が勝手に考えた言い訳だが、それが通じるかどうかは不明だ。
 しばらく頭を下げてから、ゆっくりと顔を上げる。副学院長の様子を伺うと、私を値踏みする視線を向けていた。
 
「兄弟でも、随分と性格は違うようですね。確かに彼の座学の成績は褒められたものではありませんが、王家の意図を理解して対応して欲しいものですな」
 
 副学園長の言葉に、留学生の案内役に命じられた貴族家は、踏み絵を迫られているのではないかと推測する。
 
(王家が派閥の勢力図を把握していないとは考えづらい。どの程度まで王家の指示に従う姿勢を見せるか、判断している可能性がある)
 
 そう考えると、今回案内役に選ばれた家は全て貴族派閥かもしれない。そして、嫌悪感を持つ獣人種の案内役を素直に務めるか、あるいは反発するのか見極めるというところか。

(従順な姿勢が見られれば、王派閥への取り込みに動くかもしれない。逆に反抗的であれば、王家の敵対勢力とみなされるかもしれない)

 派閥の力関係や、王派閥との勢力差まではわからないので、迂闊な行動は厳禁だろう。
 学園生活を通して見えてくるかもしれないが、どうせあと三年もすれば、フリューゲン辺境伯家を出る身だ。わざわざ家の利益のために動くことはしないが、最低限自分が害されることのないように立ち回らなければならない。

 面倒な状況に内心で大きなため息を吐いていると、副学園長がそれまでの剣呑な雰囲気を変えて口を開いた。

「話が逸れてしまいましたね。聖獣王国の皆様、もし留学中に何か問題が起こった時には、まずはこの学園の生徒会へ相談してください。生徒会長」

 副学園長が隣りに座る生徒へ視線を向けると、その人物の役職名を口にした。
 名指しされたその人物は席から立ち上がると、満面の笑みを浮かべながら口を開いた。
 
「初めまして、セベック聖獣王国の皆様。私は当学園で生徒会長を務めております、オーランド・ギャスター・フェルタと申します。この国の第二王子でもありますので、お困りの際には、まず私にご相談ください」

 まるで舞台俳優のような大げさな仕草で自己紹介したのは、なんとこの国の王子殿下だった。
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